3.道化師。
【門】の先。
初めて視界に映ったモノは、何もない真っ白な空間だけだった。
「…………は?」
門を通った先に待つものが、接続者。
生涯を共にすることにある、唯一無二の相棒。
様々な話や《ウェブ》上に広がる自慢なんかを解読しても、それらは共通していた筈。
いや、正確に言えば。
其の先の空間は、接続者の心の中を表しているとかだった気もするが……。
「何も、ないって。 どういうことだ?」
浮かぶ答えは幾通りか。
姿が存在せず、見えない相手なのか。
この空間自体を母体とする相手なのか。
或いは――――。
「未だ、現れていないとか……?」
どんな答えであったとしても。
口の橋から言葉を漏らしつつも。
このまま立ち竦んでいたところで、何の変化も発生しない。
一歩、意志を込めて前だと思う方向へと踏み出した。
この空間に存在できるのは、二人一組の接続者と共鳴者のみ。
二人が結び付けなければ、未来永劫。
出ることは不可能になるのだから。
嘗ては、そんな事例もあったとは記録で読んだ覚えはあるが。
その確率は、今唐突に死亡する可能性よりも遥かに低い。
(可能性ってだけで、信用性が下がるのは笑いどころなのかね?)
重なり合う世界を見知っているからこそ、笑えない冗談。
今の世界で比較的広まっているそれを思い出しながら。
体感で歩くこと数分。
なにもない空間だった筈の、目の前に映ったのは。
掌ほどの大きさの紙片だった。
裏へ、表へ。
誰も触れていない筈なのに、くるりくるりと回り始めるそれは。
ほぼ全てが電子化された現状では見かける事が稀な程。
けれど、それを知っているのは。
実際に、手に取って見たことがあったからだ。
世界全てが、肉体そのものが電脳化された基準世界の果てで。
ほんの一年前まで、現実世界との接続を保っていた場所で。
俺が、拾われ育てられた場所で。
「《道化師》のカード……。」
大タロット、22枚。
小タロット、56枚。
道先を、未来を、現在を、過去を。
それらを占うために用いられた、幾つもの意味を表す寓意の紙片。
愚者、或いは道化師。
自由、或いは愚かさを意味する寓意のそれが、少しだけ光り輝く。
眩しさに、目を細めた次の瞬間。
肩をぽん、と。
誰かに叩かれた気がして、咄嗟に後ろを振り向いた。
「おっと、驚かせたかな?」
面白そうな口振りで、吐き出した言葉は何処か軽く。
黒いマントに身を包んだ姿は、何方かと言えば怪盗のようなイメージを俺に抱かせた。
目は細く、何処か獣のようで。
内側から何を取り出しても違和感のないような、其の在り方。
暗殺者とか、その類だろうか。
少なくとも、幻想よりの存在でないことは確かで。
魔術とかその辺りに関しては……まだはっきりはしていないけれど。
俺たちだけで動くのは難しい相手なんだと、直感で理解した。
「……お前が?」
「そうさ。 まあ、その質問はボクからも返させてもらうけれどね。」
喉が急激に乾いた気がして。
生唾を飲み込み、目の前の存在に負けないように対峙した。
何故、そう思ったのか。
まともにやりあってはいけない、と心の片方は思うのに。
そうしなければいけない、と思ったのだ。
「君がボクの共鳴者でいいのかな、少年。」
「そうだ。 ……お前が、俺の接続相手で良いのか?」
そうさ、と声がした。
「【存在:人間】【属性:英雄】――――電子戦特化型。 『ティル・オイレンシュピーゲル』。」
ティルと呼んでくれ、と。
目の前のソレは、面白げに嗤ったのだ。