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刃華の太刀  作者: RINSE
第一章「三日月宗近」
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第二話「刀人協会」

 ――刀人協会。

 東京・千代田区に存在するこの施設は、刃華の保護が目的の施設であると世間には公表されている。

 また、警察と協力関係を結んでいる特殊な施設でもある。


 4階建ての白塗りされたビルの前には、電動門扉が完備されている。その上門扉には警備員も配備されているため、人も車両も気軽に入れない。

 厳重な警備は安心するのだが、かえってそれが怪しさを醸し出す要因となっていることに、三日月は頭を悩ませている。


 刀人教会は、人々から迫害を受けている刃華の社会復帰、メンタルケア、カウンセリングなどのサポートを主な生業としている。

 三日月が18の時に設立したこの教会は、刃華にとってはありがたい施設として感謝され続けている。


 だが、三日月の表情は険しい。協会を訪れる刃華は現在もそれなりにいるのだが、人間狩りが横行しているからだろうか、世間の目に晒されないためか、ここを訪れる刃華の数は一時と比較すると著しく減少している。

 そのため、協会の維持費に多少影響が出ているのだが、金関係の問題は正直どうとでもなる。だが、人間達からの協会に対する信頼度が失墜する事態はは無視できない。この協会が無くなれば、本当に刃華達の居場所が無くなってしまう。人間狩り以外にも暴徒化する刃華が現れれば、最悪の事態になる。警察との協力関係も無くなる可能性が高い。


 人々と刃華、両方からの信頼を獲得しなければ、自分の未来が無い。


「何とか、しなければ……」


 三日月はベッドの上で膝を抱えて、弱々しくそう呟いた。




 着替え終わり、中身が入っている白銀の刀袋を携えた三日月がリフレッシュルームの扉を開けると、掃除をしている1人の女性が目に入った。

 布巾で丁寧に窓を磨き続けている後ろ姿。白いセーターとブラウンのタイトスカートは上品に見え、ウェーブがかったブロンドのロングヘアは朝日に照らされ、まるで宝石の様であった。


 私よりも美しいという言葉が似合うじゃないか。

 

 三日月はそう思い近づくと、女性は鮮やかに輝く青い双眸を向けた。


「あ、三日月さん! おはようございます!」


 元気よく挨拶し、丁寧にお辞儀をする彼女に対し、三日月は片手を上げて柔らかく言葉を返す。


「ああ。おはよう、大典太。今日はいつもより早いな」


「大事なお話があるとの事なので」


 刃華、大典太光世(おおでんたみつよ)はニッコリと微笑む。

 まるで人形の様な整った顔立ち、色白で血色もいい小顔。笑顔がよく似合う可愛らしいこの少女は、協会内では妹の様な存在である。


「この窓を拭きが終わったら止めるので、三日月さんはくつろいでいてください」


「ああ、分かった」


 では、と言って大典太は頭を下げる。ただのお辞儀だが彼女が行うと品がある。大企業の社長令嬢である彼女だが、横暴な部分はこの7年で見たことがない。

 4人掛けのダイニングテーブルへ向かい、椅子を引き腰かけると、勢いよくドアが開いた。大きな音に大典太の両肩が上がる。


「どういうことだよ、デンタちゃんよー!!!」


 寝癖も直していなければ、白と桃色のストライプが特徴的なルームウェアワンピースを着ている鬼丸が、大典太を標的に突進する。


 顔を洗っていないのが分かるが、それでも飾り気のない目鼻立ちが前面に出ており、素材の良さを隠しきれていない。大典太と並んでも全く見劣りしない美貌を持っているが、鬼丸の性格と言動がそれを台無しにしている。


「え、え、え? クニちゃん、どうし……」


 鬼丸が大典太の前に立ち、両頬をつねる。


「噓つきやがってー。あのボス超強いじゃん!」


 グリングリンと大典太の顔が前後に動かされる。長い金髪が激しく揺れる。


「い、いふぁい、いふぁいへふ、ふひひゃん……」


「スキル使ってもぜ~んぜん相手の体力減らないし! あのキャラだけじゃ火力不足だったんだけど!」


「ふぁ、ふぁはら、フヘンホふはっへ……」


「あ~フレンドか。先に言えよー」


「言いましたよー……もう。痛かったです」


 ようやく解放された大典太は自分の両頬をさする。ヘラヘラと笑う鬼丸が、お詫びに掃除を手伝うと言っている。

 仲の良い2人をそのままにし、三日月はテレビをつけた。




 朝7時30分。たまたま映っていた報道番組は、秋葉原駅を映していた。未だにブルーシートが覆われている部分もあるが、通常通りに電車は動いているらしい。

 スタジオに場面が戻り、警察が目を光らせているとキャスターは話しているが、それを聞いた小太りで体躯に似合っていない白スーツ姿の男性は鼻で笑う。


「警察なんてもうアテになりませんわ。さっさと機動隊でも自衛隊でも、何でも使うて街中蔓延る刃華達をとっ捕まえた方がええでっしゃろ?」


「平田さん。これ生放送なので過激な発言は……」


「なぁんも過激な事言うとりまへんがな。むしろ朝っぱらから事故現場垂れ流す方が物騒なんとちゃいまっかぁ」


 社会問題評論家の平田壱成ひらたいっせいはガハガハと下卑た笑い声を上げる。カメラに映るキャスターの顔に笑顔は無かった。




 掃除を終えた大典太と鬼丸が戻ってくる。


「まーた好き勝手言ってるなー。平田の豚野郎め」


「もう少し、柔らかい言い方は出来ないのでしょうか、平田さん」


「無理だな。この評論家は、こういった態度が売りだ」


 三日月は持ってきたタブレットの電源を付け、自分宛のメールを確認した。

 警察から3件、父から1件。その他諸々あったが目立つのはそれだけだった。

 父のメッセージは、パーティの招待を告げる内容だった。

 刃華が来るため、君に護衛を任せたい。報酬は出す。そう書かれてあった。


「……誰が行くか」


 小さく呟いた言葉に、鬼丸も大典太も気付きはしなかった。テレビから聞こえる平田の笑い声が三日月を嘲笑うかのようであった。



 それから10分後、メールを確認し終えた時、扉が開き、最後の1人が姿を見せる。


「おはようございます、師匠。大典太。その他」


 薄手のパーカーの上にデニムジャケットを羽織り、黒のスキニーパンツを履いた少女はイヤホンを外し、三日月と大典太に向かって挨拶をすると、背にある紅蓮の刀袋の位置を正した。茶色に染まった少女のサイドテールが躍る。

 迫力あるつり目と鼻筋の通った端正な顔立ちに強気な表情が特徴的であり、独特の雰囲気を纏っている。可愛い、というよりは美人という印象を与える。


「その他じゃねぇよ馬鹿。鬼丸様だろ」


「あなたに払う礼儀は無いわ」


 不満を醸し出す鬼丸を一蹴する童子切安綱どうじぎりやすつなは、上着を脱ぎながら鬼丸に侮蔑の視線を送る。


「そもそも何、あなた。酷い寝癖よ、みっともない」


「そういう言い方は傷つくわー」


「クニちゃん、せめて着替えましょう」


「別にそのままで構わないさ。これで全員揃った事だしな」


 三日月が3人に、席に座るよう指示を促すと各々席につく。三日月の前に鬼丸が、その横に大典太が座る。大典太は隣に座る鬼丸の寝癖を手櫛で梳かしている。


「師匠。お隣失礼しても」


「もちろん」


 童子切は小さく頭を下げ三日月の隣に座る。


「あれ? 小狐こぎつね稲葉いなばは? あと小鴉丸こがらすまる


「今日はお前達3人しか呼んでいない」


 三日月はそう言うとテレビを消し、タブレットの画面を3人に見せる。

 画面に映るのはニュース記事。内容は昨日の人間狩り事件だ。


「昨日連絡した通り、最近人間狩りの被害が拡大している。このままではこの刀人教会が疑われ続ける。また中を荒らされて、最悪誰かが警察に連れていかれるか、組織が解体される可能性も大いにあり得る。今日は今後について話し合いたい」


「話し合う、と言っても。既に結論は出ているようなものでは? 癪に障りますが、恐らく鬼丸も同じ事を思っているかと」


「一言余計だっつの。まぁ、考えは一緒だろうけどよ」


 鬼丸がタブレットの画面に指を当て、下にスクロールする。


「あった。見ろよ、詳細」


「背中に刀で斬り付けられたような大きな傷が1つ。出血多量によるショック死、ですか」


 大典太が悲しげな表情を浮かべる。


「完全に同じ手口だ。人間狩りの真似事して捕まった人間達と違って、一太刀で確実に仕留めている。えげつねー」


「クニちゃん。すれ違い様に斬られた方々も、同じ犯人にやられたと思いますか?」


「違うと思うけどなー。人間狩りは、完全に殺る気満々で斬りかかっている。それに、"殺しのこだわり"を持っている。必ず一太刀で仕留めてやるっていうこだわり。殺さず生かすような斬り方をするとは思えない」


 鬼丸は自信満々にそう話を続ける。三日月も同じ意見だったため頷くだけにとどめる。


「と、なると。犯人は複数いるってことね」


「あくまで予想だけどな、童子切。だけど、刃華が集まって悪さしているっていうのは考えられる」


「いずれにしても。私達のやる事は決まっているわ」


 童子切は三日月の方を向く。


「警察と協力して、いや。警察よりも早く人間狩りを捕まえる。複数いる可能性もあるから斬り合いも考えなければいけない。私達の"権利"を存分に使って人間狩りを捕まえれば、信用回復に繋がる。少なくとも私達の疑いは解ける。相手が刃華であろうと人間であろうとね。どうでしょうか? 三日月師匠」


「あ、あの安綱さん。自作自演だとかそういう感じで、文句を言われる可能性は……」


「一般市民はそう言うかもしれないけれど、警察は言わないと思うわ。だって、市民と一緒にそんな事言ったら「私達は協力者の裏事情も見抜けなかった無能集団です」と言っているのと同義だもの」


 大典太は納得したように頷くが、顔は暗いままだった。


「……気乗りしません。何とか話し合い等で平和的に解決は……」


「刀抜き合って話し合いでもするか? デンタちゃん、無理だって」


 争い事が苦手な大典太だが、渋々鬼丸と童子切の意見に同意する。三日月は足を組み、背もたれに寄りかかる。


「私も鬼丸と童子切の意見に賛成だ。ただ、警察とは協力する」


「マジで? 私、嫌なんだけど」


「表向きは協力する、ということだ。奴らは気に食わないが、味方でいる限りこちらとしては……正直利点しかない。人間狩りの情報共有、捜索範囲の拡大、人間狩りと遭遇する可能性が著しく高くなる」


「なんにせよ、これでやる事が決まった、ってことですよね。師匠」


 三日月が頷く。そして、傍らに置いた刀袋から、柄から鍔にかけて取り出し3人に見せる。


「人間狩りに、三日月形の打除(うちの)け刃文を見せてやろう」


 全員の決意が1つになったその時だった。

 まるでその決意に水を差すかの如く、甲高い音が三日月達の耳に届く。


「何の音だ?」


 鬼丸はそう言うと般若の刺繍が入った紫色の刀袋を握り締めて廊下へ飛び出る。目の前には散らばったガラス片と風通しがよくなった窓、そして無骨な石があった。


「三日月―。"お客さん"だ」


 残りの3人も廊下に飛び出し、窓から刀人協会入口でもある、電動門扉を見る。



 そこには大勢の人間が集まっていた。プラカードや旗を掲げ、罵詈雑言の嵐を向けていた。言葉はすべて、刃華を貶す内容だった。

「邪悪な刃華を匿うな!!」

「人間狩りを出せ!!」

「世間に悪影響だ!」

「人殺し集団!!!」

「国の宝を返せ!」


 目立つだけでもこのような有様で、それ以外にも様々な言葉が空に掲げられ、また叫ばれていた。

 門の前では警備員との小競り合いまで起こっている。



 大典太を除く3人は抗議の声よりも、集まった人数に注目していた。

「何人くらいいると思う?」

「前回より多いわね」

「警備人数から察するに100人近くいるな。渋谷の方で騒いでいる団体と同じグループだと思って……」


 三日月の言葉が止まる。


「あ? どうしたん? 三日月」


 怪訝に思った鬼丸は三日月に尋ねる。三日月はデモ隊の先頭部分を指差す。門に蹴りを入れている、乱暴な人間がそこにはいた。

 その人物を認識すると同時に、鬼丸は甲高い声を上げた。


 その人物が、"帯刀"していたからである。


「刃華じゃん! 何で刃華がデモ隊の先頭切ってんだよ!! つうか帯刀してるし!」


「話を聞く必要があるな。童子切、付いて来い。鬼丸は大典太の傍で待機だ」


 鬼丸は怒気を混ぜた声で返事をし、童子切はやる気に満ち溢れる返事をした。


「あ、あの! 私も行きます!」


 大典太が、煌びやかに光る橙色の刀袋を握り締めて、震える声で進言する。

 三日月は頭を振る。


「駄目だ。理由は分かっているだろう」


 三日月は一度部屋に戻り刀袋を手に取る。そして、中から刀を取り出す。天下五剣の中でも最も美しいとされる刀を腰に差す。

 大典太はその背中に声をかけ続けた。


「分かっています。けど、陰でコソコソ見ているのも限界ではないかと思います。私の事なんて構わないでください!私は、ここでもお荷物扱いされたく……」


「アリス」


 三日月が大典太を見て声を上げる。大典太は言葉を途中で止めてしまう。


「大典太。お前が刃華だとバレたら世間はもっと混乱する。だからここは私に任せてくれ」


「……」


「安心しろ。誰も、お前の事をお荷物だなんて思っていない」


 三日月が手を伸ばし、大典太の頭を優しく撫でる。大典太は泣きそうな顔で三日月を見つめる。

 そんな大典太から視線を外し、三日月は童子切を呼ぶと門へと向かう。





 正面玄関を出ようとした時だった。


「おい! いい加減にしろ! 石まで投げ込みやがって!!」


「あぁ? いい加減にするのは私じゃねぇだろ。中にいる、いい奴ぶった刃華だろ」


 警備員と女性の怒声が三日月の耳に聞こえる。


「オラァ! 三日月ぃ、出て来い!!」


 ガン、と言う大きな音が引き金となり、デモ隊の声が大きくなる。

 三日月はため息を押し殺し、悠然とした態度で門の方へ歩いて行く。


「お、おい。三日月宗近だ。出てきたぞ」


 デモ隊の1人が三日月に気付くと、周りにそう通達する。全体にその報告が届くにつれ、喧騒は静まっていった。警備員との小競り合いも無くなり、全員が三日月に視線を向けていた。

 1人を除き、三日月の美しさに見惚れてしまっていた。


 門の前まで行き、三日月は赤いメッシュが入ったセミロングが特徴的な女性を見据える。相手も同様に、三日月を見つめた。

 門を隔てて、お互いに睨み合う。

 次いで女性が再び門を蹴る。金属音が辺りに響き渡る。


「よう。出てきやがったな、三日月宗近」


「ああ。出てきてやったぞ、足癖の悪い女。お前がデモ隊のリーダーか?」


 フンと鼻を鳴らし、女性は胸を張った。


「そうとも。打倒刀人教会をモットーに活動を続けている、紅葉狩もみじがりだ」


 三日月は紅葉狩と名乗る女性の、腰からぶら下げている刀を見る。刀袋にすら入れていない状態の刀、普通なら銃刀法違反で即警察行きだが、紅葉狩はそうなっていない。その事に疑問符を浮かべる三日月に気付いてか、紅葉狩は笑みを浮かべ、得意気に話をし始める。


「驚いたか? 堂々と刀を持てる刃華はお前達だけじゃないのさ」


「……適当な屁理屈を言って帯刀許可を得たな、お前。デモを行っている時だけ許可されているのか。「刀人教会の連中が斬りかかってきても、即座に対応できるように許可が欲しい」……こんなところか」


 紅葉狩の口元が歪む。だが、目元には怒りが浮かんでいた。


「三日月。私はお前を知っている。7年前の若崎小学校立てこもり事件だよ。私は施設のテレビであれを見ていた」


「……」


「警察と機動隊が尻込みする中、単身小学校内部に潜入、自分の危険も顧みず、犯人1名を窓から突き落とした。犯人は生きていたが、右腕を失った。そして人質は全員無事。警察の連中や世間の評価は結構お前に厳しかったな、当時は」


 紅葉狩はケラケラと笑う。その後ろにいるデモ隊と、三日月の後ろにいる童子切、そして警備員達は固唾を飲んで2人を見つめる。


「けどどうだ? お前はその後も悪人を捕まえ、震災の被害者達を助け、迫害されている刃華に手を差し伸べ続けた。おまけに汚職を続けていた警察官や政治家までとっちめた。弱気を助け強気を挫く聖人っていうのを地でやってのけている。いつの間にかお前に対する批判は称賛に変わっていた。凄い、マジで凄い。そりゃ人々からも刃華からも尊敬されるわ」


 三日月には紅葉狩の言う通りの経緯がある。そのため、三日月が姿を現した際に、デモ隊が静かになったのだ。

 人々も、三日月は他の刃華と違う扱いをしている。そして三日月の実力もよく分かっている。


 だからこそ、三日月は腑に落ちなかった。何故紅葉狩というこの刃華に人々がついてきているのか。何故、紅葉狩が刀人教会に喧嘩を売ってきているのか。


「それで? 称賛したいだけか? それならもっと別の形で来て欲しかったな。茶菓子くらいは出したし、なんならサインにも応じたぞ」


「勘違いするな」


 紅葉狩が声を低くし、門の隙間に手を入れて人差し指を突き出す。


「見ていろ。お前の化けの皮を剥いでやる。人間狩りの真相を、世間に見せつけてやる」


「……それは楽しみだな」


 紅葉狩は門に唾を吐き捨てると踵を返す。デモ隊も引き上げ始めた。デモ隊からの厳しい視線が童子切だけに向けられる。

 無言の殺意を感じ取った童子切は表情を歪める。


 デモ隊は門から離れても、刀人教会の悪口や刃華の悪口を辺りにまき散らかしながら移動している。

 嵐は去ったため、衝突していた警備員は胸を撫で降ろし帽子を取る。


「すまない。私達のせいで」


 三日月が頭を下げる。警備員の1人、高橋晃たかはしあきらは笑みを三日月に返す。


「いえ、気にしないでください。三日月さんの為なら平気です」


 高橋は離れていくデモ隊の集団を見ながら言葉を零す。


「やれやれ、明日から色んな所で新生活が始まるのに……」


 人々の視線から解放された童子切が、ため息をついて項垂れる。


「ああ、まったく。騒々しい暮らしになりそうだな」


 三日月はもう見えなくなりつつあるデモ隊の姿を見ながらそう呟く。




「本当……楽しみで仕方ない」




 小さく呟いた言葉に、誰も気付きはしなかった。三日月は口元を歪め、踵を返すのだった。 


お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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