第4話「ミーナは想う」
(留守番しているミーナ)
「……にょろ~」
ミーナが、大きなベッドの上でバタバタと手足を動かしている。
足の方は変化していて、赤色の蛇のようになっている。
遠目に見たら、陸に打ち上げられた人魚に見えなくもないかもしれない。
「た~い~く~つ~……、退屈にょろ~」
二つの大きなベッドが並んでいる。
片方がリュートのもので、片方がミーナのものだ。
ちなみに、ミーナが人魚よろしく足をビタビタしながら愚痴っているのは、リュートのベッドの上だ。
いつも本を読んでもらいながら寝落ちるのは、もっぱらこちらのベッドだ。
「やっぱり一緒に行けば良かったにょろ……。留守番はゴブリンたちに任せるべきだったにょろ……」
ミーナは、このダンジョンに住んでいる小柄な魔獣を思い浮かべる。
片言ながら言葉を話すことができる、手先の器用な人型の魔獣。
数年前にダンジョンに移住してきた魔獣で、鍛冶関連を担当してもらっている。
実のところ、リュートとミーナはゴブリンという魔物を正確に知っているわけではなかった。
ただ、『ファンタジー魔物辞典』を見ていたリュートが「あっ、ゴブリンだ」と判断したわけだ。
ゴブリンは、多少姿が違えど、他の書物にもよく登場していた。
ゴブリンたちが鍛冶を行えると知ったリュートは、書庫にある書物を参考に武器の制作を彼らに依頼した。
日常生活で使う道具の制作を依頼したこともある。
ミーナが知らないところで、リュートがポイっと気軽に貸し出している短刀も、ここのゴブリンたちが作ったものであった。
ダンジョンで育ったがゆえに、世間の常識にとらわれないリュートは、金属と魔獣の素材の合成を試みた。
そして、その試みは幸運も重なり成功した。
ゴブリンたちが、「コンナ、スゴイ武器ヲ……作レル日ガ来ルナンテ」と感動して大歓喜するくらいには。
リュートは、『ファンタジー武器大全』にヒントになることが書いてあっただけで、自分の功績ではないと謙遜した。
しかし、ゴブリンたちにとって、リュートは英知を授けてくれた存在であり、ダンジョンという鍛冶をするにも生活するにも快適な空間を与えてれた主でもあった。
このような出来事をいくつか通して、現在のゴブリンたちのリュートに対する接し方は、忠誠そのものだ。
「リュート様は、自分がどれだけのことをダンジョンのみんなに与えてるかを、分かってないにょろ……。私にだって……」
ミーナは、リュートのことを思い浮かべながらつぶやいた。
ミーナはこのダンジョンに住むようになってから、いつもリュートと一緒にいた。
一日たりとも離れたことはない。
今は広い書庫に一人ぼっちというのが、寂しさに拍車をかける。
ミーナにとって、リュートは沢山のものを与えてくれる存在だ。
いろんな魔獣たちとのダンジョン生活は、毎日が驚きにあふれている。
リュートが読んで聞かせてくれる異世界の書物は、心躍るほどに面白く楽しいものだ。
以前、リュートが読んでくれた『人魚姫』の話に、ミーナは涙が止まらなくなった。
挿絵の人魚姫の見た目が少しだけ自分に似ていて、一層感情移入してしまったのだ。
自分が泣き出したことに、慌ててくれたリュートの姿は、ちょっと可愛かったなとミーナは今でも想う。
「次回のお出かけは、絶対に一緒について行くにょろ……」
ミーナは、固く決意した。
そして、ベッドに顔をうずめながら願った。
リュートの匂いが消えない内に、彼が戻って来ますようにと。
(おまけ)
「昼間寝すぎて、全然寝付けないにょろ~」
深夜、寝る時間になったのに目が冴えて、全然眠くならないミーナ。
今夜は子守歌ならぬ子守本をよんでくれるリュートもいない。
昼寝をしすぎて夜寝れなくなるという、たまにの休みを一日中寝て過ごしてしまった社会人みたいなことをぼやいている。
明日は仕事があるのに、全然寝付けない……とのごとく。
やってしまった感が迸る。
ダンジョン内は、昼間と夜で明るさが異なる。
夜はぼんやりした明るさになるのだ。
結局、ミーナは仕方ないので寝るのを諦め、書物を通じての日本語の勉強を始めたのだった。
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