第12話「伯都ルーンベルクにて」
リュート達は、豹っ娘のリノを仲間に加え、街までやって来た。
この街の名はルーンベルク、周囲を城壁に囲まれた大きな街である。
街のメインストリートは行き交う人々であふれ、活気があり賑わっている。
通りには、人族も獣人族も見受けられる。
「ずいぶんと活気があるもんだな」
ダンジョン育ちのリュートは、街に来るのが初めてのためか、どこか感心している風である。
書物で読み知るのと、実際見るのでは全く別物だろう。
「ここは、この辺りの街の中心に位置しているから、他の街から多くの人がやってくるのよ」
我らがパーティーの常識人こと、エルフ族のアリアが皆に説明する。
周辺の他の街に行くには、ここを通る必要があるため、その立地を生かして交易を中心に発展してきた街だ。
現在は、この周囲一帯を治める伯爵の領地の中心地として、伯都にもなっている街だ。
「あの串焼きおいしそうなの!」
「クルルニャー!」
豹人族のリノと猫型魔獣のクロエは、数多くの屋台を目にしてはしゃいでいる。
クロエはリノを背に乗せて、通りを進んで行く。
馬車の馬より小型であるクロエは、特別目立つことはなく、周囲に微笑ましい目を向けられている。
ずっと田舎暮らしだったリノにとっては、食べ物がずっと先まで並んでいる光景は驚きだったようで、テンションが上がったままだ。
リノの手には、既にいくつもの串焼きが握られて、口元を油でテカテカさせているというのに……。
クロエもリノに串焼きを食べさせてもらい、口元を油で汚している。
「アリア、とりあえず休めるところを案内してもらってもいいか?」
リュートは、活動拠点として宿屋を探すことを、アリアに頼んでいた。
デビルエイプの毛皮を、アリアに素材屋に売ってもらい、そこそこの資金が手に入った。
「もう少し行ったところに、従魔も一緒に泊れる宿があるらしいわ。周囲の治安も良いって話よ」
アリアは、素材を売る時に、この街の情報をいくつか仕入れてきたようだ。
リュート達は、宿屋で一休みした後、日が暮れるまで街を回って過ごしたのだった。
◇
深夜、辺りは暗く昼間の喧騒が嘘のように静まり返っている。
いや、街の一部はこの時間だからこその賑わいを見せているだろう。
リュートたちは、昼間でも市民の多くが近づかない、スラムの一角を歩いているところだ。
「なんでこんな時間に出歩くのよ?」
アリアが、リュートに問いかける。
夜になって寝るのかと思ってたら、リュートが出かけると言い出したのだ。
夜道を歩く二人と一匹は、暗さをものともせずに進んで行く。
足音を立てずに進むその集団にとって、クロエの背中から聞こえるリノの寝息だけが唯一の音といった様子だ。
「こういう時間だからこそ分かる街の顔っていうものがあるだろ?」
リュートは、街の表の顔だけではなく、裏の顔も知りたいと告げる。
「それはそうだけど……。大概楽しいことじゃないわよ……」
暗殺者として生きてきたアリアにとって、裏側こそが自身の職場でありステージだった。
大きく華やかな街であればあるほど、闇の世界は深い影を落とすものだ。
「別に楽しさを求めてるわけじゃない。今は何でも知っておきたいだけだ」
リュートがダンジョンを出たのは、世界を知るため。
目を反らすことなく、自分の目で世界を見るためだ。
「それならいいけど……。身の安全を心配しなくてもいいから、気楽だしね」
リュートなら多少何かに巻き込まれても大丈夫だろうと、アリアは思っている。
自分よりも強いだろうリュートを心配すること自体がおかしいのだ。
突然、リュートが口に指をあて静かにするようにと示す。
アリアも、すぐに前方の気配に気づき、ある程度進んだところで、リュート達は建物の影に隠れて様子をうかがう。
前方には大きな袋を担いだ数人の男たちが姿を現す。
男たちはガラが悪く、明らかに真っ当な世界で生きているものではない。
袋の数は五つ、それらを担いだまま、大きな建物に入っていく。
建物は高い塀で囲まれており、スラムの中でもその存在が浮いている。
建物の前には門番が立っていて、袋の中を確認してから、男たちを中に通した。
「あの袋の中身ってさぁ……」
リュートは、袋の大きさと運んでいる時の重さや形から何かを察したようだ。
袋の大きさは、丁度リノが入れるくらいで、運ぶ時の男たちの力の入れ方から大体の重さは推測できる。
「中身が小麦じゃないのは間違いないね……」
アリアも中身がなんであるか見当がついたのだろう。
「正義感とかそういうのではないけど、この街の裏の顔を知るには良い機会だな」
リュートは、腰を上げ、男たちが入っていった建物に向かおうとする。
それも見るからに危ない奴等がたむろしているだろう場所にだ。
「どこにでもついて行くって決めたしね」
深夜に建物に侵入する。それはアリアにとっては、組織の任務で何度も行ったことだ
それなのに、今までの任務の時と違い、アリアは不謹慎ながらもワクワクしていたのだった。
二人とも、この時はまさかあんな大事になるとは思っていなかったのだが……。