表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【半径rの円周上の任意の2点間の距離の最大値がちょうど2rとなる】

作者: こゅぁん、

アイの証明


「半径rの円周上の任意の2点間の距離の最大値がちょうど2rとなる」

 ハルキは唐突に切り出した。

「え? ちょっと、何言ってんのかわかんない」

 ミズキは戸惑う。

 それはそうだ。

 今日は二人の交際開始から三か月の記念日。

 ちょうど、ハルキのバイト代が入ったこともあり、二人でささやかな晩餐を開いているのだ。

 学生の身分でもあり、毎日の暮らしの豊かさを食を通して提案してくれる、イタリアンワイン&カフェレストランでのほんのささやかな晩餐ではあったが。

「ははっ、ミズキには難しすぎたか」

 ハルキは屈託なく笑う。

 そこそこの大学にそこそこの成績で入り、そこそこの成績を収めているハルキではあるので、学部は文系だがそこそこの数学的知識や思考力がある。

 対して、ミズキは地頭は悪くはないのだが、勉強と聞くと蕁麻疹が出るくらいの勢いの勉強嫌いであったため、ほぼほぼ面接と中学受験相当――というのも言い過ぎなぐらいの小学生の基礎知識レヴェル――の筆記テストでなんとか合格できる高校を卒業した後は、己の趣味を仕事にするべく、専門学校的な機関で学んでいる。

 半径や円周、最大値などの用語について意味がわからないことはないが、【r】など、数学用語的な、特に横文字を聞くと虫唾が走るのだ。

「次に【アール】とか口走ったら、刺すよ?」

 ミズキは、パスタを食べる手を止めて、スプーンの先端をハルキに向けた。

 これは、右手に持つフォークだと冗談にならないから、ジョークを交えて危害を加えにくいスプーンを向けたというわけではない。

 ミズキは両親に強制されて、筆記や食事の際は右利きになっているが、ことスポーツや格闘になると、本来の左手が優位に動くのだ。

 しかも、氣の扱いに精通しているため、単なるスプーンに切断力を持たせるという特殊能力も持っている。

 皮や肉はもちろん、指の骨ぐらいであれば容易に切断できるのだ。

「まあまあ、じゃあもうその話はしない」

 ハルキはハルキで、氣の扱いに精通しているため、ミズキ程度が練った氣であれば己の氣を体表面に集めることで、ミズキがスプーンに付与した切断力を相殺し、防御しきれるのだが、場所が場所――毎日の暮らしの豊かさを食を通して提案してくれる、イタリアンワイン&カフェレストラン――でもあるために、痴話げんか――巻き込まれると周囲の人間、半径5mぐらいは致命傷を負う――を避けるべく、話題を変えるような口ぶりで応答した。

「じゃあ、もっと簡単に言い換えよう。恋人同士の心の距離について」

「それなら、今日の記念日にぴったりの話題だね!」

 ミズキは口角を上げて笑みを浮かべた。その口元からは鋭い牙が覗いている。

「このお皿……」

 ハルキは、空になったポップコーンシュリンプの皿を指さした。

「直径は大体10センチぐらいかな? っていうことは半径は5センチだ」

「そうだね。正確には12センチと5.7ミリだけど」

「このお皿の外周に僕とミズキチが居るってわけだ。付き合う前は、”ここ”と”ここ”とぐらいかな?」

 ハルキが指したのは、皿の中心と2点を結ぶと45度角の扇形になるくらいの2点。

「そうだね~、付き合う前からまあまあ仲良かったもんね」

「今は、これくらいかな?」

 次に指したのは30度になるぐらいの2点。

「えー? そんなもの? もっと近いよ」

 ミズキは、15度くらいになる2点を指す。そうなると両手は必要なく、右手の人差し指と小指で事足りる。

 自然と手の形が、スタンハンセンのウィーと叫んでいるポーズになる。

「スタンハンセンみたいだね?」

「誰?」

「ブレーキの壊れたダンプカーだよ。プロレスラーだよ。ちょっとそのまま手を挙げてウィーって叫んでみてよ」

 ハルキはおどけてミズキにお願いする。

「あれは、ユース! って叫んでるのよ」

「じゃあ、僕はブルーザブロディだ」

 そう言って、ハルキは卓上のピンポンを押し、店員に鎖を注文した。

 鎖はメニューに無かったため、ポップコーンシュリンプを再度注文し、丸くなった揚げられたエビで疑似的な鎖を作ることに成功した。

 閑話休題。

「とにかく、恋人同士、夫婦になっても僕たちの距離はこの演習場……じゃなかった、円周上を行ったり来たりだ」

「もっと近づきたいよ、あたしは」

「うん、僕ら二人が点だとすれば、距離は限りなくゼロに近づける」

「限りなく?」

「ミズキには腹立たしい表現かもしれないけれど、二人を面積を持たない点だと考えたら実質はゼロだ」

「概念的な点になるわけね。摩擦係数とか無視するようなあれね?」

「そういうこと。そして、二人の気持ちが離れない限り……」

 そこで、ハルキはまた皿の2点を指さす。

「どんなに離れても”ここ”と”ここ”。中心を通った直線で結ばれるこの二点」

「ちょうど直径の長さね。概算で10センチ」

「忠心を持ち続けていれば、直系の子孫、つまり僕らの子供が僕らを繋いでくれる」

「誰が、言葉では伝わりにくく、文字にしないとわからない程度に微妙に巧い事言えっていったか!」

 ミズキの体からオーラがほとばしる。

「というわけで、半径が5センチのお皿の円周上に居る僕らが、どんなに離れても、その距離は半径の2倍、つまりは直径の長さである10センチは超えない」

「もし、もしだけれど、円周からはみ出してしまったらどうなるの?」

「そんなことはありえない。だって僕らは、ハンセンとブロディ。ミラクルパワーコンビだからね。どんな困難も愛の奇跡で乗り越えられる。場外乱闘になっても20カウント以内には戻って来れるんだ」

「 j の力かぁ」

「いや、今は虚数の話はしていない。初めに決めた【数学用語的な、特に横文字を聞くと虫唾が走るのだ】っていう設定無視しないでくれ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ