1.喫茶店での待ち合わせ
5日前に桜が満開になったという東京の空はあいにくの曇りで、道行く人の顔も心なしかすぐれないように見えた。
このまま雨になって桜が散ってしまわないことを祈りつつ、私は銀座の桜並木を横切って喫茶店に足を踏み入れた。
会社と同じ窓際の席へ体を沈めて一息つくと、スマホを取り出して連絡を待つ。
注文したサンドイッチが届くと同時にスマホが鳴り、
「いま二人でお店の前に居ます。これから入りますね。」
とのメッセージが届いていた。
簡単に居住まいを正して入り口の方を向くと、ちょうど2人の女性が入店してくるのが見えた。
本日取材をさせて頂くセブンさんと春鹿さんだ。
お二人とも現役のドラクエ10プレイヤーであり、すでに還暦を迎えている昭和20年代生まれの人生の先輩でもある。
「リーダー、本当に恰幅がよいですね。」
と、いきなり容赦ない挨拶をしたのはセブンさん。
女性であるがなんとなく雰囲気が堀井雄二さんに似ている。
昭和29年(1954)生まれの62歳。
「ふくよかとは聞いてましたけど、本当にふくよかですね。」
これまたキツイ挨拶をしたのは春鹿さん。
細身で品の有る老婦人といった感じだ。
昭和23年(1948)生まれの69歳。
私は苦笑いをしながら2人にお店のメニューを渡し、来ていただいたお礼を述べた。
ずばり今回の取材の目的は『高齢者のドラクエ10ライフ』だ。
物心ついた頃からゲームに触れ、現在もドラクエ10をプレイしている人は多いだろう。
ドラクエ10で最も多い年代は30代・40代といわれている。
その世代のプレイヤーが漠然と抱えている「自分はいつまでドラクエ10を、ゲームを続けるのだろう?」という疑問を解くヒントになるかもしれないと考え、このお二人に取材をさせてもらおうと思ったのだ。
ちなみにご両人とも昭和61年(1986)に発売されたドラゴンクエスト1の発売日組でもある。
今までのゲーム歴やドラクエの思い出、それに現在進行形で遊んでいるドラクエ10のことなど、教えてもらうことには山ほどありそうだ。
私は二人の注文が届いたのを確認すると、取材ノートにボールペンを走らせ始めた。