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互いの成長

 村の人口は60人ちょっと。

 働き盛りの男が多いのは、ミュータント化に耐えられたのが男の方が多かったからか。

 今のところは、農業を中心に紡績産業も始めている。

 次の産業となるのは、鉱山だ。

 そこにも30人ほどの村人がいる。ただかつてミュータントとしてブリーエ城を襲撃した元野盗の面々。その力を封じられたこともあり、今のところは大人しいが不安要素である事には変わりないだろう。

 近いうちにちゃんと面談をした方がいいか。



「で採れた鉱石というのは、鉄? 銅?」

「実は特殊な鉱石だったんだ」

 鉱山の現場監督をしているリオンは、机の上に鉱石を取り出した。


「基本的には鉄鉱石なんだけど、魔導炉の魔力が残留していて、魔鉱石っていうアイテムになってるんだ」

 〈探鉱〉スキルによって鉱石の分析もできるのだろう。リオンは鑑定結果を教えてくれた。


「ミュータント化した木材の鉱石バージョンか。ルフィア姫には見てもらった?」

「ああもちろん。やっぱり魔力が篭っているんで、魔剣を作ったりするのに使えるんじゃないかって」

「ふぅん、なるほど。産業として価値が高そうだな」

 俺は魔鉱石から魔力を帯びた部分を抽出し、延べ棒状態に固める。


「これをマサムネに持っていって鑑定してもらうか」

「あ、アトリー、何やったの!?」

「ん? 木材を制御したのと同じように、魔力を帯びた部分だけ引っ張り出した。磁石で砂鉄を集めるようなモンだな」

「ルフィア姫も簡単には操作できないからって保留にしてたんだけど……」

「え!?」

 そんなに難しくは感じなかったが……地獄でレベルアップした事でルフィア姫を越えてしまったのか?

 アスモデウスを撃破した影響は思っていた以上に大きそうだ。


「ちなみに魔王の撃破具合とか知ってる?」

「魔王? そんなの影も形もないよ。黄昏の傭兵団が中級魔族に挑めるようになったけど、倒すのは難しそうだって言ってた」

「……俺のアカウント、BANされないかなぁ」

 特殊な空間とは言え、魔王アスモデウスをソロで撃破した扱い。一気にレベルアップしてしまっていた。

 データが不正な状態になったとすると、最悪BAN、アカウント停止される可能性もありうる。

 データの巻き戻しで済んでくれたらいいけど。



「前にも言ったがアレはゲーム内の能力を駆使して勝ったのだ。〈魔導技師〉と〈死霊術〉に〈看破〉でアスモデウスの弱点を引き出したのは、運営の予想外ではあるだろうがな」

「ああ、レイスか。いたんだな」

「私はずっと側にいたぞ。不正行為というなら、お前たちの初夜の方が色々と倫理的に問題があった気がするぞ」

「なっ!? あ、アレは、必死だったと言うか、分かってなかったからで、狙ったわけじゃなくてだな!」


「あ、アトリー? どうしたんだ!?」

「え、あ、ああ、そうか、リオンには見えないんだったか。実は地獄から憑いて来た奴がいてな」

「誰もいないけど?」

「〈死霊術〉が無いと見えないらしい」

「一応、見えるようにもできるが」

「できるならやれよ」

「あまり推奨はしないが、やってみせようか」

 レイスがそう言うと、身体の輪郭がはっきり見えるようになってきた。

 するとリオンの方はガタッと立ち上がって、ウォーハンマーを構える。


「が、骸骨!? 死神!?」

「誰かさんのせいで死神は失職した。今はタダのレイスだ」

「悪霊かっ」

 ウォーハンマーを振りかぶるリオンを慌てて止める。


「だからコイツは憑いて来ただけで害はない……はずだ。とりあえず、武器はしまえ」

「まあ、殴られても実体は無いから空振るだけだがな」

「お前もいらん挑発するなよ。しかし、リオンには骸骨に見えるんだな」

「ああ」

「〈死霊術〉が無いと、モンスターカテゴリーのレイスとしか見えないはずだ。骸骨がボロのローブを纏った姿がな」

 コクコクと頷くリオン。構えは解いたものの、まだウォーハンマーを握りしめている。

 意外と怖がりなのか?

 モンスターは率先して叩いてた気がするんだが。


「だ、だって、幽霊とか、どうしたらいいか分からないよ」

「〈死霊術〉があれば、普通に掴めるんだがな」

「ひあっ、や、やめろっ、人前でそんなっ」

 俺はレイスの身体に手を触れると、霊体をいじってやる。身体をかき回される感触は、苦痛を与えるはずなのに、このレイスは身悶えしながら恍惚の表情を浮かべる。

 リオンにはその表情などはわからないのだろうが、いきなり苦しみだしたレイスの様子に壁際まで下がった。


「〈死霊術〉があればこの通り。そんなに怖くないぞ」

「くふっ、はぁはぁ。それはお前のスキルが複合的にレイスに強い構成になっているからだ。〈死霊術〉だけでは、ここまで触れんぞ」

「そういうものか」

 確かに〈魔導技師〉の魔力操作をレイスの霊気を操作するのに、流用している感覚はある。


「アトリー、何か凄く強くなってないか?」

「どうなんだろう。戦闘らしい戦闘はしてないからなぁ」

「一度、手合わせしてみる? 僕もアリスの指導で、強くなってるんだよ」

「なるほど。リオンも腕試ししたいわけだな」



 コルボを始めとした警護隊の訓練場に赴き、リオンと相対する。

 俺の方はほとんど戦い方は変わっていない。リオンの方は、やや構えが変わったか?

 開けた場所だが、柄を短くしたウォーハンマーを、頭を下に構えている。以前は上から振り下ろせるように肩に担ぐ方が多かったはずだ。

 既にローラーブレードの靴に履き替え臨戦体勢。アリスには護身術を習っていたはずだが、アリス自身は様々な武器の知識を持っている。

 決めつけるよりも、出方を待つか。


「それじゃ、行くよっ」

「ああ、来い!」

 リオンが横向きに移動を開始、ローラーブレードでの加速を開始する。俺はそれに正対するように向きを変えつつ、相手の動きを観察。

 〈看破〉スキルが発動し、相手の強さが分かってくる。一週間で戦鎚も上がっているが、他にも槍、棒術、護身術に、気功術といったスキルが増えている。

 アームストロングが〈看破〉を早めに取ったのは、こうして相手の状態を知れるからか。これは対人戦で大きなアドバンテージだな。


 俺がそうした分析をしている間に、加速を終えたリオンが一気に迫ってきた。

 アイスホッケーのスティックのように下段に構えていたウォーハンマーを、身体の正面に引き上げ突いてくる。叩く武器で刺突、不意をつくには良い攻撃だが、先に〈槍〉を取得している事を知っていた俺は、ある程度備えていた。

 マンゴーシュで先端を軽く払いつつ、身体をひねる。すれ違う瞬間に、右手のシャムシールを振るうと、腕を2回、肩を1回切り裂く。


「くっ」

 以前のように厚手の服の下は金属鎧。斬撃の攻撃は真価を発揮しづらい。それでも叩かれた衝撃は通った様で、一撃離脱したリオンは叩かれた右手を振って感覚を戻そうとしていた。



「さすがリオンだね。突きをあっさり見切るなんて」

「経験が違うからな」

 などと言いながら、自分の強化具合に驚いている。最初の刺突を逸した時の手応えの無さに、すれ違う一瞬に3度も攻撃出来た早さ。

 〈魔導技師〉が上がった事による恩恵がかなり大きかった。


 再び加速して突進してきたリオンは、俺の目の前でステップを刻みながらターンを繰り返す。手にしたウォーハンマーを、頭の方を固定して柄の方で連続的に叩いてくる。

 リオンの弱点であった攻撃速度をカバーできる動きだが、一撃一撃は軽い。

 見えさえすれば、マンゴーシュで弾いていける。棒術を使った鋭い打ち込みで、フェイントなども織り交ぜてくるが、マンゴーシュの方が小回りが効く。

 それを見て俺の右側、シャムシールの方からの攻めに切り替えるが、そちらでも難なくいなせてしまう。

 更に蹴りも交えながら連続攻撃を仕掛けてくるが、それも他の攻撃に比べるとまだ修練が足らないようだ。

 ローラーブレードでスピンは早いが、軌道が読みやすい。繰り出される蹴りを、マンゴーシュの護拳で打ち落とすと、軸足の方をジャムシールで斬りつける。


「くうっ」

 防御の甘いリオンはそれでバランスを失い、転倒してしまう。

「さすがです、兄様」

 いつの間にかアリスも見に来ていたようだ。愛弟子の不甲斐なさよりも、俺の方を褒めてしまう。

 それは今のリオンを、精神的に追い詰めてしまった。


「まだまだっ!」

 リオンは〈気功術〉で身体能力を増強して、攻撃してくる。このゲーム的には気功も魔法の一種なのだろう、リオンの身体が魔力に包まれ動きが早く、強くなっている。

 しかし、〈魔導技師〉の目がある俺には、かえって攻撃が読みやすくなってしまった。如何に早くなろうとも、その狙いが見えてくれると対処はし易い。

 冷静さを失っているなと感じた俺は、勝負を決めにかかった。

 大振りの一撃を避けて懐に飛び込むと、シャムシールの柄で腹を叩く。

 金属鎧にはそんな攻撃は通らないはずだが、器用さによるクリティカル補正で的確に急所を叩けた。


「ふぐっ」

 みぞおちの辺りを痛打した事でリオンの動きは止まり、身体強化を魔導技師の魔力操作で解除する。



「やっぱり戦闘系ではないスキルでも、レベルが上がってると能力に差が出てるな」

 俺は動けずにいるリオンに自分が勝てた理由を説明する。

「〈魔導技師〉のレベルが跳ね上がってるんで、能力値がかなり上がってるんだ。その分、楽が出来たんだよ」

「うぅ……」

「ただリオンの攻撃は汎用性が上がってるけど、その分筋力特化していた特性が消えちゃってるな。一撃に怖さがなくなってた」

 最初の刺突1つでも、筋力が増していれば、その分押されて反撃を入れる隙が減っていただろう。


「兄様、凄いです」

 アリスが駆け寄り俺を讃えてしまうと、リオンは跳ね起きて走り去る。

 一方的な敗北は、師匠に対しても女の子に対してもアリスには見せたくない姿だったろう。


「アリス、リオンを追ってやれ」

「え、あ、はい」

 俺の言うことを素直に聞くアリスは、リオンを追って走り出した。スピードでいえばローラーブレードを履いたリオンが速いが、偵察能力のあるアリスなら追いかけられるだろう。

アトリーの技能構成

〈戦士:斬撃刀〉〈戦士:護剣〉〈二刀流〉

〈魔導技師〉〈魔導技師:分析〉

〈看破〉

〈死霊術〉〈死霊術:死者の声〉

〈悪魔使い〉

〈裁縫〉〈裁縫:刺繍〉

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