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告白

 改めてルーファを眺めると、ほぼ全裸に近いマイクロビキニしか着ていなかった。

 アスモデウスの側に控えていた女の子達の格好だ。そして角に尻尾、悪魔としての姿が見て取れる。


「す、すまん、ルーファ。ちゃんと説明するから」

「た、頼むのじゃ」

 俺は所持袋から布を取り出すとルーファへと差し出す。そこでようやく自分の格好に気づいたルーファは、慌てて布を身体に巻きつけた。

 所持袋からもう一枚布を取り出すと、裁縫を始めながらルーファへと説明を開始する。



「ルーファはどこまで覚えているんだ?」

「まずそのルーファというのは何じゃ?」

「あ、ああ、そうか。ルフィア姫と混ざってややこしいから、愛称として付けてみたんだが……嫌なら変えるよ」

「あ、いや、嫌ではないぞよ。その、慣れないから違和感があるだけで……でも、ルーファか。うむ、親近感はある……のぅ」

 少し戸惑いながらも笑みを浮かべたルーファに俺も安堵する。


「そうじゃな、わらわが覚えているのはブリーエの地下で、わらわがルフィア姫を目覚めさせる鍵じゃったという辺りじゃ」

 そこで少し悲しそうな表情を見せる。


「結局、わらわは偽物に過ぎなかったわけじゃな」

「ルーファはルーファだよ。俺にとっては、唯一無二の存在。それじゃ、ダメ……かな?」

「あ、アトリー。その、何か、雰囲気が違って、少し困るのじゃが」

「そう……かな。あの時、ルーファが消えた時、凄く後悔して、その存在の大きさを気付かされたと言うか……」

「や、待て、そんな素直に、語られると、落ち着かぬ。まずは説明を聞かせよ、そうしようぞよ」

 ワタワタと手を振って俺の話を遮ると、説明を促してきた。


「ルーファが消えた後、地下からルフィア姫が現れて目覚めた。それからレイドンを倒し、ルフィア姫に瞳を返した事で力を失ったゲーニッツを捕らえた」

「ふむふむ」

「ひとまずの騒動が落ち着いて、ルーファが消えた事実に落ち込んでいたら、声が聞こえたんだ」

「声?」

「ああ、ルーファの声がね。それでルーファの魔力があれば、再び心を呼び戻せるかもしれないって気付かされたんだ」

「そのような事は覚えておらぬな……」

「幻聴でもなかったとは思うんだけど……その時点でかなり魔力も拡散してたから、失われた記憶もあるのかな」

「それからどうしたのじゃ?」

 ルーファを復活させるために、〈死霊術〉を求めて魔族のテリトリーに入って、地獄に落とされてと経緯を説明した。



「無茶をしたものじゃな」

「ああ、それだけルーファが大事だったんだよ」

「じゃ、じゃから、そういうのは、もう少し、落ち着いてからで、じゃな。それで」

「魔王のアスモデウスに悪魔の素体を用意してもらった。本来なら元の悪魔の心とルーファの心が同居するから、反発しあうか融合するか不安があったんだ。それを心のない素体を用意できたから、今はルーファの心しか無い……はず」

「うむ、わらわもわらわの心しか感じぬし、変に歪んだ感じもないのじゃ」

「良かった」


「しかし、じゃな。その、悪魔の種類……なんじゃが」

「悪魔の……種類?」

 頭のどこかでは分かっていたような気もするが、あえてそれは意識しないようにしていた。

 ただ問われてしまうとどうしても意識してしまう。〈看破〉スキルは相手のレベルなどを知ることができるが、その種族や分類を確認するのが役割だ。


「淫魔・サキュバス……」

 今や悪魔の中でもポピュラーな部類の悪魔。人に淫らな夢を見せ、その生気を奪うという夢魔の一種。男ならインキュバス、女ならサキュバスと呼ばれている。

 色欲の魔王に準備して貰った時点で、予測できた事だった。


「よ、よし、出来たぞ」

 俺は話題を切り替えるように縫い上がった服を掲げた。ルーファの為に用意したロングドレスだ。

 中世の貴族風だが、そこまでスカートは広げず、ある程度の動きやすさも考慮している。

 色は黒で肌の露出は控えめだ。

 それとセットで帽子も用意した。頭の横に生えた角を隠せるように、幅広のツバが付けてある。


「ほう、これはまた精緻なレースじゃな」

「ああ、器用さがかなり上がってるからな。最上の物を作ってみた」

 器用さに影響する〈魔導技師〉のスキルが跳ね上がった事で、器用さもまた上昇していた。

 それで魔法防御を高める呪紋を編み込んでいる。ただそれは外からの魔力を防ぐと言うより、悪魔の魔気を発散しない効果を期待していた。



 ルーファは早速着替えて見せてくれる。落ち着いた雰囲気のロングドレスは、今までの活発なイメージからすると大人しい感じだが、高貴さも感じさせて似合っていた。


「髪の色、変わっちゃってたな」

「うむ、銀髪になっておるな」

 太陽の光を思わせる明るい金髪から、月光を思わせる澄んだ銀色へと。はからずも黒のドレスによく似合っている。



「さて、アトリー。わらわは腹が減ったのじゃが」

 その物言いに吹き出しそうになる。いつものルーファだと思ったが、変わっている事もあった。


「それじゃ、砦の街へと戻ろうか」

「わらわの身体は悪魔になっておって、その食事はじゃなぁ……」

「う? ……あっ」

 言いにくそうにするルーファの様子に思い出した。彼女にとっての食事は、生気を吸うことになっていたのだ。


「でも、まあ、砦の街に戻ってで大丈夫……か?」

「うむ、それは大丈夫じゃが」

「それじゃ、帽子を被って角を隠してね。魔族だと知れたらどうなるのか分からないし」

「……」

 ルーファは言われるままに帽子を目深に被り、銀髪を払って身だしなみを整える。

 その姿を確認して、俺達は少し緊張しながら砦へと向かっていった。




 砦の下町はブリーエとの戦争が終わり、ブリーエが属国となったことで戦争の気配はなくなった。

 兵士の数も減って冒険者の姿も少なく、全体的に活気がなくなっている。

 平和になったはずなのに、街が寂れるという何とも言えない状況のようだ。

 とはいえブリーエへ向かう商隊もあり、人通りが絶えたわけでもない。交通の要所としては機能していくことだろう。


 宿屋の幾つかも閉店していてあまり選択肢はない。

 俺はその中でもキレイに見える一軒を選んで宿泊することにした。

 泊まりだけと伝えて2階の部屋への鍵を渡される。元々が観光地でもない街の宿。見晴らしが良いわけでもないが、ベッドはそれなりにキレイに作られていた。



「ルーファ、ちゃんと言えてなかったから……」

「う、うむ」

「正直、酷い扱いもしてきて今更言うのも恥ずかしいというか、情けないんだが、俺はルーファの事が好きだ」

「ひぅっ」

 しゃっくりするかのように息を呑み、顔が赤く染まっていく。


「ルーファが色々と迫って来る中、邪険にしてたのは、自分に自信がなかったからだ。ルーファに気持ちを伝えて、愛想を尽かされたら立ち直れそうになかった」

「そ、そのような事は……」

「正直、俺なんかに構ってるのは刷り込みみたいなもので、最初の救出クエストのおかげだと。どこかのタイミングでクエストが終われば、去ってしまうんじゃないかって」

 俺は自分自身もあまり理解していなかった、考えないようにしていた言葉を紡いでいく。


「でももう遅かった。気持ちを伝えてなくても、掛け替えのない存在になっていたんだ」

「あ、アトリー……」

「できれば俺と共に、側に居て欲しい」

「うっ、あ、あ〜、んんっ」

 ルーファの瞳は様々な方向を見て暴れまわり、それでいて何も見ていないのだろう。


「し、仕方ないのぅ。そこまで言うのなら、側に居てやらんこともない……」

 返事はルーファらしく素直ではないが、肯定と受け取っていい……よな。

 そっと手を伸ばし、華奢な身体を抱き寄せる。ほとんど抵抗無く腕の中へと収まったルーファは、こちらを見上げてくる。

 そっと瞳が閉じられ、俺達の距離はゼロになっていった。




「し、死ぬかと思った」

「わ、わらわの方こそっ」

 サキュバスとして人の生気を吸い取るルーファは、密接に繋がれば繋がるほど、俺の生気を吸い取ってくれた。

 そんなルーファを少しでも楽しませようと〈魔導技師〉と〈悪魔使い〉の能力を駆使したら、加減が分からず色々と大変だったのだ。

 悪魔の身体は、感情や感覚が魔力に反映され、その反応を見ながらより良い方を探って。

 ルーファ自身も生まれ変わった身体をちゃんと把握しておらず、限界が分かってなかった。

 淫魔としての魅了や媚薬や精力剤的な魔法が暴走気味で大変な事に。

 何とも濃密な時間を過ごし、互いに互いの限界を突き詰める結果になっていた。



 それでも至福な事には違いない。心地よい疲労感を感じながらも、ルーファの身体を抱き寄せる。

 俺に半身を預けるように顔を寄せるルーファの額に口付ける。


「のうアトリー。わらわは十分喜んでおるのじゃ。だからアリスやシナリ達が、その、望んでおるなら、それを拒むことはせんで良いからな」

「それってルーファにも、彼女達にも失礼じゃないのか?」

「先程ソナタは刷り込みと言うておったが、わらわの方こそソナタに義務を抱かせたのでは無いかと思うておる」

「そんな事は全然無いよ。ルーファが居なくなる前から気持ちはあったんだし」

「そうかもしれんが、そうで無いかもしれん。不安とはそういうものじゃろう?」

 ルーファは俺を覗き込むようにしながら言う。


「それにな、アリス達にも、その、幸せにはなって欲しいのじゃ。悪魔が言うのも何なのじゃが」

「何かそれって俺だけに都合が良いような……」

「そうでもないぞよ。複数の女の子を幸せにするのは、それだけの甲斐性が必要だしのぅ。器用そうで不器用で、それでも何だかんだと器用なソナタには期待しておる」

「う、う〜ん。まあ、アリスにも似たような事は言われたけど……本当にそれでいいのか」

「少なくともわらわは皆の幸せを願っておるよ」

 悪魔らしからぬ言葉。ある種の堕落を誘ってるんだから、悪魔的ではあるのか。



「さてアトリーを独占するのも悪いしの。そろそろ戻るとするかや?」

「ん、ああ、そうだな。皆もルーファの復活は喜んでくれるよ」

 俺達は村への転移を開始した。

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