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地獄からの脱出

「無事にクリア……か」

 どこかつまらなそうにレイスが呟いた。

「何か不満があるのか?」

「色事にも金銀にも揺らぐ様子を見せない。お前は何が楽しみで生きてるんだ?」

「え!? 普通に、色々、楽しんでるぞ?」

「例えば?」

「え、えーっと、クエストのクリア……とか?」

 改めて自分が楽しんでいる事を聞かれても即答はできなかった。仲間と共に目的を達成するのが一番の喜びだろうか。

 それとも難敵を撃破出来た時だろうか。


「うう〜む、試練は終わりだがお前の精神が健全かは判別できないな。保護観察処分が適切かと思われる」

「な、何だそれ」

「まあ、何だ。これからも指導してやるよ」

「へ?」

 生暖かい視線で手を差し出してくるレイス。俺は反射的に手を出して青白い手を握った。

 途端に力が抜けて、膝をついてしまう。レイスは接触した者から生気を奪うんだった。


「生気タンクとして中々美味しいしな」

 ニヤニヤとした笑みを浮かべて俺の事を見下してきた。してやったりという表情にも何故か怒ることはできなかった。何だかんだで俺もコイツの事を気に入ったのだろう。


「ほれ、試練は終わりだぞ。さっさと立って、出口に歩かないか」

「誰のせいだよ、まったく」



 洞窟の出口に着くと、転移の光に包まれた。浮遊感と共に景色が失われていき、気づくとそこは雑踏の中。オタリアの転移ポイントへと戻っていた。




「ふむ、夜で良かった」

「本当に憑いてきたのか」

「美女を侍らせれるんだ、嬉しいだろう」

「はいはい」

「それよりもだな、何か触媒となるモノを用意してくれ」

「は?」

 戻ってくるなり、注文をし始めたぞ。


「私は霊体だからな。夜の間はいいんだが、昼間は何か心安らぐものに隠れておかないといけないんだ」

「心安らぐものって……位牌とか?」

「東洋の物に馴染めるか?」

 見た目は東洋系だと思うんだが。


「十字架?」

「私を消滅させたいのか」

「墓石は持って歩けないし……」

「む、アレなんか良さそうだ」

 レイスが指差す先はアクセサリーショップだった。そこへ近づいていくと、銀のロケットを指差していた。


「これがいいのか?」

「うむ、馴染みが良さそうだ」

「仕方ないな……って、意外と高いな」

「お、お客さん。独り言ですか?」

「ん?」

「私の姿は〈死霊術〉が無いと見えないからな」

「という事は、端から見てると虚空に話しかけてる怪しいヤツって事か」

「ああ」「は、はい」

 レイスとアクセサリー屋の親父の声がシンクロしていた。



 店の親父に怯えられながらもロケットペンダントを購入。早速レイスはソコへと入り込み、具合を確かめている。


「どうして首に掛けない?」

 手首に巻きつけているペンダントから声が響く。

「だってレイス憑きのペンダントなんて、呪いのアイテムだろう。首に巻くとか怖くてな」

「酷い、霊差別だ!」

 その物言いにルーファを感じ、俺は彼女を復活させる為の儀式を行う事にする。

 場所はどこでもいいのだろうが、俺には一箇所思い当たる場所があった。



「国境砦って、転移ポイントから遠いんだよな」

 俺はオタリアとブリーエの国境にある砦へと向かっていた。

「わざわざそんな所まで行かなくても、霊的に安定している所なら問題ないぞ」

「それはそうなのかも知れないけど、ちょっとしたゲン担ぎにね」

「お客さん、移動中の通話はご遠慮下さい」

 乗合馬車の御者に注意されてしまった。姿が見えてないのでポタミナでの通信と思われただけマシか。

 レイスは気味悪がられるのを分かって話しかけてくるようでたちが悪い。根本的に悪霊なのか。


 レイスに話しかけられるのを適当に流しつつ、俺は裁縫を始める。〈魔導技師〉のスキルレベルが上がったおかげか、今まで解析できなかった刺繍の意味も理解できている。

 今までよりも効果の高い刺繍ができるようになっていた。



「っと、本当の通信か」

 ポタミナが振動して呼び出しを伝えてくる。さっき御者に注意されたので、通話ではなくメッセージのやりとりで返す事にした。


『アトリー、無事か!?』

 送られてきたのはリオンのメッセージだった。

「俺はちょっと地獄を見てきた」

 別の意味にも取れそうだけど、あえてそれで返してみると、矢継ぎ早にメッセージが届く。

 アリスやシナリ、ルフィア姫までがこちらの安否を気遣う様子で少し申し訳ない気持ちになる。


 地獄に落ちて、死者の声を聞くのにリアルで一週間掛けていた。こちらに直すと三ヶ月過ぎた計算か。

 その間、ポタミナは外部との連絡が取れない状態だった。

 ある種の隔離状態だったから仕方ないのだが。

 心配させるのも何なので、ルーファを復活させてから村へと戻って、姿を見せようと思っていた。

 しかしオンライン状態になっているのを、リオンが見つけたのだろう。


「もうすぐルーファを復活させられそうなんで、それが終わってから帰るよ」

『本当に、本当だな!?』

『兄様、早く帰って来てください』

『アトリーさ、無事でよかっただ』

 皆の声が温かく、俺はこの上ない喜びを感じている。


「これだよな、これ。レイス、こういう声の為に俺はゲームしてるんだよ」

「迷惑を掛けて心配させるのが喜びとは、やはり歪んでいるんじゃないか?」

「違うよ、そういうことじゃなく……」

「お客さ〜ん」

 御者の声に黙るしか無い。目でレイスを牽制しつつ、俺は裁縫を続ける事になった。



 途中、メーべに寄るか迷ったが、来るならシナリも一緒じゃないとダメだなと思い、そのまま砦へとやってきた。

 砦の中へは入らずに、少し山の方へと森を掻き分けて進んでいく。

 かなり前の事でもっと迷うかと思ったが、地図アプリが正確に場所を記してくれていたので問題なく到着した。



 あれから誰も入って来なかったのか、地面に描かれた魔法陣も僅かながら残っている。

 あの頃はまだ羞恥心を持ってたよなぁ。服を持ってくるように催促されたのを思い出す。

 魔法陣から少し奥へと進むと、懐かしい物が鎮座していた。



「久しぶりだな、ルーファ」

 右目に巻かれていた包帯は、次の身体に受け継がれた為に、虚ろな眼窩が晒されている。

 俺は先程まで刺繍していた布を取り出し、簡単に加工を加えると即席の眼帯にして人形へと付けてやる。


 地獄で修練したおかげか、人形の魔力を強く感じる事ができる。少しでも情報は大いに越したことはないだろう。

 失敗は許されない。

 俺は懐から宝珠を取り出すと、人形に持たせてやる。

 そして悪魔召喚の為の魔法陣を描き始めた。

 複雑怪奇な模様や文字、複雑に絡み合うそれらが魔力の通り道となる。

 その組成式の意味も何となく分かり、どこが重要なのかも理解できた。〈悪魔使い〉のスキルを〈魔導技師〉で分析できているようだ。

 更には地獄との繋がり。そのラインは〈死霊術〉の方が補間しているようにも感じる。

 地獄で得たスキルを総動員して、確実に失敗しない魔法陣を描ききった。



「レイス、一応確認してくれ」

「私の専門は死霊術だけで、他はわからんが……霊脈はしっかり掴んでいるな」

「あとアスモデウスが素体を用意できたかだけど」

「そっちも……うむ、大丈夫らしい」

 レイスとアスモデウスも何らかの通信手段があるようだ。



「それでは術式を開始する」

 俺は体内の魔力を制御して、両手へと集めていく。そこから魔法陣へと魔力を注ぐ。

 多すぎず、少なすぎず。

 その波長、色といった魔力の属性も何となく操れるようになっていた。

 魔法陣の操作は〈魔導技師〉が最も影響するようだ。

 〈悪魔使い〉で予測したよりも早く魔法陣に魔力が循環する。それにより霊脈とのパイプが出来て、遥か遠くにある地獄を意識できた。


 複雑な詠唱は全て魔法陣で吸収し、言い間違いなども発生しない。

 魔力の操作は、かなりの高レベル。失敗の余地など無い。

 そう自分に言い聞かせる心には不安もあるだろう。それでもやり遂げないといけない。

 もう失う痛みなど必要ない。

 数多の死の声が聞かせてくれた無念が、俺の決意を確固たる物とする。


「我、ここにルーファの魔力を生贄にささげ、御身の召喚を行う。いでよ、アスモデウスの眷属たる者よ!」


 宝珠と人形に残っていた魔力が魔法陣を通って地獄へと旅をする。

 その先にいる悪魔の素体。

 心のない素体へと魔力が注ぎ込まれ、魔力に残ったルーファの心が移し替えられる。


 魔法陣が青白い光に包まれ、徐々にその姿が浮き上がってくる。瞳を閉じ、両手で胸を抱えるようにして浮かび上がる悪魔。

 頭の横には渦を巻くような角が生え、腰の辺りでは尻尾がフヨフヨと空を掻いているが、それ以外はルーファの姿を再現できていた。

 足先までがゆっくりと浮上し、魔法陣の青白い光が失われる。

 唐突に暗がりへと戻り、ルーファの姿が闇に包まれた。しかしすぐに淡い光が辺りを照らす。

 レイスが人魂を召喚してくれたようだ。



「ルーファ……」

 俺の呼びかけにその瞳がゆっくりと開いていく。蒼く澄んだ瞳もまた、かつてと同じ瞳だった。

「ア……トリー?」

 やがて俺へと焦点のあわさり、その名を呼んでくれた。

「あ、ああ、ルーファ。俺だ、アトリーだ」

「わらわは……いったい……」

「ルーファっ」

 感極まった俺はルーファの身体を抱き寄せた。


「ぬあっ、アトリー! なぜソナタがこんなっ、えっ、何が!?」

 動揺するルーファをしっかりと抱えて、俺自身の動揺が鎮まるのを待つ。

 しかし俺の気持ちは高ぶる一方で落ち着かない。


「ふぐあっ」

 脇腹に痛みを感じ、抱擁する腕が緩む。ルーファはそのまま胸を押すように隙間を作ると、続けてグーで頬を殴ってきた。

 完全に抱擁は解けて、俺はクラクラするままに倒れ伏す。



「ち、ちゃんと説明、せぬかっ」

 顔を真っ赤に染めながら、息を切らしてルーファが叫ぶ。

 俺も何とか正気に戻ってルーファと向き合った。

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