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竜の試練

 アスモデウスが用意してくれた衣服は、カンフーの道着のようなシンプルで動きやすい服だった。

 色は濃紺で、引き締まって見える。

 問題はその性能。

 防御力が全身を覆う金属鎧並に高くなっている。


「お、おい、こんな性能の服。それこそチートにならないか?」

「周囲の魔素を吸収して性能が上がってるだけだから、地獄ここを出ればそれ程でもないわよ」

「次の試練を考えたら、多少は守りを固めないといけないからな」

「次の試練……」

「安心しろ、次で最後だ。ある意味、ボーナスゾーンでもある」

 ボーナスと言いながら、防御を固めるって……。


「武器は何がいいかしら?」

「片手剣で片刃のものが……って、本格的に戦闘があるのか」

「戦わずに終える事もできるし、金を稼ぐこともできるぞ」

 そんな甘い言葉には絶対裏があるんだよな。




 アスモデウスと女の子達に見送られ、色欲の園を後にすると細く薄暗い洞窟へと入って行く。

 くねくねとした道を歩いてしばらく進むと、前方が明るくなってきた。


「外……なのか」

「いや、試練の間だよ」

 空からの光が洞窟の中へと差し込んできているようだ。その視界はキラキラと眩しい。

 金色の山が目の前にそびえていた。


「あれらは宝飾の類。持って帰ればかなりの金になる」

「その上に凄いの乗ってるんだが」

 金銀財宝の上には大きなトカゲが寝そべっていた。顔の大きさだけで人を上回りそうなドラゴンだ。

 現在は眠っているのだろう、瞳は閉じられ定期的にイビキのような息が吐き出されている。


「身体が邪魔で見えないが、あの向こうに外への出口がある」

「スニークミッションなのか」

「倒してしまえば、金銀は思いのまま。金に苦労することはなくなるぞ」

「ちなみに死ぬと?」

「砂浜からやり直しだな。しかも私は死なないから、1人で」

 レイスはどこか楽しそうに告げてきた。


 ドラゴンと戦うのはある意味、憧れでもあるだろう。しかし、見るからにオーバースペック。こちらを殺しに来ている。

 起きれば死。

 そして欲張って宝飾に手を伸ばしてもアウトだろう。

 なるほど、欲望を引き出した後に、我慢も覚えろという試練なのか。


 アスモデウスの用意してくれた服は、動きやすく音もしない。俺は慎重足音を殺しながら、できるだけ早く移動していく。


「ほら、そこに小石が落ちているぞ。これなら拾っても気づかれないんじゃないか?」

 レイスがフヨフヨと俺の周りを漂いながら、転がっている宝石を指差す。透明な緑色の宝石はエメラルドかな。小石と言ってもピンポン玉くらいの大きさがある。

 換金すれば何万Gにもなりそうだ。

 しかし、これこそ誘惑。手を伸ばしてしまうとすぐにドラゴンが目を覚ますんだろう。

 レイスの囁きを聞き流しながら金色の山を回り込むと、出口らしき洞窟が見えてきた。



「あそこにたどり着ければ、ここから出られるんだな」

 しかし、眠っているドラゴンの尻尾は、パタパタと動いている。犬や猫なら可愛いものだが、全長が20mはありそうなドラゴンの尻尾。

 もし巻き込まれたらタダでは済まない。

 タイミングを合わせてと思いながら見ているが、動き方はランダムで見極める事ができなかった。


「どうすんだ、これ」

「簡単な方法はあるぞ。あの尻尾が移動する方法が」

「どうやるんだ?」

「こうやるのさ」

 レイスはその辺に転がっていた宝石の1つを拾い上げると、俺の手に載せた。

 その途端、出口の付近で揺れていた尻尾が止まり、やがてから離れるように移動する。

 尻尾がなくなるという事は、頭がこっちをみるわけで。目を覚ましたドラゴンは、宝石を盗もうとする侵入者に容赦はしない。


「何するんだ、レイス!」

「あまりに慎重で面白くなかったから。試練になってない感じがしてさ」

 最初の試練じゃ脇道を教えてくれたのに、今度は邪魔するとか。

 最初の無機質な感じから、どんどん人間味が出てきているじゃないかっ。



 レイスを怒鳴ったところで、状況は変わらない。目を覚ましたドラゴンは口を開いて、大きく息を吸い込む。

 それだけでこちらは吸い込まれないように踏ん張るのに必死。

 一瞬、風が収まったかと思うと、灼熱の息吹が俺達に襲い掛かってくる。


 横っ飛びに回避するが、吹き荒れる熱波に、体力がごっそりと持っていかれる。

 アスモデウスに貰った防具じゃなければ、一回で焼け死んでいただろう。

 出口までは10m程だが、再びドラゴンが息を吸い始めると、引き寄せられそうになって動くに動けない。

 火を吹くまでの一瞬の空隙に、あの出口に飛び込むしかないか。


「あ、ダメだ」

 走り出そうとした俺の足をレイスが触れる。生気を吸い取るレイスに触れられた足は、力が抜けてすっ転ぶ。

 顔面から宝石の山へと突っ込んだ先で、出口が火にあぶられるのを見た。


「ドラゴンの知性は人より優れている。安易な行動は先読みされてしまう」

 助けてやったぞ、感謝しろと言わんばかりのレイスだが、そもそもこんな事態になったのはレイスのせいだ。



 俺は立ち上がりながらドラゴンを見る。ドラゴンもまた俺の方を見下ろしてきた。

 知性が人よりあるなら、話してみるのも手か。

 俺は手に載せられた後、思わず握り込んでいた宝石を取り出し、ドラゴンに見せる。


「ほ、ほら、これは返すから。元々レイスが勝手に置いたやつだし!」

 ドラゴンに見えるように大げさにしながら宝石を置いた。


「ゴメンで済んだら、警察いらねーんだよっ」

 ドスの効いた声で返された。ガラの悪い兄ちゃんか。

 しかし、再び息を吸い始めると余裕なんてない。何とかしないとこんがり焼かれるだけだ。

 足元の宝じゃ炎は防げないだろうし……ん?


 俺は違和感に気づいた。

 アレだけの炎を浴びたはずの宝飾類が、溶けずに残っている。確か金の融点は低く変形しやすかったような。

 精緻な細工がそのまま残っているのは不自然な気がする。

 もしかして、あの炎は偽物?

 でもダメージはしっかりと受けている。幻覚でもダメージとして受けるなら一緒か。

 いや違うな。俺は突破口を見出し、腰に下げた刀を抜く。片刃の片手剣として渡されたのは、シンプルな打刀。性能も平凡な品だ。

 それでも素手よりはマシだろう。俺はドラゴンの息吹を待ち受けた。



 物理的な熱量を伴っていたら、炎を防いだところで焼かれてしまう。

 しかし、まやかしの炎ならば、それだけを斬れば問題はない。

 周囲の空間を熱で歪めながら迫る炎の迫力は本物。俺の予測が外れていれば、焼け死ぬことだろう。

 炎の先端に、打刀の切っ先が触れ、そこから縦に裂けていく。俺を中心に炎はきれいに切り分けられ、背後へと流れていく。

 俺に切り裂かれた炎からは、熱気が失われ掻き消えていった。




「うしっ」

「なんや、ワレ。やる気かぁ?」

 小さくガッツポーズする俺に、ドラゴンが凄んでくる。

「ああ、いいぜ。やってやるか」

 その言葉にドラゴンは周囲の空気をビリビリと震わせる咆哮をあげながら、俺に向かって突進してきた。

 ただ俺の目は先程の炎と同じ色をドラゴンの身体に見ている。つまりドラゴンそのものも幻覚に過ぎないはず。


 20mの巨体が自動車ほどの速度で突っ込んでくる。黒々と光る鱗は黒曜石を思わせ、硬そうに見えた。

 大きなアギトを開きながら俺を丸呑みにするように襲ってくるが、そこに打刀を差し入れるとあっさりと食い込んでいく。

 凡庸な刀が折れも曲がりもせずにドラゴンの身体を切り裂いていった。


 そこに油断があったのか、唐突の手応えに、俺は刀を弾き飛ばされていた。

 幻覚の中心にはちゃんと竜が潜んでいた。ただその身体は2mもなく、力もそれ程強くない。

 刀を飛ばされた俺は、そのまま竜の身体を掴むと横倒しに投げ飛ばした。



「ピイィィィィ」

 先程までの咆哮ではなく、鳥を思わせるような甲高い声で鳴きながら、ゴロゴロと転がる。

 打ちどころが悪かったのか、幻術が破られた影響からか、動く様子がない。

 俺は飛ばされた打刀を拾い直してから近づいていく。

 どうやら目を回しているようで、無防備な腹を見せてしまっている。


「殺さないのか?」

「無力化できたならその必要はないだろう」

「仮にもドラゴン。経験値がわんさか入るぞ」

「もう十分増えてるからなぁ」

 そう言ってドラゴンの側を離れる。そして金銀の山へと向かう。


「取り放題だな」

「本物ならね……」

 炎やドラゴンを包んでいた魔力は、財宝の山からも感じていた。

 その魔力の流れに沿って打刀を打ち込んだ。するとまばゆい光を発していた金銀の山は掻き消えて、ガラクタが積み上がったゴミの山へと変じた。

 欲張って持って帰っても本当はガラクタって事だな。



「ん?」

 そんなガラクタの中で未だに光を失っていない物があった。そこへ歩み寄ってみると、虹色の光を発する球形の石があった。

 なにやら魔力が渦巻いているのも感じる。


「確かドラゴンって宝珠を持ってるって話があったかな」

 ドラゴンじゃなくて東洋の竜の方か。何にせよ、これだけは本当の宝のようだ。

 大事な宝珠を隠すために、金銀の山で覆っていたのだろうか。


「じゃあコレだけ貰っていくか?」

「いや、竜にとって大事な物なんだろ。もし拾って帰ってドラゴンに恨まれるってのは、生きた心地がしない」

 後ろ髪を引かれる思いはあるが、ここは我慢の試練。余計な欲は捨てるべきだろう。

 俺は障害がなくなった出口へと歩き出した。

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