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地獄の試練

 俺達は骨浜を歩いて移動していく。隣に浮く元死神のレイスはふよふよと浮いているが。

 黒のズタボロのローブを纏った黒髪の美女は、やや笑みを浮かべているようだ。


「その、すまなかったな。役職を失わせて」

「気に病むことはない。私に付け入る隙があっただけだ。それに今にして思えば、あの場所に縛られ退屈に時を過ごすよりは、お前に憑いていた方が面白そうだしな」

 頬をどす黒く染めながら、こちらに微笑み掛けてくる。


「レイスになって忘れていた痛み、苦しみを与えてくれたしな。久々に生きている実感が持てた……まあ、死んでるわけだが」

 クツクツと笑っている。確かに最初に会った時とはかなり印象が変わってきている。

 それはシステム管理者としてのルーチンワークがそうさせていたのかも知れない。


「それでルーファの事についてだが」

「むう、もう他の女の話か、つれないな。まあいいだろう。魔力を元に動いている生物は幾つか存在する。例えばスライムとかミミックとか」

 粘着性の生物になったルーファに絡まれる姿を想像して、身震いする。


「意思疎通ができる方がいいんだが」

「ああ、分かっている。お前に愛想を尽かされたら、本当に悪霊となるしかないからな。そうなれば、どこぞの冒険者に狩られるモンスターに成り下がる。それは私も避けたい」


「だからお前の要望に合うように、できるだけ元々の姿で転生させるなら……やはり、魔族だろう」

「魔族?」

「正確には悪魔となるかもしれんが……魔力をベースに悪魔召喚を行い、肉体を与えるんだ」

 以前、熊女に会った時にルーファが言っていたことを思い出す。

 魔族とは体内に魔導炉を持って産まれてきた存在だと。己の魔力でミュータント化したような存在は、拒絶反応も無く、最も効率的に魔力を使えて強力な存在だと。


「天然物の魔族はそうなるな。それに対して、魔界に住む魔族を魔術によって現世に呼び寄せるのが悪魔召喚となる」

「しかし、俺は魔術は使えないぞ」

「魔術と言っても行うのは儀式。決まったフォーマットで魔法陣を描ければいい。それはお前の得意とするところだろう」

「魔導技師で行える……のか」

「そして生贄として捧げる者の魔力によって、現世で肉体を得ることとなるだろう」

「生贄!?」

「失う覚悟なくして、得られる物に大した物はない。まあ召喚を行う前に、〈悪魔使い〉は覚えた方が無難だがな」



 またスキルを覚えるのか。というか死霊術が無駄だったのか。しかし、〈悪魔使い〉とかまたヤバそうな感じだな。


「防御陣を敷かずに悪魔を呼び出すと、その悪魔に襲われる事になる。契約を交わす為には、話せる状態にしなければならない」

「呼び出すのはルーファなんだろう?」

「魔力の核はな。しかし悪魔でもある」

「それじゃ、ルーファが蘇った事にはならないじゃないか!」

「だから転生と言っている。中にある魂は、お前の想い人のモノだ。まあ、本来は魂のない人形だが、悪魔と繋がることで魂を得るという事だが」

「それが本当にルーファだと言えるのか……?」

「さてな。何せ前例はない。私は方法を提示するだけで、決めるのはお前だ」

 そんな無責任なと思うが、彼女にとっては他人事か。

 〈魔導技師〉でよく似たが別物のコピーは作れる。

 〈死霊術〉では魂がないのでどうにもならない。

 〈悪魔使い〉だと悪魔と混ざる。最早別物じゃないかとも思うし、そこにはルーファの魔力は宿っている。我の強いルーファの事だから、悪魔に負けない可能性もある……のか?


 他の手段はないのか。例えば神様の力を借りる方とか。でも魂がないとダメなのか。

 時間を巻き戻す魔法とか?


「そうそう、その宝珠だが魔力を封じる事はできているが、それも永続ではなさそうだ。時間と共にその魔力は漏れ出ていくぞ」

 などと忠告してくる。時間制限もあるのか。


「さて、そろそろ最初の試練だ」

 レイスは正面を指差した。




 白い骨で出来た砂浜の先に、断崖がそびえ立っていた。上はモヤが掛かっていて高さは分からず、左右にも長く続いていて果てが見えない。


「ここを登って先に進む必要がある。途中で手を滑らせて落ちれば死ぬ」

「な、何だ、それは」

「死にたくないと思う執念を試させるんだ。その者が心の底からそう思ったら、登りきる事ができるだろう」

「こんなの突破できるのか!?」

「まだ何人かしか来ていないが、デスペナにめげてキャラクターを作り直す者ばかりだな」

「おいおい、矯正になってないじゃないか」

「作り直したキャラでは、死にたいと思わなくなってるなら、こちらとしては問題ないのだよ」

 鬼だ……まあ、元々地獄の鬼か。


「じゃあ行くか」

「登るのか?」

 断崖に手を掛けた俺にレイスが聞いてくる。

「会いたい人がいるだけなら、キャラを作り直せば会いに行けるぞ」

「でもルーファは所持品扱い。キャラを消してしまったら、本当にいなくなってしまう。ならばこのまま先を目指すしかないだろう」

 俺は思ったよりは出っ張りのある崖へ手を伸ばす。足を掛け、腕を伸ばして次の出っ張りへ。

 戦士として最低限の筋力、敏捷性はあるので、登る事自体は問題ないようだ。

 ただレイスの言っていた『本当に死にたくない』という想いがどうなのかが分からない。


「登りたいなら構わんが、こっちに従業員通路もあるぞ?」

「はっ!?」

 2mほど登った所で下を見ると、単なる岩肌に見えた所をレイスが開いていた。

 慌てて飛び降りて中を覗くと、なだらかな坂道が奥へと続いていた。


「ここを抜けると?」

「断崖の向こうに続いている。私の買い出し用の通路だからな」

 ふふんと鼻を鳴らして得意げに話す。

「あるなら最初から言えっ」

「あ、やめっ、ひううっ」

 俺は手を伸ばし、レイスへと苦痛を与える。しかし、レイスの表情はどこか恍惚として、頬をどす黒く染めていた。

 罰と言うよりご褒美になっているようだ。




「はぁはぁはぁ」

「全く……」

 俺は従業員用の通路を通って試練を突破する。しかし、チート扱いでBAN……運営からアカウントの停止処置を取られないだろうか。

「何、ゲーム内の設定を利用しているだけだからな。外部から不正にアクセスしている訳でもないから、規約には違反していないよ」

「ならいいんだが」

 ただゲームによってはバグを利用してレベルを上げたりすると、制裁を受ける事もあるからなぁ。

 とはいえ宝珠に時間制限があるなら、急いだほうがいいのも確か。

 今はこの通路を使わせてもらう。



「次の試練はお前にとって都合がいい場所だ」

「今度はちゃんと前もって説明しろよ」

「あ、ああ、分かっているよ」

 一瞬、嘘を教えて罰を受けようかと考えたらしい事が、死霊術を通して霊気の流れを感じたので、睨み返して先を促した。


 次の試練は『魔王の園』というらしい。7つの大罪に見立てた魔王が収める地では、それぞれの誘惑が待っている。

 しかし、そこでの体験は満足のいくものではなく、満足したいなら現世に戻りたいという強い欲求を抱くしかないらしい。


「地獄に来て、煩悩を開花させろとか……普通は罪を悔い改めよって所じゃないのか?」

「いやいや、やってみればわかる。満足できない辛さは十分、罰になるのさ」

 そんなレイスに連れてこられてのは、『色欲の園』だった。




 朱色を基調にした豪奢な神殿。左右には露出の高い美女が立ち並び、奥には精悍な青年がゆったりとソファに寛いでいた。


「おや珍しく客人がと思ったら、死神……ああ、降格して『ただの』レイスだったかな」

「これはこれでいいものだよ、アスモデウス。それに今日の客人は、こっちの男だ」

「ほう、遂にあの断崖を超える者が出たのか」

 裏口からだけどな。


「男か。ならばこちらの方が良さそうだな」

 アスモデウスと呼ばれた青年の姿が、陽炎の様に歪み、輪郭を変えていく。

 すると出るとこは出て、締まる所は締まった妖艶な美女へと変貌を遂げていた。


「ようこそ、色欲の園へ」

「すまん、ちょっと待ってくれ」

 俺はアスモデウスを制止すると、レイスへと向き直る。


「何でここなんだ?」

「お前にとって一番クリアしやすい所を選んだつもりだが」

 7つの大罪、『色欲・暴食・憤怒・傲慢・虚飾・怠惰・嫉妬』の中で俺に適したのか色欲……まあ、他の罪もよく分からないが。


「例えば暴食だと、魔王を納得させる料理を作らなきゃならないし、怠惰なら魔王と如何に『何もしない』で過ごせるかを競う事になる」

「じゃあ色欲は?」

「そりゃもちろん、魔王を満足させればいいんだよ。女の子に囲まれて過ごしてきたお前に適してるだろ?」

 とんだ誤解だった。

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