グリデンでのクエスト
グリデンの街に到着する。街の規模としては、最初にいたオタリアに比べると小さい。建物の雰囲気とかは似ていて、平屋がほとんどだ。
入り口に門番もいないが、登録クリスタルはあったので、ピッと訪れた事を記録。それにより、建物などの情報がポタミナに登録され、地図アプリに表示されるようになる。
「まずは裁縫ギルドからかな」
地図を頼りにギルドに向かうと、ギルドというより個人商店だった。
カウンターの中には店員が一人、何やら縫製作業を行っていた。
「いらっしゃい、注文?」
「いえ、リリアさんからの宅配です」
「あ、オタリアギルドからの。助かるよ。リリアさんの弟子なら多少は割引しておくよ」
と言った所で表情が曇る。
「ただちょっと品薄でね。そうだ、君は冒険者でもあるのかな? だったら少し依頼があるんだが」
マリオンと名乗ったグリデンの裁縫ギルドからの依頼は、綿花の収穫、栽培の邪魔をしているクロウラーの退治だった。
クロウラー自身も絹糸を吐き出すモンスターで、裁縫には欠かせないが、今年は大量発生して綿花まで荒らされて困っているそうだ。
「イモムシか……」
ゲーム内の虫系モンスターは、正直相手したくない気もするが、クエストが有限であることを考えると、選り好みしてて機会を逃すのももったいない。
「わかった、やってみるよ」
グリデンの北部に広がるなだらかな傾斜の草原。その一角に、綿花の栽培畑があった。
一応、木の柵で囲われてはいるのだが、一部が壊されていた。
幸い今は、クロウラーの姿は無く、畑の様子を確認しやすかった。
「侵入経路は詳しく確認するまでもないけど」
壊された柵のところから、半円状に食い散らかされた畑が広がっている。全体から見るとまだ10分の1程度だが、このまま放っておけば被害は拡大の一途だろう。
地面の跡から類推するに、胴の幅は50cmほど。しかし、芋虫であることを考えると、その体長は2mは軽く超えそうだ。
「勘弁してくれよ」
自分の想像に滅入っていると、背後からガサガサという音が聞こえてきた。
畑の更に北側にある森から、そいつ等は這い出してきた。黄緑色の体に、細かな染毛を震わせ目玉のような模様が浮き出た体。
短いが数ある足を動かして、モゾモゾと近づいてきた。
しかも膝くらいの高さがある。
鳥肌モノの外見。それがざっと10匹ほど連なってやってきていた。
「おいおい、コレを倒せってか!?」
はっきり言って、正面に立つのは自殺行為だ。一旦やり過ごして、最後の1匹から相手するのが妥当だろう。
個体同士の連携がないことを祈るしかない。
クロウラー達は、俺に構うことなく柵の破れた箇所へと向かっていく。その最後の1匹に対して攻撃を仕掛けた。
横からの一撃に、進行を止めたクロウラーは、体半分ほどを立ち上げ、こちらを振り返った。
顔の位置は俺の身長より高く、何本もの短い足が蠢いている。
「グロっ」
思わず逃げ出したくなる。しかし、それでは解決しない。
最初の一撃で、手応えは悪くなかった。体表はグラスボアより柔らかいだろう。
「後はこの手の敵の定番、糸だな」
その言葉を理解した訳じゃないだろうが、頭が細かく動いたかと思うと糸を吐き出した。
思わずシャムシールで受け止めようとしたが、剣ごと右腕が絡め取られてしまう。
「やべっ」
急に重さを増した腕は、動きをかなり制限されていた。
俺は左手で短刀を取り出し、絡みついた糸を切っていく。
「腕はまだしも、足を止められたら終わるな」
何とか腕の自由は確保したが、次は慎重に近づいていく。左右に動いてみると、起こした体が追随して動いてくる。
その頭が僅かに後ろに引かれたかと思うと次の瞬間、糸を吐き出してきた。
二度目という事もあり、何とか直撃は避けて、一気に間合いを詰める。
キチキチキチキチ!
葉を噛み切る歯を鳴らして威嚇してくるが、脇を駆け抜けるように斬りつける。
びしゃっと体液が飛び散るのは何とか回避。改めて向き直り、相手の横に回り込むようにしながら、相手の攻撃に合わせてこちらも攻撃を当てていく。
三度ほど糸を避けきれず、左手のダガーで受けたが、実ダメージは食らわずに撃破できた。
「1匹ずつならやれる……か?」
他の9匹は仲間がやられるのも気にせずに食事を始めている。
綿花被害を抑える為にも、続けて攻撃を開始した。
1時間ほどかけて何とか10匹を駆除。絹糸も束で入手できたが、吐かれた糸で全身ドロドロになっていた。
ポリゴン状に砕けた虫の屍骸やら体液は消えてくれてるのが救いだ。
綿花の方は放置でいいのか?
「おお、退治して下さったか〜」
呑気そうな声に振り返ると、初老の男がこっちに向かってきていた。
その手には壊れた場所を直すためだろう板と大工道具が握られている。
「後は任しとってくれ〜マリオンには報告しとくでな」
そういって柵を直す作業へと取り掛かる。
一応、これで達成か。
「風呂ってあったかなぁ」
ポタミナから地図を呼び出し、それっぽい施設を探すと、共同浴場というのを見つけた。
早速行ってみると、10m四方の人口の泉で、ぬるい水が張られている。
鎧と上着を脱いで下着姿となると、水に浸かる。やはり寒いが、それでも粘ついた糸を洗い流せる。
革鎧は布で拭いて済ませ、上着とズボンは水で洗って近くに干す。
ここでも裁縫スキルが役に立ったぜ。服が乾くのを待って、マリオンの待つ裁縫ギルドへと戻った。
「無事にやり遂げたようだな」
「何とかね」
「すぐに使わないなら絹糸を買い取ろう。収穫した綿花の分は木綿糸として渡せばいいか?」
絹糸は繊維が細く、扱いが難しいため中級以上の素材なのだ。
「ああ、それでいい。出来たら染めた糸にしてくれ」
「わかった」
色とりどりの糸の束を受け取った。これでまた刺繍をこなせばスキルを伸ばせるだろう。
でも少し休憩したい。
グリデンの酒場で休むことにした。
誤字修正
打倒→妥当(20161209)