バルトニア王国の再興
ルフィアを蘇らせる為に死霊術師を目指す。
明確な目標は俺に活力を与えてくれた。戦士である俺がそこへたどり着くにはそれなりの苦労が要りそうだが、そんなのは関係ない。ただやり遂げるだけだ。
一番の近道は魔法の知識を豊富に持っているルフィア姫から、色々と教えてもらう事だろう。
しかし、ゲーニッツを捕縛した直後、ブリーエ城にシャリル国王を呼び戻し、城内に残ったミュータント達を何とかしなければならない。
「というわけで、ルフィア姫。城内のミュータントは、バルインヌに引き取る方向でいいな?」
「な、何がじゃ? 独り気持ち悪くニヤニヤしていきなり」
長い眠りから覚めたばかりの少女は、まだ頭の回転が戻っていないらしい。
「ミュータントは魔力がないと生きていけない。このブリーエにも魔導炉があるらしいが、起動させるのも魔力漏洩も色々と問題があるだろ」
「まあ、そうじゃろうな」
「ならばバルインヌに戻って魔力を供給する方がいいだろ。問題はミュータントをどうやって説得するかだが……ルフィア姫は彼らの爆弾は使えるのか?」
「ゲーニッツの技術は右目に記されておるから可能じゃが」
「最悪、脅してでも連れて行こう。それでいいな?」
「は、え、うむ」
まだ飲み込みきれていないルフィア姫は、戸惑いつつも頷いた。
「リオン、イザベラさんとの連絡は?」
「ああ、ゲーニッツを捕らえたとは伝えたよ」
「ならこっちに来るまで30分ほどだな。その間にミュータントをまとめよう」
俺はルフィア姫を伴って、地下牢から地上へと戻った。
ミュータント達の多くは食堂に集まっていた。その中にコルボの姿を見つけて安堵する。
向こうもこちらを見つけて駆け寄ってきた。
「兄ちゃんに姫様!」
「コルボ、無事だったな」
俺は少年の頭を撫でながら、周囲を見渡す。俺に近づく少年を止めようとはしなかったな。
俺達を見詰める瞳にも、これといった敵対心は見受けられない。
「アンタがアトリーさんで?」
さっきコルボの隣にいた男が、恐る恐るといった感じで話しかけてきた。
彼がコルボの父親なのだろう。
「ああそうだ」
「話はコルボから聞いた。村を、子供達を救ってくれたこともな。だがワシ等は王の命に従わなきゃならん」
「そうみたいだな。女王の命令に従うがいい」
悲壮な表情で、ぽつぽつと立ち上がっていく。少なくともここにいる人間は、喜んでゲーニッツに従っていたわけではなさそうだ。
俺はそれを確認すると、ルフィア姫を引っ張り出す。
「ここにおわすは、魔法王国バルトニアの女王ルフィア姫である。偽王ゲーニッツは既に捕縛している。大人しく降伏し、女王へと忠誠を誓うがいい!」
食堂に響くように声を張り上げた。あまり説明していなかったが、さすがは王族。凛とした姿で食堂に集まる男たちを見据えていた。
「邪道によってソナタ等を支配していたゲーニッツは、もう無力じゃ。ソナタ等には魔導の力で爆弾が埋め込まれておったが、それを奴に使われることはもうない」
ざわざわと男たちの間に動揺が走る。
「しかし、自由という訳でもない。ソナタ等の身体を維持する為には、魔力が必要じゃ。バルインヌで暮らして貰わねばならぬ」
静かだがよく通る声が食堂を支配する。男達は戸惑いと共に顔を見合わせ、再度ルフィア姫へと戻ってくる。
ルフィア姫は俺の方を見てきた。
「ここにいるコルボのいた村は知っていると思う。そこを基点に村を広げていこうと考えている。そこに暮らしてくれれば悪いようにはしないが、バルインヌに戻るのであれば後は自由にしてくれて構わない」
「わ、ワシ等は他国にケンカを売った身だ。お咎めナシなどありえんじゃろう」
1人の年輩者の声に周囲の男も頷く。
「そこからはバルトニアとブリーエの外交じゃ。ソナタ等の積は、バルトニア王国が賠償する。ソナタ等は兵士として進軍したに過ぎぬ」
相手は戦地調停官のイザベラ。ただでは済まないんだろうなぁ。
男達は顔を見合わせ、本当なのかと囁きあっている。あとひと押しといった所か。
「父ちゃん、アトリーさんは嘘はつかないよ。俺達の生活は格段に良くなったんだ。姫様の魔法も凄いんだよ」
コルボが俺の心情を汲み取ったように声を出してくれた。お陰で男達の気配も良い方に変わったように思える。
「ワシ等は平穏に暮らせればそれでええ。ただ、奴らはどうなるんじゃ」
ここにいるミュータント化した人々は、戦禍にあって村を追われた人々なのだろう。
しかし、バルインヌに追いやられた人の中には、野盗などの無法者もいる。
今この場にいない者達が何をしているのか。城内での乱暴狼藉を働いている可能性があった。
「まずは話し合ってみる。それで駄目なら、国の法によって裁くしかないだろうな」
「でも奴らはワシ等より強いんじゃぞ」
「それでもレイドン程ではないだろ。なら何とかする」
最悪、ルフィア姫に爆弾をちらつかせて貰う手法もある。が、まずは治安維持の役目は俺達で何とかすべきだろう。
「これから城を出てもらう。城門前で合流して、バルインヌへと戻る。そこからは自由だが、村の発展に寄与してくれるとありがたい」
俺はそう締めくくると、コルボと向き合う。
「さっきは助かった。これからも彼らとの橋渡しになってくれるか」
「ああ、もちろんだよ。アトリーさんの役に立てるなら何でもやるよ」
「ありがとう。父親達を連れて、城門へと行ってくれるか」
「うん、任せてよ」
役目を与えられると人間は一回り逞しくなる。ここはコルボに任せて大丈夫だな。
さて後は無法者の方だな。
城内の兵士では彼らに対抗できないだろう。俺かリオンの力が必要になってくる。
「アトリーよ。これからどうするのじゃ」
「姫様は村人達を誘導してください」
「しかし、野盗共を駆逐するのじゃろ。わらわが居った方がよいじゃろ」
「いや、姫様の爆弾は暫く使わない。奥の手は最初から見せると効果が薄れるからね」
秘密兵器という役どころは、ルフィアの好むところだろう。しかし、目の前のルフィア姫は心配そうにこちらを見つつ頷いた。
「国民を守るのは王族の務め。任せるがよいぞ」
「よろしくお願いします」
やはりルフィアと姫は違う人だな。
城内のミュータントが減ると、魔力の追跡も可能となってくる。ただ最初の糸口を見つけるにはやはり足で稼ぐしかない。
「イザベラさんが来る前に片付けたかったが、無理そうだな」
「ごめんね。僕は探索が得意じゃないから」
「適材適所だよ。俺が見つけるから、リオンが威嚇してくれ」
防御型の俺よりも、リオンの方が抑止力として働ける。
「戦後調停をするにも、こちらの誠意を見せないとな。1人でも多くの野盗を捕まえるぞ」
「でもブリーエからしたら、城を取り戻してくれたんだし、感謝しこそすれ、賠償なんてならないんじゃ?」
「そうかも知れないし、そうじゃないかも知れない。俺は根がネガティブだからな」
「ほんと、もっと楽観的になった方がいいと思うよ」
俺達はブリーエ城内を駆け回った。




