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亡国の王女

 さてどうしたものか。

 魔力の流れから相手の苛立ちを煽ってみたはいいものの、その手にある武具は強固な盾と破壊の剣。

 しかもそれらは対になっていて、打ち付け合って破壊されるって事もなかった。

 剣には多少のダメージが入ってるはずだが、魔力に覆われ守られている。


 俺の武器にも魔力があればなぁ……いや、無ければ通わせればいいのか。

 さっきアリスへと魔力を注ぐことに成功した。ならば、武器へと魔力を伝えることもできるはず。

 武器付与魔法エンチャントウェポンは、色んなゲームに出てきている。


「ケイト、俺の魔力を回復できるか!?」

「はい、アトリーさん」

 快い返事と共に回復エフェクトが俺を包む。それと共に貧血の様な疲労感が抜けていく。



「何をするつもりかは知らんが、やらせると思うな!」

 寡黙だったレイドンの口数が増えている。それは内面の焦りの表出でもあった。

 レイドンの攻撃は下手な小細工のない真っ直ぐな剣だ。しかし、そこにミュータントの力が加わる事で、信じられない加速を見せる。

 軌道は分かっても防ぐのは難しい。しかし、それをやりながら武器へと魔力を込める作業を、並行しなければならなかった。


 幸いにもレイドンの攻撃は右手の剣1本。マンゴーシュ1つで対応できた。シャムシールは攻撃に使わず、魔力を流し込んでいく。



「ふぐっ!?」

 レイドンの単調な剣撃に慣れて来た頃、レイドンが前蹴りを放ってきた。

 油断したつもりはなかったが、魔力を込める為に意識が分散していたので、まともに食らってしまった。

「死ねっ!」

 体勢が崩れたところに、レイドンの剣が降ってくる。

 身を守る為に思わず両手で受け止めてしまった。



 シャムシールに流れ込んでいた魔力が、レイドンの剣とぶつかり合う。

 シャムシールへと込めていたのは、腹を抉られた時に感じていた破壊の魔力。

 同種の力が干渉し合い、思わぬ力を発揮した。互いが互いの破壊を高め、その結果として双方の武器が崩壊する。


「なっ」

「あ……」


 金属製の武器に亀裂が入り、ボロボロと崩れ落ちた。更にはレイドンの武具は対なる装備、剣の崩壊は盾をも巻き込んでいく。

 ただ武人であるレイドンは武具に固執する事もなく切り替えた。

 ミュータントの力を最大に。

 甲冑を弾き飛ばしながら肥大化した身体は、3mを越える巨漢へと変じる。

 見上げる巨体の圧迫感。隆々と膨れ上がり、硬さを感じさせる筋肉。振りかぶられた拳は、人の胴体ほどの大きさになっていた。



「それは悪手だ、レイドン!」

 積み重なった苛立ちが理性を奪ったのか、それとも俺の力をレイドンには伝えてなかったのか。

 ミュータント化が表出したおかげで、活性化した魔力がはっきりと分かる。

 後はその流れに沿って刃を走らせるだけだった。

 守りに徹した盾ではなく、時に攻撃にも使えるマンゴーシュ。

 その本領が発揮された。



 急速に肥大化して暴れる魔力は、自らの身体の崩壊を誘い、俺が思った以上の破壊を見せた。

 振り下ろされた右手から崩壊が始まり、上腕、肩、胸と魔力の流れに沿って遡る。

 驚きに見開かれた瞳が俺を見下ろし、そのままポリゴン片へと変じて爆ぜてしまった。



「なっ、あぁ?」

 腹心を失い呆然とするゲーニッツ。

「ポンコツ! ベネッタ! 我を守らんか!」

 そのめいに従う女性はもう居ない。

「ガンツ! 我が盾となれ、さもなくば部下を殺すぞ!」

 その名に聞き覚えはないが、かしらと呼ばれていた男の事だろう。

 もちろん、彼もゲーニッツに殺されている。


「使えん出来損ないどもがっ」

 そう言って立ち上がったゲーニッツは、ルフィア姫を睨みながら力み始める。

 その顔が紅潮して力み具合を伝えてくる。しかし、その身体に変化はなかった。


「だから言ったであろう。ソナタは魔導の片鱗も使えぬと」

 優秀な回路も電気を通さなければ、ただのガラクタ。

 ゲーニッツがどれだけの力をその身に宿していたのかは分からないが、そこに魔力を流すすべを失っていた。


「あ、ああぁ、あああぁぁぁぁ」

 ぺたりと地に落ち、放心するゲーニッツ。そこには野望に満ちた表情はなく、虚ろな右目が内心を示すようだった。


「ソナタの沙汰は、この城のあるじが定めるであろう。アトリーとやら、捕縛を」

 抵抗する気力を失ったゲーニッツを縛り上げて床に転がし、ルフィア姫を振り返る。



「アトリー……とやら?」

 ルフィア姫は俺に背を向けたまま告げた。

「すまぬな、アトリー。わらわはソナタの知るルフィアではないのじゃ」

 ルフィア姫は語り始めた。




 事の始まりは千年以上前、魔法王国の王女として生まれたルフィアは、魔法の才と何より魔導技師の才に恵まれていた。

 その為に幼い頃から魔力供給炉に入り浸り、ゴーレムの開発などを遊びとして育っていく。

 当時はまだ魔力の漏洩が人体に与える影響はさほど懸念されておらず、小さな姫の身体は知らず知らずのうちに蝕まれていた。


 体調の不良が魔力供給炉から漏れる魔力だと気づいた時には、既に当時の技術ではどうにもならない状況。

 ルフィア姫は残された時間で自らの身体を封印し、持てる技術を後世に伝え、十分な技術が培われれば復活できると考えた。

 姫は己の技術を記し、知識を蓄える器として己の瞳を残し、その様子を見守る為に分身となる人形を作った。


 魔導の技術を記した瞳は、当時の魔導技師に引き継がれたのだが、そこに記された望外な知識、新たな発想、理論。それらを得た技師は、全能感を抱いてしまった。

 当時の魔法王国は、魔力を持たない人々も快適に暮らせるように、魔力供給炉が全国各地に配備され、ゴーレムが数多に活動している。

 それらを制御する方法を得た男は、王国の乗っ取りを企てた。

 研究の手助けに残された人形は、その悪意には対応できずに、排除されてしまい、男の野望は王国との全面戦争へと突入する。


 魔法と魔導が激突し、やがて制御を失ったゴーレムや魔力供給炉が暴走を開始すると、そこからの王国の崩壊は早かった。

 ろくな防具も無いままに過剰な魔力を浴びたものは、ミュータント化する事もできずに暴走。それは魔法を使う者ほど顕著に現れていく。

 多くの命が失われ、そこにミュータント化した獣達も追い打ちをかけた。


 ルフィア姫の瞳は本来の役目を忘れられ、魔導の象徴として権力者の間で引き継がれていく。

 魔力による汚染が続くバルインヌでは、魔導なしでの生存は難しい。反抗する事も許されぬ支配は、魔導王の権力をより高めていった。

 やがて魔法王国バルトニアは、その勢力を失い、魔導王が率いるバルトニアはその本質から勢力と呼べるものにはならぬまま歴史を重ねている。


 ようやく魔力汚染をミュータント化を制御する形で研究が進み、それを結実させるに至ったのがゲーニッツだった。

 しかし、新たな力を手に入れたことで再び野望に取り憑かれてしまう。

 失われた魔法王国の魔法をしる人物。それを蘇らせる方法。それらは右の瞳に記されていたのだ。



「ただ鍵のもう一つである人形が失われて久しかったのじゃ」

「それが人形のルフィア……」

「あの小屋から掘り出さねば良かったとかは思うでないぞ? 満足に身動き取れぬ状態で、何十年と暗闇に閉じ込められる記憶なぞ、思い出したくもない」

 ルフィア姫の話によると、小屋の壁から出され、太陽で魔力補充が再開されると、記憶の転送が行われるようになったそうだ。


「故にソナタと人形との旅の様子は伝わって来ておった」

「そう、ですか……」

 ルフィアとの日々。それが他人にも共有されているというのは、恥ずかしさが先に来る。


「わらわにとっては夢の中の出来事のようじゃった。送られてくる記憶、感情。それらは常にソナタと共にあり、感謝しておったぞ」

 しかし、それらも過去形になってしまう。

 NPCは死ねばそれまで。

 人形としてのルフィアは失われてしまったのだ。


「新たに依り代を作って記憶を移すことはできるやもしれぬ。ベースとなったわらわの思考も移せるじゃろう」

「いえ、それでも彼女が戻ってくるわけではない……ですね」

「うむ、すまぬな」

「彼女を守れなかったのは俺自身……ですから」

 ゲーニッツの魔法陣。その意味を読み解けたら。アリスから魔力を奪わせなければ。

 いや、もう少し状況を確認してから突入していれば、魔法陣を発動させるためにレイドンを捧げねばならなかった。

 そうなれば、ゲーニッツの制圧も苦労はなかったかもしれない。

 たらればを言い始めたらきりはなかった。それでも考えてしまう。


「すいません、少し1人にしてくれますか」

「うむ。コヤツが居なくなれば上の連中も落ち着くじゃろう。この城の主とは連絡が取れるかな」

「それは僕がやります」

 リオンが請け負ってくれた。

 その言葉を背に、俺は地下牢の奥へと進んでいく。

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