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ブリーエ城潜入

 俺達が目指す入り口は井戸の中だった。滑車に付いた桶に脚を掛けて、降下していく。

「これ、いきなり急降下とかないよな?」

 狭い井戸の中、下りるのは1人ずつだが、真っ暗闇ですごく不安になる。

 どこまで降下するのか、自分の速度も分からず、時間感覚もおかしくなっていた。


 ガコンと底へとたどり着き、ロープから手を放すと、崩れるように地面へと倒れ込んだ。

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ、ふらついただけだ」

 先に降りて待っていたスミスは、ランタンの明かりで俺の周りを照らしてくれる。

 井戸の底から横穴へと道が続いていた。


「ここから王の間の近くの柱まで横に動き、柱の中を梯子で登ります」

「分かった」

 王の間は地上2階あたり。ここが地下2階といったところか。かなりの高さを登らないと駄目らしい。

 秘密の通路はそこまでこまめに掃除する訳でもないのだろう。床や壁には苔が生えていて滑りやすい。

 偵察兵であるスミスは軽やかな身のこなしで危なげない。そのスミスが明かりを持ってくれているので、何とかついていけた。


 薄暗い通路を進むのは時間感覚がおかしくなってくる。何度もポタミナを確認して、数分しか経っていない画面に戸惑う。

「ここらですね」

 何を目印にしているのか、スミスが立ち止まった。それから周囲を調べて、壁の一角を押し込む。


 ゴゴゴゴゴッ。

 僅かながら岩の擦れるような音が響き、上から梯子が降りてきた。

「なるほど、石の重みで止めてあった梯子のタガが外れたようです」

 スミスは降りてきた梯子を手で引っ張って、強度を確認した。


「問題ありません。ここからは城の中へと入っていくので、言葉は極力使わないようにしましょう」

「ああ、わかった」

 まずはスミスが昇って、俺が続く形で上がっていく。降りるのに使った井戸のように狭く暗い空間。

 スミスの持つ明かりは、スミスの身体に遮られてほとんど届かない。

 たまに明るくなるのは、こちらを確認してくれているからか。掴まって降りるだけだった降下時よりも、掴まって上るのは結果が返ってくる分、気が楽だった。

 ゲーム内の身体は梯子の昇り降り程度では疲れることもない。


 10分もかからず目的の高さまで到達。スミスが柱の向こう側の音を聞こうと、柱に耳を付けて調べている。

 その間に俺はポタミナで他のメンバーへとメッセージを送る。

「目的地点に到達」

『遅いのじゃ。わらわはとっくに着いておるぞ』

 ルフィアは地下牢へと向かっていた。上る階数が少ないから早かったのだろう。


『こちらも到着しました』

 ケイト達は1階の食堂へと向かっていた。そちらも既に到着できたようだ。

「それじゃ、外の様子には十分注意して作戦決行」

『了解じゃ』

『了解〜』



 スミスがそっと扉を押し開く。廊下には人の気配はなく、静まり返っている。

 王の間付近という事もあり、廊下にも絨毯が敷かれていて、足音もそれほど立たないのはありがたい。

 いや、逆に相手が接近してても分かりにくいのか。

 ここは専門家のスミスに従うべきだな。俺はいつ戦闘になっても大丈夫なように、警戒しながらスミスへとついていった。


 しかし、拍子抜けするほど何もない。スミスが警戒してくれているのもあるのだろうが、見張りもいなければ、巡回している様子もない。

 ゲーニッツが部下を側に置こうとしないのか、単純に使われていないのか。

 ここはやはり空振りか。

 そんな思いをいだきながら、目的の部屋へとやってきた。


 ん?

 見張りもいない部屋から話し声が漏れてきていた。明らかに幼い声だ。

 はしゃいでいるわけじゃないが、普通に会話しているようだ。

 スミスが扉へと近づくと、そっとノブを回す。しかし、鍵がかかっていたらしく、ポケットからツールを取り出していじり始めた。

 俺は引き続き廊下を警戒しておく。


 カチャ。

 スミスが扉を開き、俺を手招きする。俺ははやる心を抑えつつ、扉へと飛び込んだ。


「あ、アトリーさ!」

「兄ちゃん!」

「お師匠!」

 皆が一斉に声をあげようとするのを手で抑える。皆、口に手を当てて黙る姿は幼稚園のようだ。

 スミスがそっと扉を閉じて、少し安心する。


「大丈夫だったか? ん、コルボの姿がないな」

 他にも2人ほど姿がない。

「おっとうがったらしくて、別の所に連れていかれただ」

「父親が?」

 村を出た大人達にも生存者がいたのか。ゲーニッツが施術することで生き延びたんだな。

 ゲーニッツの部下になったということは、体内に爆弾を抱えて反抗できない状態。

 俺達からすると敵になってしまう。それでも親子が再会できたなら、歓迎すべきだろう。

 あの村の生存者がいれば、子供達が無碍に扱われることもなかったのだろう。ここにいる子供達もそれなりに元気だった。


「とにかく脱出するぞ。そっちのスミスさんに着いて、通路に逃げてくれ」

 カミュとリーナが子供達を誘導して、廊下に逃して行く。

「シナリも行くぞ」

 手を伸ばすと、するりと躱された。

「アトリーさ、あたしはいいだよ

 胸の前で両手を縮めるようにして遠ざかろうとする。泣き笑いのような表情でこちらを見詰めてきた。

 脳裏がかっと焼けるような痛みを伴う。危惧していた事があったのか。

 その傷は容易に治るものではないだろう。しかし、ここで手放すわけにはいかない。


「すまん、シナリ」

 多少訓練は積んでもまだまだ素人。戦士の踏み込みには対応できなかった。

 慌てて身を引こうとしたシナリをやや乱暴に捕まえると、肩へと担ぎ上げた。


「ちょっ、下ろしてくんろ」

「嫌だ。放さないよ」

 筋力でも体術でも上回る俺の拘束に、シナリはしばらく暴れていたが、やがて観念したように脱力した。


「花嫁を攫うとか、ロマンだな」

「やめてくんろ、あたしは……」

 何か言おうとしたシナリの口に、所持袋から取り出したまんじゅうを詰め込み黙らせる。

 ふかした生地は唾液を吸い取り、口の中を専有する。

「はぐあぐっ」

 裕福でない漁村の生まれであるシナリは、口のまんじゅうを吐き出す事もできずにもがく。

 その間に俺は廊下へと飛び出した。



「敵の気配は?」

「全然です。まるで人質に興味がないようで」

「奴にとって俺は脅威じゃ無いんだろうな」

 ベネッタは撃退したもののそれだけでは、脅威とはなりえないようだ。

 この城を攻めさせた腹心が他にもいるのだろう。この城を奪い返すには、それなりの戦力を整える必要があるはずだ。


「シナリ、水」

 まだまんじゅう相手に苦戦していたシナリを降ろし、水筒を渡してやる。

 コクコクと口の中のまんじゅうを味わいながら喉が動く。

 脱出用の柱までやってくると、シナリから降ろしていった。



「人質は確保した。各自、脱出をしてくれ」

 ポタミナで連絡を入れると、程なくケイトから返信があった。

『了解〜。食堂の側は野盗が多くて、中を確認できませんでした』

 野盗の拠点としては、食料や寝室のある1階がメインのようだ。


 シナリが梯子を降りていくのを見送り、俺もそれに続く。最後にスミスが扉を閉めながら降りてきた。

 苔むした通路を極力静かに井戸の方へと。子供達が大人しくしているのは、ミュータントがはびこる荒れ地で過酷な生活をしてきたからか。

 騒ぐ時と静かにする時をわきまえていた。


 やがて井戸の底へとたどり着く。ここから上へはどうしたらいいかと思っていたら、ポタミナの転送システムが復活していた。

「皆、村への転送は使えるか?」

「「はい」」

 脱出できる確信が持てた子供達の表情は、一気に明るくなった。

 そして、それぞれに転送を開始する。


「シナリ、子供達を頼むな」

「……わかっただ」

 言いたいことは色々とありそうで、今は子供達を餌に逃げないようにするのが精々だ。

 シナリの頬を撫でて転送を見送る。

「アトリーさっ」

 シナリが口を開いた時に、転送されていった。



「ケイト達はいいとして、ルフィアから返事がないな……」

 まさかとは思うが、嫌な予感がする。

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