反撃開始
「本当に仕方のない奴じゃのう」
「申し訳ない」
「まあ健全な男子として獣欲を抑えられんのも仕方ないかのぅ……ここはわらわも協力するにやぶさかではないぞよ」
ごにょごにょ言いながら腕に抱きついてくる。アリスのとは違って豊満なソレは、腕を覆うように柔らかく包み込んでくる。
「おうふっ」
やや小康に落ち着いていたとはいえ、女の子に抱きつかれて平静でいられるほど余裕はない。
「こんな事をしている場合じゃ……」
「人質がいては動けぬのじゃろう? ならばやきもきするより、楽しんでおった方が身のためじゃ」
人質。その言葉に子供達の顔が浮かぶ。そして健気に笑うシナリ。
初対面の印象からどこか子供っぽさを感じているが、この1年で成長したシナリは、中世なら嫁いでもおかしくない年頃。
野盗は女を気に掛ける雰囲気もあった。女の子には辛い状況が待っている可能性は否定できない。
一気に心が冷える心境に陥った。
「こんな事をしている場合じゃない」
絡みついてこようとするルフィアを引き剥がして、イザベラの部下を探した。
食堂が簡易の作戦会議所となる。リオン、ケイト、ルフィアにイザベラの部下。アリスはまだ休憩中のはずだ。
「イザベラさんはどうなりました?」
「イザベラ様は、敵の追撃を振り切り、近くの村へと落ち延びました。シャリル国王も一緒です」
イザベラが子供達をないがしろにしたとは思いたくない。純粋に急襲を受けて、国王を逃がすので精一杯だったのだろう。
「状況を確認するためにもイザベラさんに合流したいな」
そう話していると、アームストロングから連絡が入った。
『連中は俺らの砦には手を出さず、ブリーエに向かったようだ』
ゲーニッツの口振りでは、全力を出せば黄昏の傭兵団も倒せそうな雰囲気だった。それをしなかったのは慈悲だと。
しかし、アームストロングやトミコは、ミュータント相手でも怯まず戦えるだろう。そうなれば、団員の士気も上がり、ゲーニッツ達も無傷で勝つなど不可能。
手痛い打撃を被るはずで、それよりも首都入りを優先させたのだろう。
「そういえばミュータントは魔力がなければダメなんだよな。ブリーエに行ったら自殺行為なんじゃ」
「元々ブリーエは、バルトニア領なのじゃ。ブリーエ城もバルトニアの支城の一つぞよ」
地方国家には不釣り合いな感のあったブリーエ城。大国であったバルトニアの城が基礎としてあったのなら、確かに頷ける。
「アリスの居った魔力供給炉も、バルトニア領であった名残じゃよ。そして、ブリーエの城にも魔力供給炉はあったはずじゃ」
現実で電気が必要なように、古代バルトニアでは魔力に生活が支えられていた。
支城であってもそれは重要で、外からの供給が断たれたら籠城すらままならない。
本来であれば魔力の漏洩なども考えられないから、城の中に魔導炉があったとしてもおかしくはなかった。
「つまりブリーエ内にある魔導炉を暴走させるつもりなのか!?」
「暴走させるかは分からぬが、魔力が枯渇するという事態は避けられるじゃろう」
つまりは持久戦に持ち込んでも魔力不足になる事はないのか。
ゲーニッツがどう考えているかわからないが、自らが施術を施すことで絶対の忠誠を得られるミュータント。それを増やそうとするなら、魔導炉から魔力を漏洩させる事も考えられた。
「やはり早く行動を起こすべきか」
とにかくイザベラと合流する事にした。しかし、ブリーエ内の転送は使えなくなっているので、リオンに馬車で運んで貰うことになる。
休んでいるアリスには悪いが、貴重な戦力として欠かすことも出来ない。馬車へと移って貰って、ブリーエへと出発した。
イザベラのいる村へとたどり着いた時には、またログアウトの時間に重なる。一刻を争う状況でも延長の効かないシステムが腹立たしくも思えた。
いくらゲーム内で焦っていても、昼間の仕事には何の影響もない。やはりSleeping Onlineを始めてから楽になっている。ケイトも作業効率が上がって、凡ミスが減っているようだ。
同じゲームをやっている共感は少ないが、それでも通じる物はある。
昼間が平穏であった分、ログインした時に切迫した状況を思い出すと、一気に焦りが生まれていた。
「くそっ、なんで俺はもっと早くに寝ない!」
ぐっすりと眠れる事で睡眠時間は短くても、しっかりと疲れが取れるので夜更かしもしやすい。しかしそれは、プレイ時間が短くなる事も意味した。
「落ち着きましょうアトリーさん」
「うむ、お主が居らぬ間は、わらわ達が埋めてやるのじゃ」
実際に村に到着した時点でログアウトした後、イザベラ達と合流して今後の作戦の下準備を進めてくれていた。
シャリル国王とイザベラを交えての会議がセッティングされている。
「遅くなって申し訳ない」
「いや、我らこそソナタ等から預かった子供達を救えず、申し訳ない」
イザベラが深々と頭を下げる。
「俺達も全く思いついてなかったし、責任はある。それよりもこれからどうするか、です」
まずはイザベラ達が脱出した経緯の説明を受ける。ゲーニッツのミュータントは自身を制御できるので、城内に入るまで発見する事ができなかったようだ。
流石に国王達のいる最深部までは許可なく侵入できなかったが、堅牢な城壁は意味をなさなかった。
国民との垣根を下げて、率直に意見をやりとりしようと出入りが活発だったのが、裏目に出た形だ。
50人程の農民風の男達は、城の中へと入り込むと一気にミュータント化。流石に武装は許してなかったが、ミュータントは身体自体が凶器となる。
そこまで精強でもないブリーエの兵では太刀打ち出来ずに、またたく間に城内を蹂躙された。
イザベラと国王は王族の為に用意された地下室を通って城外に脱出したが、それも間一髪のところだったらしい。
追撃を阻止するために、その通路は崩壊させてしまったようだ。
「という事は逃げた通路から侵入はできないのか」
「その点は安心してくれ。まだ使用していない通路はある」
国王が他の通路の存在を教えてくれる。実際に脱出が必要になった場合に、一箇所ではそこに向かえるかわからない。幾つかのルートが確保されているそうだ。
「ゲーニッツは王の間として、子供達がどこにいるかだな」
イザベラの部下が用意していた城の間取り図が広げられている。
子供達の生活空間として、元々は食堂に近い個室があてがわれていた。12人の子供がいても全然狭くない部屋だ。
「分散させても守りにくいし、移動させる手間もあるから、変わってないと思うけど」
流石に子供達を地下牢に押し込めるとは考えたくない。
「かと言って決め打ちで外すと後が苦しい。いくつか候補を出して手早く回ろう」
そうやって絞り込んだのは三箇所。それぞれ元の部屋と、地下牢の側、それと王の間の側だ。
ルフィアとリオン、アリスとケイト、俺とに分かれて、それぞれにイザベラの部下が1人ずつ付いてくれる。
「あくまでも人質の命が優先だ。無用な戦闘は避けるように。ただ見つかってしまったなら、自分の命を優先させてくれ」
それぞれの顔を見渡し、確認する。
「くれぐれも無茶はしないでくれよ」
「わかっておる、くどいのじゃ」
「行きましょう、兄様」
「子供達を取り戻すよ」
「アトリーさんの点数を上げるチャンスですね」
国王より教わった秘密の通路。それぞれ入り口は違うので、村を出た所でそれぞれに別れる。
俺はイザベラの部下スミスと共に、王の間の側に出る通路へと向かった。
誤字修正
「会議所となる」の後ろの改行を削除(20170116)




