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アリスの治療

 アリスがチャイナドレス風のワンピースを脱いで、インナーとしてまとっている身体にフィットしたボディスーツのみになる。

 更にはその薄いスーツすら脱ぎ始めた。


「えっ、ちょっ」

「今更何を躊躇っておる。覚悟したのでは無いのかや。それとも服の上から魔力を精査できるとか自惚れておるのかの?」

「そ、それはそうだけど、心の準備と言うか、アリスもせめて後ろ向くとか」

「兄様になら隅々まで見て欲しいですし」

 やや頬を染めつつも、その手を止めることはない。10代半ばの容姿、小振りだが成長を始めた双丘。戦闘用のはずなのに傷一つ見えない白い肌。

 俺からすれば子供のような年の少女だが、しっかりと女を感じさせる体つき。独身でご無沙汰な健全な男としては正視を躊躇われる。


 しかし、アリスを救うためには必要な事。医者のような心境で、冷静に判断をくださねばならない。

 深く深呼吸を繰り返し、心の平静を取り戻していく。

 邪な邪念を振り払うのだ。



「分かってはおるじゃろうが、ゲーニッツの域の施術は、魔力の流れを正確に掴む必要がある。まずは触診からじゃな」

 ベッドに腰掛けたアリスに対して、正面に椅子を置き、手を伸ばしていく。


「ひゃっ、ん」

 指先が触れた瞬間、可愛い声が出て思わず手を引っ込める。

「に、兄様。震える指先でこわごわ触られると、かえってくすぐったいです。もっと、がっと来てください」

「う、うむ……」

 魔力の流れもまた血流と同じく心臓や首筋などに集中する。その本流を確認しようとするならば、自然とその近くを触る事になる。

 小振りで真っ白な山へと手のひら全体を押し付けるようにして、魔力を感じていく。

 流れを感じながら指をずらし、その強さを確認していく。


「んんっんっ」

 びくっびくっと身体を震わせるアリスをあまり意識しないように、純粋に魔力を感じることに集中する。

 下手に照れて作業が長引くよりも、一気に進めていくほうがアリスの為。

 両手を使って鷲掴みにするように身体を撫で回していく。


「んんっ」

 より正確に魔力を探ろうと、どうしても力が入る。アリスの柔らかな肌に指が食い込み、白い肌に赤く跡を残していく。

 アリスも緊張しているのか、鼓動が早くなり、肌が汗ばんでいった。

 それによって魔力の活性も呼び起こしているようで、より正確に魔力を感じられるようになっていく。



「こんなものだろう」

「ふむ」

 俺の分析を聞いて、ルフィアも同意する。

 アリスの身体は右腕が顕著にミュータント化していた。ただその魔力は心臓のある左胸や、頭へと向かって流れている。

 右腕に蓄積された魔力が暴れないように、余分な魔力を逃がすための刺青が施されていた。

 ミュータント化した身体は、人の身体が栄養を欲するように、魔力を消費して維持されている。

 今もまだルフィアから定期的に魔力を補給してもらわなければ、活動できなくなる可能性を持っていた。


「前に調べた時より進行してる?」

「この地には魔力供給炉から漏れた魔力が蓄積されておるからのぅ」

 いくつかの魔導炉は停止させたが、それですぐに魔力が消える訳ではない。

 大気に漂う魔力をアリスの身体は知らず知らずに吸収していたようだ。

 それによりミュータント化も僅かずつではあるが、進行してしまっていた。



「術式はゲーニッツの奴をベースに、アリスに合わせて調整をしていく……という感じでいいんだよな」

「基本はそうじゃが、気をつける点が幾つかあるのう。あやつは部下を信じておらぬのか、爆弾を仕掛けてあったぞよ」

「あの不自然な魔力溜まりは、爆破用なのか」

 野盗を調べた時に、不自然に魔力が滞り溜まっている箇所があった。万一の際の予備バッテリーみたいな物かと思っていたが、反抗した者を排除する為の物らしい。


「そういえば、ベネッタを乱暴に扱ったり、捕らえられた部下を気に掛けなかったり、仲間を信頼している感じはなかったな」

「うむ。わらわ達の場合はそんな爆弾なぞ要らぬであろう。しかし、魔力貯蔵という考えは悪くないやもしれぬ」

 ミュータントの場合は魔力が切れると生命活動にも影響がでる。生命維持に必要な分を別にストックしておけたら、多少は無理をしても大丈夫だ。


「つまりミュータントの魔力を綺麗に循環させれる道を作り、予備の魔力溜まりを用意して、活性化しすぎた魔力を逃がせるようにするのじゃ」

 と言われて簡単に設計できるほどの知識はまだない。大まかにルフィアが設計を行い、それを俺がアリスの身体を見ながら写していくしかなかった。


「方針が決まったら早めにやらぬとな」

「アリス、無理はするなと言ったのに、身体の中が以前より悪くなってるぞ」

「すいません、兄様。私としては調子がよくなった気がしてたので……」

 魔導炉からの魔力が、ミュータントの身体に供給され、動きやすくなっていたようだ。

 身体が軽くなったのを、病が進行したからとは中々考えにくいだろう。


「それじゃ、はじめるぞ」

 白い肌を傷つけ、消えない跡を記していく。背徳的な作業。失敗は許されない。しかし、長時間の作業はアリスに負荷を掛けてしまう。

 的確かつ迅速に。

 集中しながら進めていった。




 魔導技師の技術が上がり、器用さも成長したが、作業内容も濃密になっている。度々休憩を入れながらだが、丸1日ほどの時間を掛けて刺青を完成させた。

 ケイトが用意してくれた精神力を回復するポーションにも、かなりお世話になった。

 ゆっくりと身体を起こすアリスの身体には、アンシンメトリーな模様が刻まれ、それによって魔力の安定が感じられる。

 しかし、胸に背中に首にと、身体の核となる箇所を、長時間に渡って傷つけられていた。

 アリスの表情はまだぼんやりとしたままだ。


「大丈夫か?」

「身体がふわふわして熱いです」

「今まで外へ出してたものを、中で回しておるからのぅ。慣れるまでは仕方あるまい。とにかく、わらわも魔力切れで倒れそうじゃ……」

 そのままフラフラと部屋を出て行く。俺も疲労感はあるが、不思議と眠気はない。いや、今は寝てるから眠気がないのは当然なのか?

 とにかくぼうっとしたままのアリスを、放って置くわけにもいかない。

 新しい布を取り出して、アリスに掛けてやりながら、また寝かせてやろうとする。

 すると俺の手をアリスが掴む。


「兄様、ありがとうございます」

「遅くなってすまなかったな」

 柔らかな髪を撫でてやると、潤んた瞳でこちらを見上げてくる。

「兄様。AL15e、アリスは今後も兄様への忠誠を誓います」

 そう言いながら伸び上がって俺の唇へと己を重ねてくる。しがみつく様に交わされる口付けを俺は拒むはずもない。

 そっと抱きとめる身体は小さく細い。感情の高ぶりと刺青の施術の為に熱っぽく感じられる。


「兄様……」

「アリス」

 肩に掛けただけだった布が落ち、全裸のアリスが身体を寄せてくる。戦闘用とは思えない柔らかな身体。

 先程までは作業に徹して意識しないようにしていたが、無視できるものでもなく。脳裏に焼き付くような魅力を持っている。

 そんな女の子が俺を慕って腕の中にいる。寝具もあって……。




「何をしとるかばかもーん!」

 背後から飛び蹴りを食らった。

「アリスはまだ安定しとらんのに、感情を昂ぶらせてどうするのじゃ。安静にさせんか!」

「お、おぅ、すまん」

 あたふたとアリスを寝かせて布団代わりの布を掛ける。


「アリスもちゃんと休むのじゃ」

「ごめんなさい、ルフィア様」

 布団の中で小さくなるアリス。

「ほれ、アトリー。行くぞよ」

「ああ。アリス、それじゃおやすみ」

「はい、兄様」

 少し残念そうな顔で見送ってくれる。俺としても残念……なのか。流れのままに一線を越えるのはまずかったのか。

 今更になってドキドキしてくるのが、いかに自分が小心者かを示しているようだった。

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