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情勢の変化

 魔導技師の視力で窓の外に伏兵がいないのを確認した上で、窓から飛び出す。

 ゲーニッツは苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見ていた。

 そこへ1人の野盗が近づき、耳打ちをすると、その表情は晴れやかなモノになった。


「余興はしまいだ。ここでの戦は、な」

 余裕を見せるゲーニッツ。

「お前は部下から100人と聞いたのではなかったかな? しかし、ここには50人ほどしかいないな?」

 ゲーニッツの勝ち誇った笑みに嫌な予感が強まっていく。


「今、私の部下からブリーエ城陥落の知らせが届いた。この戦争は我々の勝利だ」

「「おおーっ」」

 ゲーニッツの勝利宣言に、周囲の野盗達が声を上げる。


「なんだと!?」

 イザベラの部下が声を上げ、何処かと連絡をとりはじめる。

 ゲーニッツはその様子を余裕を持って眺めていた。はったりでは無いのだろう。



「イザベラ様とシャリル国王は脱出できたようですが、ブリーエ城はミュータントの手に落ちたようです」

 部下が悔しそうに報告する。

「お前たちの努力に免じて、この村は返還するよ。大事に使ってやってくれ」

 ゲーニッツは門へ向かって歩き出す。これを見逃していいのか。ここでゲーニッツを倒してしまわないといけないのではないか。

 俺が身構えたのを察したのか、少し歩いただけで首だけ振り返った。


「そうそう、この村に住んでいた小さなミュータント達も、我らが無事に保護している。安心したまえ」

「なっ!?」

 イザベラの部下を振り返ると、彼は首を振る。

「混乱が続いていて、詳細は不明です」



「全軍、ブリーエに凱旋だ!」

 かしらが声を張り上げけると、外にいた野盗軍も閧の声をあげた。

 黄昏の傭兵団と拮抗した戦いをしていた野盗軍は、速やかに撤収を始めてゲーニッツへと合流する。


「技師としての力を持つお前がいないのに、なぜ両軍が拮抗していたか。我が慈悲を感じるがいい」

 ゲーニッツの姿は軍の中へと消えていった。




「どういうことだ、コーシ」

「ブリーエが陥落した」

「本隊を囮に本丸を落とされたって事か。でも奴らを仕留めれば問題ないのだろう」

「止めときな。アイツ等は最後まで本気じゃなかったよ」

 トミコがアームストロングを制止する。トミコから見ても、慈悲を掛けられていたと感じているのか。


「それに村の子供達も人質にされてるしな……」

 何とかしなければならないが、何も思いつかない。

「なるほどな。となると俺は砦に戻るぞ。これから奴らが通るだろうしな」

 アームストロングは即断すると部隊を振り返り、転送を開始する。


「相手のボスは、俺やルフィアの技術を越えるモノを持ってる。戦闘用ホムンクルスも1人いた」

「わかった。てめぇは何をしなきゃならんかまとめとけ」

 アームストロングとトミコの姿が消えていった。




「さてどうするか……じゃな」

「しかし、子供達を人質にされてたらどうしようも」

「たわけ、身内の保身の為に他の多くの者を見捨てるのかや!」

「しかし……」

 浮かんでくるのはコルボやカミュ達の顔、そしてシナリ。見知らぬ誰かの為に彼らを切り捨てるなど考えようもない。


「ふむ、まあ仕方あるまい。アリス、手伝うが良い」

 ルフィアは俺の前から立ち去り、何かを始める。

 そこに解決策があるのかと、未練がましく目で追ってしまう。



 裁縫の作業場に入ったアリスは、4人の男を連れ出してきた。作業場の魔法陣に囚われ、力を失ったミュータント達だ。

 不安そうにする男の1人にアリスが近づくと、上着を脱がしていく。ロープで縛ってあるので、途中からは刃物で切ってしまったようだ。

 晒された男の身体には呪紋が刻まれている。ゲーニッツによって施された物だろう。


「ああそうか」

 アリスの身体を治す方法が刻まれているのだ。子供達の事に気を取られて、他のことがおざなりになってしまっていた。

 俺は遅ればせながらルフィアの下へと近づいていく。ルフィアは俺を一瞥しただけで、作業に集中している。


「悔しいのぅ、こうなって、そうだったのじゃな」

「あふっ」

 ルフィアの指が呪紋をなぞり、男が身悶える。厳つい強面の男が悶える様は誰得だ。


「次」

 既にアリスに服を剥ぎ取られた男が準備されていた。その男がルフィアの前に引き出され、刺青の精査が行われる。

 俺はルフィアが見終わった男に近づき観察していく。見ただけで分かるのは、その密度と繊細さ。


「お、おい、男に撫でられて悶る趣味は……あふんっ」

 俺だってそんな趣味は無いが、ルフィアがそうして調べているので、効果があるのだろう。

 指に意識を集中してなぞって行くと、刺青での魔力制御がいかに緻密かが理解できる。

 ミュータント化で乱れた流れを細かく拾い、それを導き、肉体を強化していく。ランダムに見える魔力の流れを、細かく誘導することで全体として統率して、ならしてしまっていた。


「なるほど……」

 ルフィアが悔しそうにしていたのも頷ける。アリスに施した刺青はあくまで魔力を暴走させないように散らす措置。

 しかし、ゲーニッツの場合は暴れる魔力を再利用する形で制御している。

 より高度な技術が使われていた。

 ただルフィアの設計図は、魔導技師に目覚めたばかりの俺が刺青できるレベルに落とした物。

 今ならもっと精密な刺青も行えるはずだ。

 俺がルフィアを見ると、ルフィアもこちらを見ていた。


「アリスに施術する覚悟はあるのかや?」

「当然だ」

「見ての通り、倍以上の精度が求められるのじゃ」

「ああ、俺もあの時とは違う」

 魔導技師のレベルも上がったし、器用さを増すために盗賊系のスキルも取得している。


「アリスはどうじゃ?」

「兄様が覚悟なされているのに、躊躇う必要はありません。それに戦えないのは歯がゆいです」

 そしてアリスは俺に向かって、意志を伝えてきた。


「コルボは私の弟子です。窮地にあるなら、私が助けます」

 それは犠牲に躊躇する俺への強いメッセージであった。

 しかし、俺はまだ動くことで犠牲が出る可能性を看過できるほどには、覚悟はできていない。

 アリスの治療に専念することで逃げようとしているのかもしれなかった。




 ルフィアが寝室として作った部屋は、外と完全に隔離できるように作られている。

 それは宿屋の一室と同じく、時間をゲーム内時間まで加速して、現実の1時間をゲーム内の12時間に引き伸ばせる事を意味した。

 ルフィアの為に用意したベッドは、大きめでクッションもよく、真っ白なシーツが敷かれていた。

 ただルフィアはそのシーツを取っ払い、クッション性の良い布団も剥ぎ取る。


「何をしている?」

 施術されるアリスの負担を考えれば、柔らかな布団はあった方がいいだろう。

「ふん、この村で最もまともな寝具。あの下衆が使わぬとは思えぬからのぅ。それに刺青の精度を考えると、柔らかい布団はブレに繋がるやも知れぬ」

 ルフィアとしては、バルトニア国王を名乗るゲーニッツは許せない存在だろう。

 ソイツが使用した可能性があるだけで、布団を使わぬ程に。ただそれを用意するのは俺なんだがな。


「施術を開始するのじゃ!」

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