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村への潜入

 魔導炉を攻略していく過程でアームストロングの指揮能力が高いことは見て取れた。

 団員達が好戦的なのもあるが、一気呵成に攻め掛かる勢いが凄い。その上で弱いところには的確に補助を入れて戦線を形成する。

 その上で本人の戦闘力も優れていて、もし戦乱の世に生まれていたら有名な猛将となったのではと思わせる。



 その猛烈な戦闘に野盗達の注目が集まる中、俺達の1隊は岩陰を伝うように村へと接近して行った。

 先導するイザベラの部下は、流れるように影から影へと歩を進め、気づかれることなく目的のポイントへと到達する。


「ふむ、後は任せよ」

 ルフィアが岩の一部に手をかざすと、魔導技師の呪紋が浮かび上がる。

 そこに手を当てて魔力を注ぐと、岩盤がスライドして開いた。


「凄いな」

「しかし、いきなり使う羽目になるとはのぅ」

 薄暗いトンネルへと身体を滑り込ませた。数メートルも無いうちに、見慣れた作業場へと潜り込める。

 野盗達の興味を引くものがなかった為か、荒らされた様子もない。



 作業場の窓から村の中を覗くと、戦闘の最中であるが、人はかなり残っている。

 そのうちの1人は、村を襲ってきた時にかしらと呼ばれていた男だった。

 しかし、その男が付き従うよに寄り添っている男が、野盗の頭領らしい。背丈はかなり小さく、どこか神経質そうな外見は、白衣を着せると似合いそうな研究員を思わせた。


「魔導技師のようじゃの」

「分かるのか?」

「魔力はほとんど感じぬ。ミュータントのようじゃが、その魔力をちゃんと制御しておる」

 俺ではそこまで細かく判断できない。ミュータントである事がかろうじて分かる程度だ。


「あの男がミュータントの力を制御する方法を野盗に伝えたのか?」

 だとすれば武闘派でなくても敬われる立場にあるのも頷ける。

 下手にミュータント化が進むと、暴走して身を壊すことになる。そこから救い出してくれる者は、大事にするだろう。



「あっちはどうなっている?」

「はい、サブレグからは順次こなしていると」

「ふむ、ではあと半日というところだな」

 男の前にはモニターのような物が置かれていて、外の様子をそこで確認しているようだ。

「敵も間抜けだな。こちらより弱い兵でここを攻めるとは」

「しかし、奴らは技術を持っています。先に追撃させた者達は手痛い反撃を受けました」

「ふん、どこぞで残っていた技術か。我が正当に継承した技術とは雲泥よ」

「はい、ゲーニッツ様がおられねば我々の命はありませんでした」


「さて、それではここの余興も始めてしまうかな?」

 男はくるっとこちらを向いた。

 その目は確実にこちらを捉えている。

「隠れているつもりかもしれないが、既にバレバレである。出てくるがいい」

 正面から見た男の顔は、右半分が異相となっていた。右目の周囲に魔導技師の刺青が刻まれ、まぶたが無いのか瞳がむき出しになっている。

 左右で色の違う瞳は、他人の物を無理矢理はめ込んだ様に見えた。


「バレているなら仕方ないな」

 俺とリオンは窓から飛び出し、男と正対する。レベルの低いケイトや、NPCである3人はいつでも逃げれるように備えさせた。


「この男です。こいつが仲間を技術で倒しやがった」

 かしらと呼ばれていた男がゲーニッツへと報告する。

「ふむ、お前がニセ技師か」

 ゲーニッツは異相の瞳で俺を見定める。看破のようなモノで見たとしても、俺は単なる剣士かもしれない。

 魔導技師を利用した刺繍は随所に仕掛けてあるが、単なる装備品と見られるだろう。


「ふむ、ミュータントでは無いがそれなりに力はあるようだな。どうだ、お前の技術。我の下なら更に伸ばしてやれるが?」

「それは俺を誘ってるのか?」

「我は有能な者は正当に評価してやる。まだまだ我が王国は人手不足ではあるからな」

「王国?」


「我は神聖魔導王国バルトニアの第37代国王ゲーニッツ・フォン・バルトニアである!」

 背後で息を飲む気配が伝わってくる。ルフィアが飛び出さないように抑えてくれよ。



「亡国の王様ってか?」

「ふん、バルトニアは滅びてなどおらん。魔導王国の叡智はこの右目に宿り、その技術はより研鑽されて引き継がれている」

 男の視線が俺を外れ、建物の奥へと向く。

「例えばそなたの背後にいるミュータントは、暴走の後遺症に苦しんでおるのだろう。我ならば救ってやれるぞ?」

 俺がミュータントを見分けられるように、ゲーニッツもアリスの事を感じ取れるようだ。

 その感度は俺よりも優れていて、建物の中でも分かるらしい。


「なるほど、それは魅力的な提案だな。俺としても平和理に交渉から始めてくれれば、応じるつもりだったんだが、なぜ村を襲った?」

「そちらが先に魔力供給炉を襲撃したのであろう。これは領土侵犯だとして、相応の対応をしたまでの事」

「それは知らなかったからで」

「ミュータントにとって魔力供給を断たれるという事は、死活問題だ。現に魔力供給を断たれた村は、移動を余儀なくされた」

 探しに行った場所から人がいなくなっていたのは、そういう理由があったのか。


「我としてもこの村に住む子供達に危害を加えるつもりはなかった。ゆえに子供達が村を離れた時を狙ったのだよ」

「そう思うなら、何で子供達を早く保護しなかったんだ?」

「我とて神ではない。広いバルトニア全土を正確に把握しているわけではないのだよ。魔力供給炉を止める連中がいて、それを追跡するうちにここを見つけたのだ。単純に知らなかったのだよ」


 ゲーニッツの主張は筋が通っているようにも思えるが、どこか腑に落ちない。

「子供達を大事にしたいと言うなら、村を力づくで奪いに来たのがおかしいな」

「女は置いて行けとも言ってたわ」

 ケイトが批難の声を上げる。


「ゲーニッツ様、この者達を説得するのは無駄かと」

「やれやれ、これだから野蛮人達は困る。まずは力の差を見せつけねば分からんのか」

 ゲーニッツの言葉に、周囲のミュータント達が身構える。


「アトリー、来るよ」

「力で村を取りに来た連中に、野蛮人と言われるとはな。リオン、あの大男には気をつけろ。格が一つ上だ」



 俺が抜刀するのを見て、ミュータント達が襲い掛かってくる。駆け寄るうちに、上半身の厚みが増していき、筋肉の盛り上がった太い腕で殴りかかってくる。

 その姿をじっと見つめて、魔力の流れを感じていく。筋力が強化され、皮膚に硬化が見られた。

 村を脱出した俺を追ってきた連中と同じ雰囲気だ。俺は初手から魔力の流れを狙って、マンゴーシュの刃を当てていく。

 硬化した皮膚も、魔力の継ぎ目は覆いきれず、比較的容易に傷がつく。

 するとダムに亀裂が走るように、弱った部分から魔力が溢れ出てその力を奪っていく。



「くぉっ」

 ミュータントの拳をハンマーで受け止めたリオンがやや押される。

 しかし、筋力特化のリオンはそこから踏ん張って、逆に押し返してハンマーを振り払った。

 強化されたミュータントの身体が弾き飛ばされる。


「大丈夫か、リオン」

「こいつらは問題ないね」

「ならば俺が相手をしてやろうっ」

 手にした槍を投じてきたのはかしらと呼ばれた男。投じられた槍は、高速に飛来するが正面からなら弾くことはできる。


「アトリー!」

 しかし、投じられた槍と同じ速度で頭の巨体が迫ってきていた。今更回避する事もできず、マンゴーシュで槍を防ぐ。

 そこに迫る巨躯の回し蹴りは、リオンが横から弾いてくれた。


 頭の巨体はミュータント化という感じではない。元々身体が大きいのだろう。しかし、怪力、俊足はミュータント化による恩恵。

 姿はそのままに、ミュータントの力を引き出しているようだ。


「はぁっ!」

 頭の脚をハンマーで打ち返し、そのままリオンが連携技を繰り出していく。鋼のゴーレムすら変形させる一撃を、頭は手足を使って弾いていく。

 魔力による皮膚の硬化も上乗せしているようだ。

 その上、ダンと踏み込むと、機敏に身体を滑らせ、リオンの死角から拳を繰り出す。


「リオンッ」

 その拳をシャムシールでディザーム。強く打ち払われた拳は軌道を変えて、リオンを掠めるような過ぎ去った。

 他の者が上半身か下半身かだった強化が、頭は両方共使いこなしている。

 更には戦闘の経験も抱負なのだろう、戦い慣れた動きを見せていて、攻撃の際にも隙が少ない。


「しっ」

 細かく打ち出された拳が空を打つと、ぶわっと風が舞い起こり頬にピシッと裂傷が走る。

「カマイタチか」

 見た目は派手だが、威力はそこまででもない。ただ目に吹き込む風が、視覚を遮ってくる。


「ふんっ」

 そこへ的確な拳。魔力の流れを見るどころではない。単純に振り払うだけで精一杯だ。

「おらおらおらっ」

 左右のラッシュをマンゴーシュとシャムシールで受け流す。本来なら素手の相手が傷つくはずだが、硬化した肌は鉄の刃をものともしない。


「ヘヴィスイング」

 横薙ぎの一撃が頭に迫ると、スウェーしながら回避する。両手のコンビネーションといい、ボクシングスタイルと思われる。

 ならば狙いは足か。

 俺はガードを固めながら前に出て、左右の拳を払いながら距離を詰める。

 相手も後退するが、前向きに進むこちらの方が早い。


「リオン、疾走はしれ」

 俺の言葉にリオンは、ローラーブレードが仕込まれたブーツに履き替え、加速を開始する。

 一気に上がった速度に、頭の意識が向いた瞬間、俺は太ももを切りつける。

「くっ」

 硬化した肌はそれでも刃に抗う。力を込めて何とか傷を残し、俺もステップバックする。


「ヘヴィスイング!」

 スピードが乗ったリオンの一撃が、ガードを固めた頭の両腕をしたたかに打つ。

「うぐっ」

 堪えると砕ける。その判断でステップした頭の身体を、ハンマーで掬うようにしながらリオンは滑走。固い岩盤で出来た壁へと叩きつけた。


「て、てめぇら」

「僕とアトリーのコンビネーションなら勝てそうだね」

 軽やかな足取りで戻ってきたリオンと軽くハイタッチする。


「調子に乗るなよ、小僧共」

 下がって見ていたゲーニッツが、唸るような声を上げた。

「ベネッタ!」

「ここに」

 ゲーニッツの声に、即座に現れたのは妙齢の女性。身体にフィットしたスーツには見覚えがある。


「姉様……AL12a、トミコ姉様のもう一つ上の姉様です」

「アトリー、そやつも」

「ミュータント……だな。しかも完全制御型か」

 スリムでメリハリのある身体は歪さがない。静かにたたずむ気配には隙き一つ見いだせなかった。


「こいつは……マズイな」

 背筋に冷たいものが流れた。

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