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ミュータント化した野盗達

「お前らは……野盗だよなぁ」

「へっ、何も教えるかよ」

 俺は男の様子を見ながら、魔導技師の解析が発動しているのを感じる。

 魔力の揺らぎは男の感情にも左右されるようだ。その流れを読み取れば、隠そうとしていることも分かるかもしれない。


「お前は男だよな」

「は?」

 嘘発見器として使えるか当たり前の情報をぶつけて反応を見る。

「お前がかしらか?」

「ちげぇよ。頭はもっと強え」

 否定と肯定で魔力の流れが違って感じられる。


「お前はミュータントだな?」

「さあな」

 この発言には揺らぎが微妙だ。

「身体が変異する者達の事だ」

「俺達は覚醒者だ。てめぇらより強えんだよ」

 覚醒者、それが仲間内での呼び方か。


「仲間は何人いるんだ?」

「500はいるぞ。お前らなんざ、一瞬で潰してやんよ」

 これは嘘か。

「実際は50か? 30? 100……ほどか」

 相手の魔力を見ながら数字を言っていくと、反応の大きなところが正解だろう。

 しかし、100は多いな。黄昏の傭兵団でも50ほど。個々の力で見ると、ミュータント達の方が強いはず。


「何で村を襲った?」

「復讐のためだよ」

「復讐?」

「俺達は俺達をこの地へ追いやった連中に復讐する。その為のアジトにするんだよ」

「それはブリーエやオタリアへって事か?」

 俺の質問は飛来した槍によって中断させられた。かなり遠くから投じられただろう槍は、俺と男の間に深々と刺さっていた。



「一撃で倒しに来なかったのは、俺をメッセンジャーとして送り出すつもり……か」

 しかし長居は無用だろう。

 俺は国境へ向けて走り出した。




 俺は一定距離を離れて戦闘地域を外れると、転送を利用してブリーエに跳んだ。

 転送地点には先に到達していたシナリやケイト、それにルフィアや子供達も集まっていた。


「アトリーさ、大丈夫だか!?」

「ああ、俺は何ともない。ただ村にはしばらく帰れそうにない」

「ふむ、詳しい話を聞こうかの」

 俺は状況も考えて、王城へと場所を移すことにした。



 ブリーエ国は大臣の専横によって苦境にあった。それをオタリア国の戦地調停官であるイザベラと協力して、国王を助けて大臣達を排斥することに成功した。

 それからはシャリル国王とも交友がある。


 今回のミュータント化した野盗の襲撃が、外の国にも影響を与えそうだという事で、国王やイザベラにも報告する必要があると思った。

 謁見の間ではなく、会議室の方へと通される。

 子供達には食堂で待ってもらうことにした。シナリには付き添ってもらっている。



「してミュータント化した野盗というのは?」

 シャリル国王の質問に、村を襲撃してきた野盗の詳細を伝える。その目的は自分達をバルインヌへ押し込めた人々への復讐。

 ミュータント化を制御して見えた事などを報告した。


「復讐……か。確かにバルインヌは流刑地として使用された過去がある」

 イザベラが答える。

「犯罪を犯した者や、戦争から脱走した兵など、行き場を失った者達が逃げ込む地となっていた」

「でも俺が保護した子供達は犯罪者ではないでしょう?」

「戦禍に晒され土地を離れるしかなかった農民達もいただろう」

 犯罪者が住む土地へと逃げなければならない状況か。


「逆恨みとも思えるが、ブリーエに牙を剝くなら対応を考えねばならないな」

「しかし我が国の軍は弱いぞ」

 シャリル国王が情けない発言をする。先の戦争でもアリス頼りだった軍は、個々の兵はそれほど強くなかった。


「ミュータントの強さは、俺達よりも少し強いくらい。それが100人規模となると、かなりの脅威です」

 しかもミュータントの力を制御しているとなると、どんな攻撃を繰り出してくるかも不明だ。



「ど、どうしたらいいのだ?」

 そんな弱気を見せる国王を、イザベラはバシンと背中を叩く。

「身内の場なので多少は許しますが、国王たるものみだりに動揺を見せてはなりません」

「う、うむ、すまない」

 慌てて背筋を伸ばす国王の教育は、まだまだ続いているようだ。


「しかし、ブリーエに続いてオタリアも標的となるなら、他人事では済まされませんね」

 ブリーエは独立国ではあるが、オタリアの役人であるイザベラが取り仕切っている属国。

 まさに今回のように西から攻め入ってくる勢力への防波堤の位置付けだ。

 ブリーエとの戦を分析できれば、オタリアとしても対応しやすくなるだろう。


「しかし、私に牙を剥いた事は後悔させてやらないといけないわね」

 イザベラが暗い笑みを浮かべる。ブリーエを抜かせるつもりはないらしい。




「急用ってのはなんだ?」

 そこへアームストロングから連絡が入った。野盗達がブリーエに攻め込むとした場合に、最初に標的となるのは、国境近くに作られている『黄昏の傭兵団』の砦だろう。

 団長であるアームストロングにも、事態を把握しておいてもらうことにした。


 しばらくして、アームストロングが王城の会議室へとやってくる。

「コーシ、お前王族にも知り合いがいるのか」

「まあ、成り行きでね。それよりも、今回の事は傭兵団への影響が大きいんだ」

 アームストロングに一通りの経緯を説明する。


「なるほどな、お前達の村から俺達の砦はさほど距離はない。それにしてもミュータント化した野盗とは厄介だな」

 アームストロングは一部ミュータント化したホムンクルスのトミコとも戦った経験がある。

 獣の本能的な攻撃も厄介だが、そこに人の知恵が加わると何倍にも脅威は膨らむ。


「本格的に守りを固めないとまずいか? いや、いっそ打って出るべきか」

 パワーファイターであるアームストロングは、守りよりも攻撃に特化している。攻められるくらいなら、先に叩こうと意見を出してきた。


「しかし、敵の方が強くて数も多いんだぞ?」

「敵の全容を見たわけじゃないんだろ。本当の数も強さもわからん。それに村に拠点を置くとしても、集まってくるには時間がかかるだろう。まとまりきる前に各個に撃破した方が楽だ」

 確かに守りに入るというのは、相手に準備の時間を与えるという事でもある。

 数も強さも勝る相手に、準備万端で攻められたら、砦があったとしても勝機は薄いかもしれない。


「強行偵察部隊を組織するか」

 少人数相手なら、俺の魔導技師の技術で差を詰められる。各個撃破できれば、思ったよりも優勢に戦えるかもしれない。



 急遽のミッションだが、傭兵団はかなりやる気を見せていた。自分達の家を守るという意味もあるが、それよりも元々の気質が戦闘好きなのだ。

 Sleeping Onlineの性質上、ログインしていないメンバーはいない。

 まとまった人数はすぐに集まった。


「よしてめぇら、敵はコーシより強いらしい。コーシを倒すつもりでやってやれ!」

「アトリー爆発しろ! アトリーいなくなれっ!」

 なんて掛け声だ。傭兵団内の俺の敵視ヘイトはどんだけ高いんだ……。


「見ろよ、また2人も女の子増やしてるぞ」

「なぜなんだ、アトリーばかりっ」

 こちらを睨みつけてくる。まあ、逆の立場なら妬むか。



 村の奪還作戦は、アームストロングの号令の下、思わぬ速度で決行に移された。

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