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新たなる脅威

「それじゃ頼む」

「行ってきます」

 子供を乗せた2便目の馬車が出立する。村の中はかなりひっそりと静まり返っていた。



「アトリーさ、凄いだな」

「何がだ?」

「村の皆がアトリーさを信用してるだよ。メーべでもそうだったけど、側にいると安心できるだ」

 単にNPCだからプレイヤーの言うことを聞いてくれる……ってだけではないよな。

 周りに評価されているのだとしたら、それは嬉しく思える。


「アトリーさ、あたしもずっと側に来たかっただよ」

 子供にアトリー、ルフィア、アリスがいなくなり、村に残っているのは、シナリと2人。

 俺に抱きついてくるシナリは、ゲーム内で1年が過ぎて出会った頃の子供っぽさが薄れ、かなり大人びて見えた。

 マサムネが言うには、村を救ってからずっと俺の事を慕ってくれていたらしい。

 快活そうな日焼けした肌と、1年で伸びた髪。女性らしく丸みを帯びはじめた身体は、魅力的な乙女に見せている。

 そんな女の子に潤んだ瞳で見つめられると、さすがに俺も理性が揺らぐ。




「ちょっと待ったー!」

 そこへ現れたのは、オタリアで錬金術を終えたケイトだった。

「何で2人きりの空間を作ってるんですか!」

 俺とシナリの間に入るようにするかと思いきや、逆側からひしっと抱きついてきた。


「私も構って下さいよ」

「お前なぁ」

 ケイトは錬金術を終えてすぐに飛んできたのだろう。硫黄の臭いが漂ってきた。

「落ち着け、臭いが移るから」

「ぐすっ、女の子に臭うとか酷いです」

 本人は嗅ぎ続けて鼻が麻痺してるのだろう。




 ケイトとシナリを引き離そうとしていると、外が騒がしくなってきた。

「ここですぜ、頭」

「ほぅ、立派なモンだな」

「なんだコイツ。コレが壁を作ってんのか?」

 ガンガンと鉄を叩くような音が聞こえてくる。土木1号は今日も石垣を積み上げていた。

 俺は物見櫓に昇って外を見ると、そこには10人程の群れが土木1号を囲んでいた。


「お前たち、何をしている」

 櫓から声を掛けると、揃って上を向く。

「いい砦だ。俺達が使ってやるから、素直に差し出せ」

 中央にいる少し大柄な男が言ってきた。

「馬鹿なことを言うな」

「作り上げたものを奪われるのが辛いのは分かる。ただこの世は弱肉強食。命が助かるだけでもありがたいと思え」

 典型的な野盗だな。しかし、妙に自信有りげだ。俺は普段からセットするようになった〈看破〉で相手を確認する。


「なるほど、強そうだな」

 そう言いながらポタミナを操作してルフィア達にメッセージを送る。

 俺よりも強い奴が10人、正直なところ相手にならない。子供達が戻らないように指示を出す。


「シナリ! ブリーエでルフィア達と合流してくれ」

「あたしも戦えるだよ!」

「この村は放棄する。勝てない相手だ」

 俺はバスティーユ城攻略での失敗を思い出す。無理して死ねばペナルティは大きい。

 引くところは誤ってはいけない。



「女がいるのか? そいつは置いてけ」

「それこそできるか、馬鹿野郎」

「てめぇ、俺達の方が強いと思ったんだろうが」

 叫んだ1人がその姿を変えていく。やはり魔力に侵されたミュータントのようだ。

 しかも最初の魔導炉で見たように、暴走しているわけでもない。


「アトリーさん。この村は捨てちゃいます?」

「ケイト、何で昇ってくるんだ。お前も逃げろ」

 転送にはある程度制限もある。戦闘状態に突入していると使用出来ないのだ。


「ちょっとやってみたい事があったんで」

 ケイトは所持袋を漁りはじめる。

「てめぇら、俺達を舐めたことを後悔すんなよ」

 ミュータント化した男は、脚が2本増えた上に太さも増していた。

 ダンッと地面を蹴ると、一気に4mはある櫓の高さまで跳ね上がる。


「きゃあっ」

 俺はケイトを押しのけると、跳んできた男と向き合う。

 腕の方には侵食は無く、無造作に蛮刀を振るってくるだけだ。それだけなら、マンゴーシュでパリィできる。

 しかし、男は弾き返される際に、4mを跳躍できる脚力で物見櫓を蹴り飛ばしてきた。

 元々が一人用の櫓に、2人昇ってしまっていた所に、横向きの力が加わった事で、大きく傾いで倒れていく。


「おい、ケイトッ」

 レベル的に低いケイトを抱きかかえると、俺は櫓に押しつぶされないように、見張り台から飛び出した。

「ああっ」

 ケイトが取り出そうとしていた物が空中にばらまかれた。

 ガラス瓶に入った薬品は、落下とともに容器が砕けて、色々と混ざり合うと何とも言えない臭気が漂い出した。



「アトリーさん、逃げましょう」

 青ざめた顔で言ってきたケイトを連れて、裁縫の作業場へと逃げ込んだ。

 ミュータント化した男と接触したことで、戦闘状態に突入している。

 しばらくは転送が使えない。

 敵が見失って、しばらく経つまで隠れているしかない。


 ミュータント男は、その跳躍力で壁を飛び越えて村へと入っていた。

「うおっ、なんだこの煙……へぃ、今開けますんで」

 それからしばらくすると、ガヤガヤという声が聞こえてくる。

「なんだこの煙」

「前が見えねぇぞ」



「実際、何の煙なんだ?」

 一緒に隠れているケイトに聞いてみる。

「可燃性の液体と麻痺薬がメインですね。後は気化薬とか、着色剤が混ざってる」

「えらく物騒なのを用意してたな。どうする気だったんだ」

「野盗に取られるくらいなら、多少燃やしてしまってもいいかなぁって」

 おいおい。


「黄昏の傭兵団に協力して貰えれば奪還は可能だろ。問題は土木1号か、壊されなきゃいいが」

 そう思っていると、外が静かになっている。

「麻痺が効いたみたいですね。長くて30秒程ですが」

「チャンスだな。俺は土木1号を回収してくるから、ケイトはここからブリーエに跳べ」

 麻痺の時間があるので、ケイトの返事は聞かずに飛び出した。



「ふぁっへめぇ」

 ろれつが回らない野盗の隣を駆け抜け、門を飛び出す。土木1号は作業を妨げられた状態で放置されていた。

 近くまで寄ると、幾つもの傷がついているのが分かる。奴ら力任せに殴りやがったな。

 土木1号のスイッチを切って、所持袋へと格納していると、麻痺が解けた野盗が迫っていた。


「くっ、この距離でも戦闘判定かよ」

 転送を実行しようとしたが、エラーが出て選べない。俺は仕方なく自力で走りはじめるが、野盗達が追いかけてくる。


「おいおい、まずいぞ」

 1人でも俺より強い相手。それが4人ほど追いかけてきている。相手の方が脚も速そうだ。

 どうせ死ぬなら一戦交えて、強さを確認しておくか。

 俺が覚悟を決めて振り返ると、追いかけてくる野盗の1人が加速する。脚が強化されているようだ。


 一気に間合いを詰めながら、槍を繰り出してくる。

「くっ」

 穂先をマンゴーシュで逸して、かろうじて直撃は避ける。スピードが乗っている分、一撃は重かった。

 ただ1人だけが加速して突出してくれたおかげで、一対一の状況を作ることができた。



「ちょっとでも測らせてもらうか」

「余裕こいてんじゃねえぞ」

 通り過ぎていった敵が振り返り、再び突進してくる。その加速には驚くべきモノがあるが、速度自体はリオンの最高速には及んでいない。

 しかも重さがあって振り回してくるハンマーと違い、一点を突いてくる槍。パリィすれば攻撃は凌げる。


「ああ、てめっ、面倒な奴だなっ」

 3度目となると、相手も動きを変えた。僅かにずれた位置に向かってきて、目の前で反復横飛びをするようにスライドしながら突いてきた。

 縦から横の動きは、確かにトリッキーで意表はつくが、ある程度読めていれば威力の乗っていない攻撃。

 ディザームで打ち払うように槍を叩くと、武器を取り落とした。



「ん?」

 武器を落とされ、一瞬動きが止まった男の脚を見た俺は、そこにラインが入っているのに気づく。

 腰から足先に向けて、魔力の流れがある。魔導技師の感覚で判断した俺は、その流れを絶つようにシャムシールを走らせる。

 肌一枚を切る程度の斬撃だが、効果はてきめんに現れた。傷口から魔力が流れ出ていき、立っていられなくなった男は膝をつく。


「な、何しやがった」

 ミュータント化が進んだ人間は、身体自体も魔力で動かすようになっている。

 魔力を絶ち、流れ出すようにしてしまうと、力が出せないようだ。膝立ちも維持できなくなり、地面に倒れ伏した。

 槍の男が戦闘力を失ったのを確認したところに、残りの3人がたどり着いく。



「ヤーン、何してんだ」

「ち、力が入らねぇ、助けてくれ」

「しゃあねぇなぁっ」

 3人もまた変化をはじめる。上半身が膨らむように大きくなると、腕が2倍ほどの太さになっていた。


「ふんっ」

 男が手にしていた拳ほどの石が、弾丸のように飛んできた。直線的な攻撃は、避けるよりもマンゴーシュでパリィ。相手の身体から目は離さない。

 すると肥大化した上半身の魔力の流れを見て取ることができた。


「解析のレベルが上がったのかな」

 視覚で魔力の流れが感知できると、力を入れている所に魔力が溜まるのが分かる。次の攻撃がどこを狙っているかも予測できるようになっていた。

 硬化した右手で殴りかかってくる男、その隣の男は刀で斬りつけてくる。もう一人は背後に回ろうとしていた。

 ミュータント化して硬くなった拳だが、魔力の筋に沿って刃を当てると、スッと刃が入っていく。


「あがぁっ」

 膨れ上がった風船に針を刺すように、マンゴーシュの刃で僅かに傷つけると、そこから魔力が溢れて右の拳がはじけ飛んだ。

 それを確認しながら、斬りつけてきた男の刀をシャムシールで受け流す。

 拳を砕かれた男と斬りつけてきた男の間を抜けて、2人の背後へと回ると、俺の後ろを取ろうとしていた男の移動は無駄になった。


「レギ、どうした!?」

「わ、わからねぇ、こ、拳がぁっ」

 砕けた拳からは次々に魔力がこぼれ出て、立っていられなくなって膝をつく。



「おい、お前ら。俺はミュータントに強いぞ?」

「ふざけるな、てめぇ。レギに何しやがった」

「ぶっ殺す!」

 残る2人が挟み込むように攻撃してくる。手にした幅広の刃を持つ刀、その軌道をずらして互いに斬り合うように誘導。浅くだが胸元に傷が走る。


「貴様、チョロチョロと。この程度の傷で倒せると思って……」

「あぁっ?」

 胸に入った傷から魔力がこぼれ落ちていくのが見える。それと共に力が抜けて、立っているのもやっとになっていった。キッとこちらを睨みつけてくるが、身体は震えてしまっている。


「な、何しやがったんだ!」

「ミュータントは魔力で驚異的な力を発揮する。しかし、その流れを制御して暴れさせれば、自滅するのも道理……か」

「何言ってやがる」

「くそぉっ」

 徐々にこぼれ落ちる魔力に、長く保たないことを悟った男が、最後の攻撃を仕掛けてくる。

 肥大化した手に持たれた刀が、猛烈な勢いで振るわれた。しかし、魔力の流れからそれを察知していた俺は軽くマンゴーシュであしらう。更にその表面に傷口を作ると、内側から魔力に押されて腕が弾けた。



「あが、ががが……」

 魔力の流出が止まらず地面に突っ伏した男は、そのまま動けなくなりポリゴン片へと変じて砕けた。

「サムナ! て、めぇっ」

 唯一立っている男も、胸の傷から魔力が流れ出ていて、満足に動けそうにない。


 このままだとこの男も魔力が枯渇して砕けてしまうだろう。

 俺はその流出を止めるべく、せき止めるように新たな傷口を刻んだ。

 他の2人も動けそうに無いのを確認して、止血ならぬ止魔力を施していく。

 ルフィアなら魔法でやれるのだろうが、俺は流れ出る魔力の向きが変わるよう新たに傷をつけてやる事しかできない。

 それでも死ぬことはなくなっただろう。


「動くなよ。傷口が広がれば、また魔力が漏れるからな」

 倒れ伏した2人に言い置くと、反撃の気力を失った男に、俺は尋問することにした。

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