村の拡張と子供達の旅
村に戻ると拡張工事が進んでいた。
元々が岩の割れ目のような谷間に作られていて、口の開いた一面を頑丈に作った壁で守られている。
その岩盤を土木1号が掘削して、小屋として建っていた家屋の一部を岩の中へと移設していた。
掘削時に出来た岩の塊を防壁の外側に積んでいって、石垣のように外側への拡張も進めている。
「兄ちゃん達、おかえりー」
畑仕事組の男の子達は、村の防壁の外に、木の柵を設置していっている。
ミュータント化した獣が減ったので、村の外にも畑を作ることにしたのだ。
まずは柵を巡らせて範囲を決める段階にある。
村の中も小屋移転の為に荷造りが行われている。火を使う食堂は今のままで、寝所にしている小屋や裁縫の作業所を掘削した岩盤の中へと引っ越す。
「帰ってくるなり労働かや」
「すまんな。まだ俺には加工まではできないんで」
魔力を多分に含んだ木材は、ルフィアが魔導技師の技で加工している。
俺も端切れを使って試しているが、思ったようには動いてくれない。
「頑張ったらちゃんとご褒美を考えるのじゃよ」
「ああ、考える、考える」
といって考えるだけで済ますと拗ねるから、ちゃんと形になるものを用意した方がいいな。
裁縫の作業所は解体されているので、大掛かりな物は作れない。
俺は近くの椅子に腰掛けて、裁縫を始めた。
日が陰り夕方になる頃には、岩盤へと移設される工事も終わっていた。ルフィアは不平を漏らしつつも、しっかりと作業をしてくれたらしい。
食堂ではシナリが主導しての夕食が用意されていた。
「姫様、お疲れ様です」
「うむぅ、操作するだけとはいえ疲れたのじゃ」
「ささやかですが、こちらをお収めください」
俺はルフィアが作業する間に作成していた一品を献上する。
「ん、なんじゃろう……ほう、リボンかや!」
ルフィアは通常ポニーテールで髪をまとめている。小さい人形の時に適当にまとめた布をずっと使っていたようなので、ちゃんとした物を作らないといけないと思いつつ忘れていた。
「ふむ、似合うかのぅ?」
アリスに髪をまとめさせてリボンで髪留めを行う。
明るい金髪に負けないように、明るめの赤を選んだが、それでもルフィアの髪には負けてしまったようだ。
ただ彩りとしては悪くない。
「姫様の髪には負けますが、良い具合かと」
「……アトリーよ。なんか気持ち悪いぞよ」
気分を害さないよう丁寧に対応していたら、そんな事を言われた。
食堂が笑いに包まれつつ、和やかな時間が過ぎていく。
「アトリー、鉱石に関してなんだけど」
食後に子供達が騒ぎ始めた頃、リオンがやってきた。
「この地方に入って最初の魔導炉の側に、鉱山の跡があるみたいなんだ」
「そんな所まで探していたのか」
「コレのおかけで移動が楽だしね」
俺としてはローラーブレードなんて余計に疲れそうなんだが、リオンにとっては身体の一部みたいだ。
「しかし、坑道跡だと土木1号で掘るだけでは済まないかもな」
「うん、まずはダンジョンとして攻略してみないとダメかも」
魔導炉の側という事は、ミュータント化した生き物がいる可能性がある。
「先に人の探索を行ってからかなぁ」
「うん、分かった。まずは住人の探索からだね」
「それじゃあ少し練成してきます」
ケイトの工房は畑を外側に移転した跡地に建設予定なので、まだ村の中にはできていない。
錬金術を行うにはオタリアのお爺さんの所に行くしかなかった。
転送システムのおかげで、オタリアと村とは行き来が楽なので問題はないだろう。
異臭その他を考えても、優先順位は低めに設定させてもらっている。
転送していくケイトを見送り、次の問題に取り掛かる。
「盗賊がいるのかなぁ」
地図に記された場所には誰もいなかった。マーカーからずれていたのか、どこかへ移動してしまったのかがわからない。
盗賊系のスキルがあれば痕跡の調査もできたのかもしれなかった。
「兄様、それなら私が探します」
名乗り出たのはアリスだった。戦闘用ホムンクルスではあるが、追跡の為に多少の探索スキルが使えるらしい。
「そうなのか。それは助かるな」
盗賊の当ては連絡のつかないチャップか、黄昏の傭兵団から借りるくらいしか手がなかった。
アリスが調査できるなら問題はないな。
というか村の工事の為に残ってもらっていたのが裏目に出たのか。
「ちゃんと皆の能力を確認しておかないとな」
大体こんな感じ……程度にしか把握してなかったNPC達の能力を確認しておくことにした。
「わらわは魔術師と魔導技師じゃな。他には魔法知識や執政術などもあるぞよ」
ルフィアは魔法王国の王女らしいスキルを持っている。
「私は戦士系のスキルを一通りと、侵入者を追跡するためのスキルです」
アリスは戦士としての素地と、警備用途としてのスキルを持っていた。
「あたしは家事全般と漁師。後は銛を少し使えるだな」
シナリは基本的に非戦闘員。ただ俺の仲間内で不足していた家事能力があるのが助かる。
いくら美味しいとは言え、ルフィアの焼肉だけでは飽きてしまう。巧みな料理には子供達の人気もうなぎのぼりだ。
村の近くには川もあるので、そのうち漁師としても活躍する機会はくるだろう。
「僕はまだ槍しか……後は監視能力が少しです」
村の年長であるコルボは村を守ってきた間に多少の能力が開花していた。
後は俺の弟子になるカミュとリーナが裁縫を覚えている。
他の面々は役割こそ担っているが、専門的に習っていないので農業などのスキルは持っていなかった。
「そのうち農業に詳しい人を呼ばないとダメかな」
畑を広げて様々な物を作っていくには、知識があるのと無いのではかなり違ってくるはずだ。
畜産方面の知識も欲しい。
思いつくのはブリーエのお爺さんだが、やっと落ち着いたブリーエから連れ出すのはしのびない。
改めて探すしか無いかな。
「欠けてる点は補っていくとして、やれる事は大体わかったかな」
明日は改めてアリスを伴ってバルインヌの人々の探索。拡張工事は土木1号や農業組に任せて広げていく。
監視はコルボがやってくれているので、危険があれば皆を逃がすくらいは十分できるはず。
ポタミナでNPCとも連絡ができるのがわかったので、村に不測の事態が起これば、コルボから連絡が入るはずだ。
「村の子供達も一度ブリーエに連れて行っておくべきか」
「何でじゃ?」
「ブリーエに行っておけば、万が一の場合に転送で脱出できる」
「なるほど、それは大事だね」
NPCは死んでしまうとそれまで。保険はいくつあってもいいはずだ。
「ただリオンに馬車で運んで貰うことになるんだが」
「うん、任せてよ」
村の子供は12人。一回で乗れるのは半分くらいか。
「2往復になるけど」
それなりの時間がかかってしまうだろう。
「帰りは転送で済むから2回送るだけだね」
なるほど、よく考えればそうだな。それでも大変であることには変わりなさそうだが。
「すまんが頼むな」
「僕だって子供がいなくなるのは嫌だから、気にするなよ」
こうしてリオンによるピストン輸送が計画された。
ブリーエに着いたらいつでも帰れるが、生まれてからほとんどをバルインヌで過ごした子供達。
少しは観光させてやるのがいいだろう。
「村は俺が見てるから、ルフィアやアリスは向こうで子供達を観光させてやってくれ」
「ふむ、それは良いが……先立つものがないとのぅ?」
ルフィアに財布を任せるのは不安だが、そこまで無茶もするまい。
「わかった。多めに渡すけど使い切るなよ?」
「分かっておる。子供ではないのじゃ」
今の姿になって、胃袋は小さくなってるし大丈夫か。
1便でルフィアが添乗していき、2便目にアリスが乗ることになった。馬車で2時間ほどの距離だが、ゲーム内での夜を跨ぐことになる。
夜は子供達を眠らせてやる事にして、三十分ほどの余裕をみることにした。
1日仕事になりそうだ。




