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待ち人きたる

「さて現実逃避していても仕方ないな」

 バスティーユ城を攻略しようにも、ザコ敵にすらなす術なく倒された。

 明らかに戦力不足の状態だ。地道にスキルを上げるのも手だが、根本的には人手が足りていない。

 特に回復職ヒーラーがいないと継戦能力が低いままだ。

 以前にかけた募集にも、結局応募がないままだった。


「ケイトを育てるのが確実……なんだろうか?」

 錬金術師が戦闘職でない為に仕方なく薬師で始めた彼女を、無理にパーティに引き込むのは気が引けた。

 それにレベル差もかなりある状況だ。


 交流のある『黄昏の傭兵団』に助っ人を頼むという手もないではないが、やはり彼らの中でも回復職は不足気味。

 共同作戦にでもしないと、人を借りるのも申し訳ない。

 彼らは彼らで、装備を充実させて、魔族の住む山脈への侵攻を考えているところらしい。

 より強力な敵が潜む山脈への侵攻は、見返りの報酬も大きいと聞く。

 こちらは無理攻めの攻略。報酬も確約できるものではなかった。


「ケイトから多めにポーションを買っていくというのが、妥当なところかな」



 ケイトにはメッセージを送っておいて、俺は自身の強化をはかる。

 デスペナで多少下がってはいるが、戦士系はそのままでいいだろう。

 後は生産系でレベルの高い〈裁縫〉と〈魔導技師〉、器用さに修正の大きい〈鍵開け〉。


「看破か」

 敵の強さを調べられるこのスキル。ちゃんと付けておけば、強すぎる敵は避ける事ができたのか。

 機動力を優先してリオンに敵を探してもらったけど、〈看破〉を利用して敵を選ぶ方が良さそうだ。


 リオンにもその辺を説明して納得してもらう。

「うん、僕のせいで死んじゃったしね」

「いや、俺もスキルあるのに使ってなかったからな。お互い様だよ。とにかく、まだ城には行けないから、それぞれの強化だな」

「分かった。僕もスキルを見直して育ててみるよ」

 リオンのゲームに対する姿勢もかなり変わった。攻撃一辺倒から様々に工夫して、更なる強さを求める事ができている。


「そうだアトリー。僕の〈探鉱〉と土木1号を利用したら、鉱石を探せるのかな?」

「ん! それは確かに有効そうだ。傭兵団から帰ってきたら試してみよう」

 黄昏の傭兵団の拠点となる砦建設に貸し出している土木用ゴーレム。

 もちろん掘削能力を持っているので、鉱石を掘るのは得意だろう。

 多分、明日には帰ってくるはずなので、楽しみが増えた。




「お、メッセージが返ってきたか」

『ポーションの発注は了解です。でもワザワザ薬を買わなくても、私を誘ってくれたらいいのに』

「レベル差もあるし、錬金術もやらなきゃならないだろ」

『錬金術を上げるにも、戦闘職のレベルは早くあげたいんで、邪魔じゃなければ誘って欲しいです』

 う〜む、自分より強いパーティについていってのレベリングは、地道に育てるより早いだろう。でもそれは成長を歪にしないか不安もある。


『それこそ私の本分は錬金術師。ヒーラーとしてのレベルなんておまけなんです』

 目的がしっかりしてるならいいのかな。

「分かった。まだデスペナ中だから、次に出かける時に誘うよ」


『それより、アトリーさんはどこかに拠点があるんですか?』

「俺はバルインヌ地方の村にいるんだ」

『バルインヌ??』

「大陸の北西部……一度来てみるか?」

『はい、是非!』


 転送システムは一度訪れた街にしか行けない。ケイトを連れてくるには、街道を通ってくる必要があった。



「それなら僕も行くよ。馬車があった方が便利だろ」

 昨日バスティーユ城の郊外に止めてあった馬車は、所有者のリオンが死んだ時点で所持袋に戻っていたそうな。

 便利だな所持袋。

 乗合馬車もあるけど、それだとブリーエまで。そこからは歩きになるところだから、リオンの申し出はありがたかった。




 2人でオタリアの街へと転送で移動。そこには既にケイトが待っていた。

「こんにちは、アトリーさん」

「ああ、こんちわ」

「そ、そっちの子は?」

「一緒にパーティを組んでるリオン。馬車を出してくれるって言うんでお願いした」

「よろしく」

 最初は無口だったリオンは、男っぽさを無理に出さなくなって社交的にもなっていた。


「この子のせいでアトリーさんは飢えてないの? でもまだ子供よね。でもでも中身はわかんないのか……」

 ブツブツと何事かを呟くケイト。少しその目が怖い気もする。


「ってか、また女の子なのかよ、アトリー」

「またって何だ、またって」

「ルフィアにアリスにカミュにリーナだろ」

「おいおい、カミュやリーナまで入れるなよ。それにケイトはちょっとしたリアルの知人なんだよ」

「ふぅん、そうなんだ」

 リオンが観察するようにケイトを見る。それから握手を求めるように彼女へと近づいた。


「安心して、僕は男だから。でもアトリーの周りには女の子が多いよ」

「!?」

 俺には聞こえないようにリオンが何かを言ったようだ。ケイトの瞳が驚きに見開かれて、こちらを見てきた。

 何か変な事を言ったのだろう。


「何を言ったんだ?」

「内緒」

 リオンは面白そうに笑みを浮かべながら、馬車の準備をはじめた。

「何を言われたかわからないけど、見た目通り子供っぽいところがあるから、あんまり気にしないで」

「は、はい……」

 そう答えるケイトだが動揺が見て取れた。一体何を言ったんだ?




 馬車に揺られて移動中、妙な沈黙が場を支配してしまった。そのまま職人の街、マルセンへと到着する。

「そういえば、マサムネが店を持ったって言ってたから、ちょっと寄っていいか?」

「ああ、わかったよ」

 1時間ほどの微妙な時間に耐えかねたってわけではないが、マサムネの店へと顔を出すことにした。


「いらっしゃいませ」

 教えられた店に行くと、店員の女性に迎えられる。

 その顔には見覚えがある気がするが、よく思い出せない。

「マサムネさん、アトリーさんが来ましたよ」

 彼女の方は俺を知ってるみたいで戸惑う。だ、誰だっけ?


「おう、アトリー。よく来てくれた……って、また別の女連れてるな」

「人聞きの悪いこと言うなよ」

 ケイトを振り返ると、笑顔が引きつって見えた。

「お前こそ、あの子誰だよ」

 店員の女の子が奥に行ったのを見て、マサムネに尋ねる。


「メーべで助けた子の1人だよ。ミリーナは」

 呆れた顔で返された。シナリの母親のメリナの印象が強くて、他の女の子の記憶が曖昧だ。

「メーベの」

 リオンもやや複雑な表情になる。彼にとって、メーべは失敗の記憶なのだろう。


「お前もメーべに行ってやれよ。シナリに会う度に、お前の話をせがまれるんだよ」

「シナリ……」

 ケイトが呟く。

「ゲームじゃもう一年も経ってんだぞ。このところ、ぐっと見違えたし、お前じゃわからんのじゃないか?」

「そ、そうか。シナリな……メーベにも寄ってみるか」

「言われるまで忘れてるとか、酷いなアトリー。シナリが報われねぇぜ」

 マサムネにそんな風に言われて、激しく動揺してしまう。短い間だったが、懐かれていた自覚はあるし、放って置かれたと彼女が感じてるなら、フォローしておきたい。


 マサムネに冷やかされつつ、ケイトの武器を新調してマルセンを後にした。




 街道沿いに進んで、途中の分岐を海岸の方へと向かう。夕方に差し掛かろうかというタイミングで、メーベへとたどり着いていた。

 漁村の広場では男達が集まり、対野盗の為の訓練が行われている。

「何アレ、ぬいぐるみ?」

 男達が銛の素振りをする先、少し高くなった台座の上に、シンプルなウサギのぬいぐるみが乗せられている。

 そういえば掲示板に上がってる記事で読んだな。ルフィアの名を刺繍したぬいぐるみをルフィアの代わりにしてるとか。


 村人の訓練する風景をぼんやりと眺めていたら、腰の辺りに衝撃が走った。

「うおっ」

 よく日に焼けた褐色の腕が、俺を抱きしめるようにくっついていた。

「アトリーさ、アトリーさが来てくれただな」

「ひ、久しぶり、シナリ」

 涙声になっているシナリの頭を撫でながら俺は応えた。



 訓練の時間が終わって、俺はシナリの父親であるドーソンさんの家へと招かれた。

「ようこそ来てくださった」

「ご無沙汰してしまいまして」

 ドーソンさんはにこやかに応対してくれる。

 しばらくはぐずっていたシナリも、今はもてなしの為の料理を行っていた。


「どうぞ、魚しかない村ですが、召し上がってください。お連れの方もどうぞ」

 ケイトとリオンは戸惑いながらも新鮮な刺し身を口に運び、その美味しさに箸が進みはじめる。



「アトリーさんはこの村の救世主ですからね」

 そういって讃えてくれるメリルさんのお腹は大きく膨らんでいた。

「男の子だったらアトリーさんの名前を貰ってもいいかしら? 女の子だったらルフィアさんの名前かしらね」

 そういいながらお腹を撫でている。他人の子供に名前を使われるとかくすぐったい。



「はい、お待たせしてしまっただな」

 シナリが焼いた魚と煮付けた魚を持ってきた。ありもので作ったとは思えないクオリティだ。

 リオン達も早速箸を伸ばしている。


 ひとまず調理を終えたシナリは、俺の隣に腰を下ろす。改めて見ると、短かった髪が背中の半ばまで伸びて、大人っぽくなっている。

「アトリーさも食べてくんろ。ほら、あ〜ん」

「ちょっ、シナリっ」

 俺に食べさせようと箸でほぐした身を口元へと持ってくる。妙に積極的で困るな。


「シナリはここ一年、男衆の訓練にも参加して、漁にも付いてきて身体を鍛えておりました」

「私が身重になって、家事も引き続き頑張ってましたよ」

 両親から褒められるシナリは少し恥ずかしそうにしながらこちらを見つめている。



「それもこれも、アトリーさんに認めて貰う為です。どうかシナリをお側に置いてやってくれませんか?」

 ドーソンさんは俺の方に向き直って、正面から頭を下げてきた。

「え、そ、それって」

 戸惑う俺の様子にドーソンさんは苦笑を浮かべる。

「なにも嫁にとってくれとは申しません。身の回りの世話などをやらしてやってください」

 ドーソンさんが推してくる。

 確かに王国の現状を考えると、子供達の世話をできる人材はいない。シナリのような子が来てくれたらありがたいが、娘さんを預かるというのは重い。


「アトリーさ、アタシがおったら邪魔かいね?」

「いや、邪魔どころかありがたいとは思うんだけどね」

「だったら、連れて行ってくんろ。もう待ってるのは辛いんよ」

「アトリー、モテモテだね」

 リオンが軽く茶々を入れてくる。


「ダメですよ、アトリーさん。人様の子を預かるなんて。まだ子供じゃないですか」

 ケイトが諌めてくる。それが健全な対応だろう。村はまだ安全とも言い難い。

「アトリーさが連れて行ってくれなかったら、1人でも探しにいくだで、気にせんでええだよ」

 にこりと笑って決意を示すシナリ。連れて行かなければ本当にそうしてしまう勢いを感じる。

 NPCの命は復活が効かない。もし道中に何かあったら、悔やむに悔やみきれないだろう。


「分かった。連れて行くだけ、連れて行く。でも俺のいる村は、魔力汚染の残る地で獣も凶暴だ。無理そうならすぐに戻すからな」

「ありがと、アトリーっ」

 俺の首に抱きつくようにして喜ぶシナリ。だぼっとした麻の服ではわからなかったが、中々に成長しているようだ。

 穏やかに微笑むメリルさんの血をちゃんと引いているらしい。



「ね、言ったでしょ。この子は僕も知らなかったけど」

「うう、アトリーさん。鼻の下伸ばしてっ」

 リオンとケイトの会話が聞こえてくるが、可愛い女の子に慕われて嬉しいのは仕方ないじゃないか。

 こうして歓迎会はシナリの送別会となっていき、周辺の家から人達が集まってきた。

 それだけシナリは慕われていたのだろう。俺は改めて責任を感じていた。

アトリーのスキル構成

〈戦士:斬撃刀〉〈戦士:護剣〉〈二刀流〉

〈裁縫:基礎〉〈裁縫:刺繍〉

〈魔導技師:基礎〉〈魔導技師:解析〉

〈盗賊:罠感知〉〈盗賊:鍵開け〉

〈看破〉



誤字修正

全力不足→戦力不足(20161231)

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