番外:サンセットファイターズ
主人公がハマっていたVRの格闘ゲームのお話。
「し、視界がゲームに……」
そのゲームで本格的なVRに初めて触れた俺の驚きは言い表せない。
水中ゴーグルの様な映像機器に、視界を覆われて視野が全て画面になる。
頭を動かすとそれに追随して視界も動く。画面自体はCGで、遠景は単なるテクスチャだろうが、それでもその場にいるように感じた。
『サンセットファイターズ』というゲームがリリースされて、俺は遂にVRに手を出すことにした。
そのゲームで初めて導入されたのは、脳波コントロール。コントローラーを持ってプレイするのが当たり前だったゲームが、遂に考えるだけでプレイできるようになる。
『サンセットファイターズ』自体は一対一の対戦格闘ゲームで、傭兵の1人として戦場を生き抜くために戦うというシンプルなストーリー。
特色のあるキャラクターが武器を手に、戦闘を行っていくだけだ。
実際、VRはやってみると疲労が早い。シンプルなゲームの方が向いていると感じた。
脳波コントロールは、その情報の蓄積によってどんどんと精度が補正されていき、やがて己の体を動かすようにキャラクターが動き始める。
といって、動き自体は決められたモーションを再生するだけだが、それでも考えただけで攻撃に移るというのは、キャラクターとのシンクロ性が高くなっていく。
痛覚フィードバックは無いのに、攻撃を受けると仰け反り、攻撃しようとすると自分の腕を動かしているような感覚を覚える。
実際、攻撃する動きを自分の脳内に描ける方が、脳波コントロールの精度は上がった。
そうした想像力が俺のフィーリングにマッチしたらしい。他のプレイヤーと対戦しても、勝てる方が多かった。
俺が選んだのはフランスの剣士ベルトラン。貴族のボンボンみたいな感じで、派手な衣装に鎧は付けず、右手にサーベル、左手に小剣という姿だった。
戦い方は左手の小剣で相手の攻撃を捌きつつ、右手のサーベルで攻撃するスタイル。
子供の頃に『後の先』という響きが好きだったので、カウンター戦術に繋がったのかもしれない。
この時はマンゴーシュという概念を知らなかったので、単なる二刀流としてキャラを選んだ。
カウンターを取る為の左手の捌きが重要なキャラで、相手の攻撃を見切って左手の動きを想像する力が必要だった。
一発一発の攻撃力は低く、カウンターも合わせ難い。しかし、ここぞで見せる両剣でのラッシュは一気に敵を追い詰められる。玄人向けだったが、逆にそれが俺のゲーマー魂に火を付けていた。
対戦で勝てることもあり、俺はかなりサンセットファイターズをやり込んでいた。
まるで自分がそこにいて、相手と対するような感覚。ベルトランは俺の分身だった。
ネット対戦でのランクはかなり上位に位置して、多少は掲示板などで騒がれる程度にはなっていく。
そして迎えたのが全国大会。ネット上で予選が行われ、そこでの勝率で店舗での地区大会。そこを勝ち抜けると、全国大会へと道が開ける。
アーケードゲームの店舗で行われた大会で、初めてギャラリーに囲まれる感覚を知った。最初は緊張していたが、ゴーグルを付けベルトランになると気にならなくなる。
ベルトランのカウンター狙いの待ちプレイは、派手さに欠けてギャラリーの受けは良くなかった。
それでも焦れることなく、相手を討ち取っていく。
地区大会で見事に優勝を飾り、全国大会でもやれる気になっていた。
しかし、それこそ井の中の蛙。
初戦で当たったパワーファイターに完敗を喫する。ヴァン・ドヴェルグという両手持ちの斧を振り回すパワーファイターは、攻撃が遅くてカウンターが狙いやすく、どちらかと言うとお得意様な相手。
だがプレイヤーの技量でその相性を覆され、1本も取れずに負けてしまった。
そのプレイヤー『キャプテンA』が、初代全国大会の覇者。攻撃を思考で遅らせるという遅延は、通常の対戦で扱える者がおらず、練習できていなかった。カウンター狙いの俺には、僅かなタイミングの誤差が命取りだったのだ。
上には上がいる。
それを知った俺は、よりサンセットファイターズにのめり込んでいった。
自らのイメージをより確かなモノにするために、自身の体で素振りを繰り返すまでに。
たかがゲームと言われるだろうが、当時の俺にとってはスポーツに打ち込むのと同じような感覚だった。
その後三度ほど全国大会に進出して、一度だけキャプテンAと対戦する機会があった。
第1ラウンドはのちの語りぐさになる両者一回も手を出さずの引分。
第2ラウンドは、キャプテンAの怒涛の攻めに屈した。もちろん、単なる連撃ではなく、空振りフェイントや遅延を混ぜての攻防だ。
かなりを凌いで直撃は避けていたが、パワーファイター特有の防御の上からでもダメージが通る攻撃。その積み重ねが、俺のカウンターによるダメージを上回っていた。
一度目の敗北からかなりの時間を費やし、それでも敵わなかった相手。そこで俺の意欲は折れた。
大学を卒業し、社会人になるからと自分に言い訳して、サンセットファイターズの舞台から降りてしまった。
それからは仕事の忙しさに押されてゲーム自体から遠ざかり、ゲームサイトで情報は見るもののプレイには至らない日々が続いた。
あのゲームに出会うまでは……。
誤字修正
パワーフィルター→パワーファイター(20170103)




