表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/117

バスティーユのゴーレム

 広場になっていたのは児童公園のようだった。いくつかの遊具とベンチがあって、それらは長く動いていないのだろう、錆びついていた。

 周辺の草木にミュータント化は見られず、魔力の漏洩は無いようだ。


「漏れておってはゴーレムへの給魔が足りぬからな。逆を言えばここのゴーレムは魔力が充足しておる」

「今までのゴーレムとは違うと」

「首都じゃからな」

 ルフィアとアリスの安全を確保する為に、幾つかの逃走経路を確認しておく。


「アリスはルフィアを守ってやってくれ」

「はい、兄様。兄様も気をつけて」

「ああ、死ぬ気は無いよ」

 鉄で鍛えられたシャムシールとマンゴーシュ。組み直して成長もしているスキル。今までよりも戦闘力はかなり上がっているつもりだ。



「アトリーっ」

 リオンの声にそちらを見ると、全力で滑り来る姿が見えた。

 その背後から迫るのは、大きさとしては2mほど。リオンと比べると大きいが、今まで戦ったゴーレムよりは小さかった。

 しかし、リオンの速度に追随してやってきている時点で、今までのモノとは違っていた。


「見たことのない型です。戦闘用ではありますが……」

 アリスも知らないゴーレム。それだけ新型ということか。

「ヤバいと思ったら逃げろよ。俺達は死なないから」

「わかっておる」

 俺はリオンとすれ違うようにして、ゴーレムの正面に立った。



 シルエットはかなり人に近く、フルフェイスのヘルメットを被ったライダーのようだ。

 腰には剣を携えていて、高速で走っているのに上体がぶれていない。

 俺は重心を低くしてゴーレムを待ち受ける。

 ゴーレムのガラス玉のような瞳がキランと光ったように感じた。流れるような動作で、腰の剣を抜き放ち速度を維持したまま斬りかかってきた。


「アトリー!」

 ルフィアの声を聞きながら、俺は剣にマンゴーシュを当てる。打ち払うのではなく、軌道を変える程度。

「パリィ」

 半身になりながら斬撃をやり過ごし、右のシャムシールを叩きつける。

 ガンッと堅い手応え。やはり金属製のボディのようだ。有効打ではなくても、ターゲットを俺に向けることはできた。


 そのまま二撃、三撃と攻撃を重ねて、ゴーレムがこちらを完全に捉えるように仕向ける。

 西洋剣を片手に構え、俺へと振り下ろしてくる。

「んっ早っ」

 切っ先が途中から加速するように俺に迫る。慌ててマンゴーシュを合わせるが、肩口に一撃をもらってしまう。


「アトリー!」

 ターンして戻ってきたリオンが、ゴーレムを攻撃する。不意打ちに近い形で腰の辺りにハンマーが打ち込まれる。

 ガコンッと響く音と共に、ゴーレムの姿勢が崩れた。その間に俺も体勢を立て直し、ゴーレムに剣を打ち込んでいく。

 俺の攻撃はほとんど弾き返されるが、〈魔導技師:解析〉に情報が蓄積される。


「読みにくいな」

 今までのゴーレムに比べると、魔力の流れを感じにくい。ゴーレムのレベルが上がっているからか。

 リオンの攻撃はヒットアンドアウェイ。ゴーレムはそちらに向かいかけるが、俺の攻撃で足を止めてこちらに向き直った。


 再び俺に向かって攻撃を繰り出してくる。その切っ先はやはり途中から加速を見せるが、予め分かっていれば対応できた。

 マンゴーシュで受け流して、シャムシールで反撃。しかし装甲で弾かれる。

 ゴーレムの体は滑らかに成形されてて、継ぎ目がほとんど見えない。関節部も直接は見えないようにカバーがなされている。

 やはりリオンの攻撃で怯ませる必要はありそうだ。


 そのリオンが更に加速しながら戻ってきた。俺はゴーレムの気を引くために攻撃を繰り出す。

 ゴーレムはその攻撃を剣で弾いてくるが、リオンに背中を向ける事になる。

 しかし、ゴーレムは人間の体とは違う。死角からの攻撃に対しても備えていた。

 クビだけがクルリと回って、剣とは逆の手でリオンを迎え撃つ。リオンのハンマーがゴーレムを捉えるが、ゴーレムの拳もリオンを捉えていた。


「ぐあっ」

 小柄なリオンの体が吹き飛ばされる。対するゴーレムの方は、軽く揺らいだ程度で、俺へと顔を向けてきた。

「アリス、逃げろ!」

「兄様!?」

 アリスを説き伏せる余裕はない。ゴーレムは俺に対して本格的な攻撃を開始した。


 切っ先に集中しながらも、敵全体を捉える。矛盾するようでそれができないとやられる。

 アームストロングとの戦いから呼び起こされつつある格闘の経験。

 単純な攻撃は全て受け流せる。

 それを感じたゴーレムはフェイントを混ぜ始めたが、それも予測できる範囲内だった。

 しかし、それは受けられるというだけで、反撃には転じれない。切っ先の緩急に、わざと空振る攻撃。立ち位置を移動しながら、側面に回るような斬撃。視界の中だけでは認識できない動きを、長く積み重ねた勘で受けていく。

 ゴーレムの一撃、一撃は重く、僅かでも軌道を誤ると、手に痺れのようなダメージが蓄積される。

 ただそれも楽しくなってきた。


「どうした、どうした、その程度か!」

 敵の攻撃パターンが理解というよりも、体に馴染んでくる。フェイントなども含めて、次にどう来るかが感じれるようになってきた。

 そうすると、こちらからも仕掛ける余裕が出てくる。ダメージは微々たるものだが、シャムシールがゴーレムのボディを打っていく。


「うらっ」

 俺がそうやってゴーレムに集中していると、吹き飛ばされていたリオンも戻ってきた。

 再び振るわれた重たい攻撃に、ゴーレムは第二段階へと移行。ほぼ右手の剣だけで対応していた動きに、左手も加わる。

 金属製の拳でも脅威だが、そこに棘付きのグローブが現れていた。


「人の真似すんなよっ」

 しかし物理的に攻防の手段を増やしたゴーレムは、動きも変化した。

 上半身が反転すると、右と左が入れ替わる。攻撃のタイミングが微妙にずれて、受け流す難易度が上がった。

 そこへ拳の攻撃も加わってくる。


「本格的にまずいな」

 背後からのリオンの攻撃も、胴体がクルクル回って正面で受け止め、反撃に転じる。俺の攻撃がほとんど効かない事で、ゴーレムの意識はリオンの方を重視するようになっていた。


「リオン、こいつはそっちを狙ってるからなっ」

「わかってる!」

 足は止めたまま、俺に対しているが、上半身も首もクルクル回る。どっちが正面かなんて確認する余裕はなくなっていた。


 リオンが勝負に出た。

 十分な加速からの跳躍、回転を加えながらの攻撃。

「ヘヴィスイング!」

 更にスキルを上乗せしてゴーレムに襲いかかる。俺もフォローする為に攻撃を繰り出す。

「ファストアタック」

 振りの早い一撃も、ゴーレムのグローブで打ち払われる。回転しながら迫るリオンには剣が待ち受けていた。


 加速して回転を加え、スキルまで上乗せした一撃は、ゴーレムの頭を捉える。それと共にゴーレムの剣が、リオンの胴体を捉えていた。

 振り抜かれた剣は、リオンの体を分断し、ポリゴン片へと変える。

 一方、リオンの攻撃は確実に頭にヒット、その首が飛んでいた。


「やったか!?」

 しかし、相手は人型ではあるもののゴーレム。頭を失った事が、致命傷にはなっていなかった。

 こちらの位置も正確に分かっているのか、先程までと同じ動きで襲い掛かってくる。

 いや、リオンがいなくなった分、より苛烈に攻めてきた。


 上半身をスイッチして、右から、左から剣が迫る。それに拳も繰り出され、俺の頭が混乱していく。

「考えるな、感じるんだ!」

 などと思ったところで、達人の心境には程遠い。見えるものに惑わされ、人外の動きについていけない。

 剣の一撃だけは受け流しているものの、拳は徐々にそのヒット回数を増やしている。

 ようやく掴み始めたゴーレムの魔力の流れも、反撃の余地がなければ活かせない。


「ぐっ」

 脇腹を抉るように打ち込まれた拳に、一瞬呼吸が詰まる。ゴーレムの剣が俺にトドメを刺すにはその一瞬で十分だった。

 マンゴーシュによる受けが間に合わず、俺の首は宙を舞っていた。

誤字修正

視界の中どけ→視界の中だけ(20161225)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ