バスティーユのゴーレム
広場になっていたのは児童公園のようだった。いくつかの遊具とベンチがあって、それらは長く動いていないのだろう、錆びついていた。
周辺の草木にミュータント化は見られず、魔力の漏洩は無いようだ。
「漏れておってはゴーレムへの給魔が足りぬからな。逆を言えばここのゴーレムは魔力が充足しておる」
「今までのゴーレムとは違うと」
「首都じゃからな」
ルフィアとアリスの安全を確保する為に、幾つかの逃走経路を確認しておく。
「アリスはルフィアを守ってやってくれ」
「はい、兄様。兄様も気をつけて」
「ああ、死ぬ気は無いよ」
鉄で鍛えられたシャムシールとマンゴーシュ。組み直して成長もしているスキル。今までよりも戦闘力はかなり上がっているつもりだ。
「アトリーっ」
リオンの声にそちらを見ると、全力で滑り来る姿が見えた。
その背後から迫るのは、大きさとしては2mほど。リオンと比べると大きいが、今まで戦ったゴーレムよりは小さかった。
しかし、リオンの速度に追随してやってきている時点で、今までのモノとは違っていた。
「見たことのない型です。戦闘用ではありますが……」
アリスも知らないゴーレム。それだけ新型ということか。
「ヤバいと思ったら逃げろよ。俺達は死なないから」
「わかっておる」
俺はリオンとすれ違うようにして、ゴーレムの正面に立った。
シルエットはかなり人に近く、フルフェイスのヘルメットを被ったライダーのようだ。
腰には剣を携えていて、高速で走っているのに上体がぶれていない。
俺は重心を低くしてゴーレムを待ち受ける。
ゴーレムのガラス玉のような瞳がキランと光ったように感じた。流れるような動作で、腰の剣を抜き放ち速度を維持したまま斬りかかってきた。
「アトリー!」
ルフィアの声を聞きながら、俺は剣にマンゴーシュを当てる。打ち払うのではなく、軌道を変える程度。
「パリィ」
半身になりながら斬撃をやり過ごし、右のシャムシールを叩きつける。
ガンッと堅い手応え。やはり金属製のボディのようだ。有効打ではなくても、ターゲットを俺に向けることはできた。
そのまま二撃、三撃と攻撃を重ねて、ゴーレムがこちらを完全に捉えるように仕向ける。
西洋剣を片手に構え、俺へと振り下ろしてくる。
「んっ早っ」
切っ先が途中から加速するように俺に迫る。慌ててマンゴーシュを合わせるが、肩口に一撃をもらってしまう。
「アトリー!」
ターンして戻ってきたリオンが、ゴーレムを攻撃する。不意打ちに近い形で腰の辺りにハンマーが打ち込まれる。
ガコンッと響く音と共に、ゴーレムの姿勢が崩れた。その間に俺も体勢を立て直し、ゴーレムに剣を打ち込んでいく。
俺の攻撃はほとんど弾き返されるが、〈魔導技師:解析〉に情報が蓄積される。
「読みにくいな」
今までのゴーレムに比べると、魔力の流れを感じにくい。ゴーレムのレベルが上がっているからか。
リオンの攻撃はヒットアンドアウェイ。ゴーレムはそちらに向かいかけるが、俺の攻撃で足を止めてこちらに向き直った。
再び俺に向かって攻撃を繰り出してくる。その切っ先はやはり途中から加速を見せるが、予め分かっていれば対応できた。
マンゴーシュで受け流して、シャムシールで反撃。しかし装甲で弾かれる。
ゴーレムの体は滑らかに成形されてて、継ぎ目がほとんど見えない。関節部も直接は見えないようにカバーがなされている。
やはりリオンの攻撃で怯ませる必要はありそうだ。
そのリオンが更に加速しながら戻ってきた。俺はゴーレムの気を引くために攻撃を繰り出す。
ゴーレムはその攻撃を剣で弾いてくるが、リオンに背中を向ける事になる。
しかし、ゴーレムは人間の体とは違う。死角からの攻撃に対しても備えていた。
クビだけがクルリと回って、剣とは逆の手でリオンを迎え撃つ。リオンのハンマーがゴーレムを捉えるが、ゴーレムの拳もリオンを捉えていた。
「ぐあっ」
小柄なリオンの体が吹き飛ばされる。対するゴーレムの方は、軽く揺らいだ程度で、俺へと顔を向けてきた。
「アリス、逃げろ!」
「兄様!?」
アリスを説き伏せる余裕はない。ゴーレムは俺に対して本格的な攻撃を開始した。
切っ先に集中しながらも、敵全体を捉える。矛盾するようでそれができないとやられる。
アームストロングとの戦いから呼び起こされつつある格闘の経験。
単純な攻撃は全て受け流せる。
それを感じたゴーレムはフェイントを混ぜ始めたが、それも予測できる範囲内だった。
しかし、それは受けられるというだけで、反撃には転じれない。切っ先の緩急に、わざと空振る攻撃。立ち位置を移動しながら、側面に回るような斬撃。視界の中だけでは認識できない動きを、長く積み重ねた勘で受けていく。
ゴーレムの一撃、一撃は重く、僅かでも軌道を誤ると、手に痺れのようなダメージが蓄積される。
ただそれも楽しくなってきた。
「どうした、どうした、その程度か!」
敵の攻撃パターンが理解というよりも、体に馴染んでくる。フェイントなども含めて、次にどう来るかが感じれるようになってきた。
そうすると、こちらからも仕掛ける余裕が出てくる。ダメージは微々たるものだが、シャムシールがゴーレムのボディを打っていく。
「うらっ」
俺がそうやってゴーレムに集中していると、吹き飛ばされていたリオンも戻ってきた。
再び振るわれた重たい攻撃に、ゴーレムは第二段階へと移行。ほぼ右手の剣だけで対応していた動きに、左手も加わる。
金属製の拳でも脅威だが、そこに棘付きのグローブが現れていた。
「人の真似すんなよっ」
しかし物理的に攻防の手段を増やしたゴーレムは、動きも変化した。
上半身が反転すると、右と左が入れ替わる。攻撃のタイミングが微妙にずれて、受け流す難易度が上がった。
そこへ拳の攻撃も加わってくる。
「本格的にまずいな」
背後からのリオンの攻撃も、胴体がクルクル回って正面で受け止め、反撃に転じる。俺の攻撃がほとんど効かない事で、ゴーレムの意識はリオンの方を重視するようになっていた。
「リオン、こいつはそっちを狙ってるからなっ」
「わかってる!」
足は止めたまま、俺に対しているが、上半身も首もクルクル回る。どっちが正面かなんて確認する余裕はなくなっていた。
リオンが勝負に出た。
十分な加速からの跳躍、回転を加えながらの攻撃。
「ヘヴィスイング!」
更にスキルを上乗せしてゴーレムに襲いかかる。俺もフォローする為に攻撃を繰り出す。
「ファストアタック」
振りの早い一撃も、ゴーレムのグローブで打ち払われる。回転しながら迫るリオンには剣が待ち受けていた。
加速して回転を加え、スキルまで上乗せした一撃は、ゴーレムの頭を捉える。それと共にゴーレムの剣が、リオンの胴体を捉えていた。
振り抜かれた剣は、リオンの体を分断し、ポリゴン片へと変える。
一方、リオンの攻撃は確実に頭にヒット、その首が飛んでいた。
「やったか!?」
しかし、相手は人型ではあるもののゴーレム。頭を失った事が、致命傷にはなっていなかった。
こちらの位置も正確に分かっているのか、先程までと同じ動きで襲い掛かってくる。
いや、リオンがいなくなった分、より苛烈に攻めてきた。
上半身をスイッチして、右から、左から剣が迫る。それに拳も繰り出され、俺の頭が混乱していく。
「考えるな、感じるんだ!」
などと思ったところで、達人の心境には程遠い。見えるものに惑わされ、人外の動きについていけない。
剣の一撃だけは受け流しているものの、拳は徐々にそのヒット回数を増やしている。
ようやく掴み始めたゴーレムの魔力の流れも、反撃の余地がなければ活かせない。
「ぐっ」
脇腹を抉るように打ち込まれた拳に、一瞬呼吸が詰まる。ゴーレムの剣が俺にトドメを刺すにはその一瞬で十分だった。
マンゴーシュによる受けが間に合わず、俺の首は宙を舞っていた。
誤字修正
視界の中どけ→視界の中だけ(20161225)




