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追加ベータテスト開始

 黄昏の傭兵団と協力してのバルインヌ地方探索は、かなりスムーズに進んでいた。

 傭兵団の主力を伴っての魔導炉の探索は、徐々に安定感を増し、俺の魔導技師としてのスキルも上がっている。

 バルインヌの約3分の1を探索し終えて、ベータテストの開始日を迎えた。


 それと共に新たな機能が解放される。冒険者の活動範囲が広がった事を受けて、魔法による転送サービスが可能になった。

 オタリアの冒険者組合により実現されたとされる転送装置は、オタリアへの帰還と、訪問した都市への転送。後は自身が家と定めるポイントへの転送が可能だ。

 これによって、街での買い出しがスムーズに行えて、マサムネ達に頼らなくてもよくなる。


 俺の場合はオタリアとブリーエ、ホームポイントとして新生バルトニア王国を設定する予定だ。

 転送サービスの開始を知って、黄昏の傭兵団は野営地を築いている場所に、本格的に拠点を構える事にしたようだ。

 土木1号を借り受けて、本格的な砦風の軍団ホームを作るようである。

 おかげでやや枯渇気味だった俺の懐は、土木1号のレンタル料で潤ってくれた。

 黄昏の傭兵団も魔導炉のゴーレムから素材を回収して、資金は潤沢でもある。団員に武器を供給していたマサムネも同様に稼ぎ、スキルも伸びたようだ。

 おかげで鉄製の武器に更新できた。


 王国の方も土木1号が耕した畑が第一回の収穫期になっていた。最初に植えたのは芋とトマト。比較的痩せた土地でも育つ物らしい。

 もぎたてのトマトは、やや酸味が強く、そのまま食べるには向いていないが、料理には使えるだろう。

 そろそろ料理に長けた人が欲しいところだ。ルフィアは肉を焼けるだけだし、アリスも全く。リオンも男。

 一人暮らしが長くなってる俺が一番料理をしてる事になる。それでも切って焼くだけがほとんどだ。

 その点で黄昏の傭兵団は、エリザベスが来たことで充実し始めているようだった。


 そしていよいよベータテスターがログインしてくる日を迎えた。




「といってゲーム内の事がわからないから、待ち合わせるのも難しいよな」

 オタリアへと戻っていた俺は、ひとまず自分が初めてログインした辺りまでやってきていた。

 冒険者学校へと続く道。

 目印になるようなものは何もない。それでもチラホラと初期装備のプレイヤーを見かけるので、ポイントとしては間違ってないだろう。

 今日のために、アームストロングから教わった〈看破〉のスキルも習得していた。学生時代を思い出させる文字の羅列を読んでいくのは確かに苦痛で、習得したいと思う人は少ないかもしれない。

 敵の強さがある程度分かるスキルだが、人の名前や性別なども見分ける事ができる。

 レンタルで入りやすくなったベータテストとはいえ、女の子は少ないだろう。

 その中から予め聞いていた名前を探すしかない。


 そんな風に考えていたが、思ったよりも簡単に見つかってしまった。

 ぱっと見が、かなり目立つキャラだった。暗めではあるがピンクの髪に、豊満なバスト。顔立ちはリアルの面影を残していて、リアル割れを危惧してしまう感じだ。

 でも記憶が現実の持ち越されないから、リアル割れは気にしなくてもいいのか。


「ええっと、ケイトさん。ケイト・クランシーさんだよね」

「は、はいっ」

 少しおどおどした感じで周りを見渡していた彼女は、俺の声にびっくりしたように返事した。

「俺はアトリー、分かるかな?」

「え、え〜と、あ、アトリーさん! 会えて良かったです」

 何とか彼女の方も俺を認識できたようだ。


「へぇ〜アトリーさんは、ワイルドな感じなんですね」

「そ、そうか?」

 西洋系のルックスで適当に作っからいまいち自分の顔に印象はない。普段は見ることないしな。

「ケイトはちょっと、リアルに近いんだな」

「分かって貰える方がいいかなって思って」

「起きたら忘れるからリアル割れは無いと思うけど、このゲーム自体にまだ女の子は少ないから気をつけてね」

「アトリーさんが守ってくれます?」

「俺に期待されても困るけどな」

「またまた〜この世界でも何だかんだで面倒見がいいんでしょ?」

 俺に対する評価は思ったよりもいいようだ。


「あ、すいません。何か言葉遣いが馴れ馴れしかったですね……」

「いや、ゲームにリアルを持ち込むのは良くないよ。俺のことは単なるゲーム仲間と思ってくれた方が助かるよ」

「そ、そうですか。よかった〜」

 普段は大人しい雰囲気の彼女だが、この世界だと少し明るいキャラクターになっているようだ。

 この不思議な世界に興奮しているのかもしれない。


「とりあえず、最初の職業を決めに行こうか。やりたい職業とかある?」

「実は私、錬金術師をやりたいんです」

「錬金術?」

「はい、その手のゲームは結構やってたから、やりやすいかなって」

 そういえば有名なシリーズ物のRPGをやってるって言ってたな。

「そうか……魔術師か回復職か、かなぁ?」

 どちらかというと生産職なのかも知れないが、最初は戦闘職しか選べなかったはずだ。

「とりあえず学校があるから、そこで聞いてみよう」

「はい」



 久々に訪れた学校は、特に変わった様子もない。当時と同じく今日ログインしたばかりの人も多いので、それなりにプレイヤーを見かける。

「教室みたいな所で待って、後は面接があるんだけど、その時に聞いてみるといいと思うよ」

「はい、わかりました……後で会えますよね?」

「ああ、俺もちょっとスキルを覚えるつもりだから学校にいるよ」

 それからポタミナでフレンド登録をして、連絡を取れるようにしておいた。


 彼女を見送って、俺は個別のスキル習得の窓口を訪れていた。

 盗賊の教官から盗賊スキルの基礎と罠感知、鍵解除のスキルを習得するつもりだった。

 黄昏の傭兵団の面々と探索するうちに、やはり罠を感知できるかどうか、鍵を解除できるかどうかで、探索できる範囲が広がるのがわかったからだ。

 訓練は足元にあるワイヤーの見分け方やら、天井から落ちてくる罠の感知の仕方などを教わる。

 スキルを習得すると、視界の中で罠がある部分が光って見えるようになった。

 ただこれもレベルがあるから、気づかない罠はあるそうだ。

 鍵開けは南京錠をひたすら開けていく作業だったが、器用さの補正がかなり効いたので、あっさりと習得できた。


 それからロビーで刺繍をしながら時間を潰していると、ポタミナに連絡が届いた。

 それから程なくロビーへとケイトがやってくる。初期の布の服から、少しだぼっとした感じのローブ姿になっていた。

「待たせちゃいました?」

「いや、そんなには待ってないよ。ちょっと待ってね、仕上げちゃうから」

 俺は途中だった刺繍を仕上げてしまう。

「それって刺繍……ですか。そんな趣味があったんですね」

「あくまでゲーム内の話だけどね。よし、終わり」

 刺繍の模様が魔導技師と絡んでいる事もあり、時間を見つけて形にするようにしている。


「で、どうだった」

「錬金術はやっぱりなかったです。それ専門の指導者がいるらしいんですが、それも何処にいるのかわからなくて」

「そうか」

 錬金術も生産スキルとしては人気だし、情報はあるかもな。ポタミナの掲示板で情報を探す。

「結局、回復職の中に薬師というのがあったので、そこから始める事にします」

「なるほど」

 掲示板では錬金術探索スレッドが残っていた。しかし、有限リソースの弊害で核心部分は伏せられたままだ。ポタペディアの方も習得条件は空欄のままになっている。


「錬金術師になる方法は、このオタリアの街にあるみたいだけど、詳しくはわからないな」

「そうなんですね」

「ある程度は自分で探さないと、目的は達成できないようになってるんだ」

「なるほど、やりがいがありますね」

 ある程度ゲームをやっているという彼女は、自分なりに攻略する事を面倒と言うよりは、楽しむ方で考えられるようだった。

 知り合いに聞いてみようかとも思ったが、自分で探す方が楽しいだろう。



「じゃあ探しに行きましょう」

「え、俺も?」

「女の子1人は絡まれるんですよ」

 そう言われてしまうと、無下にもできない。普段の少し控えめな感じからのギャップに少し戸惑いつつも、錬金術の探索に協力することにした。


 情報収集の基本は酒場から。そういえば、クエストの受注とかしなくなって久しいな。

「錬金術? ああ、あの胡散臭いやつらな。何処にいるかは知らねぇな」

 酒場のマスターの反応はこんな感じだった。

「胡散臭いんだ……」

 そこにケイトは衝撃を受けているようだ。でも錬金術ってそんなもんじゃないのかな。


「胡散臭いって事は、表通りには居ませんね」

「なるほど、そういう考えもできるのか」

 少し寂れた方面に向かっていく。俺もそれほどオタリアの街を探索していなかったので、新鮮味がある。

 そういえば、盗賊のスキルを習った時に、ギルドはこの辺にあるとか言ってたな。

 街中で『仕事』をするなら、ギルドに上納金が必要らしい。見つかると兵士に追い回される上に、金も取られるんなら仕事するプレイヤーは少ないだろうな。


「そうか、情報屋も盗賊ギルドの管轄だっけな」

「情報屋?」

「ある程度お金を払ったら、情報を教えてくれる人がいるんたが……」

「まずは足で探してからですね」

 思っていたより、行動派だった。

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