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AL13cの結末

「今じゃ」

「があぁぁぁぁ!」

 ルフィアの声とAL13cの声が重なる。魔力の渦が限界を突破した。ミュータントの体が光を発し始め、一瞬の静寂。

「「ヒール!」」

 ヒーラー5人分の回復魔法がアームストロングを包むと同時に、AL13cが爆発した。



 周囲で見ていた10人ほどが爆発に巻き込まれ、爆心地にいたアームストロングも壁まで飛ばされた。

「アームストロングさん!」

 ヒーラー達が慌てて駆け寄っていく。他の吹き飛ばされた面々にも、ヒーラーが向かっていった。


「とりあえず魔力を抑え込むぞよ」

「ああ、わかった」

 ルフィアと俺は倒れたAL13cに近づき、意識が無いのを確認すると、ミュータント化を抑制する作業にかかる。

 俺が助けたいというのを、先に分かってくれていたのが、少し嬉しい。


「ふむ、暴走の回数が少ないからか、侵食はそこまで進んでおらぬな」

 ミュータント化した組織を調べながらルフィアが判断する。

「この場ではペイントで十分じゃろ。染料を出すのじゃ」

「ああ」

 リュックから付与染料を取り出して、ルフィアに渡す。


「大丈夫でしょうか?」

「ああ、アリスに比べると症状は軽いみたいだ」

「いえ、また襲ってくるのではないかと……」

 無理矢理洗脳されていたアリスと違って、魔導炉の防衛の為に戦っていたAL13c。

「魔力供給炉は停止したからのぅ。こやつの任務は終わっておるじゃろ」

 施術を終えたルフィアが立ち上がる。肥大化していた足は元に戻り、幾つかの印が描かれているが、アリスに比べると範囲が狭かった。




「どうなったんだ?」

 回復を終えてやってきたアームストロングに、ミュータントの暴走の事を伝えた。

「そうか……それでコイツは意識が戻るのか?」

「はい、アリスも何度も暴走して大丈夫でしたから」

「大丈夫って訳じゃないんですよ、兄様?」

 よろよろとわざとらしく寄りかかって来ようとしたアリスを躱す。

 手法がルフィアじみてきたな。


「今はルフィアの魔法で抑えてますが、ちゃんと抑制する施術はした方がいいでしょうね」

 アリスの腕を示す。そこにはミュータント化を抑制する刺青が刻まれていた。

「それでまた戦えるのか?」

「戦闘は避けた方が無難じゃの。ミュータント化した組織が活性化すると侵食が進むゆえ」

「むう……」

 対戦に水を差された感じで消化不良なのだろう。

「アリスの事もあるので、回復させる方法は研究中です」

「なるほど……それで、引き取るつもりか?」

「治療もありますし、しばらくは預かろうかと」


「それはダメだな。配分を考えると、その女はウチの取り分だろう」

 魔導炉探索にあたり、拾得物の分配は人数割で行うことになっていた。

 元々俺達としては、魔導炉を止めるのがメインの目的だったので、配分は気にしてもいなかったのだ。

「では、治療が終わってから引き渡します」

「すまねぇが、ウチまで治療しに来てもらおうか」

 急に横暴な態度を見せ始めたアームストロングに戸惑う。


「なぜそんなに欲しがるんです?」

「美女を侍らすのに理由がいるのか?」

 好色な笑みを浮かべる。さすがに腹が立ってきた。

「そういう理由なら渡せませんね」

「なら仕方ない。力ずくで奪うまでだ」

 落としてあった斧を拾いに行く。おいおい、本気でやりあう気なのか?



 しかし、斧を構えるアームストロングを見ると、何故かが分かった。戦闘狂とまでは言わないが、格闘ゲームに時間を費やしていた男だ。単なる消化不良の解消をしたいだけらしい。

「アトリー、僕が」

「いや、悪いがリオンじゃ勝てないわ」

 リオンの体幹、バランスは素晴らしい。反射神経も見事だろう。

 ただ対戦の経験値が圧倒的に不足している。アームストロングには通じない。


「僕に負けたくせに」

「アレは万全じゃなかったからな」

 違うか、単に俺が全一のキャプテンAエースと対戦したくなっていただけだ。



「痴話喧嘩は後にしてくんねぇか?」

「待たせる気はないよ。俺が相手だ」

 ニヤリと笑うアームストロングに対して、俺は少し緊張している。

 かつては一勝もあげられなかった相手。このゲームではどうだろうか。



 結果として、俺は負けなかった。勝ちもしなかったが。

「何勝手に、アタシを賭けてんのよ」

 AL13cの声で制止がかかったのだ。実際、打ち合ってたのは何分くらいだろう。

 アームストロングが打ち込んでくるのをひたすらに耐える時間だった。


「なんでぇ、終いか」

「もう十分なんだろ」

「待ちのコーシが相手じゃ、決め手が無いか」

 俺の事も覚えていたようだ。

 格闘ゲームにおいて、待ち戦法は嫌われがちだ。それで全国大会まで出てたのは悪い意味で記憶に残ってたのかもしれない。

 その点、キャプテンAはアグレッシブな戦闘スタイルで、人気の高いチャンピオンだった。


「しかもあの時と違って、この世界じゃ衰えがないんだろ?」

「どうだかな。ゲームしてない時間のブランクがあるが」

 俺はサンセットファイターズが引退の作品だったのは確かだ。それは動体視力で若いのに勝てなくなったのが大きい。

 Sleeping Onlineではその衰えが消えている。かつて見えたものが、再び見えるようになっていた。


「あんたとはちゃんと勝負してえから、ここは俺が引いとくか。その女は預けとくよ」

「治療までは引き受けるが、それ以降は本人次第だ」

「だから勝手に決めんな!」

 怒るAL13cだが、さっきまでの迫力はない。ミュータントとして力を使い果たしてしまったからだろう。



「じゃあAL13cはどうしたいんだ。魔導炉を守り続ける?」

「それは正式に任務終了の通知が来たからもういい」

 通知?

「わらわの特権で終了させたのじゃ」

 ルフィアはドヤ顔で胸を張る。

「とりあえず、そこのオヤジと決着をつける」

「だから体を治さないと無理だって」

「なら治療を受けるか」

 結局はこっちの提案通りだった。自分で決めることに意味があるんだろうな。


「AL13cってのが、お前の名前か?」

「そうだけど、文句あんのかい?」

「呼びにくい。愛称はないのかよ」

「そんなもんはないね」

「そっちのはアリスって呼ばれてるじゃないか」

「兄様が付けてくださいましたから」

「じゃあ、適当に呼べばいいのか。いちさん、じゅうさん、じゅうぞう……」

 アームストロングが考え始める。AL13cはまた自己主張するかと思ったが、名付けられるのをおとなしく待っているようだ。


「とおさん……とみー……うん、トミコでどうだ?」

 え、そんな和名というか、ダサくないか。

「だ、団長!?」

 さすがの団員も疑問の声をあげる。しかし、当の本人は満更でもなさそうな顔をしていた。

「いいんじゃないの、別に」

「じゃあ、今日からお前はトミコだ」

 名前が決まった事で、今後の身の振り方も決まったような気はした。



 死者が出たこともあり、主な探索は終了となった。魔導炉には他にも部屋が残っているので、続きは明日になる。

 俺達は新生バルトニア王国へと戻り、早速トミコの診察に入った。

 昨日作っておいた布団が役に立つ。



「うむ、やはり残留が少ないのう」

 改めて診察したルフィアが呟く。俺が診ても確かに魔力の歪な渦は少ない。

 長い間魔力漏洩を至近距離で受けていたので、アリスと同じように難航するのが危惧されたが、思ったよりは簡単に施術できそうだ。


「暴走した回数かのぅ?」

「そういえば、アームストロングと戦っている時に、発勁とか使っていたな」

 発勁は諸説あるが、体内の気を使った技という解釈もある。過剰に供給されていた魔力を、自分の力として発散できたのが良かったのかもしれない。


「うむぅ、いずれも予測の域はでぬな。ただトミコの治療自体は簡単そうじゃ」

 そういってルフィアは刺青の図案を描いていく。

「アリスの腕のようなヤツかい?」

「ああ、乱れた魔力の流れを良くする為の図案だ」

「ふぅん、格好良く頼むよ」


 こんなもんじゃろうと手渡された図案は確かにシンプル。アリスと比べると、10分の1ほどしかない。

 それを右の太ももの辺りに刺青する。


「な、なんでアンタが触るのさ」

「刺青の技術は俺の方が確からしいからさ」

「触り方がいやらしんだよ」

「そんな事言ったって、まだ魔導技師としては劣るからさ」


 ルフィアの様にすすっとやれたらいいのだろうが、まだ感知のレベルも低く、どうしても時間がかかる。

 トミコが妙に恥ずかしがるから、太ももを撫でる自分を意識してしまった。


「たわけ、雑念が入っておるわっ」

 ルフィアに頭を引っ叩かれた。

 トミコに毛布を掛けて、体を隠し太ももの一部だけを露出。太ももと意識しないように気をつける。

 乱暴で男勝りな雰囲気のトミコだが、黙っていれば整った容貌のホムンクルス。

 ミュータント化が解かれた状態の足は、白く滑らかで柔らかい。

 ただアリスの腕に比べると太く平らなので、刺青を入れるのはやりやすかった。

 小一時間も掛からないうちに仕上がって、トミコへの負担も軽かったようだ。


「ふん、もう終わりかい」

 余分な染料を布で拭って、図案を確かめる。問題はなさそうだ。

 ルフィアが魔力の流れを確認して、正常に流れているのを確かめた。

「とりあえず、治療は完了したが、戦闘なんかの無理はやめろよ」

「早いとこ、ちゃんと治しておくれよ。アイツをぶっとばすんだから」

 アームストロングの身を考えれば、治療しない方がいいのかもしれない。いや、アームストロングなら戦える方がいいのか。



 施術の終わったトミコは、やっぱりアームストロングの下へ行くことを選んだ。

 悪態をつきながらも、認め合う部分があったのだろう。

 アリスの好感度が高いのも、拳で語り合ったからなのか?

 その後、国境の野営地にトミコを送り届けると、団員達の喜びに沸き返っていた。

 中にはトミコに殺されたプレイヤーもいるはずだが、関係ないらしい。

 プレイ中に倒されるのは、己の技量が足りなかったから。そうした割り切りが『黄昏の傭兵団』にはあるようだ。


 後にトミコの団内での呼び方は、『ミコ姐さん』に落ち着いたらしい。

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