戦闘用ゴーレム
翌日、魔導炉の入り口で待ち合わせていた『黄昏の傭兵団』と合流する。
「あのアームストロングさん」
団員がアリスやルフィアと挨拶する間に、団長であるアームストロングの下を訪れる。
「おう、今日もよろしく頼むな」
「はい、こちらこそ。それで少し確認したいことがあるんですが」
チラリとリオンに視線を送ったのをアームストロングは、目ざとく察してくれた。
「リオンの事だな。団員にも他のプレイヤーにも何も話してないぜ」
「ありがとうございます。バグで性別が変わったみたいで、本人も苦労してるみたいなので秘密にしていただけると助かります」
「ああ、俺からバレる事はないと思ってくれ。ただ〈看破〉スキルを持つヤツがいたら隠せないから注意しろ」
初めて聞くスキルに、少し説明をしてもらった。主に敵の名前や種族、強さなどを朧気に理解できるスキルらしい。
「こんな分厚い百科事典の読破が必要だったから、俺の他の取得者は知らねえ」
指で10cmほどの厚みを示しながら教えてくれた。
その看破スキルがあれば、プレイヤーの大体のレベルも分かるらしい。その際に性別も表示されるとの事。
「ありがとうございます。スキルの情報まで」
「アンタの魔導技師に関しても聞かして貰ったしな。ルフィア嬢がいないと習得は難しそうだが」
昨日のうちに魔導炉の鍵を外せた説明はしてあった。盗賊の中には覚えたいという人もいたが、取得の条件は正確にはわからない。
ルフィアから説明を受けたのが大きいのだが、それだけでもないだろう。
「何にせよ、俺としては仲良くやりたいんだ。頼りにしてるぜ、アトリー」
「こちらこそ、頼りにしてます」
再度握手を交わして、俺は他のメンバーの所へと戻る。
周囲にいた傭兵団の面々からは煙たがられたが……。
改めて魔導炉に入る。過去の経験から、まずは魔導炉自体を止めるのを提案した。
「警備用のセンサーが切れるならそっちが良さそうだな」
アームストロングの一声で方針は決まる。
盗賊と一緒に、ルフィアが先頭で魔力的な罠を感知に周り、俺達は隊列の中盤辺りに配された。
やはり昨日の一件で、アリスの人気は高く、入れ替わるように団員が話しかけてくる。
最初は話を合わせていたアリスだが、やがて相手に疲れたのだろう。俺の腕を取って密着してきた。
『アトリー、舌噛んで死んだ上に、爆発してもげろ!』
周囲からの殺気の篭った視線を受ける羽目になったが、アリスの負荷は下げておく必要はあった。
魔導炉はミュータントの細胞を活性化させる。感情の高ぶりで、体に負荷が掛かると、暴走する危険もあるのだ。
「アンタも目の前でずっと見せつけられて辛くないのか?」
「僕はアトリーを信頼してるからね」
少し雰囲気が明るくなったリオンは、傭兵団から話しかけられてもそつなく返していた。
やはり男っぽくあろうと無理していた部分はあったのだろう。
「む、来るのぅ」
ルフィアが敵の気配を感じたらしく右手を上げた。それを見た傭兵団は、それぞれにパーティ単位で戦闘態勢に入る。
場所はやや開けた10m四方ほどの部屋。障害物はなく、奥の通路からソイツが姿を現すのがよく見えた。
装甲の厚そうなずんぐりとしたシルエット。西洋鎧の手足を短くしたような姿だ。右手に長い棒、左手に手斧を装備している。
「D62、戦闘用ゴーレムです。主武装はレールガン」
「は?」
アリスの口から出た未来的な兵器名に少し思考が止まる。
ゴーレムは右手の棒を前方に構えると、先端が青白く発光した。
ズビャン!
空気を切り裂く音の直後、ガインという金属を叩く音が響いた。
盾を構えた戦士の1人がずずずっと後方に下がる。盾に当たったから良いものの、直撃は避けたい威力はありそうだ。
レールガンは火薬の代わりに、電磁誘導で弾を加速して発射する兵器。この世界だと魔力で撃ち出しているのかもしれない。
弾自体は鉄球のようで、戦士の前にコロンと転がった。
「散開して囲め! 後衛は戦士の陰にいろよ!」
アームストロングの指示が飛び、傭兵団の動きだす。
俺達も下がってきたルフィアを回収しつつ、包囲の一角に入った。
「リオン、無理に突っ込むなよ」
「ああ、分かった」
素直な返事にやや戸惑うも、我先にと敵に向かうのも雄々しい男のイメージだったのだろう。
リオンの変化は戦い方を大きく変えてくれそうだ。
ズビャン!
レールガンの発射音に、隣のパーティの戦士が吹き飛んだ。
西洋鎧に日本刀、左手には十手の様で鍔もある奇怪な武器を持っていた。それで銃弾を打ち払おうとして、見事に腹に直撃を受けたのだ。
レールガンの発射間隔はそれほど早くないらしい。次弾を受ける前にと、戦士達は間合いを詰める。
しかし、ゴーレムは左手に手斧を持っているし、装甲も厚そうだ。その上、更なる守りも持っていた。
「こいつ、バリアもあるのか!?」
接近して攻撃した戦士の声が届く。ゴーレムの背後を狙った攻撃が、バチバチと青白く光るヴェールに止められていた。
ブリーエで戦ったゴーレムにも付いていたが、物理攻撃をカットする防御フィールドがあるようだ。
「まずはバリアの除去か。ルフィア、どうしたらいい?」
「何処かにバリアの発生装置があるはずじゃ。その回路を断ち切れれば壊せるじゃろ」
「アリス、場所は分かるか?」
「確か背中側に。ただバリアに守られているので、一定のダメージを与えて飽和させる必要があります」
「わかった。頼むぞ、リオン」
「ああ、任せろ」
「じゃあ俺は正面でターゲットを貰おうか」
アームストロングは、両手持ちの大振りな大斧を振り回しながら、ゴーレムに突進する。
「おらっ」
ゴーレムは高さ3mほど、手斧と思った左手の武器だが、アームストロングの得物と大差ない。
ガギン! ゴギン! ゴツッ!
3段階に打ち振られたアームストロングの斧が、ゴーレムの斧に跳ね返される。ただ、ゴーレムの注目を引く事には成功した。
というか、あのゴーレムと真正面で打ち合うとか、リオン顔負けの度胸だ。
いつまでも見ているわけにはいかない。ゴーレムの背後へと大きく回って移動。
その間にゴーレムもアームストロングへと反撃を開始していた。レールガンを鈍器替わりにアームストロングを襲う。
それを斧の柄であしらいながら、刃は手斧を持つ手を狙っていく。
その隙の無さは、ただただ凄い。
「アトリー、行くよ」
「わかった」
意識をゴーレムの背後に向ける。つるりとした表面に、幾つかの継ぎ目が見える。
「とりあえず、あそこから狙うか」
「ギガントラッシュ!」
リオンが駆け寄りざまに右からのスイング。それはバリアに大きく弾かれる。しかし、弾かれた反動で体の後ろをハンマーが通るように持ち替え、左へと。
バチバチと青白い火花を飛ばしながら弾かれる。すると再び弾かれた反動のままに右から。弾かれたら左から。
でんでん太鼓の様に打撃が止まらない。
「これでっ」
ある程度の手応えを感じていたのか、弾かれた勢いを背中を通して縦の回転に変えた上から、大きく振りかぶっての一撃が、ゴーレムの背中を捉えた。
べキィ!
バリアを破り、背面の装甲をへこませる。
そこで息が切れたのか、大きく飛び退ったリオンと入れ替わるように、背中へと取り付いた。
「隙間がひろがってるな」
リオンの一撃で装甲が歪み、広がった隙間へとシャムシールを突っ込む。テコの原理で力を掛けると、思ったよりあっさりと装甲が剥がれた。
「元々蓋になってたのか」
露わになったのは魔導炉などで見かけたパネル。
「おいおい、どうやって操作するんだ?」
液晶画面の様に明るくなったパネルには、アルファベットが並んでいるが、チンプンカンプンだ。
明らかに魔導技師のレベルが足りていない。
「壊すだけなら、回路をショートさせればよいっ」
ルフィアの声にそうかと気づく。液晶パネルの下に刃を入れると、バキバキと剥がしてしまう。むき出しになった回路は、複雑な幾何学模様。
しかし、いくつかは見覚えがある。魔力の供給源と、それを増幅する装置。となるとそっから先がバリアの発生装置か?
とりあえず、魔力の流れを断ち切るように、マンゴーシュを突き立てた。
「うわっっ」
バチバチと火花がスパークして、魔力が溢れ出す。小さな爆発の後で静かになった。
「壊れた……か?」
魔力の流れを感じようと意識を凝らす。
「もう十分だ、どけっ」
刀を引っさげた戦士達が、俺を押しのけて無防備な背中へと群がった。
アームストロングは依然としてターゲットを固定している。あのリオンのラッシュでも、ターゲットを取り続けられたということは、かなりの攻撃力と言える。
バリアが解かれた背中を5人くらいの戦士が交互に斬りつけ、確実にダメージを積み上げていく。
流石に放って置けなくなったのか、上半身が回り始めた。
高速で回転する手斧とレールガンが、戦士達を弾き飛ばしていく。
「悪あがきだな」
巨大なコマのような全周囲への範囲攻撃は、確かに強烈なのだが一発ごとの威力は落ちる。
とはいえそれに身を晒しながら、大斧を振りかぶるアームストロングの胴には、ヒットエフェクトが激しく明滅して赤くなっていく。
「おいおい」
助けに入らないとダメかと身構える。
「ヘルズクラッシュ!」
技なのかどうかも怪しい、力任せの大上段からの一撃は、ゴーレムの頭から胴体の半ばまで食い込んで止まった。
しかしまだゴーレムの目は死んでいない。
「ヒートスタンプ!」
更にその大斧を上から潰すように、リオンのウォーハンマーが振り下ろされた。
赤熱したハンマーが、切り裂かれた頭部を叩き潰し、半ばで止まっていたアームストロングの大斧を押して、ゴーレムの体を両断してしまった。
頑丈そうなゴーレムも、胴体を縦に切り裂かれては限界を迎えたようだ。
ポリゴンの欠片となって宙に消えていった。
「うおっしゃーっ」
「「「うぉぉぉぉーっ」」」
アームストロングの雄叫びに、戦士達も声を張り上げた。




