共同作戦の初日が終わり
排出口を壊してドローン型ゴーレムを駆逐した黄昏の傭兵団は、改めて室内を物色し始めた。
俺も手伝おうと申し出ると、外で見張っててくれと追い出された。
公認の言質を取ったとばかりに、ルフィアにはへばりつかれている。
団員の見る目は更に険しくなっていた。
一方のアリスは、後衛職を献身的に守った姿に人気が上がっているようで、色々と話しかけられているようだ。
時折こちらに助けを求める様な視線を送ってくるが、俺と目が合うとふいっとそっぽを向かれる。
へばりついているルフィアのせいだろう。
リオンは探索に興味はないらしく、廊下での見張りに立っていた。
「この部屋はこんなもんだな」
部屋から出てきたアームストロングは、俺へ成果を報告してくれた。
「初日でこれだけの稼ぎなら申し分ないな。他にも部屋はあるんだろう。奥の部屋は明日、再びやって来ようと思う」
「ああ、分かった」
「ここの扉は嬢ちゃんかアトリーがいないとダメみたいだし、よろしく頼むわ」
「うむ、任せるが良いぞ」
仕事を認められたルフィアは誇らしげに胸を反らす。
「それじゃ、アリスちゃん。またね〜」
アリスは困ったような表情で手を振り返していた。
魔導炉の出口で別れた俺達は、新生バルトニア王国と名付けた小さな村へと帰る。
俺やリオンがログアウトしている間、ルフィアとアリスは村の子供達と一緒に過ごしていた。
固く閉ざされた門も、俺達が近づくと自然に開き、中から元気な子供達が飛び出してくる。
「おかえりなさい、姫様」
「うむうむ、留守番ご苦労じゃ」
子供達に引っ張られてルフィアは、食堂へと向かう。今回の道中に入手した肉を調理と言うか、焼くのだろう。
そんなルフィアを見送っていると、横から体当りするように、アリスが抱きついてきた。
「ルフィア様ばかり、ずるいです」
ルフィアはアリスを構いすぎると怒ってたわけだが、それを言ってしまうと、火に油を注ぐようなものだろう。
「うん、ごめんな。今日のことで、アリス達が一歩間違うと、すぐにいなくなるのを思い知らされたと言うかな」
NPCは死んでしまうと復活できない。それは公式から発表されているルールだ。
「なら私の事も大切にしてください」
「うん、気をつけてるつもりなんだが」
「今日も絡まれて助けて欲しかったのに、ルフィア様とイチャツイて放って置かれましたし」
「あれはお前に助けられて嬉しかったんだろう」
「でも私を見る目がいやらしかったです」
「アリスは可愛いからな。男ならある程度は仕方ないんじゃないか」
「じゃあ兄様も、もっといやらしく私を見てください」
なぜそうなる!?
「はいはい、通らしてもらうよ」
リオンが俺を押しのけるようにして食堂へと向かっていった。
「お、俺達も行こうか」
「むう、兄様は意地悪です」
いったいどこでこれほど懐かれたのか意識が無いだけに、色々と不安だ。傭兵団の面々から恨まれるのもわからない訳ではない。
マサムネもミリーナというNPCといい仲になってるみたいだし、聖人君子を名乗るつもりも無いんだが、押して来られると腰が引けてしまう。
はてさてどうしたものか。
『アトリー爆発しろっ』
耳の奥で木霊するようだった。
食堂では上機嫌なルフィアが、狩ってきた肉を焼いている。子供達も嬉しそうだ。
周辺がもっと安全になってくれば、外でも遊べるようにはなるのだろうが、まだミュータントの脅威は油断できない。
年長の少年コルボは、まだ10歳ほどだが、リオンやアリスに戦い方を教わろうと話をしている。
俺はマサムネに頼んでおいた綿を使って、布団を作っていく。布一枚よりは、綿の詰まった布団の方が温かいだろう。
何してんのーと女の子達が寄ってくる。
「布団を作ってるんだよ」
「お布団?」
「ああ、ちょっと温かくなる布団だよ」
「ほぇ〜」
俺の針仕事を興味深げに見ている。この子は将来、裁縫に目覚めてくれるだろうか。
12人の少年、少女だけの村。まだまだ発展というのもおこがましい。ちゃんと生きられる環境を整えてやらないとな。
「アトリー、ちょっといいか?」
子供達の寝床に布団を敷いて終えた俺に、珍しくリオンの方から話しかけてきた。
「どうしたんだ?」
「話しておきたいことがあってな」
どうやら他人に聞かれたくない部類の話らしい。
「外に出ようか」
新たな布団に騒ぐ子供達を置いて、俺達は村の門近くにある見張り台に上る。
眼下には荒廃した土地が広がっていた。魔導炉から漏れた魔力を受けて、奇形化した木々がポツポツと立っている。
人を襲うよなうな木々は刈り取ってあるが、それでも捻れた木は残っていた。
「アトリー、僕は男なんだ」
「ああ、それは疑ってないよ」
男女では歩き方、走り方なんかに違いがある。リオンはかなり力強く走る姿を見ても、男であるのは疑いようもない。
「ただ、その、な」
何かを言いよどんでいる。こういう時は、相手にタイミングを任せたほうがいいだろう。俺は周辺を見渡しながら待つ。
「黙っててもあのアームストロングというのには、分かったみたいだし」
自分に言いきかせるように呟き、切り出した。
「僕のこの世界での身体は、女なんだよ」
「へ?」
このゲームにおいて、性別を偽ることは基本できない。男女によって脳内のホルモンバランスが違っているためだ。
テストプレイにおいて体調を崩しやすくなったりしたらしい。
「大丈夫……なのか?」
「今のところは特に何も感じてない。起きている間もな」
「でも良くないんだろう?」
「僕も何度か作り直して性別が戻るかと思ったんだが、変わらなくて……」
何か根本的な判断ルーチンにバグがあったのだろう。
「僕はリアルでいま一歩踏み込めない部分があって、女々しいからかなとか」
「それはないな。世の中、女性の方が大胆で強いから」
思わず断言してしまった。
「考え過ぎだよ、単なるバグだって。運営には連絡してあるんだろ?」
「ああ、それはそうだよ」
「なら後は時間が解決してくれるさ」
「うん、ありがとう」
ほっとした表情で笑みを浮かべる。穏やかな表情を見て、ふと思った事を口にした。
「もし女々しいからダメだとか思って、乱暴に振る舞ってるんならやめとけよ。自分にも周りにも負担になるからな」
「あ、ああ、そうだね。今後、気をつけるよ」
「負けず嫌いなのは悪いことじゃないけどな」
多分リアルでは何らかの競技者。勝敗にこだわる部分は生来のものだろう。
「それとこの事は……」
「ああ、言いふらすつもりはないよ」
「ありがとう。お礼におっぱい触る? 目立たないように年齢を下げで小さくしたんだけど、それなりに柔らかいよ」
「あのなぁ、ルフィアみたいなこと言うなよ」
ややうんざりした様子で返すと、リオンも笑った。
「このゲームってやっぱり女子が少ないじゃない?」
『黄昏の傭兵団』もそうだが、今まで会ったプレイヤーは男ばかりだ。もちろん、女子もいるとは思うが、稀有な存在だろう。
「僕の身体が女だって分かったら、ちょっかい掛けられる事もこるかなって」
「それはあるかも知れないな」
リオンの顔立ちは可愛い。ボーイッシュな女の子という感じだ。
「その時はアトリーのものだって言ってもいいかな?」
「うぐっ」
ルフィアにアリスが絡むだけで、白い目で見られている所に、リオンまで加わるとどうなるか……。
「ま、まずはバレないように頑張ろう」
そう返すのがやっとだった。
目標にしていた1000ブクマを越えることができました。
皆さん、ありがとうございます。
これを機に「オーバーラップweb小説大賞」に応募させて頂くことにします。
今後も楽しんでもらえるように精進させてもらいます。




