魔導炉の罠
「ああっくそっ」
俺は飛び交うゴーレムの1体を叩き落としながら悪態をつく。
目の前に飛んでいるのは50cm程の大きさの物体。ドローンを思わせる平たい造りで、プロペラは無いが宙に浮いて攻撃してきた。
アームが1本取り付けられていて、電撃系の攻撃を繰り出してくる。
連続でくらい過ぎると、体が麻痺するようだ。
麻痺に苦い経験のあるリオンは、ドローンを近づけさせまいとウォーハンマーを振り回している。
しかし、立体的に回避を行うドローンは、円運動で水平攻撃をメインとするリオンには苦手なようだ。
俺は1体ずつを確実に仕留めていきつながら、後衛にも気を配る。
頭を越えて攻めてくるドローンは、通さないように防ぐことは無理だ。後衛をターゲットした奴を速やかに排除するしかない。
戦士ではあるが、戦闘力を封じられているアリスに、後衛職の陣頭指揮を任せて混乱の無いように誘導させている。
「あの排出口を何とかせんとなっ」
アームストロングの声が聞こえてきた。
ドローン1機ごとの戦闘力は大したことはないのだが、部屋のあちこちから飛び出してきて、きりがない。
出口を潰さないと終わりそうになかった。
警備用魔導炉は、建物が一回り大きく、崩れていないこともあり、複数の部屋がそのままの形で残っていた。
「電子ロック!?」
盗賊のピッキングでは対処できない鍵に、ルフィアが進み出て解除する。
「可愛い上に有能だとっ、アトリー爆発しろ!」
探索が進むにつれて『黄昏の傭兵団』の中でルフィアの評価は上がり、俺の評価が下がっていく。
開いた扉から中を覗くと、やはりゴーレムの給魔施設になっていた。
簡易ベッドのような装置にゴーレムが寝転んで並んでいる。
「これってボーナスゾーンか?」
中に入った盗賊の声に、戦士達も雪崩込んでいく。そして、眠ったまま動かないゴーレムを解体し始めた。
おまけとして付いている俺達は、少し後方。鍵を開けたルフィアだけが中へと入っていた。
ビィービィービィー!
通路と部屋に鳴り響く警報音。それと共に扉が閉まり、蚊の鳴くような音と共に、ドローン型ゴーレムが襲来。
戦士の多くと後衛職が切り離された状態で戦闘に突入していた。
「リオン、排出口を潰してくれ」
なかなか当たらないドローンに苦労していたリオンは、動かぬ標的に狙いを変えた。
俺は黄昏の傭兵団の後衛職の面々を守るのに徹する。
扉のこちらに残ったのは5名ほど。ヒーラーと魔術師だ。
逆に扉の向こう側にはヒーラーがいない計算になる。早く扉を何とかしないと、負傷者が出るかもしれない。
「アリスは扉を何とかできないか?」
「すいません、その手の技術はありません」
となると中からルフィアが開けてくれるのを待つしかないか。
リオンは飛び上がりながら、天井付近の排出口を攻撃。丁度飛び出そうとしていたドローンごと、出口を叩き潰した。
通路にある排出口はそこだけだったので、後は飛んでるのを倒すだけだ。
魔術師の魔法で地面に落としてもらい、リオンが潰すパターンもできて、3体残っていたゴーレムも程なく片付いた。
中からはまだまだ喧騒が聞こえていて、収まる気配はない。
「扉を何とかしないと……」
俺は電子ロックへと向かう。現実でよくあるテンキーで、数値を入力して解除するタイプ。
パネルを見たら4桁か。闇雲に入力しても解除はできないのだろう。
「ルフィア! 鍵の番号は!」
呼びかけても返事はない。中の混乱は続いているようだ。
俺は改めて扉と向き合う。
外蓋が外され、内部の回路というか紋様が露わになっている。
これはステータスアップの刺繍や、ミュータントの肉を焼く模様なんかと似ている。
つまりは魔導技師の範疇。
テンキー部分から伸びる線と鍵に通じる線とがあって、途中を複雑な模様が塞いでいた。
この模様に合うように、テンキーを操作すれば鍵が開くのだろう。
「パズルか……いや、待て。ルフィアはそんな複雑な事はしてなかったぞ」
外蓋を開けてから解錠まではそんなに時間がかかっていなかった。
数値から魔力の流れを見て、正解を導くやり方ではなかったはずだ。
要はテンキーの信号を、鍵に伝えればいいのだから……。
プシュー。
空気の抜けるような音と共に、扉が開いた。付与染料で染めた刺繍糸で、テンキーと鍵を直接繋いだら、解錠に成功したようだ。
「ルフィア!」
まず目に入ったのは、扉の側で倒れるルフィアの姿だった。
「すまない、頭の上を越されて」
近くの戦士の1人が謝ってきた。俺はルフィアの身体を抱えると、通路の方へと運び出した。
「治療しよう」
ヒーラーの1人が残ってくれていて、治療を試みてくれた。
ドローン型ゴーレムの攻撃は、電撃系の麻痺攻撃。麻痺して動けないだけか。
「……ダメか」
麻痺の治療、体力の回復を行ったが、ルフィアはピクリとも動かない。
部屋の中はまだ騒がしく、飛び交うドローンに苦戦しているようだった。
「仲間を助けてやってくれ」
「ああ、すまない。後でちゃんと診るからっ」
ヒーラーは部屋の中へと向かう。
俺も助けにいかないとダメなんだが、ルフィアを置いて離れる事はできなかった。
「おい、どうしたんだよ。いつもの生意気な声を聞かせろよ」
白く血の気のない頬に手を当てて呼びかける。温もりは残っているものの、脈もなく力なくぐったりとしている。
「冗談だろ……」
「編隊を組み直せ。後衛を守るように円陣。ケビンの隊で排出口を潰せ!」
アームストロングの力強い指示が聞こえてくる。後衛が到着した事で、全体的な落ち着きは出てきたようだ。
「いや、待てよ」
ルフィアは人形だ。元々、脈など無い。血が通ってないんだから、血の気がないのは当たり前だ。
俺はルフィアを抱えたまま、身体を調べていく。魔力の流れは以前に感じたのと変わらない。
首筋などを見ても正常に流れている。人と違って血流や鼓動が無い分、シンプルな人形の魔力は間違いようもない。
「仮病か!」
俺は抱えていた身体を乱暴に手放した。どさっと落ちたルフィアは口を尖らせるようにしながら目を開いた。
「むぅ、痛いのじゃ」
「痛いのじゃじゃねーっ。こんな混乱してる時に遊ぶなよっ」
「麻痺して動けなかったのは本当じゃよ。扉を開けようとしておる間に後ろからチクリとな」
「なら治療を受けた時点で起きろよ」
「だって……少しくらい甘えたってよいじゃろ?」
「時と場所によるだろ」
「傭兵団の連中と話してても嫉妬する気配もないし」
「その程度で嫉妬するか」
「相変わらず邪険にされるし……」
「そりゃお前が人をからかうようにするから」
「すまなかったのじゃ」
ようやく殊勝に頭を下げた。
「いつもアリスばかり気にかけておるじゃろ?」
「アリスはあの身体だからな。気に掛けるのは当然だろ」
「わらわは寂しいのじゃ。わらわは大事にされてないのかのぅと」
「そんな事はないだろ」
「わらわはそなたの役に立っておるかの?」
「ああ、立ってる、立ってる」
「わらわはそなたに必要かのぅ?」
「ああ、必要だよ。必要」
「わらわはそなたに愛されておるかのぅ?」
「ああ、愛してる、愛して……あ?」
何を言わせるんだこの姫様は。
「アトリー爆発しろっ!」
部屋の中が片付いて、慌てて戻ってきたらしいヒーラーが、白い目で俺達を睨んでいた。




