共同作戦
「あ、遂に始まるのか」
月額のレンタルサービス。
月2万で機器の貸出とプレイ込みの値段になる。4、5年ローンと同じくらいの金額だな。
5年間使用を続けたら、機器の返却不要か。その辺で元が取れるんだろうな。
一本のゲームで5年と聞くと長いように感じるが、大手メーカーのMMOだと10周年とかもあるから、長過ぎる事もない。
大抵はアップデートがあったりして、変化が出てくるわけだがSleeping Onlineはどうなんだろう?
そろそろ一ヶ月が経過しようとしている。
まだ遊び尽くすところまでは行ってないと思うが、記憶が無いだけに何とも言えない。
2週間後にレンタルサービスのベータテスト。接続者が増えると、中の様子も変わるんだろうな。
「ゴーレム狩り祭?」
ログインした俺に、マサムネから届いていたメッセージには、そんな事が書かれていた。
何でも鉄を集めるのに鉱石を掘り出して、鋳造してインゴットを作るのはかなり手間と費用がかかるらしい。
鉄を溶かす熱を得るには、大量の薪を燃やさねばならず、費用が掛かるんだそうだ。
『ゴーレムのドロップ品にアイアンインゴットがあるらしいし、今は採掘場所が分かってないミスリルなんかも落とすらしいぞ』
そういえばブリーエのゴーレムを倒した時に、一つミスリルナゲットを手に入れていた。ナゲットはインゴットになる前の塊だ。
『2週間後にレンタル組がやってくるなら、それまでに狩れるだけ狩っとこうという話だ』
せこい話に聞こえるが、クエストすら有限のこのゲーム。素材の総数も決められていて不思議はない。そうなると生産職は満足にスキル上げができなくなるのだ。
素材が奪い合いになって、武器が高騰すると戦闘職も困る事態になる。
まずは助け合いの精神が大事だった。
「わかった、参加してみるよ」
もしかしたらフリーのヒーラーが見つかるかも知れないしな。
ブリーエとの国境近くまで引き返し、急遽作られたらしい野営地でマサムネと合流する。
「おう、久しぶり……って何で女連れ!?」
「ん?」
そういえば、マサムネと別れた頃はまだ30cmほどの人形だったな。
「こっちは会ってるだろうけど、人形のルフィア。そんでこっちはホムンクルスのアリスだ」
「くっ、こっちはミリーナを置いての出張なのに、美女を二人も侍らせてるだと。アトリー、鬼畜だな」
ブツブツと文句を言うマサムネに、ルフィアが編み出したミュータントの焼肉を渡す。
「ルフィアの手料理だ。良ければ食ってやってくれ」
「ああ」
リオンと違ってほとんど付き合いのないマサムネは、疑うこと無く肉を頬張る。
「……」
しばし動きを止めた後、モゴモゴと口を動かし、肉を噛み締めたっぷりと堪能してから口を開いた。
「アトリー、爆発しろ……」
「なんでそうなる!?」
「こんな旨いもの作れる彼女連れなんて、呪われろ。もげろ!」
こちらを批難するように指差しつつ、肉を一切れ口に放り込む。そんな様子にルフィアはニヤニヤ顔だ。
「まあ、それはさておき、アトリー。そっちのは」
「ああ、リオンだ。アレから再会して、一緒に旅してる」
「やっぱりそうか。良かったな」
俺がいなくなったリオンを気にかけていたのは覚えていたようだ。
「戦力としては飛び抜けてるから、期待していいぞ」
「ウォーハンマーか、ゴーレムにも合ってそうだな」
リオンの方は黙って周りを見渡すだけだ。初対面でもないのに人見知りか。はじめて会った時を思い出す。
そこに近づいてくる人がいた。
「お、マサムネ。そいつらか」
「アームストロングの旦那。よろしく頼みます」
アームストロングと呼ばれた男は、外見年齢が50ほどで肩幅は広く、日焼けした肌に頬に大きな刀傷。歴戦を思わせる戦士だった。
「何、生産職を助けるのは、自分達にも関係するからな。情けは人の為ならずって奴だ」
「コイツはアトリー。序盤に会ったから付き合いは長い客です。マンゴーシュのアイデアをくれたのもコイツ」
ん?
「こちらはアームストロングさん。『黄昏の傭兵団』という軍団のマスターで、50人規模の頭領。最近、懇意にさせてもらってる」
「うちは日本刀好きが多いからな。盾を嫌う奴も多くて、マンゴーシュの概念は世話になっとる」
そういう事か。ちゃっかり商売につなげていたとは、やるなマサムネ。
「とりあえず戦えるのが20人程で、この野営地からゴーレムを狩りに出る」
「俺はここで帰ってきた人の武器のメンテと、インゴットの買い取りだな」
「俺は戦闘パーティに加わればいいんだな?」
アームストロングは頷いて同意してくれる。
「ああ、そうしてくれ。嬢ちゃん達は残ってくれても構わんよ」
「まあ、わらわはおった方がよいじゃろ。ゴーレムの場所を探せるぞよ」
魔力を探知できる魔術師は、探索でも有用だ。魔導炉を見つけたら閉鎖しときたいしな。
「兄様1人を危険な所に送り出すなんてできません」
NPCとはいえ、両手に花なのは気恥ずかしい。
「そっちの嬢ちゃんは?」
1人離れた所に立っているリオンに話を振る。
「僕は男だよ。見ての通り、戦士だ」
ウォーハンマーの柄に手を掛けてぶっきらぼうに言う。
「小柄ですけど、筋力は凄いんで、うちの最強戦力ですよ」
「ふぅん……」
何か思案顔のアームストロングだったが、納得した様子で頷くと、握手を求めてきた。
「ここではアンタ等が先輩だ。よろしく頼む」
「ああ、こちらこそ」
それから他のメンバーとも顔合わせをして、バルインヌの敵に関して軽く説明をする。
ミュータントは戦闘中でも変形するので、不意の攻撃があるのだ。
あとミュータントの肉が手に入った時のために、例の図案を刺繍した布を何枚か渡した。
紙は一回きりだが、刺繍にしたことである程度繰り返して使えるようになっている。
「よしそれじゃ、探索に行くぞ」
アームストロングの号令の下、団員達は動き始めた。
探索に繰り出す20人と、俺達が4人。4人一組で行動して、敵が出たら協力する体勢になっている。
イザベラから貰った地図で魔導炉を目指しながら、ルフィアにも魔力を探知してもらう。
「他のパーティは戦士2人に盗賊が魔術師、それにヒーラーか」
バランスが取れた編成が少し羨ましい。やはり掲示板で募集をかけても連絡はなかった。
「まあ慌てても仕方あるまい」
「そうだな」
まずは探索に集中することにした。
海岸沿いに魔導炉を目指していると、やはりミュータントには遭遇する。
イヌか狼といった感じのミュータントは中々に素早く、長く伸びる牙と、周囲に撒き散らすように飛ぶ毛が厄介だった。
目に入るとかゆみを伴い、涙がにじんてくる。相手の動きを見ないといけない俺には、天敵のような奴だ。
「ヘヴィスイング!」
リオンの範囲攻撃が、大雑把に敵を引っ掛けて倒していく。俺はリオンの方へ敵を追いやるように移動するのがやっとだ。
他のパーティは、魔術師による遠距離攻撃で対処していた。
「兄様、右から来ます」
にじむ視界の中、アリスの声で身を躱し何かが通り過ぎるのを感じる。
その瞬間にまた毛が撒き散らされて、くしゃみが出る。
「ゲームの中でもアレルギーかよっ」
毎年花粉症に悩まされる身としては、辛い敵だった。
何とか撃退に成功した時には、涙と鼻水まみれになっていた。変なところまでリアルだなぁ。
手持ちのハンカチで顔を拭って周りの様子を確認すると、他のパーティも前衛職は苦労したようだ。
「リオンは大丈夫なのか?」
「これがあるからな」
マフラーを引き上げながら答えた。鼻から口を覆っていたら、影響は少なかったらしい。
俺もマスクしとくか。大き目の布で口元を覆う。
「犯罪者だな」
「強盗じゃな」
「ぐっ」
まあ、次に遭遇した時に対処しよう。
そんな感じでミュータントを撃退しながら、いよいよ魔導炉が見えてきた。
やはりゴーレムの活動エリアは、魔導炉の敷地に限られているようで、道中ではそれらしい反応はなかったらしい。
今回の魔導炉は以前のものより、一回り大きく感じる。建物自体も堅牢なのか、崩れた様子も見えない。
「ここは警備用ゴーレムの駐屯地のようです」
アリスの予測を他のパーティに伝える。
「そいつは覚悟が必要そうだな」
アームストロングも団員に注意を促した。
ブリーエにも戦闘用のゴーレムはいたが、型落ち品だったらしい。前の魔導炉では清掃用のゴーレムにも苦戦した。
本格的な戦闘用ゴーレムとなるとどうなるのだろうか。




