新生バルトニア王国
ルフィアは子供達を集めて、新生バルトニア王国の建国を宣言。子供達は全部で12人、そこに俺やリオン、アリスを含めて15人の国民の誕生だ。
子供達はよくわからないままに「姫様、バンザイ」と楽しんでいる。
実際、今までは食べられなかったミュータントの肉を、美味しくて安全にしてくれたルフィアの信奉は厚い。
食料事情も安定し、更には魔導炉が止まった事で、ミュータントに襲われるのも減るだろう。
とはいえ放っても置けないので、この村を拠点に周辺の探索を行う事にした。
「近くにあったミュータントの木は排除してある」
拘束から解放され、ルフィアの焼肉を堪能したリオンは、なんだかんだで機嫌を直していた。
「ミュータント化が進み過ぎた木は、魔力供給炉を閉じたことで枯れてゆくじゃろう」
しかし、ルフィアの見立てでは魔力供給を断たれ、飢え始めた獣は凶暴になる可能性があるという。
「願ったりだがな」
リオンはその説明にニヤリと笑った。打ち解けてきたなとは思うのだが、戦闘狂な部分はあまり変わっていない。
垣間見えたリオンのリアルは、ある種のアスリート。勝負事に熱くなるタイプなのだろう。
そんなリオンの希望を聞いたように、大柄なミュータントが現れた。
あの魔族を思い出すような熊のミュータントだ。灰色がかった毛並みに、圧倒的な肉厚感。
はふっはふっと吐く息は荒く、既に興奮状態だった。
「やらせてもらう」
いつものように先陣を切るのはリオン。大振りのウォーハンマーは、熊の突進によってミートポイントをずらされ、ハンマー部分が毛皮を滑る。
そのまま熊は体当たり、リオンはかろうじて身を躱して事なきを得たが、かなりきわどい。
「あ?」
いや、避けたはずの体に、三本の線が走っていた。
熊を見ると、肩の辺りから爪のような鋭い突起が三本生えている。ミュータント化した獣は、その姿を容易に変形して襲ってきた。
「リオン!?」
一撃で殺されるまではいかなかったようだが、うずくまったまま動かない。
このゲームは死にゲーを繰り返さない為にも、それなりに痛覚を残している。
アレだけの攻撃を受ければ、かなりの痛みを伴っているはずだ。
「ルフィア、頼む」
「姫を付けい、姫を。まあ仕方ないのう」
ルフィアが走り出すのを確認して、俺は熊の気を引くためにシャムシールで斬りつけた。
マサムネに鍛え直してもらった装備だが、灰色熊の毛皮には刃が立たない。表面の毛を少し刈り取っただけで、肌にも届かなかった。
それでも注意を引くことには成功している。相手の視界に入るように、やや大げさに剣を振り回し挑発した。
熊は口を大きく開けて立ち上がり、威嚇してくる。やっぱりデカイ。
しかも振り上げられた両手に気を取られると、腹からアバラの様な突起が伸びて、突き刺してきた。
「ととっと」
マンゴーシュで体に当たりそうなのを打払いつつ、距離を確保。しかし、いつもの待ちの体勢だと、ルフィアが介抱しているリオンに向きかねない。
「損な役回りだな……でも、それがいいっ」
半歩踏み込み、腹の辺りに剣を振ると、再びアバラが飛び出し向かってくる。
それをサイドステップで躱して、脇腹に一撃。すると腕を振るって、殴りつけてきた。
その爪をマンゴーシュで受け流すと、シュルシュルと爪が伸びて空を裂く。避けるか受けるかしてたらやばかった。
ミュータントの戦いは単純だが容赦がない。持てる力を全て出し切るように惜しまない。
左右の腕と、そこから伸びる爪、腹からアバラ、肩の突起。全てを駆使して追い詰めてくる。
「ヤバい、ヤバいよっ」
人が相手なら2刀で戦う分、こちらの方が幅があるが、獣のミュータントを相手にすると手が足りない。
「兄様、基本を忠実に。相手も目は2つです」
アリスのアドバイス、目は2つ。結局は、見えてる範囲しか的確に攻撃できないって事かっ。
振るわれる腕を掻い潜り、脇腹に当てつつ、背中側に回る。肩の突起が伸びて追随してくるが、やはり精度に欠けていた。
巨体の割に、目は小さく正面についている。自らの体が邪魔をして、死角が多くできていた。
「ソロソロ逆転の時間かなっ」
振るわれる腕の影、脇腹、背中。足を使って死角を渡り、不自然な体勢の攻撃を誘う。
二足での行動は、アバラも攻撃に使うなど、手数は増えるがやはり熊の体には不自然で、方向転換が鈍い。
太いが短い足もあまり動いていなかった。
アバラの攻撃を打ち逸しつつ、更に一歩踏み込んで、足を狙う。
「硬え」
打ち込んだシャムシールはほとんど食い込まない。しかし、斬撃刀の真価はここからだ。引く時に斬れる。
「ボーンクラッシュ!」
ズドンという重い音と、衝撃が熊の向こうから伝わってきた。
それと共に、不規則にアバラが伸びてきて俺を刺してくる。
「やばっ、やばばっ」
折角食い込ませたシャムシールを慌てて引き戻し、マンゴーシュと合わせてアバラの雨を切り躱す。
そして何とか熊の正面から抜け出すのと、熊が倒れるのはほとんど同時だった。
熊は伸びたアバラが地面に突き刺さり、思ったように動けない。そこに跳躍したリオンがハンマーを叩きつける。
肩口の突起は背中までは届かず、リオンはそのまま熊に乗ってハンマーを振るい続けた。
「ひどいな、アレは」
「まあ、それだけ痛かったということじゃろ」
「というか、まだ痛そうだよな」
リオンは優位な体勢に、引きつった笑みを浮かべながらも、汗をダラダラ流していた。
程なく体力を削りきられた熊はポリゴンとなって消え、肩で息をするリオンは再びうずくまった。
「無理しなきゃいいのに」
とはいえ、俺だけだとかなりの時間を要したかも知れない。
「リオンもそろそろ先陣を俺に任せてくれないか?」
「アンタが遅すぎるんだ」
防御力という意味では、服の下に金属の鎧を着ているリオンの方が堅い。筋力が高い分、重い防具でも動きを阻害されないのだ。
一方の俺は、動きやすさを優先して部分的に革鎧で補強している程度。
どちらが敵を引きつける盾役にふさわしいかと言うと、リオンなのだろうが、猪突猛進なリオンはディフェンスをおざなりにしがちだ。
俺は左手に防御用の短剣マンゴーシュを装備した、カウンター型。相手から攻撃を受けた方が動きやすい。
ダメージは高いリオンから、敵を引き剥がすのは中々に厄介だったりもする。
今回はたまたま最初の一撃が空振りだったので、すぐにターゲットを奪うことが出来たが、クリーンヒットしていたら、助けられたかは微妙だ。
「やっぱり、回復役はいるか」
バルインヌ地方は未開の地。出て来る敵も、ミュータントなど特殊で攻撃を読みにくい。
不意に大ダメージを受ける危険は高かった。
俺とリオンは戦士、ルフィアは魔術師。アリスも分類としては戦士だろう。
アンバランスなパーティでこの先やっていくのは無謀と言えた。
「掲示板でパーティメンバーを募集するか」
まだ動けそうにないリオンに肩を貸して、村まで戻ると新たなメンバーの募集をかけてみることにした。
『バルインヌ地方の探索を目的とするパーティで、ヒーラー募集』
実のところ、ヒーラーという職業は、昔からオンラインゲームでは不人気職でなり手が少ない。
やはり敵と戦ったり、魔法を使ったりという派手さがヒーラーには無く、作業が地味なのだ。
その分、ゲーム内で探すのは難しい。前回の野盗討伐時に募集した際もヒーラーは来なかった。
「果たして来てくれるかね」
そう思いながら、掲示板の今の流れを追ってみる。
プレイヤー達で作る『軍団』が活気を帯びているようだ。ざっと見た所で、百人を越える軍団が5つほどできている。
パーティの編成から、武器の調達まで軍団内でこなせるのは魅力だろう。
その分、しがらみもあったりするので、今のところ積極的に参加する気はないのだが。
「ん?」
掲示板の中に、ララチッパジャーナルというのが出来ていた。どうやら1人のプレイヤーが、冒険紀行を記していってるみたいだ。
そして目に付いた記事。
『奇妙! ぬいぐるみを崇める村』
というのがあった。詳しく読んでみることにする。
基本的には漁村なのだが、夕方になると男達が広場に出てきて軍事訓練を行う。
以前、野盗に襲われて以来、自衛の為の訓練を行っているとのこと。
しかし、奇妙なのは訓練を行う際に、広場の舞台に一体のぬいぐるみが飾られる。ウサギと思われるそのぬいぐるみに、街の男達は深々と礼をしてから、鍛錬を始めるのだ。
どう見てもただのぬいぐるみ。
村の奇妙な風習に、筆者は世界の広さを感じるのであった。
うう〜む、奇妙な事もあるもんだ。シナリ、元気にしてるかな。




