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魔導炉の側の村

 魔導炉を停止した俺達は、さしたる抵抗もなく外に出ることができた。洗剤まみれの床も、帰りにはワックスが効いた床程度で滑る程ではなくなっていた。

 周辺にある木々はまだ歪なままだが、魔力の供給が切れれば枯れていくのだろう。

 その後に生える植物は正常になっていることを願った。


「この先に集落があるみたいだ」

「ひと仕事終えて腹が減ったのじゃ」

「はいはい」

 イザベラの地図を頼りに目的地を確認、目印になりそうな岩を見繕って進んでいく。

 ポタミナのマップアプリは周囲の状況を瞬時に取り込んでくれるんで、迷うほどの事もなかった。


「あそこだな」

 岩の割れ目に木の柵を設置して防衛策を取っているようだ。見張りの櫓のようなモノもある。

 この地には暴走したミュータントも数多いので、こうした備えが必要なのだろう。



「何者だ!」

 木の柵へと近づいていくと、櫓の上から誰何すいかの声が掛けられた。

「俺達は旅の者だ。少し休憩させて欲しい」

「ダメだ、この村には誰も入れねぇ。去れ!」

 まだ若いというか幼い声だ。


「ちょっとでいいんだ。街から持ってきた品もあるし……」

「ダメなモノはダメだ!」

 取りつく島もない。

「破るか」

 リオンがハンマーを手に前に出ようとするのを慌てて抑える。

「相手は子供だぞ、抑えろよ」

「ガキには躾が必要だろ」

 どっちがガキだよ。


「大人はいないのか?」

「そんなものはいないから去れ!」

 大人がいない……?

「うにゅう、腹が減って動けぬのじゃ……」

 パタンと倒れるルフィア。

「ルフィア様!?」

 慌ててアリスが介抱に回る。

「すまん、連れが倒れたんだ。少し休ませてくれ」

「誰がそんな子供だましに引っかかるんだ、去れ!」

 ダメだったか。


 このまま押し問答してても仕方なさそうなので、村に入るのは諦めて近くでキャンプすることにした。

 薪がわりの木材は、周辺のミュータントを狩るうちに溜まっていた。

 それを木こりスキルを持つリオンが割り、飯にするぞと声を掛けると復活したルフィアが火をつける。


「誰が料理するんだ?」

 リオンの声に固まる。魔力で動くアリスはもちろん、元々は人形であり姫でもあるルフィアにも調理スキルはなかった。

「なるようになるだろ」

 リアルじゃ一応、一人暮らし。たまには料理をする事もある。ミュータントから入手していたボアMの肉……焼けば大丈夫だよな。調味料は塩だけ、野菜はミュータント植物Mの葉。

 これもしっかりと焼いた。


「匂いは旨そうじゃな」

「胃袋が丈夫そうな姫からどうぞ」

「おかしいのぅ、普通毒味は下僕しもべの仕事じゃろう……か、腹は減ったゆえ頂く」

 ゴタクを並べるよりも食い気が勝った姫は、串に刺した肉にかぶりつく。


「うぐっ、これは毒じゃ、お主等は食ってはならぬ、はむはむ」

 そういいながらハムハムと頬張る。そんなトンチ小僧みたいなルフィアを見て、俺とリオンも手を伸ばした。

 塩だけのシンプルな味付けが、脂身と肉汁の多い肉にあっていたようだ。油の甘みが引き立てられて、口の中に広がった。


「むう、毒じゃと言ったのに」

「ルフィアは少食になったんだから、どうせ食べ切れないだろう」

「ならば少しずつ口をつけるかの」

「だぁ、意地汚いなっ」

「汚くはないわっ褒美と思うが良い!」

 色々と噛み跡を残していく食いしん坊姫には困ったものだ。


 そんなこんなで盛り上がっていると、天の岩戸が開き始めていた。固く閉じられていた門から、視線がいくつか伺っている。

「腹一杯じゃ〜」

「勝手に満足するなよ。腹ごなしに踊ってみせろ」

「食ってすぐに運動なぞ、できるわけがなかろう」

 そのままゴロンと横になった。豚好きの癖に牛みたいな事を。


「兄様、良ければ私が」

「アリス、身体が悪いだろ」

「いえ、ここに来てから調子が良いので大丈夫です」

 それは周囲の魔力にミュータントの細胞が活性化してるせいじゃないのか。

「多少使う程度は、かえって魔力を発散できてよかろう」

 ルフィアの無責任な声に、アリスは俺からシャムシールを借りると席を立つ。


 伴奏は無いが、シャンシャンと鈴の音が鳴り始める。よく見ると、アリスの足首に鈴が結ばれていた。

 リズミカルに踏まれるステップに合わせて鈴が鳴り、炎が爆ぜる音を制して周囲に広がっていく。

 赤い炎に照らされながら、シャムシールを手に舞うアリス。普段のやや幼さはなりを潜め、妖艶な雰囲気を纏っていく。

 シャンシャン。

 白刃がきらめき、白く伸びやかな足が円弧を描く。優雅だがダイナミックな剣舞は、見とれてしまうほどの美しさだった。


 シャシャン。

 足をクロスさせつつ、腰をかがめて頭を垂れたところで、アリスの動きは止まり、辺りが静寂に包まれた。


 パチパチパチパチ!

 俺はもちろん、リオンやルフィアも大きな拍手を送る。更にはじっと見ていられなくなった子供達も、門から抜け出してアリスに拍手を送っていた。

 アメノウズメに負けぬ舞いだったな。



「お前ら、何してる!」

 門の所に現れたのは、見張りをしていた少年だった。アリスの側にやってきていたのは、彼に比べてかなり幼い子供達だ。

「良かったら食べるか?」

 残っていた串焼きを示すと、子供達は喜んで受け取った。


「ダメだ、お前たち。そんなものを食べたら!」

「美味しいよ、お兄ちゃん」

「こんなの食べたことないよ」

 見張りの少年の声は届かず、子供達は喜んで肉を頬張り、野菜を齧る。

「貴様ら、よくもっ」

 見張りの少年が槍を手に駆け出した。


「おいおい、物騒だな。何をそんなに!」

「お前らこそ、こんな子供に何を食わせてるんだ!」

 見た目は十歳になるかどうかの子供だが、槍の切っ先は早く鋭い。

 俺はマンゴーシュで打ち払っていくが、中々の攻撃だ。



「うぐっ」

 少年を迎え撃っていると、子供の1人が身体を抑えるように倒れ込んだ。

 それが引き金になったように、周りの子供達も一斉に苦しみ始めた。

「くそっ、始まっちまった。お前らのせいだぞ!」

 少年は攻撃の手を止めて、近くの子供に駆け寄る。


「むう、これは……ミュータント化しておるのか」

「何?」

 それ自体はこの地に住んでいる以上、予測できうる自体だ。

「このミュータントの肉が、子供達に影響したようじゃな」

 そういえば放射能を帯びた小魚を食べる大型魚は、その体内に多くの放射能を蓄えるという。

 魔力の高いミュータントの肉を食べることで、凝縮される分、ミュータント化が加速したようだ。


「ルフィア、どうすれば」

「分かっておるだろ。刺青までは要らぬ、適当なインクで肌に記してやるがよい」

 思い出すのはアリスの刺青。あの図形は、ミュータント化を抑制するモノだ。それは子供達にも影響を与えられる。

 俺はリュックから付与染料を取り出すと、指先を使って子供の体に、アリスに刻んだ模様を描いていく。



 処置を始めると、効果は即座に現れた。身を抱えるように震えていた子供達が、徐々に落ち着いて寝息をたてはじめた。

 ルフィアと手分けして、背中やお腹に図形を描いて魔力を抑制してやる。

「お前たち……何者なんだ」

「旅の魔導技師だよ」

 隣で見ている少年に答えた。



 一通りの処置が終わり、子供達を寝かし終えるとほっと胸をなでおろす。

 理性を失ってミュータント化するような事もなく、小康状態になっている。

 技師の力で確認してみても、魔力の流れは落ち着いていた。アリスに比べるとまだまだ軽症のようだ。


「皆、大丈夫なのか?」

 落ち着いた様子を見て取ったのか、見張りの少年が近づいてきた。

「すまない、知らなかったとはいえ大変な事になるところだった」

 俺は止めようとした少年に頭を下げる。

「アンタ等はこれを治療できるのか?」

 少年が袖を捲ると茶色く変色した腕が現れた。やはり魔導炉の近くに生活していたことで、ミュータント化が進んでいるようだ。


「まだ完治の方法は分かっていないが、その方法を探している」

「そう……なのか」

「とりあえずこの子達を安全な所に運びたいんだが」

「ああ分かった」

 眠った子供達を抱えて、村の中へと入れてもらった。

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