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リオンの実力

「CL72d、清掃用ゴーレムです」

 近づいてくるゴーレムの姿を見たアリスが説明してくれる。

 清掃用とはいえ、バルトニアを滅ぼした暴走状態。何をしてくるかは不明だ。

 足元は車輪、手にはモップとハタキ。孔雀のように身体の後方に広がったブラシが、壁をなぞるように清掃している。


「なかなかデカイな」

 ブリーエで戦ったゴーレムほどでは無いが、3m程の高さがある。ブラシが通路を塞ぐ形で迫ってくるので、圧迫感が強い。

「倒すしかないんだろう?」

 リオンが先陣を切る形で突っ込んだ。通路仕様で一段階短くしたウォーハンマーが、円を描くような軌道でゴーレムに迫る。


 ガシン!

 ウォーハンマーを、モップで迎撃する。リオンの力にも負けない力を持っているようだ。

 体重の差で、リオンの身体が押し戻される。

「シッ」

 短く呼気を吐き出すと、リオンがラッシュを掛ける。しかしゴーレムは、モップとハタキで的確に打ち返している。

 モップとハタキをクロスさせるように一撃を受け止めると、小さな身体を打ち返された。

 天井にウォーハンマーのピックを突き立てると、そこにぶら下がる形で勢いを殺し、地面へと降り立つ。


「なんだこの激闘」

「アトリーみたいな奴だな」

 確かに二刀流での戦闘は通じるものはあるかもしれない。

 土偶のように横長の楕円形をした顔の口の辺りが開くと、そこから勢い良く何かを吐き出した。


「うおっ」

 2人の間を狙った一撃を、躱して飛び退る。泡立つ床を見るとどうやら洗剤らしい。

「焦らせんなよ」

 そろそろ俺も参戦しようかと足を踏み出すと、ツルッと滑って転びかける。ワックスの効果もあるのか、やたらと滑ってしまう。

「あ、危ねぇ」

 スパイクもない革製の靴で、濡れた床は危険だった。

「くそっ、どうするんだ」

 ゴーレムは床にどんどんと洗剤を撒いて、滑る部分を広げていた。



 呆然とする俺の横を、小柄な人影が飛び出した。

「危ないぞ!」

 しかし、俺の心配は杞憂に終わる。滑る床へと踏み出したリオンは、そのままの勢いで滑っていく。

 大きく弧を描きながら、更に加速をしてゴーレムへと。敵の前まで来ると、くるりと背を向けて接近し跳躍。クルクルっと回ったかと思うと、勢いのままにウォーハンマーを叩きつけた。


 ズガン!

 ハタキで止めに入ったゴーレム。だが、加速からの跳躍、更に回転まで乗せた一撃は止めきれず、ハタキごと頭に攻撃を受ける。

 一方のリオンは着地してからも滑り続け、華麗にターンを決めると再度跳躍して回転、更なる攻撃を見舞う。

 ゴーレムもモップで防御するが、やはり止めきれずに頭部へと打撃を受け、吐血するように洗剤をぶちまけた。


 武器を失ったゴーレムに対して、水を得た魚のようなリオンは、滑る床の上を自在に動き回り、加速した一撃を叩きつけていく。

 ゴーレムの足元から小型の円盤が幾つか飛び出して、リオンに向かって襲いかかるが、逆にそれをウォーハンマーで打ち返して、ゴーレムへとぶつけていく。

「アイスホッケーは趣味じゃないんだがっ」

 そういいつつも放たれるショットは正確で、顔に体に円盤が突き刺さる。


 再びゴーレムから距離を取り、滑る盤面全てを使って最高速に加速する。

 今度はゴーレムに正対したまま踏み切り、ウォーハンマーを大きく振りかぶって回転。勢いを乗せた一撃が、ボロボロになったゴーレムへと吸い込まれる。


 ガシャンッ。

 ガラスの割れるような音とともに、ゴーレムはポリゴン片に変わって砕け散った。

 リオンは綺麗に着地すると、勢いを殺すかのようにその場でスピンをしてから、すっと立ち止まった。


 パチパチパチパチ!

 思わず拍手してしまう。ルフィアやアリスも目を丸くしながら手を叩いていた。

 しかしリオンの表情は曇っている。あまりに悔しそうに歯を食いしばっているので、話しかけづらい。

 ただ仲間として放って置くわけにもいかなかった。


「リオン、助かった、よっ、お、むぉっ」

 踏み出した足が思いっきり滑り、尻から落下。尾てい骨から響いた痛みが鼻の奥へと走って視界が滲んだ。

「何をやっとるんじゃ、まったくっ、うっあいたっ」

 俺を笑いながら歩き出したルフィアも思いっきり転倒。


「何をやってるんですか、兄様」

 流石に戦闘用ホムンクルスであるアリスは、転倒する事はなかった。ただ両手を前に突き出し、腰は完全に引けて、内股でプルプル震えながらつつつーっと滑ってる姿はお世辞にも格好良くはない。


「何なんだよ、アンタ等は……」

 呆れた表情を浮かべつつ、アリスの下へと滑りよったリオンは、その身体を支えてやる。

「身体は下手に低姿勢になるんじゃなくて、背筋を伸ばして。踵まで一本の線にするんだ」

 アリスの身体を支えながら、腰を押して姿勢を整える。

「そこから上体を少し傾けるようにして、進行方向へと頭を上げる」

 足元を見がちなアリスの顎をクイッと正面に向け直す。直立したアリスの腰を通路の奥へと押し出してやった。

「わ、わわっ、す、滑って」

「手は広げる程度で、下手に暴れさせない」

「は、はいっ」


 俺は一旦、滑る床を脱出。リオンが言ってたことを反芻しながら再度、滑る床へと踏み出す。

 下手に立ち止まろうとするよりも、すっと前へと流れるままに。

「多少は滑った経験もあるしな……」

 しかし、スケート靴と違ってエッジが立たないので、推進力が得られない。

 ノロノロと壁際へとよって、手を付きながら進むしかなかった。


「おおおっ、す、すまぬのじゃ」

 戦闘職でもなく身体のバランスも悪そうなルフィアは、リオンにしがみつくようにして運んでもらっていた。

 豊満な肉丘を押し付けられるリオンは、少し顔を赤らめながらも滑っていく。

 足元は普通に動かしているだけなんだよなぁ。

 こつやって……あかん、これ、アカンやつや!

 右足と左足が離れていって、引き戻そうとすると身体のバランスが崩れて、更に股割きが加速する。

 許容範囲を越える前にコロンと転がって、股間は守ることには成功。しかし滑る床の真ん中で動けなくなってしまった。


「アトリー、ロープだ」

 近くに投じられたロープを手に取り、しっかりと握る。

「引っ張るぞ」

「え、あっ」

 リオンの筋力で勢い良く引っ張られ、洗剤まみれの床の上を転がっていく。

 洗剤ゾーンを抜ける頃には泡まみれになっていて、普通の床の上もそのまま転がっていく。

「熱っ熱つっ」

 摩擦で肌が擦れて熱くなる。俺は手足を丸めて背中で滑り、視界はクルクルと回って動きが止まっても暫くは動けなかった。



「アトリー、亀じゃな、亀」

 リオンに抱きついたまま笑うルフィアにはイラッとするが、隣で笑っているリオンからも影が消えていてホッとする。

「大丈夫ですか、兄様」

「ううう、心配してくれるのはアリスだけだよ」

 まだ平衡感覚のおかしい俺は、アリスの手に掴まりながら立ち上がる。

 アリスに支えられながら、奥へと向かった。



 清掃ゴーレムを越えて暫く進むと、魔導炉の部屋へと続く扉があった。

 扉自体は開いていて、中が覗けるのだが、魔導炉には大きな瓦礫が落ちていて、かなり歪んでしまっている。


「これ、動いてるのか?」

「魔力転換回路に物質があれば動くからのぅ。制御はされておらぬから、外へ漏れ出てしまっておるが」

 燃料があれば燃え続けるらしい。

「魔導炉の燃料って?」

「マナクリスタルが基本じゃが、マナ自体は万物に宿っておる。わらわは食事からマナを引き出して、魔力へとコンバートしておるのじゃ」


 魔導炉の操作パネルへとたどり着き、停止の操作をしながらルフィアが説明してくれる。


「魔力供給炉に組み込まれている変換装置は、物質よりマナを抽出し、魔法などに使える魔力へと変換しておる」

 その魔力を利用して、ゴーレムなどを動かしていたらしい。

 石油から電気を作り出して、家電を動かしているようなモノだ。発電だけなら何を燃やしても行えるが、効率がいいのが石油燃料や天然ガスという事になる。

 マナクリスタルというのもそうした燃料と同様なのだろう。


「またマナも魔力に影響を受け、人体の中にあるマナが影響を受け続けると、ミュータントになってしまうのじゃ」

 その辺は魔導技師としてアリスの身体を診たので、何となくわかる。

 魔力を受けると体組織が活性化して、普通以上の力が発揮される。魔法として筋力や敏捷性を一時的に上げるのもそうした仕組みだ。

 ミュータント化というのは、それが無秩序に埋め込まれた状態で、正常な他の組織を押しのけてでも力を出そうとするので暴走してしまう。


「そういえば俺達はミュータント化しないのか?」

「うむ、厳密に研究したわけではないが、一年くらい連続して浴び続けんと、ミュータント化には至らぬのではないかと思うておる」

 ルフィアにはアリスの身体を回復するために調べてもらっているが、すぐには成果を期待できるものでもなさそうだ。

「まあ、魔力の漏洩など浴びぬほうがいいのは確かじゃが……うむ、停止したぞよ」

 そういいながらルフィアは更にパネルを操作する。すると炉の一部が開いて、中が覗けるようになった。


 そこを覗いてみると、空間に何本かの支柱で支えられた水晶が見えた。

「これがマナクリスタル? ていうか、まだまだ残ってるのか」

「かなり小さくはなっておるが、まだ千年は保つのではないかの」

 現実で考えれば途方もないエネルギー量だろう。


「これを使うと強力な魔法が使えたりするんだ?」

「ちゃんと制御できればの。しかし、下手をするとすぐに暴走して辺り一体が消し飛ぶじゃろうな」

「ふぉっ!?」

 俺は慌ててクリスタルから距離を取る。


「簡単には暴走せんが、近寄らんほうが身のためじゃな」

 ルフィアはそう言って炉のパネルを閉じた。

「凍結状態しにて、地下に退避させておくのじゃ。マスターコードが無いと再起動できぬようになる」

 そしてそのマスターコードは、何百年もの時間で失われているだろう。


 これでこの魔導炉は完全に停止して、魔力の放出が止まる。周囲のミュータントも魔力の供給が止まれば、暴走しなくなることだろう。

 そうすればまた自然な形で植物が生え、動物が戻ってくるはずだ。

 ルフィアが望む元のバルトニアに戻るには、かなりの時間を要するのだろうが……。

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