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戦後処理とキャラの育成

「先輩、やってきたっすよ!」

 明るい声と共に話しかけてきたのは、先日Sleeping Onlineの体験会に行ってくると言っていた後輩だ。


「アレっすね、朝が違うってああ言うことなんスね」

「ああ、寝起きもいいし、身体の疲労感も全然違ってただろ」

「確かに、あれならゲームの記憶が無くてもいいって感じス」

 ゲーム中の記憶は夢の中に消える。その儚さと翌朝の調子だけが、現実の俺の感触だがそれだけでも満足していた。


「今度、月額サービス始まるじゃないッスか。本気で考えますよ」

 今のところ月2万という金額は、毎月支払うにはなかなかに大きい。

 ただ毎日の事を考えるなら、決して高くないとは思う。

 安眠は何物にも替え難い恩恵、そう感じるようになったのは社会人になってからだった。


「まあ、まだ数ヶ月ほど先らしいっすけどね」

 その頃にはまたプレイヤーが増えるのか。他のプレイヤーに先んじた事が有利になっているのかどうか。ゲーム内の俺にしか分からない事だった。




「どうしてこうなった……」

「ふふふ、嬉しいくせに仕方ないやつじゃ」

「ルフィア様、ずるいですよ!」

 ログインするなり美少女2人に抱きつかれるという羨ましいシチュエーション。だが実際にやられてみると疲れるものであった。


「何やってんだ、行くぞ」

 リオンの冷めた声が届く。そういえばリオンは俺よりも早く来て、俺よりも遅くログアウトしてるみたいだな。

 俺よりも若い、学生かなあと思ってはいるが、リアルを詮索しないのもネトゲのマナー。

 今は楽しく行動をともにしてくれるだけでありがたい。



 謁見の間へと行くと、国王であるシャリルと戦地調停官として監視役を務めるイザベラが待っていた。

「そなた等は我が国の救世主だ。何らかの褒美を与えたいところだが、今は国を立て直すのに精一杯でな。何らかの手助けが必要な時は気兼ねなく申し出てくれ」

 シャリル……なのか?

 根暗で投げやりだった国王陛下は、僅かばかりの威厳と爽やかな笑みを浮かべていた。

 あまりの豹変に影武者かと思うほど。


「オタリアとしても紛争を終結させ、更なる戦乱の芽を摘んでくれたあなた方に報いる用意はあります。遠慮なく言ってください」

 イザベラも国王に追随する形で申し出てくれた。



「まずは復興に力を入れてくれたら何よりです。後はこの先の地図なんかがあると嬉しいですね」

「この先と言うとバルインヌの事か?」

 また新しい地名が出てきたな。

「元々バルトニアという国があった辺りを目指しているんです」

「うむ、魔導兵器によって崩壊した元バルトニア領は、その多くが廃墟となり、バルインヌ地方と呼ばれている」

 なかなかに厄介そうだな。食料の補給ができないとルフィアが動けなくなる。それは魔力を補給してもらっているアリスにも言えることだ。


「まだ魔導炉の余剰魔力があって、人はあまり住んでいないが、中にはほそぼそと暮らす人もいる。私達が把握している限りのメモを記した地図を用意しよう」

 イザベラはそんな事を提案してくれた。

「それは助かります」

 これは思わぬ収穫だ。ポタペディアにはプレイヤーが知った情報が有志によって上げられているだけ。

 こうした細かな情報は自身で調べるしかなかった。

「ではちょっと手配してくるから待っていてくれ」

 イザベラが席を外す。



「国王、本当に、国王なのか?」

「もちろんだ。君達が助け出してくれて、こうして玉座に戻ることができた」

 爽やかに笑みを浮かべる青年には影がなくなっている。

「イザベラは素晴らしい人だよ。余の曇った瞳を見開かせてくれた。彼女とならこの国を立て直せると信じている」

 どうやら俺がログアウトしている間に、すっかりと調教されてしまったようだ。

 属国の傀儡政権誕生とか、見過ごしていいのか判断に苦しむが、オタリアにとってはブリーエが存続したほうが良いはずなので、信じよう。


「彼女は分家とはいえ王族に連なる血族らしい」

「そうなのか?」

「家柄としても申し分ないし、この復興事業がうまくいけば求婚しようと思うのだが、どうだろう?」

「いいんじゃないッスかね」

 適当に相槌を打つ。

 もはや調教と言うより洗脳の域なのかもしれない。本人が幸せで、国内も安定するならそれでいいのかな……。




 俺達はイザベラから地図を受け取ると、ブリーエの王城を後にした。

 既にいくつかの告知は出されているらしく、街の中は人が出歩くようになっている。

 出兵していた軍勢にも帰還、解散命令が出され、農村から徴兵されていた人々は地元に帰り始めたそうだ。


「このまま平和な国になってくれるといいな」

「冒険者として飯の種を減らしてるんじゃないか?」

 リオンのツッコミにしばし考える。

「いや、NPCの不幸が減るなら、ネコ探しでも、不倫調査でも俺はやるよ」

「僕は戦いたいんだけどな」


「のぅ、アトリー。わらわはとっても不幸なのじゃ」

「だからこうして元の国へと旅してるじゃないか」

「そうじゃなくてじゃな、いつも邪険に扱われて寂しい思いをしておるのじゃよ」

「はいはい、屋台で美味しいも食べましょうね〜」

「くぉっわらわがいつも食い意地が張ってると思うでないぞよ!」

「なら要らないのか?」

「それはそれ、これはこれじゃ」

「屋台も増えてきてるな、いいことだ」

「ふむ、なかなか旨そうじゃの」

 見事に気を逸らされたルフィア。ある意味チョロインだな。


 ルフィアの逆サイドからそっと手を握ってくるのはアリス。

「私はこれで満足ですから」

 などといじましい事を言ってくる。計算ではじき出した媚び方なのか、自らを戦闘人形と卑下してしまっているのか。

 ひとまずアリスの手をしっかりと握り返した。



「そういえば裁縫ギルドとかに行ってないな」

 ブリーエにもその土地に応じた刺繍柄やレース型があるかもしれない。

「また裁縫なのか?」

「リオンも木こりで分かっただろう? 戦闘以外のスキルでステータスを上げるのも有効だって」

「しかし、筋力を上げるなんて何を上げれば……」

「そうだな、例えば鉱石を掘る探鉱スキルや重いものを運ぶ運搬スキル何かはどうだ?」

「地味だな」

「修行ってそんなもんだろ」

「そうか、修行なんだな」

 それで納得してしまったようだ。意外とリオンもチョロインだな、攻略はしないけど。



 そんな訳でしばらくリオンと別行動を取ることに。アリスやルフィアにも小遣いを渡して、好きな物を買ってくるように伝えた。

 俺は裁縫ギルドに行って、新たなレシピ本を購入。刺繍やレースの図面をパラパラとめくる。

「ん?」

 最初の街から離れたら強いレシピが手に入るかとも思ったが、そんなことはなく、上昇値はほとんど変わらない。

 ただその図面を見るうちに、気づくことがあった。


「これってアリスに掘った刺青の一部?」

 厳密に比べれば違うのだろうが、模様の分岐の仕方など似通った部分も多く見られる。

「もしかして……」

 過去のレシピ本も取り出して見比べていくと、似通った箇所、共通点が見えてくる。

 更には共通点を探すうちに、模様の一部が色づいて見えるようになってくる。


「これって」

 ポタミナを取り出してスキルを確認してみると、〈魔導技師:解析〉に派生していた。

「裁縫のレシピに魔導技術が隠れているのか」

 能力を上げる図式は、体内の魔力を調律して効果を発揮していたようだ。


「となると、この能力によらずに共通している部分と、能力毎に共通している部分がポイントか」

 器用さに関する刺繍やレースの柄から共通点と、各街毎に違っている魔導技師で判別できる箇所を集めて一つの図案にする。

 それを刺繍で作品として仕上げて装備してみると。


「ビンゴ!」

 器用さの上昇率がアップしていた。オタリアからブリーエまでの4つの街で集めたレシピで約4倍の上昇率。このまま重ねていけば、かなりのドーピングになるな。

 いや能力を絞らずに組み合わせたら、全体を上げれるのか?

 無理矢理、各能力の共通点を集めて、街の特徴部分も並べて作ってみると、上手く能力が発動しなかった。


「魔力の流れが阻害されて、打ち消し合ってるのか」

 単純な俺最強は無理っぽいな。

 とりあえずリオンの為に筋力増強マフラーを作っておいた。



 街の出口で合流すると、ルフィアとアリスは装いが変わっていた。

 俺のスキルが未熟で飾り気のなかった服装に、ショールやブローチなどか増え、色合いも変わっていた。

「似合ってるな、二人共」

「当然じゃ」

「兄様の服をベースに少しだけいじりました」

「いやセンスいいよ、デザインは任せた方がいいな」

 普段はあまり服装に気を使っていない俺よりは、女性陣の方がセンスが磨かれている。

「下着も変えたのじゃ。どうしてもと言うなら見せてやらんことも……」

 言いながら、既に脱ごうとしているルフィアから視線を外して、リオンへと向き合う。



「これ、リオンに。前に破れてからそのままだっただろ」

 リオンへとマフラーを差し出す。

「え、これを、僕に?」

「ああ、なんだかんだで一緒にいてくれるし、戦力として期待してるからな」

 驚いたように瞳を見開き、しばし視線が左右に揺れる。それから頬を赤くしながら受け取ってくれた。

「あ、ありがと……」

 視線を外しながら感謝の言葉を述べた。いや、攻略対象じゃないからね!


「ステータスの上昇効果もあるからっ」

「ホントだ。アトリー凄いね」

 素直な称賛の言葉に、攻略フラグがどんどん上がっている気がしないでもない。

 ないから、リオンは男の子だからっ。



「僕の方も他のスキルを取ってきた」

 そう言ってポタミナを見せてくる。非戦闘スキルとして、木こりの他に探鉱、運搬、騎乗が増えていた。

「馬に乗れるようになったのか」

「運搬の中に馬車の運転もあったからな」

「なるほど、旅が楽になりそうだな」

「まあ、馬車が高くてすぐには買えないけどな」


 各自の準備が整って、ブリーエの首都を離れてバルインヌ地方へと向けての旅を開始した。

アトリーのスキルが〈魔導技師〉から〈魔導技師:基礎〉〈魔導技師:解析〉に派生。

そろそろ技能特化の片鱗が見え始めます。

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