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いざプレイ開始

 戦闘のイロハを教えられたところで、無事に学校は卒業となった。卒業証書代わりに、『使い古されたショートソード』をもらえた。

 今後も各種スキルを習得する為に通うこともできるそうだ。

 そのうちアンナと、素手格闘で組んず解れつしてやると心に決めて、学校を後にした。


 最初の説明で冒険者となれば、酒場で掲示板に貼られたクエストを受けたり、街中で困った人を助けたりすることで報酬がもらえるとの事だった。

 所持金の150Gというのは、小遣い程度。一回食事で5G、宿に泊まると普通の部屋で50G、通常の武器を買おうとすると100Gと、全然足りない。

 一応、宿屋でも馬小屋なんかを選べばタダで泊めてくれるらしいが、最初のうちは泊まらなくてもいいだろう。


「早いところクエストをクリアして、懐を温めないとな」

 何と言っても学校でもらった革鎧は、足軽の胴丸程度。正直格好が悪い。

 街中にはちらほらと他のプレイヤーらしい、同じような装備の人間を見かける。

 そのうちパーティを組んで冒険する事も出てくるだろうが、まずは一人で色々と見て回ろう。



 街中をある程度散策した俺は、酒場へと足を踏み入れる。

 昼間という事もあり、そこまでの賑わいはない。プレイヤーらしき人が壁に向かっている。あそこが掲示板だろう。

 アンナに散々しごかれた事もあり、まずは酒場のマスターにビールを頼む。1Gの料金は、シャリーンとポタミナをかざすことで払えた。電子マネー決算は便利だ。

 ビール片手に掲示板を見てみると、いかにもといった序盤用クエストの張り紙があった。

『グラスボア退治』

『キノコ採取』

『荷物配達』

 といった感じだ。受領はポタミナをかざして、OKパネルをタッチすると受けられる。

 何ともゲーム的だが、こうした汎用クエストで、いちいち酒場マスターと話して確認するのも面倒だ。

 ひとまず受けられるモノを一通り受領して、酒場を出た。


 受領したクエストはポタミナで詳細を確認できる。

 グラスボアというのは、街の外の平原にいるイノシシ型モンスター。それの退治で100Gがもらえるらしい。

 キノコ採取は平原の先にある森での探索。荷物配達は街中でのお使いだ。


「戦士だし、モンスター退治からかな」

 俺は街を出て平原を目指す。



 門番に止められることもなく街の外へ。草原には心地よい風が吹いていて、草の匂いを運んでくる。

 少し離れた所にある茶色い毛玉がターゲットのグラスボアだろう。

 増殖すると作物にも被害が出るということで、退治の依頼が出ていた。


「よし、やるか」

 毛玉へと近づいていく。グラスボアは、自分からは攻撃してこないノンアクティブなモンスター。周囲のやつと連携するリンクもない……はず。

 ショートソードを抜いて、斬りかかる。最初の一撃は、警戒していない所を攻撃したのでほぼ自動的にヒット。

 思っていたより固い手応えは、人形を叩いた時とあまり変わらない。

 変に生々しいと罪悪感が沸くからだろうか。

 

「ブモッ」

 叩かれたボアの方は、俺の方を見上げて一声鳴いた。高さは俺の太ももくらい。短い牙が生えていて、俺を見据えて足を掻いている。

「うお、改めて向き合うと怖いな」

 そんな怯みを感じたのか、ボアが突進してきた。短時間とは言え百叩きにあった体は、即座に反応してくれた。

 直線的に突進してくるボアを、横方向に避ける。

 大きく弧を描きながら、再び向かってくるボア。その頃には多少の心構えもできた。

 さっきと同じ要領で近づいてきたボアを横に躱し、通り過ぎざまにショートソードを振り下ろす。

 確かな手応えはあったものの、まだボアは倒れない。

 ただ突進はやめて、歩いて近づいてきて頭突きを狙ってくる。


「おっと」

 首を振るのに合わせて、突き出してくる頭に剣を当てる。思ったより強く弾かれて、体勢が崩れた。

 そこへ牙が振られて、咄嗟にガードしようとした左腕に痛みが走る。

「痛いな、こらっ」

 牙を振ったことでこちらに晒された首元に、ショートソードを叩きつけた。


「ブモッ」

 鳴き声と共に体勢が崩れる。そこに脳裏で『ファストアタック』と唱えて、アクションコマンドで連撃した。

 ガシャン!

 そんなガラスが砕けるような音と共に、目の前のイノシシが砕け散った。

「へっ!?」

 リアルな生き物が途端に作り物となって砕ける姿に、かなりの戸惑いを覚える。

 しかし、少しすると『ああ、ゲームなんだ』という感想が生まれた。

 リアル過ぎるモンスター討伐は、『生き物を殺した』という罪悪感も伴う。

 デジタルデータな過ぎないという気持ちは、長くプレイする上で必要な措置なのかもしれない。


 グラスボアを撃破したことで、背中に背負っていたリュックが少し重くなる。

 ポタミナを確認すると、所持品にボアの毛皮が追加されたというメッセージ。

 一応、リュックを下ろして中を確認すると、そこは黒い闇。手を入れて、ボアの毛皮と念じると、手にふさっとした感触があり、取り出してみるとイノシシの毛皮が出できた。

「こうやってドロップ品を手に入れるんだな」

 死体から剥ぎ取るとか生々しい事をしなくて済むし、血が滴る毛皮を背負う必要もない。

 リュックの中は、手を入れて欲しい物をイメージすると取り出せる。

 ゲームとして簡素化できる部分は、ちゃんと考えられていた。

 わかってるな開発。



 それから4匹のグラスボアを退治してクエストの達成を確認。カウントはポタミナで自動で行われ、達成すると報酬も電子マネーとして追加される。

 味気ないと思う反面、やはり便利ではあった。


 俺は続いて『キノコ採取』を行いに、森の方へと足を運んだ。

 木々に光を遮られた森は、少し薄暗い。やや湿った空気に、独特の匂い。

 そのリアリティに、やはり感心する。足元はややぬかるんでいて、油断すると足を滑らせる。

 苔の生えた石とかは注意すべきだな。

 初期装備のサンダルは、大した滑り止めもないし、草がワサワサ触れるとむず痒い。靴を最初に買うべきだな。


 木の根元辺りに生えたキノコを発見。茶色い傘に、白っぽい茎と、しいたけを思わせる。

 3箇所ほどそうしたところでキノコを採ると、クエストを達成できた。

 ポタミナのアラーム機能に気付いたので、クエスト達成時に音がなるようにしてある。



 2つのクエストを達成したところで、街へと帰った。

 最後の『荷物配達』は、八百屋から酒場へと野菜を届ける仕事。

 キャベツに人参、大根、トマトと見知った野菜が木箱に入っている。

 それを目的の酒場へと届けると、報酬とは別に野菜ジュースがもらえた。

 ポタミナに振り込まれるだけじゃないのかと、少し安心する部分もある。

 街の住人から直接受けるクエストなんかでは、ちゃんと会話もあるし報酬も手渡しになりそうだ。


 『キノコ採取』と『荷物配達』でそれぞれ50Gが振り込まれ、所持金は349Gに。靴くらい買えるかなぁと思っていると、ポタミナからアラームが鳴った。

 確認してみると『覚醒の時間が迫っています。安全な場所でのログアウトをお勧めします』というメッセージ。

「覚醒? あ、目が覚めるのか」

 ポタミナに表示された現実時間を確認すると午前7時。いつも目覚める時間の30分前になっていた。

「ログアウトするか」

 丁度酒場なので馬小屋を借りてログアウトすることにした。

 ポタミナからアイコンを選択すると、徐々に意識が薄れていった。

誤字修正

油断るすると→油断すると(20161215)

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