ブリーエ城陥落
リオンがウォーハンマーを構える隣で、大臣のおっさんを後ろ手に縛る。
「早く武器を捨てろ」
周りの騎士達に言うが、互いに顔を見交わすだけで武器は手放そうとしない。
「もういいだろ、やっちまうぞ?」
リオンが俺に確認するように言うと、騎士達は我先にと逃げ出したいった。
「アンタ、人望がないな」
「たたた、助けてくれ、金なら払う」
「はいはい、そういうのはいいからね〜」
猿轡も付けて黙らせる。
「とりあえずイザベラさんと合流しないとな」
大臣を引っ立てリオンに任せると、アリスを背負い直して王城へと向かった。
王城にたどり着くと、跳ね橋が上がっていて逃げ出した騎士達が固まっていた。
「どうなっている!」
「跳ね橋を下ろせ!」
口々に叫んでいる。
「あれってやっぱり、城内からしか操作できないよな」
「当然だ。ブリーエの城は強固、なまはかな軍勢なら持ちこたえられる」
大臣が偉そうにのたまうと、リオンがパシンと頭を叩いた。
怪力なんだから程々にしとけよ、おっさんの首もげそうだぞ。
「さて、イザベラさんやルフィアを見つけないとな……」
『姫を付けい、姫様を!』
拡声器を通した声が辺りに響いた。
「おお、地獄耳だな。というか何処にいるんだ?」
『ブリーエ城はこのルフィアが頂いたのじゃ』
『ルフィアさん、ややこしくなるのでどいてください』
イザベラの声が割り込んで来た。
『私はオタリア国戦地調停官イザベラです。こちらはシャリル・フォン・ブリーエ国王、並びに内務大臣、外務大臣を拘束しています』
城内を制圧した上で、要職の面々も捕縛されたようである。
どうやらプレイヤーの役割は、ゴーレムを撃破するところで終わっていたらしい。
『そちらには軍務大臣も捕縛されているはず。これ以上は無駄な抵抗となるので、大人しく兵舎にて沙汰を待ってください』
「オタリアの戦地調停官……」
「大国を怒らせるから」
「俺は無理だって言ったんだ」
オタリアの名前が出たことで、騎士達は諦めたように武器を放棄していた。
跳ね橋がゆっくりと下りてくる。城内へと続く道ができたので、俺はアリスを抱え直して中へと入った。
そこにはイザベラと同じ服装をした男が待っていて、軍務大臣を引き取ると、イザベラ達の所へと案内してくれた。
赤い絨毯の敷かれた大広間。
奥には段差が設けられ、玉座が据えられている。そこには硬直するように座る国王の青年、その隣にはイザベラが立っていた。
その正面には、膝を付くように拘束されている2人の中年男性。さらには、案内してくれた男と似通った人が4人ほど。
どうやらイザベラの部下みたいだ。
「おお、こっちじゃ」
脇にあるテーブルでルフィアが手招きしていた。テーブルには何か料理が載っている。
「何か場違いな奴になってないか?」
「食いしん坊姫だからな」
とりあえず、アリスを座らせられそうな椅子もあるので、そちらへと近づいていった。
「ルフィア、とりあえずアリスを診てやってくれ」
「ん? もう容態は安定しておるぞ」
「へ?」
「兄様の背中、広くて暖かいです」
途中からは仮病だったようだ。俺はアリスを椅子へと落として、玉座の方を注目した。
「これより、オタリア国とブリーエ国の戦地調停を行う。この度、コルーニャ砦に対して行われた侵攻に対して、申し開きをする者はあるか?」
「此度の侵攻は国王に従ったまで、我らは無茶だとお諌めしたのだ」
内務大臣が声をあげる。
「そうだ。しかし、魔導炉に隠されていたミュータントやゴーレムを発見して、強気になられた陛下が一令を発したのだ」
「ゴーレムはまだ調整ができず、戦線には投入できなかった風を装いましたのは、オタリアの被害を抑える為で……」
外務、軍務の大臣達も口々に勝手な事を言う。
「この者達の言うことは確かか?」
「ああ、そうなんだろうと思う」
やはり厭世感のある国王は、全てを投げやりに受け止めて、適当な責任を負うつもりなのだろう。
「では今回の戦役における責任は、シャリル国王にあるということだな」
イザベラの言葉に大臣ズは一様に頷く。
「では責任者である国王と話を詰めようと思う。そなた等は下がってよい」
「え、お、お待ちを!」
「陛下は国内を分かってない部分もあって」
「我々がいないと!」
しかし、イザベラの決定は覆らず、部下の男達は大臣達を謁見の間から連れ出していった。
騒がしい大臣達がいなくなり、しばしの静寂に包まれ……。
「ほほぅ、これはなかなか旨いな」
なかったようだ。
豚足を煮込んだ料理を頬張る姫様は、ご満悦の様子。
イザベラも毒気を抜かれたようにため息をつくと、国王を伴ってこちらへと歩いてきた。
「さて、具体的に戦後処理を進めようと思うがよいな?」
イザベラはテーブルにあったワインを手にすると、口をつける。
「オタリアに併呑されるんてしょう? こちらは受け入れるしか無いよ」
国王の青年は国王の座から降ろされるのは覚悟の上らしい。
「オタリアはこれ以上、国土を広げる余裕はない」
国土は広ければ広いほど強いように思われるが、広くなればなるほど統治は難しくなる。
接する国が多くなれば警備する人員も増やさねばならない。
中央から離れた箇所には領主を置いて、管理を任せなければならないが、そうなると私腹を肥やす者も出てくる。
内乱には至らなくても、様々な軋轢が生じると国民へもしわ寄せが出てくるのだり
「ではブリーエはどうなると?」
「属国として独立を維持したまま、不可侵条約を結ばせる」
イザベラの下へ部下の男が近づき、一枚の書状を渡す。
「ここにあらましが書いてある。しかと読み、問題なければ署名せよ」
「こちらは敗戦国だし、断る事もできないから……」
斜め読みに確認を済ませた国王は、サラサラと署名してしまう。
「ふむ、この条文を了承したのだな?」
「ああ、それでいいよ」
「では刑の執行を行う」
「へ?」
国王はイザベラの部下に取り押さえられ、四つん這いの姿勢に。
どこから取り出したのか、馬を打つ為の鞭を手にしたイザベラは、国王の脇に立つ。
「な、何を!?」
「書状に書いてあっただろう? 国王を尻叩き百発の刑に処すと」
「は!?」
そんな事が書いてあったのか。
俺が国王の投げやりな様子を伝えたのと、広場から王城に至る間にもやり取りがあって、こんな刑罰を与える事にしたのか。
「はひっいっ」
「まだ5発だ、先は長いぞ?」
嗜虐の笑みを浮かべるイザベラの様子に、単なる趣味かと思わされる。
「アリス、まだ体調は優れないだろう。別室を借りて休もう」
「はうっ」
「わかりました、兄様」
「おふんっ」
「わらわも魔力変換に食休みじゃな」
「あうつっ」
「あのゴーレム、大したことなかったな」
「ひおうっ」
奇声を発する国王を置いて、俺達は別室で休ませてもらう事にした。
「そういえばゴーレムと戦っている時に、ルフィアの声が聞こえたんだが、何かしてくれたのか?」
「うぬ? 何の話じゃ?」
きょとんとした表情を浮かべるルフィア。どうやら俺の幻聴に過ぎなかったみたいだ。
「その声でゴーレムの魔力の流れを感じれるようになったんだが」
正確には思い出したという感じか。ルフィアやアリスの身体を調べた感覚を、ゴーレムにも使えた。
「ふふふっ、それにしても普段は邪険にしつつも、心の中ではわらわを求めるとはのぅ。ツンデレというやつかや?」
ルフィアがニヤニヤ顔を浮かべた。
「いや違うから、魔導技師に関するスキルだったからだから」
「うむうむ、分かっておるぞよ」
全くこっちの言い分を聞きそうにない。
「あ、ログアウトの時間だ。またなっ」
「逃げるのかや!?」
ルフィアに感謝はしてるのだが、それを認めると何か色々面倒そうなんだよな。
俺はそのままゲームの世界から離脱した。




