表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/117

刺青

「というか俺がやるのか!?」

「うむ、思ったよりも魔力を感じられるようじゃし、何より手先が器用じゃからの」

 アリスの腕を撫でて様子を見る。

「今は乱れも落ち着いておるし、何よりソナタもアトリーにしてもらう方が良かろう?」

「はい、兄様。お願いします」

 アリスに微笑まれると断る事もできない。

「わ、わかった、やってみるよ」


 うつ伏せになったアリスの腕に改めて触れる。様々な流れが混在し、流れを整える事などできそうにない。

「そなたは細かい部分は考えなくともよい。肩から二の腕に流れる魔力の本流が渦になってる箇所を見つけよ」

 やや熱を持ってるように感じられるアリスの腕をなぞっていく。細かな流れの中に、ひときわ大きな流れを見つけ、それが滞っている場所が感じられた。

「こ、ここか?」

「大体その辺りじゃな。その位置にこの図案のここを合わせて、後は大きさも模様もこのまま写し取ればよい」

 図案はそれなりに大きく、二の腕から前腕部まで覆う大きさだ。

「これを描ききるのか」

「何、お主が普段やってる手芸と同じようなものじゃよ」

 針を刺していくという点は似てるかも知れないが、糸を通すのと色を置いていくのはかなり違う気がする。

 何よりもキャンバスとなるのは、生きた身体。かなりの覚悟が必要だった。


「兄様なら大丈夫ですから」

「う、うん……」

 アリスからの信頼が重い。

 ルフィアが買ってきた薬研で、各鉱石を細かく砕き、霊銀砂と呼ばれる粉と混ぜていく。

 鉱石と混ざると銀が溶けて、少し粘性のある液体に変わる。それを数本の針を束ねた器具につけて、肌へと入れていく。

 まずはラピスラズリの粉末を使った青で始める。



「んくっ」

 針先が肌に食い込み、アリスの口から声が漏れる。戦闘用のホムンクルスではあるが、痛覚は人と同じ。痛みに鈍いと繊細な体捌きができないらしい。

 白く透けるような肌に、黒ずんだ青が入っていく。

「気持ちもう少し奥までじゃな」

「あ、ああ」

 指先の感覚と、食い込む針の長さ、ルフィアの指示を聞きながら、手探りでの刺青を施していく。



「ん、んんっ、ふんっ」

 アリスのこらえる声を聞きながらも、手を止めるわけにもいかない。

 たまに視線が合うと、涙で瞳を潤ませながらも健気に笑みを浮かべてくる。

「ほれ、よそ見をしとる場合か」

 ルフィアはアリスの様子を見ながら、何やら手を動かしている。俺が作業しやすいように、暴れる魔力を抑えてくれているようだ。

「あっ、んんっはぅっ」

 しかし急ごうと手元が狂うと、アリスに負担を掛ける事にもなる。

 焦らず手早い動きが求められた。



「ふむ、ここいらで休憩じゃな」

 青の刺青が終わったところでルフィアの声に制止される。

「なかなか良いな」

 アリスの腕を取って刺青の後を確認する。溢れた染料を落とすと、黒っぽく見える前で図柄が描かれてあるのが分かる。

 ただ針を入れた周辺は赤くなっていて、負担をかけているのも分かった。


「一気にやらないとダメなのか?」

「うむ、既に刺青による制御がかかっておるからの。魔力による制御は難しくなっておる」

 そう言いながらアリスの腕をさすっている。

「赤と黄は補助で入れる分ゆえ、それほど時間もかからぬであろう。一息入れたら、一気に仕上げてしまうぞよ」

「アリスは大丈夫か?」

「はい、兄様。私は寝ているだけなので」

 肌を針で刺され続けるのに耐えるのは、かなりの疲労感を伴うはずだ。

「痛みを麻痺させる訳にはいかないのか?」

「ただでさえ乱れている魔力に更に魔法を加えたら、流れが見えなくなるのじゃ」

 ルフィアも当然検討はしたのだろう。やはり俺が素早く作業を進めるしかなかった。


 30分ほどのインターバルを入れて、再び作業を開始する。赤と黄の染料を作り、針に浸してアリスに刺していく。

「んあっはぁむっ」

 少し休憩を入れたことで、痛みの感覚が新たになってアリスの声が跳ねる。

「もう少しだ、頑張ってくれ」

「は、はい、兄様っ」

 焦る気持ちを抑えつつ、正確さを優先して図柄を完成させていった。



「これで、終わり、だ」

 黄の染料の最後の一刺し。

 レシピのある刺繍と違って、ルフィアの図案を元に立体的な腕への作業。器用さによる補正はあるとしても、なかなかの疲労感があった。

「ふむ」

 ルフィアが余分な染料を拭き取り、魔力の流れを確認する。

「さすがわらわの図案、しっかりと制御できておるわ」

「腕が、指が動きます、兄様」

 どうやら成功したようだ。


「まだ治療できたわけではないからの。くれぐれも無茶はするでないぞ。わらわは魔力が尽きそうじゃから補給してくるのじゃ」

 ルフィアはふらふらとした足取りで部屋を出ていった。

「兄様、ほら指までしっかりと動くんです」

 そう言って俺の手に重ね、指を絡めるように握ってくる。

「アリスもよく頑張ったな。痛かったんだろう?」

「少し……兄様相手だから頑張れました。でも頑張ったご褒美が欲しいです」

「ん?」

 どちらかというと従順なアリスの申し出に少し戸惑っていると、アリスの身体が密着してきた。

「頭を撫でて欲しいです」

「んぁっ、あ、ああ」

 左手はアリスに掴まれたままなので、右手で頭を撫でてやる。サラサラとした髪が、やや湿っている。

 痛みを堪える際にかなり汗もかいていたようだ。

「よく頑張ったな」

「はい、兄様」

 頬を胸にすり寄せるように密着してくる。汗ばんだ少し熱っぽい身体。少し早くなった鼓動が感じられる。ちょっとやばくないか。


「兄様に傷物にされました。責任取ってくださいね」

「ふぁっ!?」

 思わず離れようとする身体を、アリスの腕が抱え込んでいる。もちろん、意味分かって言ってるんだよな。

 NPCとはいえ好感度高すぎじゃないか。ちょっと洗脳されてるのを解いて、命を救った程度で……十分か。

 でも半分以上はルフィアのおかげだしなぁ。


 俺の煩悶とした様子に、アリスはペロッと舌を出してきた。

「冗談です。私は人間じゃなく造りもの。戦闘用ホムンクルスですので、分はわきまえてます」

「い、いや、そういうことじゃないよ。いきなりでビックリしただけで」

「兄様は優しいです。だから側にいさせて貰えれば十分……」


「何をしておるかーっ」

 部屋の入り口に戻ってきたルフィアは、手に豚トロの串焼きを持ったまま、特攻してきた。

 大口を開けて残りを口に放り込むと、串を投げ捨てながら突っ込んでくる。

「ちょっと目を放すとこれじゃ。恩人のモノに手を出すでないわ」

「それとコレとは話が違います。いくらルフィア様とはいえ、人形には出来ない事もあるのです」

「わらわの魔改造を甘く見るでないのじゃ。あんな事や、こんな事くらいできるぞよっ」

「まてまて、お前ら冷静になれ」

 いくら人形と思い込もうと、まだ子供っぽい妹と思い込もうと、身体はそれなりに成長している。

 とびきりの美少女に挟まれてわやわやされては理性が保たない。


「お前らなぁ、何やってんだよ」

 入り口に現れたリオンの声でようやく2人の暴走は収まった。



『NPCの好感度が高すぎる件』

 マサムネに少し愚痴をこぼしてしまった。なんだかんだで無理をしていたアリスと、食料は補給したものの魔力への変換が追いついてないルフィアは、ベッドで安静にしている。

『今更だな。この世界のNPCの女の子は結構、好感度が高いと言うか慕ってくれるぞ』

「そうなのか」

『お前、シナリちゃんの相手はしてやってないのか?』

「へっ? シナリ?」

『明らかにフラグ立ってんだろ。ちょっと口説けば落とせるぞ』

 おいおい、マサムネがそんなチャラい奴とは思わなかったぞ。


『その辺、議論スレが立ってただろ。推論で支持が多いのは、少子化対策の一環で、ゲーム内で女の子と仲良くなれば、現実でも女子に抵抗がなくなるとか』

「なんだよそれ、記憶が残らないから意味ないだろ」

『夢とは言え、潜在的な記憶には残ってるんだ。影響が無いとも言い切れない。逆にこっちの美少女達との記憶はない方がいいかも知れんし』

「何かNPCに手を出す口実を作ってるだけのような……」

『まあギャルゲーの女の子を落とすのと同じ感覚ではあるんだろうな。彼女達も俺達を喜ばせたいと思ってるんだし、深く考えずにWin-Winでいいじゃないか』

「というかマサムネ。お前まさか」

『それこそ今更だろ。メーべはマルセンのすぐ近所だし、野盗から助けた時点で好感度高いし』

 そ、そんな状況になってたのか。というか、チャップもそうなんだよな……以前、魔導炉に潜入する際、断られたのはまさか。


『まあ好感度高いNPCがいるなら、程よく相手してもらえばいいと思うぞ。時間操作は知ってるか?』

「それなら最近知ったとこ」

『アレ使えば、夜も長くなるからな』

 おおう。生産職として作業に使うものかと思ってたら、お楽しみにも使ってるのか。



「それでアリスはどうなんだ?」

 リオンが聞いてきた。

「とりあえず、右腕の処置はしたが、あくまで暴走するのを抑える為の処置らしい。一応、右腕を自由に動かせるようにはなっているが、無理はさせられない」

「ふむ、そうか……」

「だからまだ襲ったりするなよ」

「分かっている。全力を出せない奴を潰しても面白くないからな」

 さっきは争うようにしていた2人だが、今は仲良く並んで眠っている。

 俺達は街中へと繰り出すことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ