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目的の確認と次への準備

「別にアンタの為に残った訳じゃないからな」

 憎まれ口を叩きながらマフラーの切れ端を拾うリオン。

 俺はほころびそうになる口元を引き締め、今は何も言わない。多分、何を言っても反発される。


「兄様!」

 その声に振り返ると、喉元に衝撃。そのまま地面へとなぎ倒される。

 そのまま馬乗りになってこちらを見下ろしてくるアリス。

「兄様なら私が守ります。こんな無法者の力など無くても!」

「いや、アリスは万全じゃないだろ。それに役割というのがあってだな……」

「私じゃダメなんですか、どうすれば認めてもらえますか!」

 襟首を掴みながら、顔を近づけてくる。ヘッドバットされるかという勢いだ。

 が、アリスの頭は俺を逸れて、地面へとぶつかる。


「お、おい、アリス!?」

「だから無茶をするなと言うたのに。しばし回復に時間がかかるぞよ」

 どうやら俺を受け止めた為に、抑制していた力の一部を使ってしまったらしい。

 ルフィアはアリスを仰向けにすると、何やら治療というか調整を始める。


「気配はのうなったども」

 マタクは一連のやり取りに流される事無く、周囲の様子を見てくれていたようだ。

「あの魔族が原因で獣達が逃げていたのなら、これからは落ち着いてくれるでしょう」

「そんだな、しばらぐ様子さ見てみんど」

「俺達も武器が壊れたんでしばらく村に滞在してみます」



 リュックを前に回して、意識の戻らないアリスを背負うと下山を始める。武器は無いがリオンに守ってもらう形だ。

 ルフィアは魔力が尽きたと、お弁当のバケットにハムを載せてかじっている。

 幸いにしてまだ魔族の気配に怯えているのか、野生の獣に出くわすこともなく村まではたどり着けた。

 農家の爺さんのところで休憩することにする。


『マンゴーシュが熊に食われて壊れた。別のを用意してくれないか』

 マサムネにメッセージを送ると、ワンランク上の黄銅ブラス素材が扱えるようになったから、それで作って送ってくれるとのこと。

 このゲームにも配送機能はあるが、人力輸送なので到着には時間がかかる。

 送金はポタミナでできるみたいなんだがな。



「ほ、ほう、魔族とな!?」

 山の中での事を爺さんに伝えると、腰を抜かさんばかりに驚いていた。

「そもそも魔族って何なんだ?」

 ゲームによっても解釈が違うので、改めて聞いておくことにする。


「簡単に言えば、天然物のアリスじゃな。体内に魔力の塊を持っていて、それでミュータント化しているようなもんじゃ」

「それって身体が保つのか?」

「うむ、じゃからその数は限られておる。ただその強さは格違い。わらわの国でも魔導騎士とゴーレムを、動員して何とか追い返す程度じゃった」

 王国の強さがわからないので、結局はどんなものかは分からない。

 ただあの女魔族が圧倒的だったのは感じた。


「とにかく、その魔族はいなくなったんで、しばらくすれば山も落ち着くだろうってマタクさんが言ってました」

「ふ、ふむ、しばらくのぅ」

 そういいながらチラチラとこちらを伺う爺さん。爺さんにチラ見されても可愛くないし。

「俺達もしばらく滞在させてもらいますよ。武器が壊れたりしたんで」

「なぬ!? 武器が無いのか!」

「こっちはあるんで、ボアくらいなら相手できますよ」

 シャムシールを掲げて示すと、爺さんは安心したかのように頷いた。



 ちょっと時間ができたので、状況を整理しておこう。

 まず俺のメインクエストはルフィアを故郷に帰してやること。呪いの人形として、古びた小屋に閉じ込められていた古代の姫らしい。

 その王国は千年も前に滅びているが、王族の暮らした居城は廃墟となりながらも残っている。

 どうして人形になってしまったのか、その記憶がないルフィア。居城に連れていけば何らかの手がかりが見つかるのではないかと思っている。


 アリスはブリーエ軍に使役されていたミュータント。しかし、その生まれはルフィアの故郷であるバルトニア。錬金術によって生み出されたホムンクルスらしい。

 魔導炉を警護する任務にあたっていたが、魔導炉から漏れ出した魔力に侵されて異形ミュータント化してしまった。

 今は魔導の知識が豊富なルフィアにより、治療が行われている。それが終わるまでは旅に同行してもらうしかない。

 元々警護役を担っていただけに戦闘技術は高いが、ミュータントの後遺症があるので無理はさせられない。


 そしてリオン。

 掲示板でクエストの協力者を募った時に応募してくれたプレイヤー。

 何らかのトラウマを抱え、強さに固執した部分が見受けられる。それでも魔族の勧誘は退け、こちらに残ってくれた。

 筋力を極端に鍛えたパワーファイターで、武器はモーニングスター。円を描くように振るわれる鉄球は、隙は少なく連撃もこなす。

 ただその性格は直情的で、人の話をなかなか聞かない。今は同行してくれているが、いついなくなるかは分からない。



「何かアンバランスなパーティだな」

「本来はプレイヤーで組むのがパーティじゃろ。わらわやアリスを数に入れてる時点で間違っておる」

 農家に戻って改めてアリスに施術を行ったルフィアがテーブルへとやってきた。

「アリスの容態は?」

「魔力が枯渇しておったから、補給はしておいた。一部封鎖しておった右腕への魔力供給路を無理矢理使いおったから、腕はしばらく使えぬかもしれんな」

 そんなに無理をさせてしまったのか。

「武器が届くまでしばらく時間はあるから、ゆっくり治してやってくれ」

「仕方ないのぅ」

 なんだかんだでルフィアも頼られるのは満更でもない感じだった。




 アリスの世話はルフィアにまかせて、俺はおざなりにしてたスキルツリーを見直すことにする。

 器用さ重視のセッティングはいじるつもりもない。アリスの合気道はイイものを見せてもらった。

 僅かな力で相手の動きを制してこちらの攻撃に転ずる。それとアリスとの戦いで徐々に掴んでいた、ブロックの瞬間に手首を返して勢いを逸らす方法。器用さの恩恵か、手首の角度も柔軟に動く。

 戦士系は、基礎と斬撃刀、護剣。合気道もそのうちアリスから習おう。

 後は裁縫から刺繍とレース編み、縫製などをピックアップ。この辺は器用さに補正が入る。

「他に器用さに繋がるスキルか」

 ピッキングとかあると便利なのかもな。罠を解除するにも必要だろう。



「何をやっている」

 いつの間にかリオンがやってきていた。どうやらリオンもモーニングスターの新調の為に連絡をとっていたらしい。

 ただ鉄製の武器ですら折れたのだ。それ以上に折れ難いものとなると鋼などだろうか。

 それが届くまでは手持ち無沙汰なのだろう。


「スキルの構築だよ」

 ポタミナを見せながら答える。

「僕に見せてしまっていいのか?」

 この手の情報は掲示板には上がらなくなっている。秘匿性高い情報だ。

「俺とリオンは全く向きが違うから大丈夫だよ」

 筋力特化のリオンに、裁縫なんて興味はないだろう。


「刺繍? レース編み?」

 明らかに戸惑いながら画面を見ている。

「リオンは何をとってるんだ?」

「戦士の基礎、両手棍、戦槌。それに格闘術かな」

「4つ? 少ないな」

「少ない方が伸びがいいだろ」

 まだその辺の検証はしていないが、あのディレクターの話を信じるなら少ないスキルに絞るより、多くのスキルから組み合わせを考えた方がいい気はする。


「リオンは力を付けたいよな」

「ん? 何を今更」

「だったら、これだな」

 農家の壁に掛けられていた手斧を取り、リオンへと渡す。

「確かに斧も筋力系だが、僕は戦槌でいくぞ」

「別に戦闘スキルを伸ばす必要は無いんだよ。半日ほど木こりの修行でもしてみるといい」

「木こり……だと?」

 今にも噴火しそうにプルプルと震える。どうにも沸点が低いよな、それも戦士としてはマイナスだろうに。


「まずは半日ほどやってみてくれ。そうしたら、俺が相手をしてやる」

「ほぅ、それは大きく出たな」

 ニヤリと笑みを浮かべたリオンは、斧を手に農家を出ていった。これは決闘の覚悟は必要か。



 俺はレース編みでヘッドドレスを作り始める。緑の髪に合うのは何色かなぁ。赤とかも可愛いかもしれない。

 俺をかばって怪我をしたアリスへのプレゼントだ。まだスキルは低いので大したものは出来ないが、これは気持ちだからなぁ。

 コルーニャ砦で購入していたレシピ本から一つを選んで手を動かす。


 しかし魔族か。まあ、強敵は用意してるんだろうなとは思っていたが、こんな序盤で会うとは。

 他のプレイヤーはどうなんだ?

 掲示板を開いてみると、新たな募集が始まっていた。

 冒険者で集まった『軍団』の募集だ。

 他のゲームでもギルドやクラン、兵団といった名前で導入されているシステム。プレイヤー間の連携を強め、何かしらの恩恵があることも。


「なになに……」

 募集要項によると、軍団用のハウス。厩舎もあり、馬や馬車の手配。軍団規模のクエストの受注などがあるらしい。

 もちろん、他の生産プレイヤーからの支援なども約束されている。

「拠点を構えるならありなんだろうな」

 今のところは移動手段が徒歩か馬。テレポート系の移動は出来ないので、オタリアなどに拠点があると旅は続けられない。

「保留だなぁ」

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