戦士としての基礎訓練
俺が選択すると、先程の受付係の女性が現れて、俺を別の場所へと案内していく。
更衣室らしい部屋には、武器や防具が並んでいて、初期装備を選べるようになっていた。
「まずは片手剣と軽装鎧だな」
その言葉に案内係の女性が、雑多に放り込まれた木刀の一本を抜き出し渡してくれる。
そして並べられた鎧の中から、革で作られた物を手に取る。
「装備しますね」
鎧なんてどうやって着るんだと思っていたら、女性が親切に着せてくれた。
「ぐえっ」
思った以上の力で締め付けられ、思わず声が出てしまった。しかし、そうして着せてもらった鎧は思っていたより重くない。
体に密着させてしっかりと止めているからだろう。
革で出来た胸当てと腰に巻く鎧は、背中側を革紐で止められている。
「しかし、一人では着られそうにないぞ」
「装備の脱着は、ポタミナからも行えます」
などとあっさりと答えてくれた。ポタミナを操作すると、一瞬で脱ぎ着できる。最初に女性が着せてくれたのはサービスか。
わかってるな開発。
装備が終わると校庭へと連れ出され、入ってくる時に見えた人形の方へ。
そこには教官を勤めてくれるらしい戦士が待っていた。
それは面接をしていたヒゲではなく、ショートカットに日焼けした肌の女性だ。
わかっているな開発。
「では戦闘の基礎訓練を担当するアンナです」
ペコリとお辞儀されて、あわててこちらも頭を下げる。
戦士だからスパルタかと思ったが、そうでもないらしい。
「戦闘の基本は、身を守る事です。避ける、武器で止める、盾で受ける……」
アンナの指導がはじまった。
「ぜぇぜぇぜぇ」
はじまってみると、やっぱりスパルタだった。容赦なく撃ち込んでくるアンナの木刀をひたすら受け続けさせられる。
受け損なうと強かに打ち据えられ、かなりの痛みが走った。ゲームなんだし、緩和されてると思いきやしっかりと痛い。
「痛くないと本気で守ろうとしないでしょう?」
にこやかに笑みを浮かべながらアンナは木刀を振るう。サドだ、この女……。
しかしゲームだけに、酷く叩かれても骨が折れたりはしないらしい。
「はい、立って」
座って休憩しようとすると、無理矢理引き起こされて、さらに殴られる……めげるぞ、これっ。
「では次は攻撃です」
ようやく乱打の指導から解放されて、人形の所へ連れて行かれる。
「戦士の戦闘は基本、殴ります」
バシコンと木刀で人形を叩く。
「この時、腕だけで叩くか、体を使うかで威力は変わります」
アンナが少し構えた状態から、弧を描くような一撃を人形に打ち込む。
ズバコン!
丸太に鎧を着せた人形が、大きくしなって震えた。
「最適な動きは、戦っているうちに分かってくるでしょう。後はアクションコマンドがあります。セイヤッ」
再び身構えたアンナが、気合と共に木刀を振るうと、炎を纏った一撃が人形を襲う。
辺りに焦げ臭い匂いが漂い、人形からはプスプスと煙が上がった。
「頭の中でコマンドワードを叫ぶと、発動します。スキルのレべルが上がると、使える技も増えていくので、それはポタミナで確認してください」
言われてポタミナを確認すると、スキルアプリに『戦士:片手剣』の項目が追加されてて、それをタップすると『ファストアタック』と表示された。
「身構えてファストアタックと念じると、アクションコマンドが実行されるので、試してみましょう」
アンナに促されるままに、人形に向かって構えると、頭の中で『ファストアタック』と考えてみる。
しかし、何も起こらない。
「あれ?」
「漠然と考えるのではなく、人形の何処に打込みたいか、ちゃんと狙うことが必要です」
「なるほど」
改めて人形に向かって、肩口を狙って『ファストアタック』と念じると、自分の体が勝手に動いた。
今まで木刀なんて振るったことのない俺が、右足を踏み込み流れるような動作で、人形をズバンと打ち据えた。
「おお!?」
「慣れてくると、アクションコマンドを意識しなくても、技が出るようになりますよ。でも、基本は自分で殴ることです。打込みを行ってください」
アンナの監視の元、腕が棒になるほど打込みをさせられた。
「最後に特殊戦闘です」
まだあるのかと思っていると、急に左腕を捕まれ、地面に組み付される。脇固めの体勢だ。
「こうして武器を使わない戦闘もあります」
続けて頭を抱えるように締め上げられるヘッドロックに。横乳が当たって嬉しい……なんて事は革鎧に阻まれ、痛いだけだ。
腕をタップすると、なんとか放してくれた。
「素手格闘専用のスキルもあって、それを習得するとスムーズに技を掛けれたり、ホールド状態の脱し方を教えてもらえます」
にこにこと教えてくれるアンナが恨めしい。せめて薄着なら……。
開発わかってないな。