リオンとアリス
リオンは俺を見つけるなりズンズンと迫ってきた。
「お前が何かしたのか?」
押し殺した声で聞いてくる。
「俺は俺のクエストをこなしたけどな……」
ガッと襟首を掴まれる。
「いらん事をっ、僕が奴を倒すのを妨害しやがって。まさかお前が奴を倒したのか」
「いや、そうではないが……」
「まあいいや、とりあえず叩き潰す」
俺を突き放すと、モーニングスターを持ち出した。
「兄様」
リオンから俺をかばうように、アリスが飛び出した。
「兄様はまだ負傷されています。相手なら私が」
「ふん、女子供に用はない」
「貴方も子供じゃないですか……あ、思い出しました。最近突っかかってきたお子様でしたか」
「?」
その顔に疑問を浮かべるリオン。ってかさすがに正体をばらすなんてことは……。
「貴方が倒したいのは私のはずですよね」
「何を言っている」
「私はブリーエの……」
「まてまて、アリス。それをここでバラしてはっ」
「すいません、兄様。でもこのお子様は黙らせます」
「そこまで言うならわかった、まずはお前を倒してやる。武器を構えろ」
そういえばアリスは鎧も武器も用意していない。
「貴方ごとき雑魚に武器なんていりません」
おいおい、えらく挑発的な。リオンは小柄だが、妙に好戦的なんだぞ。
俺が忠告するよりも先に、リオンが飛び出していた。
「武器は要らないと言ったよなぁ」
円を描くように加速させたモーニングスターが、アリスの小さな体を襲う。
それに対してアリスはほとんど動かない。その頭部から叩き潰すように鉄球が振り下ろされた。
ズガン!
勢いそのままに床まで叩きつけられる。しかし、振り下ろしたリオンの体がモーニングスターを離れて、5mほど飛んでいった。
床に倒れたリオンは、勢い良く起き上がったが、何が起こったのか分からないといった様子だ。
だがそれで止まるリオンではなかった。武器を失っても再度突撃を掛ける。筋力に能力を特化させたリオンの拳は、それだけでも十分凶器だ。
しかし、その拳がアリスを捉えたかと思った次の瞬間には、吹き飛んでいたのはまたもリオンの方だった。
「合気道なのか?」
アリスのほとんど動かずに、リオンを投げ飛ばす様子から、その技術を想像する。
合気道は相手の力を利用して投げる護身術として有名な武術。ムキになって突っ込んでいくリオンは、正にカモと言えた。
突進する勢いをそのまま自分を投げ飛ばす力へと変えられる。
「面倒な人ですね、終わらせましょうか」
アリスの冷徹な声が聞こえた。
ズダン!
一際大きな音と共に床へと叩きつけられた。今までは投げ飛ばす方向に向けられていた力を、アリス自身の足元へと凝縮して叩きつけていた。
背中から腰を思い切り床に叩きつけられ、さしものリオンも身動き取れなくなった。
「操られて暴走させられていた時ならまだしも、平常時の私なら貴方などに時間は要りません」
戦場で猛威を振るっていたアリスは、その力を発揮できていなかった……だと?
「あ、逃げたのぅ」
ルフィアの声と共にリオンの姿が消えた。今の消え方はログアウトしたのか。
力に固執していたリオンが、完膚なきまでに叩き潰された。そのストレスは計り知れない。
フォローのメッセージを送っておこう。
『既に気付いてるだろうが、アリスはブリーエの白い鎧の中身だ。負けたとしてもチートキャラだ、気にするな』
っと。
後で考えれば挑発的この上ない文章だったと後悔するところだが、今はなんとか慰めたいと思って書いていた。
「無茶苦茶強いな、アリス」
「いえ、相手が馬鹿だったので楽でした。兄様の方が強いですよ」
重装兵を数人まとめて吹き飛ばすリオンやアリスに対して、俺は1人の重装兵も満足に倒せない。
明らかにお世辞だなぁ。
「何でもよいが、腹減ったのじゃ」
一方でこの姫様は食いしん坊キャラが定着してきたな……。
しかし、ルフィアは丈の合わない服で、アリスは体にピッタリとしたボディスーツ。連れて歩くのも恥ずかしくなる格好だ。
俺はとりあえず酒場の2階にある宿の一部屋を借りると、そこに食事を運んでもらって2人の服を用意することにした。
「といってまだまだスキルは低いから最低限だがな」
「すいません、兄様。私はその手のスキルがなくて」
「と言うか見事な合気道だったな。ミュータント化される前も戦闘用だったのか?」
「はい、魔力供給炉の警護用として配備されました。緊急時以外は休眠状態だったのですが、そのままミュータント化してしまったようです」
その後、ブリーエ軍によってコントロールが奪われて、最前線に投入されたようだ。
「しかし、右腕の回路はほぼ閉鎖して、体内の機能も低下しておる。肉体的にはそこいらの娘よりも弱いはずじゃぞ?」
「私の武器は頭の中にインプットされた武術ですから。力任せに薙ぎ払うミュータントの戦いなんて、本意ではありません」
アリスから戦闘に対するプライドが感じられる。もしかして、俺は最高の師匠を得たのだろうか?
「とりあえず採寸するか、ルフィア」
「ふむ、良かろう」
注文したカツ丼を半分ほど食べたルフィアが立ち上がる。また豚か。
「というか、えらく少食だな」
「うむ、魔力供給炉の変換装置が優秀でな。少しの食べ物でかなりの魔力を作り出せるゆえ、そんなに食べなくても良いのじゃ」
なるほど、食費に優しい体になったのか。
立ち上がったルフィアは、腰紐を解き、胸元のボタンを外すとストンとワンピースを落とした。
下着も作ってなかったから、それで全裸だ。
最初は陶器の体を見せるのも恥ずかしがっていたのに、堂々たる脱ぎっぷりである。
「あの時は誰に作られたかも分からぬ貧相な体じゃったからのぅ」
今は自らの手で魔改造した自信作。
小柄な体ながらにしっかりとメリハリがある。形良く張り出した乳房には、頂きの色づきも再現され、関節部もしっかりと隠されて人間と変わらぬ姿になっていた。
美しいと思わせるバランス。それだけに『作り物』であるのを感じて、こちらも出来の良いマネキンと見れるわけだが。
「何か反応が鈍いのう」
「作り物だからな」
「むぅ」
しかし形良く作られているとはいえ、柔らかな胸。下着もちゃんと用意しないと不自然か。
木綿の布を取り出して、作業に取り掛かる。まずはかぼちゃパンツを作り履かせて、胸を支えるブラジャーも用意。本当ならワイヤーを入れたりするんだろうが、そんな技術も素材もないのでスキル通りに作成。
後はワンピースだが、ルフィアは膝丈のままでいいとのことなので、胸元に余裕を持たせて腰の位置を直すに留めた。
コルセットの様に腰を絞ったので、やや胸が強調される形になったが、ルフィアとしては満更でもない様子。
「兄様、私にもお願いします」
「だぁっ、アリスは脱がなくてもいいからっ」
体にフィットしたスーツなので脱がなくても採寸はできる。
「何か反応に差別を感じるのじゃ」
ルフィアが悔しそうな反応を見せる。正直なところ、ルフィアの体だって見事だし人間と変わらない。
ただ反応したら負けかなと思っただけだ。
その僅かな虚栄心が、ルフィアの対抗心に火を付けていたとは思ってもみなかった。
戦闘用ホムンクルスだったというアリスには、動きやすさを配慮して服装を整えた。
ややゆとりのあるTシャツのような服に、キュロットパンツ。中のインナーは今までのボディスーツを使ってもらう。太ももまでのスーツは、下半身だけならスパッツと変わらない。
「兄様、ありがとうございます」
そう言って抱きついてくるアリスを何とか引き剥がす。
「なんでいちいちくっついてくるんだ」
「ダメ……ですか?」
そうやってすぐに悲しそうな顔をするのは反則だろう。
「お、俺は、節度ある女の子の方が好きだからなっ」
「私は優しい兄様が好きですよ」
微妙に噛み合わない会話だが、ストレートに慕われて悪い気はしない。というか美少女に抱きつかれて嫌な男がいるか。
ただ理性が保たんのだ。
酒場の2階から降りて食器を返すと、砦から出る準備を整える。アリスはかなりの戦力だがあくまで戦士。
結局、回復役がいないのでポーションを買い込む羽目になる。
「なんでルフィアは回復魔法を使えないんだ?」
以前に痛みを緩和してくれたのも、本来は敵に掛ける麻痺魔法。治療とは言い難い。
「覚えれば使えるじゃろうが、趣味ではないからのぅ」
それで済ましてしまうワガママ姫。いや、俺も魔法を使うつもりは無いから一緒か。
門のところまでくると、門番に「いってらっしゃい」と笑顔で見送られる。この砦を救った者として心象がよいようだ。
気持ちよく旅立とうとした時、ぽんと背中を押されて地面に転がる。
俺がいた場所には見慣れたモーニングスターが突き刺さっていた。
「何するんだ!」
「ちょっと手元が狂っただけだ」
モーニングスターを片手に立っているのは当然リオン。
「お前、以前に言ってたよな。僕とまたパーティを組みたいと」
確かにそんな事を言ってやった気がするが、今の攻撃とどう繋がるんだ。
「仕方ないから手を貸してやる」
そう言いながら視線はアリスへ。
「兄様、こんな野蛮人は要りません」
「まあ、そう言ってやるな……でも狙いはアリスだよな」
黙ったままだが、強い眼差しは肯定を示していた。ここで突っぱねたところで、また奇襲を掛けてくるのは目に見えている。
ならばまだ目の届く範囲にいてくれた方がいいのか。
精神的に不安定で放っておけないところのあるリオン。彼を支えてやる意味でも一緒に冒険するか。
「アリス、こいつを連れて行ってもいいか?」
狙われるのはアリス。やはり確認は必要だろう。俺の言葉をしばらく考えたアリスは頷いた。
「わかりました、兄様。でも攻撃してきた時は容赦しませんよ」
ニヤリと笑ったアリスの顔は怖かった。




