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魔導炉への潜入

 砦に戻ると報酬がもらえた。200Gのみでボーナスはなし。敵を倒してなかったからだろう。

 リオンは報酬を受け取るなり、再び鍛錬場に向かっていく。

 俺は戦場での実戦で感じたことを整理する。


 パリィは受け身で、相手の攻撃を受け流し、ディザームは能動的に相手の武器を攻撃する。

 タイミングとしてはディザームの方が難しかった。

 その分、相手の姿勢を崩せるので、攻撃のしやすさは変わる。

 そして戦場という場所は俺には向かない。

 相手が金属鎧で固めていると、手の出しようが限られる。相手の方が技量が低ければ対処できるかもしれないが、将校クラスは倒せないだろう。

 それに敵とは言え、相手はNPC。死んだらそれきりの人でもあるという意識がどこかにあった。

 野盗と戦った時もそうだったが、俺は人を敵と断じて殺す事に違和感を感じてしまうようだ。

 まあ、戦争モノのFPSとかも苦手だったしなぁ。

 やはり俺は戦争を止める方を目指すことにした。



「修行はどうじゃった?」

 城下町で待たせていたルフィアと合流。渡した小遣いで買ったのだろう串焼きを頬張りながらルフィアが聞いてくる。ってか、また食ってるのか。

「太るぞ」

「安心せい、胃袋は異次元じゃ」

 そうだった。食べた物を異次元に廃棄する、無駄な構造をしているのだ。

「俺、ルフィアの食費で破産するかも」


 資金がルフィアの食費に消える前に、防具を整える。筋力はあげてないので、重い鎧は無理だ。動きを阻害するのも避けたい。

 結果としては、革鎧を補強した胸当てと小手、軍靴を調達するに留めた。

 チャップは都合がつかないようで、新しい誰かを誘う事もはばかられたので、単独で偵察することに決めた。

 どうしても無理そうなら、その時に誰かを探す事にする。




 コルーニャ砦の門は、戦闘時以外は開いていて、冒険者の通行を妨げることはないようだ。

 門番も出ていく人間には特に声を掛けてこない。

 街道は度重なる襲撃で荒らされてはいるが、その分踏み固められてもいた。歩きにくいということもない。

 ただこのまま行くと、ブリーエの軍勢に遭遇しそうだよな。かとって街道を逸れて迷っても間抜けだ。

 とりあえず道なりに進んで、軍がいたらその時に考えよう。


 大きくなったルフィアは、自分で歩く方が多くなった。今も鼻歌を歌いながら、枝をフリフリ歩いている。ピクニック気分か。

 ただ1人でいるよりは気がまぎれる。

「そういえば姫様の戦力ってどんなもんだ?」

 たまに魔法で援護してくれるのは助かっている。

「残念ながら、今のわらわは稼働する魔力と攻撃に使う魔力は共通なのじゃ。攻撃に魔力を使いすぎると、充電が切れてしまうぞよ」

 なるほど、本人曰く魔術に長けた王女だが、魔法を使い惜しみしなければならない訳か。

「なので今までのように、どうしようも無い時だけ助けてやるのじゃ」

 動けない姫はただの荷物だしな。今ではそれなりにかさばるし、リュックに入れることもできない。

 姫の力はあてにしない方が賢明だ。


「む、あれか」

 街道から見て左手側、海岸に向けていつくものテントが並んでいた。ブリーエ軍の野営地だろう。

 幸い街道からは結構離れているので、絡まれることはなさそうだ。

 何より魔導炉のある山脈側からも離れている。

「連中も漏洩魔力は避けているのか」

 この分だと魔導炉の警護もあまり数がいないかもしれない。

 意外と潜入も楽なのかも。

 そんな事を考えていた俺は、かなり甘かった。



「何だよ、こいつっ」

 魔導炉に近づくために分け入った山道。茂みの中から飛び出す影があった。

 ぱっと見は可愛くもあるカピバラのような外見。ただ額には角が生え、口がワニのように思わぬ位置まで裂けた。

 びっしりと細かい歯が生えた口で、噛み付こうと飛びついてくる。

 異様で不気味な外見だが、攻撃方法は噛みつきだけのようだ。

 体長は50cmほどとそこまで大きくもない。ただ茂みからは次々と新たな影が飛び出してきていた。


「はぁ、はぁ、はぁ」

 肉体的よりも茂みという死角からの攻撃に、精神をすり減らしていた。

 10体ほどを片付けたところで、ようやく飛び出してくる影はなくなった。

「なかなかプリチーな外見じゃったな。角をなくして、口をまともにしたらぬいぐるみにしてもよいぞ」

「それ単なるカピバラだから」

 ルフィアとの少し間抜けなやり取りに、一息ついて山道を進む。


 それからも頭が2つある野犬やら、羽が4枚あるカラスなど、異様な外見のモンスターに襲われた。

 そしていよいよ魔導炉へとたどり着く。

 外観は古代遺跡というよりは、寂れた工場といった雰囲気か。蔦が絡みつき、ひび割れた外壁を覆っていた。

 その一角に、人が通れるほどの穴が開けられていた。


「いかにもって穴だが……」

「虎穴に入らずんば虎子を得ず、じゃな」

 ルフィアは光の魔法を唱えて、周囲を照らす。ポタミナからルフィアの充電ゲージも表示しておいた。ゲーム世界の半日で動けなくなるはずだ。

 途中で魔法を使う羽目になったら、その時間も減っていく。ある種の召喚ペット扱いだ。



 中は日の光が入ってこない暗闇。ただ足元などを見るに、誰かが行き来しているのは感じられる。

 あの白い鎧のミュータントは、定期的にこの魔導炉で、魔力を補給しているはずだ。

 魔法の専門家であるルフィアが、街中で聞き込みをしてそのような結論を持っていた。

 暴走状態に陥り、一旦魔力を出し切ってしまうと、何らの手段で魔力を取り込まないといけない。

 それにはミュータント化した原因である魔導炉に連れてくるのが一番らしい。


 所々壁が剥落している箇所もあるが、建物自体は崩れていない。ルフィアの灯りに照らされる通路は、病院や学校を連想させた。

 教室くらいの大きさで分けられた部屋が規則的に並んでいて、中は簡素なベッドらしきもの。

 当時は宿直用の部屋だったのだろうか。


「これは作業用ゴーレムの給魔装置じゃな」

 人形にややくぼんだベッドは、そこに寝転んだゴーレムに魔力を供給するためのものだったらしい。

 そういえば魔導炉は、ゴーレムに魔力を供給する装置との事だった。

 自動掃除機が作業を終えると、勝手に充電を始めるように、ゴーレム達も与えられた作業を終えると、魔導炉でしばしの休憩をとるそうだ。

 よく見るとベッドの幾つかには、寝転んだままのロボットが放置されていた。


 ゴーレムの給魔室から更に奥へと進んでいくと、体育館のような部屋へとたどり着く。

 かなり広い空間に、大きな装置が鎮座していた。

「魔力供給炉、じゃな。わらわも初めて見るが」

 円柱系の装置から太いケーブルが、先程の給魔室の方へと伸びている。

 円柱の側面には何やらパネルが付けられていて、ルフィアが操作すると電源が入った。


「ふむ、やはり稼働を続けておるようじゃな。わらわの記憶からするとかなり機能の低下が見られるが……」

 色々とパネルに画面が表示され、ルフィアはそれから情報を引き出している。



 ジャリ……。

 砂か瓦礫を踏む音が聞こえた。ルフィアはぶつぶつと装置を解析するのに必死で気付いていない。

 俺は自前のカンテラに灯りを付けて、音のした方へと向けてみた。


 浮かび上がったのは人影。

 何かを引きずるような不自然な歩き方で進んでくる。

 横向きの縞模様の服を着た男。まだ距離があり、表情までは分からないが、見るからに正常とは言い難い。

「うぅあぁぅ……」

 呻くような意味のない言葉。

 それと共に、男の姿が崩れた。二足では立っていられなくなり、地面に手をつく。その肩の辺りが異様に膨らんだと思うと、そこから更に腕が生えてきた。

「おいおいおい」

 やがて四つん這いになりながら、両腕を構えた男が加速しながら迫ってきた。

「サバイバルホラーかよっ」

 俺は慌てて武器を構えた。


 新しく生えた男の手は、爪が長く伸びて、刃物の様になっていた。

 それをパリィしながら捌きながら、動きを確かめる。動作自体は速いが、単調な攻撃。やがてパターンが見えてきて、反撃に転じる。防御の観念も低いらしく、こちらの攻撃にも無防備に斬られていった。

 着ているのは布の服だけに見えるが、手応えは固い。金属鎧ほどではないので、徐々にダメージは蓄積されていくようだ。タフな体が動かなくなるには、それなりの時間を要した。


「これって囚人服か? それに足には鉄球」

 まさか新たなミュータントにするために、罪人を放り込んでるというのか?

 しかし、相手の背景を想像する余裕はなかった。続けて3人ほどの人影が近づいてきた。


「ルフィア、まだかっ」

「姫をつけい、姫を。もう少しだとは思うのじゃ」

 この3人は片付けないとダメなようだ。

 一対一と違って、複数相手は立ち位置が難しい。更には変形の仕方も、腕が生えたやつ、足が増えた奴、腹が口になって牙が生えた奴と違っていた。

 手が増えた奴は、攻撃が速く、足が増えたのは移動が速い。口ができたやつは攻撃が読みにくかった。


 ルフィアに近づけないように、入り口側に誘導しながら、チクチクとダメージを重ねていく。

 行動は単純でワンパターン気味なので、相手が重なるように誘導。行動に制限を与えて、パリィしてから斬り返す。

 それでも爪の幾つかは体をかすめて、切り傷は増えていた。


「な、何とか、勝ったか?」

 最後まで残った腹が口の奴が動かなくなり、ポリゴン片と化して砕けちった。

 リュックからポーションを取り出して回復。エナジードリンクのような味は、運動後の疲労を取ってくれるような気がした。


「ルフィア、どうなった?」

「ふふふ、任せるが良い。これで終わりじゃ!」

 パネルに表示されたOKボタンをタッチする。すると、ウォォォォンとモーターの回転音が聞こえてきて、徐々にそれがゆっくりになっていく。

 魔導炉はこれで止まったようだ。

「呆気なかったな」

 ボソリと呟いたのを聞きつけたわけじゃないだろうが、部屋の入り口に新たな人影が姿を現した。

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