新しい技と防衛戦
リオンの無茶を止めるには、それなりの力を見せる必要があるだろう。
命を賭ける、そんな鍛え方以外にも道はあると。
ただ俺自身の強さが、そこまででは無い今は、説得力は伴わない。
「ま、元々鍛えるつもりだったし」
俺も兵舎で鍛錬を行う事にした。
俺の武器は右手に斬撃刀のシャムシール、左手に護剣のマンゴーシュを持つ二刀流。
動きは我流、主に昔やった格闘ゲームのキャラクターをトレースしている。
しかし、片手剣の動きとしても、左右の連携という意味でもまだまだ不慣れで、ぎこちなさは拭えない。
更には行動にボーナスの付くアクションコマンドは、一つしか覚えていなかった。
『ファストアタック』は、狙った箇所に素早く打ち込む技で、速さはあるがダメージにボーナスはない。
「さてと、まずは教官を探すか」
兵舎には技量のある教官について修行できるみたいだ。リオンが師事しているローガンは別格みたいだが、他の隊長もそれなりに指導してくれるらしい。
武器ごとに担当が決まっている各武器技術と、戦士の基礎動作をメイン行う基礎鍛錬が選べた。
基礎鍛錬はタンクトップのお姉さんが、ビシバシと鍛えているようで心惹かれるモノがあったが、俺もまた技量特化でスキルを組む予定。斬撃刀の厳ついおっさんを師事する事にした。
「斬撃刀の基本は、斬ることだ。当たり前のようだが、通常のロングソードとは扱い方が違う」
西洋剣、ロングソードなどの武器は刃を叩きつける事で、相手を斬る武器だが、斬撃刀の場合は引くことで斬る。
この辺は、刺し身を包丁で切る時などを見るとわかりやすい。押しつぶすのではなく、手前に引いて刃を滑らせるのが大事なのだ。
それには手を自在に動かす必要があり、能力の中でも器用さ〈DEX〉が大事になる。
そうした事を担当の厳ついおっさん、イットウサイが説明してくれた。
「引くことも大事だが、もちろん斬りつける動きが鈍っても意味はない。まずは素振りだ!」
剣道の素振りのような、上段から振り下ろす練習が繰り返される。これ自体でどうという変化はないのだが、振る動作が体に記憶されていく。
「次に打込みだ」
木に藁を巻いたカカシに対して、木刀を振り下ろす。バシン、バシンと打ち込むと、素振りとはまた違った感覚を覚える。
やはり物を叩くというのは違うなぁ。
そうして振るという動作を繰り返し覚えさせられた後、個別の指導へと入っていった。
「貴様は、二刀流か」
「は、はい」
厳つい顔に鋭い目つき。ギロリと睨まれると、どうしても萎縮してしまう。
「言わずともわかるだろうが、二刀を扱うのは格段に難しい。それでもやるのか?」
「は、はい」
「では構えてみろ」
俺は左手にマンゴーシュを構えて前に、右手のシャムシールは肩に担ぐようにして半身に構える。
「なぜ肩に担ぐ?」
「なぜって……癖みたいなものですかね」
実際は、格闘ゲームで使ってたキャラクターのモーションがそうだという感じだ。
「肩に担いだ状態から斬り下ろすのは速くはなるだろう。ただ自由度は低くなっている。例えば」
イットウサイが唐突に斬りつけてきた。マンゴーシュで切り払うが、手首を返しただけで次の刺突に繋がれてしまった。
イットウサイの武器は日本刀、切ることも突くこともできる。
それをシャムシールで打ち払うが、左の脇腹を浅く斬られた。
「このように右側から切り払う事しかできんから、軌道を十分に逸らせないと、体に当てられる可能性がある」
確かに右半身を狙った突きを右から左に払うと、捌ききれずに左胴に当たった。
「右半身を狙った攻撃は、更に右に弾くように動かしたいが」
「肩に担いだ状態からだと、首が邪魔になって軌道が限られるんですね」
俺の答えにイットウサイは頷く。
「もちろん攻撃にも同じことが言える。右から振り下ろすのが見えるので、相手としては更に右に行くなり、左の死角に入るなり対処が決めやすい」
「なるほど……」
格闘ゲームという決められた動きで戦うゲームと違って、様々な局面があるこのゲームでは、汎用性が求められるらしい。
厳ついパワー型な外見だが、意外と論理的で納得させられる。それから俺に合う型を探っていき、一つの形に落ち着いた。
左手と右半身を引いた構えは変えず、右腕は肩の高さで構え、拳を顔の横に。刀身を水平よりやや先端を下げた形で前へと向けて構える。
日本刀でいうと霞の構えに近い。
「お前は手首が柔らかく器用だから、この構えから手首を返しながら攻守に備えるのが良かろう」
イットウサイを相手に一連の流れを確認し、動きの連携が良くなっていくのを感じた。
ポタミナを確認すると〈パリィ〉と〈ディザーム〉のアクションコマンドが追加されていた。
パリィは受け流し、ディザームは相手の武器を絡め取る技だ。共にマンゴーシュを使用する。
これらのアクションコマンドからは、メイン武器への連携ボーナスが発生し、攻撃力が上がるらしい。
「後は実戦で鍛えるだけだな」
イットウサイの指導を終えた時、兵士が1人駆け込んできた。
「敵襲、敵襲!」
緊急ミッションが発令されていた。
駆け出したリオンを追って、俺も砦の門へと向かう。
「今回は白いのはいないようだ。ただ油断はするな、後で出てこないとは限らんからな」
攻撃部隊の隊長が声を上げる。
重装の守備隊とは違い、攻撃部隊は相手が攻めてくる前に城門を出て、敵の側面に回るようだ。
城門が開けられ、外へ出てもまだ敵の軍勢は見えない。
隊長の先導で山手側の森へと移動する。すると程なく砦の方から喧騒が聞こえてきた。
「突撃準備!」
攻撃部隊の各人が武器を構えて待つ。
「突撃!」
号令と共に駆け出す。リオンを1人にしないように、横につくとチラリとこちらを見て、速度をあげながら敵へと突っ込む。
相手は丸盾を構えた比較的軽装。何度も側面突撃を受けてきたからだろう、ある程度守備を固めている。
そこへリオンをはじめとした攻撃特化の一団が、勢いのままに攻撃を開始した。
「みんな無茶するなぁ」
盾を構える敵を、その盾ごと押しつぶすように蹂躙していく。俺はその速度についていくだけでやっとだ。
「足を止めるな、行け、行けーっ」
隊長が声を張り上げ、追い立てていた。敵の集団へ切り込み、孤立するのは死を意味する。
敵を倒すことよりも、敵陣を混乱させるのが攻撃部隊の役目なのだ。
「いた、あの騎馬を狙え!」
大半が徒の軍勢の中、馬に乗った将校が指示を飛ばしていた。
そこへ向けて攻撃部隊の先頭が向きを変える。
相手の将校周辺は、守備にあたる敵兵も強くなっていた。攻撃部隊の速度も落ちて、次第に乱戦へと。
「リオン、どこいった!?」
元々小柄なリオンは、軍勢の中に紛れて見えなくなる。あまり攻撃も行っていないようだ。
「あいつの事だ、絶対将校を狙ってるだろっ」
俺もまた敵をかいくぐるように、騎馬へと向かって進んでいった。
土煙、剣激、怒声。
人がひしめき合いながら、すりつぶし合う戦場。敵味方が入り乱れて、視野が狭くなっていく。
振り下ろされる剣をパリィ、駆け抜けざまに胴を薙ぐ。盾を蹴飛ばし、体を押しのけ、前へ前へと体を押しやる。
ズガン!
喧騒の中にあって、一際響いた音。そっちか。
敵の一角に空隙を作る一撃。野盗相手に繰り出した攻撃よりも、ワンランク上がっている。
甲冑を着た守備隊をまとめて吹き飛ばしてしまう。
戦場に身を置いて、極限まで鍛錬した戦士は、確かに強さを手に入れていた。
少し遅れて俺もその現場へと転がり出る。立派な甲冑を着た将校が馬の上から見下ろしてくる。
戦場における馬の迫力、その優位性を感じた。
しかし、リオンはその将校へとモーニングスターを振るっていく。
しかし、さすがに将校。この軍勢のボス。手にした槍でリオンの攻撃と打ち合う。
ただミュータントの無双ぶりを見た後だと、ちゃんと戦えている。
「おらぁっ」
リオンの戦いを観戦している余裕はなかった。出来た空白を埋めるように守備隊が集まってきている。
こちらの攻撃部隊も集まりつつあるが、俺は俺で仕事をしないと身を守れない。
斬りかかってきた守備兵に対する。
「あれ?」
全身を金属の鎧で固め、右手に片手剣、左手に四角い盾。がっちりとした装備の相手。
相手の攻撃をパリィして、シャムシールで切り込むが、大きな盾に防がれる。
「ど、どうすりゃいいんだ!?」
リオンのように力技では潰せない。一方の俺は、服こそ変えたものの、防具は初期装備のままだった。
一発でも食らうとヤバい。
相手の攻撃をパリィ、パリィ。
隙はできるが盾や鎧に阻まれて刃が通らない。
シャムシールは熱い砂漠の武器で、厚い鎧は想定されてなかった。
その事に相手も気付いたのか、防御よりも攻撃に重きを置き始めた。俺は必死にパリィしながら、打開策を考える。
鎧の隙間を狙うしか無い。ただそれは多くない。可動域を確保するため開けられた、腕の付け根くらいか。
器用さ補正でパリィの成功率は高く、相手も攻撃が雑になってきている。
敵の武器を狙って強く叩く〈ディザーム〉で、武器を外側に弾き、大きく開いた脇にシャムシールを突き入れた。
「ぐあっ」
致命傷にはならないが、利き腕を使えなくすれば、戦力にはならないだろう。
俺はその相手から離れて、次の獲物を探し始める。
ブォォォーッ!
何人かの守備兵を無力化しながら戦っていると、低音のよく響く笛の音が鳴った。撤退の合図だ。
敵兵は速やかに撤退していく。
振り返ると将校の乗っていた馬が倒れ、将校自身も地に伏していた。
「お前、横からっ」
「何言ってんだよ、戦場じゃ大将首狙うのが基本だろうが」
リオンが槍を持った戦士に食って掛かっていた。
どうやら将校にトドメを刺す一撃を、槍使いに奪われたらしい。
「おっ、やる気か?」
モーニングスターを構えなおそうとしたリオンに、挑発的に槍使いが笑みを浮かべる。
「おい、止めとけ。ここで騒動起こしたら次の戦闘に出れなくなるぞ」
「わかっているっ」
リオンは制止した俺の手を振り払うと、砦の方へと駆け出した。
「なんでぇ、やらねえのかよ」
つまらなそうに槍使いは呟く。
うう〜む、戦場にとどまる奴は好戦的なんだな。




