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敵地潜入とデスペナ

「魔導炉じゃと?」

 酒場での話をかいつまんでルフィアに話す。

「むぅ、確かにバルトニアの魔力供給炉のようじゃな……」

 かつて自分達が繁栄に使っていたモノが、戦乱の道具にされている事にルフィアは眉をひそめる。

 今更ながら、自らに魔改造を施したルフィアの表情は豊かになっている事に気付いた。

 物を食べるために口を動かせるようにした為か。


「本来なら魔力は漏れず、メンテナンスをする場合は防護スーツの着用が必要じゃ」

 しかし、長い間放置されたことで、魔力を閉じ込める機構にほころびが出来て、魔力の漏洩が起こっているのだろう。

「俺としては、まずミュータントを生み出す原因となっている魔導炉をどうにかしたいんだが」

「さすがのわらわも、そんな専門機器の仕組みはわからぬぞ。ただ現物を見れば止め方くらいなら、何とかなるやもしれぬ」

 ならばまずは場所の探索か。



 砦では守備の兵力として、冒険者を募集していた。リオンもそれに応募して、防衛戦に参加しているのだろう。

「なかなかいい稼ぎのようだな」

 2、3日に1回のペースで侵攻作戦があり、1週間に一度くらい白い奴がまざる。

 現実時間でいうと1時間ごとに防衛ミッションが発令される感じか。

 1戦参加で200G、倒した敵の数でボーナスが出るらしい。

 戦闘でスキルを上げたい人には丁度いいクエストなのだろう。


「防衛戦に参加してくれるのか?」

 兵舎の受付に行くと、そんな風に聞かれた。

「いえ、魔導炉の場所が分からないか聞きたいんですけど」

「何? 魔導炉は敵地の中だ。正確な場所はわからんのだが……何をする気だ?」

「なんでもミュータントが戦場に出てきてるのが苦戦の原因らしいので、そのミュータントを生み出した魔導炉を停止できればと」

「確かにそれができれば、戦況は楽になるが、敵にとっても生命線。警護は堅いと思うぞ」

 それは確かにそうだろう。ただ魔導炉の魔力を浴び続ければ、ミュータントになってしまう。果たして警護にあたる者がやる気かどうかを怪しんでいた。


「君たち冒険者なら国境を越えるのは難しくないのだろうが……わかった。おおよその場所だけは教えよう」

 兵舎の受付は、隣国ブリーエの地図を取り出し、大まかな場所を示してくれた。



「問題はどうやって行くか」

 冒険者は比較的自由に移動できるらしい。戦争中の国境でも越えることができるのは、ポタペディアに大陸全土の地名が記載されているのでもわかる。

 ただそれは街道沿いに巡っただけに過ぎず、軍の拠点などは網羅されていない。

 今回の目的地である魔導炉も記載されていなかった。

 多分、魔導炉に行こうとしたら、軍の警戒を掻い潜っていく必要があるだろう。


「盗賊が欲しいな」

 唯一の盗賊の知り合い、チャップへと連絡を取ってみる。

『すまん、忙しくて手伝えそうにない』

 何か用事があるらしい。返信も簡素なものだった。


 掲示板で募集するか?

 ポタミナを取り出す際に、ルフィアと目が合ってしまった。少女(人形)を連れている姿をあまり他人に知られたくないような。

 ドーマンにも知られた事だし、気にすることも無いか。


『ブリーエ国の軍拠点への潜入を試みてくれる盗賊募集』


 と書きかけて、報酬が無いことに気づく。魔導炉に何があるかもわからず、確たる報酬を支払えるか分からない。

 更に掲示板を見た時に、気になるスレッドが立っていた。


『このゲームのデスペナについて』


 中を覗いてみると、死んだ際のペナルティについて書かれていた。


 所持金、所持品の一部ロスト。習得スキルのレベルダウン。復帰後、リアル2日間のステータスダウン。

 近年のMMOとしてはかなりきついペナルティだ。特に2日間のステータスダウンは厄介だろう。


 ポタミナのヘルプ機能を呼び出してみると、確かにペナルティについて同様の事が書かれていた。

 補足説明として、VRのリアルな体験の中、臨死体験を繰り返すと脳内のホルモンバランスが危うくなる可能性が示唆されていた。

 安易な死に戻りは、運営としても避けて欲しいとの事だ。

 そういえば、ダメージを受けたときの痛みもかなりリアルだ。これも死を繰り返す事への警告ということか。


 ちなみに、ゲーム内のプレイヤー以外の人間。ノンプレイヤーキャラクターについては、基本的に死亡すると失われるとある。

 このゲームにおいて、ゲーム内のキャラクターは、ゲームの世界で生きているのだ。

 シナリやドーソンさん達が、野盗に殺されていたら取り戻せないところだった。


「命は大事に……」


 そう思うと決死の任務に他人を巻き込む度胸は失われていた。



「というか、俺自身も捨て身じゃダメだな」

 リオンの奴は分かってるのだろうか。その辺も確認しておくべきだ。

 まあ、行っても煙たがられるのだろうけど。

 それにローガンという人に鍛えられているとも聞いた。俺自身もそろそろ誰かに師事して、アクションコマンドを増やしておきたい。

 兵舎へと行ってみることにした。


 砦の一角にある冒険者用の兵舎。簡易ながら個室と共同の食堂、医務室や浴場なんかもあるらしい。

 定期的に発行される防衛戦クエストをこなしやすく配慮されている。

 また鍛錬場ではプレイヤーへの訓練を受けることができるようだ。そこにリオンは篭って、訓練を受けていた。


 リオンと対比すると二倍はあろうかという巨漢の男が、リオンを見据えて座っている。

 リオンは例の鉄球を回転させながら振るい続ける動きを行っていた。

 そこへ巨漢の持つ棍棒が振るわれた。座った状態からとは思えない強烈な一撃に、リオンはモーニングスターを打ち付けるように防御するが、そのまま一緒に弾き返された。


「あっ」

 思わず声が出るが、リオンは打ち返された鉄球の軌道を修正して、次の攻撃に変換した。

 あの白い鎧に対して行ったのと同じ動きだ。

 相手の力を利用して、反撃に転じる技らしい。しかし、タイミングを間違うと大打撃を受ける。

 酒場の兵士達が感心しつつも呆れた様子があったのは、この紙一重の鍛錬のためか。

 そしてリオンのカウンター攻撃は、座ったままの巨漢が更に棍棒で打ち落とす。モーニングスターが床へとめり込み、動きが止まったリオンに対して拳が振るわれた。



 ゴロゴロと壁際まで転がり、大の字に伸びるリオン。そこへ駆け寄った。


「おい、大丈夫か!?」

 大の字のまま、俺を視線だけで見上げる。

「またアンタか。金なら返すぞ」

「違うよ。お前、デスペナわかって無茶やってんのかよ」

「当たり前だろ。死ななきゃいいだけだ」

 どう見ても死ぬ寸前まできてると思うんだが。

「ギリギリを攻めるのはゲーマーの基本なんだよ。アンタも大金払う覚悟でこのゲーム始めたんならわかるだろ」

 確かに限界を突き詰めるのが、ゲームの上達への道ではある。ただそこにあるリスクをどうみるかだ。

「僕はこのゲームでも頂点を目指す。それだけだ」

 どうやら覚悟は十分にしているようだ。今の俺にその意思を曲げることはできそうにない。


「なんでそこまで……」

「休憩は終わりだ、ローガン!」

 俺を押しのけ立ち上がったリオンは、座ったまま構える巨漢へと駆けていった。

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