砦の酒場
城壁から砦の中へと降りて、そこから城門を通って外へ。例の白い鎧に吹き飛ばされた負傷兵が手当を受けていた。
その中に、リオンを見つけた。
まだ体は動かないのか、こちらに気付いても逃げ出すことはない。
「なんだ、お前か」
ぶっきらぼうに言ってきた。
「報酬を渡しに来たぞ」
「しつこいな、アンタも。辞退したんだから、お前らで分けろよ」
「俺なりのケジメでね。俺はまたお前と組んで冒険してみたいんだよ」
「一回パーティ組んだだけで保護者面かよ……」
反抗期の子供のような態度だ。まあゲームシステム的に二十歳は越えないとプレイできないはずなんだがなぁ。
「まあ、いいや。お前の分、置いとくな」
500Gが入ったプリペイドカードを置く。まだ動けないリオンにはそれを突き返す事はできないようだ。
「もう誰にも迷惑かけれないんだよ」
ぼそりと聞こえたリオンの声は、ひとまず聞かなかった事にした。
「ぷっ、な、なんだ、あんたっあたたっ痛っ」
俺が格好よく去ろうとしたら、リオンが笑い出した。傷口に響くのか、苦悶の声が出ている。失礼な奴だ。
「どうしたってん……あ?」
ルフィアを背負ってたのを忘れていた。少女を背負った男にシリアスなシーンは似合わないようだ。
「クエストアイテムだ、気にするな」
「わらわをアイテム扱いとは、いい身分になったものじゃなっ」
丁度目を覚ましたルフィアは、即座に状況を理解して俺へと手を伸ばしてきた。背後から顔をつままれ、引っ張られる。
前に鼻の下をつままれた時もそうだったが、見た目以上に力が強い。
「ひあっ、やめっ、あ、んたっ、旅芸人志望だった、のかっ」
動けないまま痙攣するようなリオン。ルフィアの指は容赦なく鼻の穴やら口を引っ張り、酷いことになっているだろう。
「おふぉえふぇろっ」
逃げるようにリオンの前を走り去った。
城門を通って砦の中へ。城下町まで戻って、ルフィアを顔から引き剥がす。
「何てことをするんだ」
「わらわをモノ扱いするのが悪い」
「いや、なんちゅうか、恥ずかしいんだよ。人形背負って旅してるとか」
「だからこうして大きくなってやったじゃろう」
改めて胸をはるルフィア。その大きさは1mほどで、人形よりは少女といった雰囲気になっている。
「少女を背負うほうが、人形より恥ずかしいと思うんだが……」
「それよりも、食事じゃ!」
俺の意見を無視してルフィアが声を上げる。
そういえば魔改造の目的は、目の前で美味しいものを食べるのを見て、羨ましかったからだったか。
ルフィアに振り回されるのは今に始まったことでもない。変に反抗するより、従うほうが楽だろう。
諦めの境地で酒場へと向かった。
街の酒場は侵攻軍の撃退成功に盛り上がっていた。頭に包帯を巻いた兵士の姿もある。
ただその表情は一様に明るい。
テーブルの一つを確保して、メニューを開くとルフィアに奪われた。
もしかして大きくなるって事は、食費が倍になるとかデメリットが大きいんでは。というか、魔改造しても太陽光で動くんなら食事の意味は……?
などと考えている間に、ルフィアが注文を決めてしまって、俺には選択肢すらなかった。
まあ、下手すると千年ぶりの食事だ、多少は我慢するか。
運ばれてきたのは、ソーセージにベーコン、豚のステーキに、生姜焼き。
「なんで豚ばっかなんだよ!」
「そこに豚がいるからじゃ」
ふっとニヒルに笑うが、少女の顔には似合わない。
「こちら、トンカツになります〜」
更に料理が追加された。後はなんだ、しゃぶしゃぶか?
俺は見ただけで腹一杯になりそうな料理をつつきつつ、周囲の会話を聞いてみる。
「今日も何とかなったな」
「しかし、このままでは埒があかんぞ」
「あの白いのを何とかせんと、攻めるに攻めれんだろう」
「新入りのちっこいのが、やってくれるんじゃないか?」
「おうおう、今日は遂にタイまで持ち込んでたな」
「おかげで、俺らの被害が減って助かったわ」
どうやらリオンの働きは兵士達に認められているようだ。
「最初は無茶な特攻かけて、迷惑な奴だと思ったが、成長速度が早いな」
「ローガンさんに弟子入りしたってよ」
「マジか!?」
「そりゃ強くはなるかぁ」
ローガンという人の話になると、憧れ半分、呆れ半分といった反応になった。
強さはあるが、常人外れでもあるのかな。
「って、料理が消えてる!?」
「何をチンタラ食べておるのじゃ? 要らぬのかと思って頂いたぞよ」
山のようにあった料理は、ルフィアが食べてしまったらしい。
「安心せい、胃袋は異次元と繋いで底なし。いくらでも食べられるのじゃ」
あのリュックみたいなものか?
「じゃあ、取り出せるのか?」
「な、わ、わらわが食べたものを食したいという気持ちはわからんでもないが、わらわが拒絶する」
「食いたくねぇよ。ってか、異次元に格納できても意味ないじゃないか」
「格納ではなく、破棄するだけじゃからな」
「せめて魔力に変えろよ。太陽以外でも補給できれば電池切れも無いんだろ?」
「む、そうか。食べ物から魔力を……その発想はなかったのじゃ」
「最初に気づけよ」
「ふむ、また改造する余地ができたのぅ」
ルフィアは何やら思案を始めた。
「ちょっとすいません、今日みたいな攻勢って結構あるんですか?」
俺は近くのテーブルへと話を聞きに移動した。
「ん? ああ、冒険者か。そうだな、ここ数ヶ月は定期的に侵攻を受けてる」
「隣の国から?」
「そうだ。オタリアからみると小国なのだが、ミュータントを手に入れて、いい気になってやがる」
「ミュータント?」
「今日の侵攻は見たのか? 無茶苦茶な攻撃をしてくる白い奴がいただろう。あれがミュータントだ」
古代王国の負の遺産。暴走したゴーレム達に魔力を供給していた魔導炉。現在ではゴーレムを動かす程の魔力の供給はできないのだが、多少は魔力が漏れ出ている。
それを長時間浴び続けていると、体内の魔力が暴走して脅威の力を発揮するようになるらしい。
「本来ならコントロールできないはずなんだが、隣国の奴らはどうにかしたんだろうな」
ミュータントの力は絶大。ただ長時間の戦闘を行うと、力が暴走して爆発を起こす。
コルーニャの砦では、その暴走の時間まで耐える戦いを続けているようだ。
「以前はローガンという巨漢の隊長が白いのの担当してくれてたんだが、負傷してしまってな。ただ最近入った小柄な冒険者が頑張ってくれている」
「小さいのにあんな重い武器をぶん回してすげぇよ」
「ただあのローガンさんでさえ、度重なる出撃で負傷した。根本的な解決ができないとあの子も……」
少し場の空気が重くなってしまった。
リオンの奴は自分が強くなる事を目指しているみたいだが、俺としては侵攻の根源を絶つ方に動きたいな。
「話を聞かせてくれて、ありがとうございました」




