さらに西へと
「んぁっ、おっとう、おは……ふぉぅわっ」
目を覚ましたシナリは、寝ぼけたまま俺の顔を見て、思っていた人と違うと気づくと、慌てて逃げ出した。そんな逃げなくても……。
粘って最後まで酒盛りしていた男衆も床に転がり、宴の終わりを示していた。さっきまでしゃべり続けていたルフィアも、電池切れで止まっている。
俺は長時間膝枕していて、固まったように感じる体を伸ばしながら、ドーソンさんの家を出た。
そういえば、マサムネ達に報酬の話をしないとな。マルセンに戻ったんだろうか。
ポタミナを取り出してメッセージを送ろうかと思っていると。
「お〜う、アトリー」
当のマサムネが歩いてきた。何だかかなりの上機嫌だ。
「マサムネ、丁度良かった。報酬の分配を確認しようかと思ってたんだ」
「報酬? ああ、そんなのもあったな」
まだ酔ってるのか?
呑気な様子のマサムネにため息がでる。
「メーベの平和は俺が守る」
そこへチャップがとある家から出てきながら、そんな事を口走っていた。よく見ると家の中には女の子がいるのか。抱き合うように別れを惜しんで、こちらに気付いた。
「おはよう」
さっぱりした表情で挨拶するチャップ。
「おう、おはよう……寝てないがな」
「まあな」
ニヤニヤと挨拶を交わすマサムネ。女の子の家から出てきたという事実に呆然とする俺と違って、マサムネには驚いた様子はない。
「どうしたんだ、アトリー?」
「お、お前ら、もしかして……」
「いやぁ、このゲームの再現性は凄いな」
「これからもこの村を守る為に、頑張って通わないとな」
俺がルフィア相手に、愚痴やら謎魔法理論を聞かされている間に、しっかりお楽しみだったようだ。
そんな上機嫌な2人は、リオンも含めて4等分にして、俺がリオンに報酬を渡すという話もあっさりと了承してくれた。
リオンには報酬を払うから、どこかで会おうと連絡を入れる。
「それじゃあ、マルセンに戻るわ」
「おう、クエストに誘ってくれてありがとな」
マサムネとチャップは、マルセンへ向かって歩いていった。
俺は何だか釈然としないものを感じながら、更に西へと向かう事にした。
「アトリーさ、待ってくんろっ!」
街道を歩き出そうとしていた俺を呼び止める声がする。
「これお弁当、よかったら食べてくんろ」
「あ、ああ」
明るく笑うシナリから弁当を受け取った。その頭を撫でてやりながら、シナリの健康的な体を意識してしまう。
邪な思いがよぎる自分にやや自己嫌悪。
「ま、また、来るだよね?」
「ん、あ、ああ、またな」
「その頃にはもっとおっかぁみたいになっとくでね」
謎の言葉と共に送り出された。
「ああっ」
充電が終わったらしいルフィアが目覚めるなり、奇声を上げた。
「ど、どうした?」
「ウサギがないのじゃ……」
ああ、あのぬいぐるみか。
「またそのうち作ってやるよ」
「むぅ〜」
のちにあのぬいぐるみは姫の代わりに、鍛錬を見守る御神体にされるとは、この時は思いもしなかった。
メーベ村から西へと向かう。この先は、最初に訪れた街『オタリア』を首都とするオタリア王国の西の端。国境砦があるらしい。
村人の話によると、他国の侵攻があって度々戦闘が行われているとのこと。
物騒ではあるが、山脈を超える方が、レベルの高い魔物に遭遇するらしいので、砦ルートの方がマシらしい。
「見えてきたな」
右手には山脈、左手は海に面した崖。その間を塞ぐ形で築かれた砦。手前側は、兵舎とそれを支える街が広がっていた。
入り口には簡易ながら門もあり、衛兵が立っている。
「冒険者のようだな、ポタミナを確認する」
ポタミナにはある程度の行動が記載され、犯罪などを犯していると街の利用に制限がかかるらしい。
「問題はないな。通ってよし」
砦の城下町は思ったよりも活気がある。兵士が詰める為に必要な物資が街を行き交っている。
あちこちからトンカンと、鍛冶の音も聞こえ、酒場なども充実しているようだ。
「っと、時間か」
新しい街に散策したい所だが、覚醒の時間を迎えてしまった。ログアウトの処理をしてから、そういえばオフラインの間、ルフィアはどうしてるのかとそんな事が気になった。
新しい朝が来た〜。希望のだ〜。
健やかな目覚めは無駄に元気を伴っている。いや、無駄ってことはないな。
ラジオ体操しちゃうくらいに元気なのは確かだ。ただラジオ体操も馬鹿にはできない。
ちゃんと動かす筋肉を意識し、的確に動かせば、ストレッチ効果が高く準備運動に最適なのだ。
今日の業務は昼からということで、朝はゆっくりできる。それでも目は覚めてしまうのだから、勿体無いような、健康な証拠というか。
ラジオ体操で軽く汗をかいたのを、シャワーで流し簡単な朝食。
ニュースは政治家の資金流用やら、詐欺事件やら、気分が暗くなるものばかり。
撮り溜めているドラマはもうストーリーすらあやふやなものばかり。
余った時間は、ネット情報を漁るくらいしかない。
「ん?」
Sleeping Onlineに新サービスが開始されるようだ。
月額のレンタルサービスか。現状の本体購入よりは敷居が低くなるのだろうか。
それでもCATVよりもまだまだ高く、一般人には遠い価格だろう。ゲーマーの一部が少しは入ってくるのかな。
何にせよサービス開始まではまだ掛かるようなので、オンラインが賑わうのはまだ先なのだろう。
まあ、ゲーム内が過疎ってるのかも覚えてないわけだが。そろそろフレンドくらい出来てるんだろうな?
「まさか人形と戯れているとは思うまい」
リアルな俺の心配の斜め上を行く状況だろう。
「何をぶつくさ言っておる。早く素材を探すのじゃ」
肩に乗ったルフィアの指示で、砦近くの山へと踏み入れていた。何でもルフィア自身の魔改造に必要な素材を集めるんだとか。
バルトニアの居城跡に向かうのが優先ではないのか。そんなに美味しそうに食事するのが悔しいのか。
まあ、俺も見てるだけでお預けくらうのは耐えられそうにないか。
「マンドラゴラの根に、マジックマッシュルーム、イエロースライムに、光り苔じゃぞ」
「マンドラゴラって引き抜くと危ないんじゃなかったっけ?」
「ほう、よく知っておるな。引き抜く時に悲鳴をあげるゆえ、それを聴かぬように犬に引かせたりするのじゃ」
「そんなの俺は抜けないぞ……ってそうか、人形なら大丈夫か」
「そんなものこうすれば良い」
唐突に平手で耳の穴を叩かれる。
「鼓膜が破れるわっ」
「安心せい、鼓膜は再生するからのぅ」
「あぁ? 聞こえんなぁ」
何やってるんだろうか……。
泥だらけになりながら、何とか素材を集めたら「ここからは乙女の秘密じゃ。どっか遊んでおるがよい」などと追い払われた。
うう〜む、このまま姫に振り回されてていいのだろうか。
まあ、楽しんではいるんだけどね。
とりあえず人形姫のわがままで遅れた街の散策を行う事にした。
オタリアの前線砦コルーニャは、戦うための街だ。武具や薬品、衣服なども揃っている。
「そういや防具は初期装備だった」
クエストの報酬も入ったことだし、防具を整えてみることにした。




