メーべへの帰還
洞窟の中はさほど広くなかった。奥行きは10mほどで、右側に木でできた檻。
その前に焚き火の跡。
奥の突き当りが荷物置き場になっていた。
檻の中には10人の女性が囚われていた。
「鍵は奥か?」
「簡単な奴なら、俺が開けられる」
チャップはそういうと、檻の扉に付けられた鍵に取り掛かる。
その間に俺とマサムネで奥の荷物置き場を探してみた。
「これは上納金かな」
マサムネが小型の金庫を持ち上げた。
「こっちには鍵束があるな」
岩壁に吊るされる形で、鍵の束を見つけた。
それを持ってチャップの所に戻ると、既にチャップは鍵を開けてしまっていた。
「誰ですか?」
落ち着いてはいるが、警戒した雰囲気の声が聞こえてきた。
「俺達はメーべ村から依頼を受けてきた者です。野盗達はみんな倒しました、安心してください」
10人の中で1人だけが近づいてきた。カンテラの灯りで照らされたその人は、20代の半ばといったところか。日に焼けた肌は、漁村の人だからだろう。
意思の強そうな瞳で俺達を見詰めている。
「本当、でしょうか?」
「ああ、メーべ村のドーソンさんから頼まれた」
村長からとは言いたくない。
「ドーソンが……」
やや親しみのある呼び方と、何となくシナリに通じる雰囲気を感じた。なまりはないけど。
「村まで案内します。とりあえず縄をコレで」
予備のダガーを手渡し、足を繋いでいるロープを切断してもらう。
そうして自由を取り戻すと、少しは落ち着いてきたのか、みんな入り口に近づいてきていた。
最初に出てきた人が年長だろうか。10代から20代前半の娘達だ。
「チャップと俺で先導、マサムネが後ろを警戒してくれ」
「ああ、分かった」
みんな動けるようになったなら、長居は無用だ。俺達は撤退を始めた。
山を降りる道中、やはり大人数での移動ということで、野犬に見つかる事があった。
ダガーを渡した代表者のメリナに固まって待つように言い置き、3人で野犬を退治していく。
マサムネというナイフ供給源を得たチャップは、惜しみなくナイフを投げて女性達に野犬が向かうのを阻止。
俺とマサムネは確実に仕留めて回った。
その一部始終を見ていた女性陣の警戒心も、多少は緩みつつあるのを感じた。
メーべに着いたのは日が沈む頃、例によって村総出の鍛錬が行われている所だった。
「いらっしゃい、アトリーさん……え、おっかぁ!」
笑顔で俺を迎えてくれたシナリは、俺の背後にいるメリナへと駆け寄っていった。
え、おっかぁ?
多少面影は感じたが、姉か血縁者くらいに思っていたのだが。若すぎるだろう?
シナリとメリナの再会に、他の女性陣も我先にと村の中へと駆け込んでいく。
訓練を行っていた男達もそれを見て騒ぎ始めた。
無事にクエストクリアかな。
「アトリーさん!」
駆け寄ってきたのはドーソンさんだ。メリナさんを認めて何度も頷きつつ、俺の方へとやってきた。
「ありがとうございます。ありがとう」
俺の手を取り、頭を下げてくれる。
「いえいえ、こちらは依頼を果たしただけですから」
「アトリーさん、上納金は!」
騒ぎを聞きつけやってきたのは村長だ。女性の帰還よりも金が優先かとやや白ける。
「俺が持ってたな」
マサムネが金庫を取り出して、村長に渡す。
「鍵が掛かってるじゃないか!」
「はいはい、それはこっちね」
俺が持ってた鍵束を渡すと、引っ手繰るように奪って、ガチャガチャと鍵を試していく。
「すいません、本当に……」
「まあ、村をまとめる者としては、そっちも大事だろうからね」
申し訳無さそうにするドーソンさんには、笑って応える。
「すぐに宴の準備をしますから、皆様は私の家へおいで下さい。シナリ、手伝えよ」
「うん、わかった」
「私も準備します」
「メリナは休んでろ!」
やや強い調子だが、その声には嬉しそうな響きがある。あんな綺麗な嫁さんが帰ってくれば、嬉しいわな。
「俺達も行くか」
金庫をガチャガチャやってる村長を置いて、俺達はドーソンさんの家へとお邪魔する事にした。
「無事に終わったようじゃな」
居間で待っていたのは、カラフルなドレスを纏った人形姫。はじめて見るチャップは少し驚いているようだ。
「何とかね」
ふといなくなったリオンが気になり、ポタミナを確認するがメッセージはない。
「皆もご苦労、くつろぐが良い」
マサムネとチャップに言うもんだから、二人して苦笑を浮かべていた。
程なくテーブルが用意され、新鮮な魚介を使った料理が振る舞われはじめる。
「前もっての準備がないので、ありあわせなのですが」
「いえ、十分ですよ。な?」
「ああ、なかなか食えない料理だよ」
「酒も旨いな」
マサムネとチャップも満足そうだ。
「アトリーさ、ありがと!」
シナリが料理を持ってやってきた。小魚の天麩羅か、揚げたてでほこほこしている。
「本当にありがとうございます。ささ、おひとつどうぞ」
シナリと逆側からメリナさんに酒を注がれる。下手なキャバクラよりも美人の接待に、恐縮してしまう。
「シナリのお姉さんかもとは思ったんですが、年齢が合わないんじゃないですか?」
「またお上手な。私ももう33になりますのに」
「見えない、絶対に見えない」
「アトリーさ、あたしもすぐおっかぁみたいになるだよ!」
「シナリは十分、かわいいよ」
母親に対抗意識をもったのか、グイグイと体を寄せてくる。若い女の子がはしたない……と思いながらも悪い気はしない。
他の女性陣も着替えを終えて、宴へと参加していた。マサムネやチャップも若い女の子達に感謝されて、鼻の下を伸ばしている。
「痛っ」
俺の鼻の下が急に痛みを発した。見るとルフィアにつままれている。
「な、何すんだよ」
敏感な部分を思いっきりつままれて、涙が滲んでくる。
「何、鼻の下が伸びて、ただでさえ間抜けな顔が緩まぬよう、引き締めてやったのじゃ」
「人形がヤキモチ焼くなよ」
「自惚れるでないわ、部下の躾は上司の義務じゃ」
「まあ、可愛らしい。アトリーさんの?」
「主じゃ」
「呪いの人形です」
頭を抑えつけながら紹介する。
「ルフィア姫様は、村の衆さ鍛えてくだすったんだ」
「へぇ?」
興味を持ったメリナに対して、シナリとルフィアが説明をはじめる。
俺はそれを酌をしてもらいながら聞いていた。にごり酒の部類だが、後味はしつこくなく、口当たりもいい。下手すると飲み過ぎそうな美味しいお酒だった。
元々二十歳以上を対象としたゲームだけに、酒の味もかなり再現されているようだ。
いや、例の記憶で補填するって機能なのかもしれない。
シナリの話を聞くに、ルフィアの指導はかなり浸透しているようで、野盗程度なら独力で跳ね返せるみたいで安心した。
「アトリーさん、中は抜いてないでしょうな?」
ようやく鍵を開けられたのだろう村長がやってきた。
「俺達は鍵と箱を別々に持ってたんだ、中身は見てない」
「それは私も保証します」
メリナさんが証言してくれる。檻の奥にいた彼女が、俺達の動向を全て見ていたとは考えにくいが、フォローしてくれたのだ。
「私の恩人を疑うんですか?」
「い、いや、めっそうもない。ただ村の財政を任される身として、確認したかっただけで」
何だか村長はメリナさんに弱いようだ。
「ただ収めた額より減ってましてね」
「奴らは夜毎に宴を開いていました。目減りするのも当然でしょう。そもそも、アトリーさんがいなければ一銭も戻ってなかったのですよ?」
「わ、わかってます。はい、こちらが報酬です」
板状のカードを置いて、村長は足早に退散していった。
2000Gと書かれたプリペイドカードみたいだ。これをポタミナに読み取らせると、所持金が増えるのか。
「すいません、村長が失礼を」
「いえ、気にしてませんよ。それより、何だかメリナさんに頭が上がらない感じでしたね?」
「メリナは前村長の娘でしてな。そのまま村長になることも出来たんですが、今の村長に権利を譲ったんです」
料理の手配を終えてやってきたドーソンさんが説明してくれた。
「へぇ」
「それにメリナは小さい頃……」
「あ・な・た?」
「……から可愛くて、惚れとったんですよ」
微妙に言葉を変えたようだが、突っ込んではいけないのだろう。
「ん?」
膝の上に乗っているのが、ルフィアからシナリの頭に変わっていた。
疲れて眠ってしまったようだ。
「あらあらすいません、シナリっ」
「いえ、しばらくこのままでいいですよ」
起こそうとするメリナさんを止めて、シナリの様子を見る。安心した安らかな寝顔だ。
「メリナがいなくなっても、泣きもせずに、私を手伝ってくれましてな」
「そうですか」
母親が戻ってきたことで、張り詰めていた緊張が切れたのかもしれない。
見ると周囲も人が減っている。マサムネやチャップも帰ってしまったのか、姿が見えなくなっていた。報酬を分けないといけないんだが。
ルフィアは皿に残った料理を恨めしそうに見ている。
「卑しい姫様だな」
「聞こえておるぞ、アトリー。見ておれ、魔改造して食べれるようになってみせるのじゃ」
凄い執念を感じさせる。いくら魔法に長けた王国の姫だからってそんな事できるのか。
と言うか、自分の体を改造する気になれるだけで凄いな。
ルフィアに茶々を入れられながら、残った料理も頂き夜が明けるまで、酒宴を堪能した。
誤字修正
ルフィアな茶々→ルフィアに茶々(20161209)
美女の絶対→美女の接待(20161215)




