冒険者学校
街の中は石畳で舗装されていて、左右に酒場や商店などが立ち並び、なかなかの賑わいを見せている。
ただ近くに寄ってみると胡散臭そうな顔で追い返される。
「まずは冒険者になってきな」
まだチュートリアルの途中ということらしい。
仕方なく門番に言われた学校へとたどり着く。雰囲気は、田舎の小学校。広めの敷地に一階建ての平屋。
校庭では人形を相手に打込みをいている姿や魔法を使ってる姿が見られた。
校門の所に入学者はこちらという案内板があったので、そちらへと向かう。
チュートリアル中に好奇心を発揮しても、本番が遠のくだけなのだ。
校舎内に入ると、教室の一つが集合場所になっていた。何人か俺と同じような格好した人が待っている。
座席の正面には掲示板があり、『順番がくるまで待つように』と書かれていた。
「プレイヤー、だよな?」
俺は座席に座っている一人に話しかけつつ自分も席に座る。
「ああ、さっき始めたところだ」
20歳くらいの青年で、アイドル系のイケメンだ。
「何か凄いよな、リアリティが」
俺は興奮のままに話すと、相手も同じ雰囲気だった。
「ああ、今までのVRというかCGとは次元が違う。プレゼンの映像とか何で劣化させてんだって話」
このゲームも宣伝用にムービーが流されていたが、それらは既存のゲームと大差ないか、いっそ見劣りするくらいの映像だったのだ。
「なんか人間の記憶を適用するんで、元の映像は大したことないんだって」
ディレクターのインタビュー記事を思い出しながら答える。
「何にせよ、思い切って予約してよかったわ〜」
「これからが楽しみだよな」
高額な費用を出してもプレイを望んだプレイヤー。話していると話題は尽きなかった。
「そうだ、名前教えてなかったな。俺はアトリーだ」
「ああ、俺はシンジだ。確かポタミナにフレンド機能……」
「シンジさん、こちらへどうぞ」
入り口に受付らしい女性が現れ、シンジの名前を呼んだ。
「あ、順番が来たな。行ってくるわ」
「おう、それじゃまたな」
結局、フレンドとして登録することはなかったが、機会があれば会うことはありそうだ。
大人しく自分の番を待つことにした。
「アトリー・コーシュさん、こちらへ」
受付の女性に呼び出され、後についていくと、2つ隣の部屋へと案内された。
中には四人の人物が待っていた。
ヒゲをたくわえた筋骨隆々の男、猫背で机に頬杖をつきながらこちらを見る男、背を伸ばし瞑想するように瞳を瞑る女性、にこにこと笑顔を向けてくる男。
「そちらへどうぞ」
案内してくれた女性が椅子を指し示したので、そこへと座る。
正面には四人が座っていた。
(な、なんか、面接を思い出すな)
「ようこそ、冒険者への登竜門へ。まずは全般的な説明をしますね」
右端に座っていたにこにこと笑っている男が、基本的なシステムを教えてくれる。
ポタミナでの情報の見方や、アプリの使い方、冒険者のあり方やこの世界の基本設定など。
「後で確認したかったら、ポタミナのマニュアルを読んで下さい」
「は、はぁ」
まさにチュートリアルだった。
「さて、それでは最初のスキル選択を行ってもらいます」
このゲームはスキルシステムを採用していた。
開発ディレクターの話では、『思いつく限りのスキルを入れた。正直、十分な検証はできていない。思わぬ組み合わせで、開発の思惑を超える効果が出る可能性もあるが、それも含めて楽しんで欲しい』との事だった。
ターゲットが社会人になってもゲームを忘れられないプレイヤーと銘打っているだけに、挑戦的なメッセージだ。
「最初は戦闘するための4系統、戦士、盗賊、魔術師、神官から選んでもらいます」
並び順に指差しながら説明してくれた。
「基礎訓練後、何を中心に選択するかは貴方の自由。また、街の中にも様々なスキルを教えてくれる人がいます。今の選択が全てではないので、気楽に選んで下さい」
並んでいる四人を見ると、すまし顔で座っている女性に目がいってしまう。
輝く金髪にやや面長たが整った顔立ち、長く飛び出た耳を見るにエルフなのだろう。
ただ先のディレクターの発言から、俺は様々なスキルを妄想して、一つのキャラクター像を思い描いていた。
「せ、戦士でいきます」
ヒゲが大きく頷いた。