野盗撃破への準備
村長に話を聞くと、脱走兵の数は30ほど。しかし、そこから増えている可能性もあるという。
俺が倒した4人を引いても、まだまだ多い。さらには、隊長格の人間も何人かいたという。
村から北へ入った山のどこかを根城にしているらしいが、具体的な場所はわからない。
「まずは戦力の確保と、情報収集か」
俺はマルセンの街へ戻ることにした。ちなみにルフィアは、宣言通りに村人に戦う術を指導するらしく別行動だ。
漁民達は純朴なのか、古代の姫という主張をさして疑うこともなく信じているようだ。
最初の魔法が効いたのかも。
何にせよ、自衛の手段を持つことは悪いことでもないだろう。
「で、俺の所に来たと」
「まだ他に知り合いがいないもので」
マルセンで頼れるのはマサムネだけだ。
「しかし、俺は生産職。素材集めの為に多少は鍛えてるが、戦力と数えるのはどうかと思うぞ」
「だよなぁ」
「まあ、こんな時こそ掲示板だろう」
「おお?」
情報を独占した方が有利になると発覚して以降、下火になっている掲示板。あまり見ることもなくなっていた。
「情報板はあれだが、その分パーティ募集板はそれなりに賑わってるんだ」
マサムネに言われて、情報端末のポタミナを操作する。スマホ状にアプリが並んだ画面から、掲示板アイコンをタップすると、大まかなジャンルが出て来た。
その中から人材募集板を呼び出してみると、確かにパーティ募集のスレッドはレスが多いようだ。
どちらかというと、固定メンバー募集の書き込みの方が多い。情報が有限なだけに、身内を固めたい人が多いようだ。
「とりあえず書いてみるか」
脱走兵のキャンプ襲撃、1〜3人募集。当方、戦士1生産1と。
「俺も入ってるのかよ」
「気心知れたのが1人は欲しいんだよ」
「まあ、しゃーねぇな」
なし崩し的にマサムネを巻き込む。ただ客をつける意味でも、マサムネに損はない……はず。
決行は2日後に設定。漁村の状態から、あまり時間はかけない方がいいだろう。ただ2日後でもゲーム内時間では、3週間ほど過ぎる計算になるが。
「あとは場所の確定だな」
最悪、マサムネと2人。全面衝突よりは、奇襲したいところだ。
敵の戦力確認と、拠点の場所は見つけておきたい。
マサムネと別れて、俺はメーべの北にある山を目指した。
山道は意外と険しく、大きな岩が転がっていて視界も悪い。不意打ちを食らわないように注意が必要だった。
幸いポタミナの地図アプリのおかけで、自分の周囲は確認できる。
「でも過信は禁物か。潜伏系のスキルで隠れれるのかもしれない」
野良モンスターは、地図上にマーカー表示されるのは確認している。
ただ相手は元軍隊、斥候兵みたいに相手に気づかれずに偵察する人間が混ざっていてもおかしくない。
野良モンスターは、犬っぽいのと熊っぽいのを見かけた。どちらも襲ってきそうなので、遭遇しないように避けている。
あとは山羊っぽいのは攻撃してこないのを確認した。
「おっ」
山道を進むこと30分、人影を見つけた。古びた装備は、野盗の仲間っぽい。
一応、見張り役らしいが2人で何やら喋っていて、周囲への警戒は薄そうだ。
俺は岩陰を利用して、やり過ごした。
そこからしばらくすると、がやがやとした話し声が聞こえてくる。
岩陰から覗いてみると、洞窟の前で篝火が炊かれ、大勢の野盗が集まって騒いでいた。
その間を給仕を務める女性が歩いているが、その足首同士はロープでくくられていて、早く走れないようにされている。
「くそっ」
すぐにでも助けに行きたいが、敵の数は多い。数えてみると20人、他の野盗とは明らかに装備が違う金属製の鎧が3人。
奴らが隊長格だろう。年若い娘を侍らして笑ってやがる。
洞窟の中がねぐらになっているのだろうが、今のところ侵入はできそうにない。
この宴が終わるのを待ってみることにした。
その間にポタミナを確認すると、メッセージが届いていた。
『こっちは盗賊なんだが、クエストの内容に興味あり。連絡求む』
掲示板を見てメッセージをくれたようだ。盗賊とはありがたい。
『近くの漁村を脅して上納金をせしめている元脱走兵の野盗を倒します。敵は約30人で、拠点は見つけてあります。飛び道具などあると助かります』
返信を行ううちに、宴会は終わったらしく、隊長格は洞窟の中へ、女性も一緒に連れて行っている。その他の連中の多くは、篝火の側で雑魚寝していた。
酒を呑んで寝入っているので、簡単には起きないかもしれないが、危険を犯す必要はない。
下手して見つかって、警戒される方がまずいだろう。
それからもしばらく監視して、一日のサイクルを確認。隊長は洞窟から出てこず、二人組が何回か交代で出ていき、後は5人ほどまとまって外に出ていく連中がいた。
二人組は見張りの交代、5人は村への集金か、襲撃といったところだろう。
夕方になると女性達が現れて、料理の準備から配膳を行い、宴が催される。
「早く助けないとな」
俺はそこまで確認すると、野盗の拠点を後にした。
帰りにメーべの村へ寄ると、人形を前に訓練に励む人々がいた。
銛は手にもって戦うよりも、投げで使うようだ。櫂を漕ぐこともあり、網を引き上げることもある海の男達の力は強い。
片手で投じられた銛は、ぴぅと飛んで藁人形へと突き刺さる。
「やってますね」
「おお、アトリーさんか。ルフィア姫の指導で、みるみる上達するのが楽しいらしく、皆やる気をだしてますよ」
人形姫はそれなりに人心掌握術を心得ていたらしい。村人のルフィアを見る目は尊敬の色が浮かんでいる。
「あ、アトリーさん。こんばんわ」
「シナリも頑張ってるみたいだな」
今は魚網の手入れを行っていた。漁師が戦闘の鍛錬に励む分、代わって作業しているようだ。
「みなどっか諦めとったけんど、アトリーさんさ来て変わっただよ」
「どっちかというと、ルフィアの影響だと思うけどな」
そんな俺をにこにこと見上げるシナリ。ちゃんと平和に暮らせるようにしてやらんとな。
「まあ、姫に毒されんうちに、野盗は片付けるよ」
決意を新たにした。
翌日は剣術の修行にあてた。隊長がどれくらいの強さか分からないが、多対1の状況でもある程度こなせるようにならないといけない。
山にいた犬を相手に、集団戦の練習を行う。動物の連携は、人間よりも早く的確だ。その分、直線的で捻りはない。
即時の判断力が試された。またこちらの攻撃への反応も早い。
「くっこうかっ」
襲ってくるタイミングを計り、それを外した上での攻撃。マンゴーシュによる受け流しと、シャムシールによる一撃。
繰り返しの行動が、スムーズさを上げてくれるような気はした。
一方、昨日連絡をくれた盗賊は、参加を承諾してくれた。名前はチャップ。残念ながら飛び道具はないが、ナイフ投げはある程度使えるらしい。
マサムネに予備のナイフを作っておいてもらうことにした。
後1人、パワーファイターが参加を表明してくれた。名前はLion、百獣の王にふさわしい強さだといいなぁ。
共に当日に会う約束になった。
メーべを救うために、ミッションが開始される。
誤字修正
呼びのナイフ→予備のナイフ(20161209)




