メーべの問題
昼を過ぎる頃には、漁村が見えてきた。海岸沿いにある小規模な村で、網が干されていたり、小舟が並んでいたりと村全体が漁業に携わっているようだ。
日の当たるところで網の修繕をしているらしい女性に聞いて、ドーソンの家を目指した。
お世辞にも綺麗だとは言えないが、馬車をいれる厩舎が併設された大き目の家だった。
「すいませーん」
「は〜い」
思ったよりも若い声で返事があった。出てきたのは10代半ばの女の子。
麻らしい簡素な衣服を身に着けて、全身を日焼けした活発そうな少女だ。
「どちら様?」
「あ」
言われるままに来たものの、よく考えると身分を保証するものは何もない。
「えっとドーソンさんの家に寄ってけと言われて……」
「ああ、おっとうの客か〜あがってあがって」
少しなまりのある口調で、平然と家へと上げられた。警戒心が薄いと言うか、無防備な感じで心配になる。
家の中もかなり年季の入った感じで、色々と継ぎ接ぎの後が伺えた。
「お客さ、昼は食ったけ?」
「いや、まだだけど」
「じゃ、ちょっとまってくんろ。売りモンにならん小物ばかりじゃけんど、新鮮でうみゃーから」
どこのなまりかわからんが、情緒を感じさせる口調。
「適当に座ってくんろ」
板間になった部屋に円卓、その周りにゴザの座布団が並んでいる。
その一つに腰掛け、荷物を下ろすとルフィアも座布団の一つを占拠した。
「ほほぅ、変わった屋敷じゃな」
「漁村の民家ってこんな感じなんだろう」
「ふぇ、お客さ、なんと?」
「いや、何でもないよ」
話し声が聞こえたので、少女はこちらにやってきてしまった。
「なんね、その人形。お客さのモンね?」
「違う。わらわが主じゃ」
「ほぇ、人形さ、しゃべっとる!?」
目を丸くしてルフィアを眺める。この世界でも人形がしゃべるのは不自然な事のようだ。
「わらわはかのバルトニア王国の第三王女、ルフィアなるぞ!」
「ふぇ〜、よ〜できとんねぇ」
ルフィアをもにょもにょと触りながら感心する。
「や、やめい、わらわは高貴な……」
「あ、火ぃかけっぱなしじゃった。お客さ、もちっとまっとりゃせ」
コテンとルフィアを捨て置いて、慌てて奥へと入っていった。
「なんじゃ、あの娘は!」
勢いに押されっぱなしのルフィア。その様子は微笑ましい。
「王族をなんじゃと思っておる」
「こういう漁村なんて、王族とか無縁だろう。その上、過去の王国じゃあなぁ」
「ソチにも教育せんといかんようじゃなっ」
「おいおい、人様の家で暴れるなよ」
「元気ええ人形やねぇ。だけんど、ご飯終わるまで待ってなぁ」
両手に皿をもった少女が現れて注意すると、さすがのルフィアも大人しくなった。
用意されたのは小魚の塩焼きと揚げ物。種類はよく分からないが、5cmほどの大きさで色も様々だ。
「雑魚ばっかだども、新鮮なんでうまかよ」
「それじゃ、頂きます」
潮の風味が残ったホクホクの身、程よい塩加減で臭みはない。骨も柔らかく、食べやすかった。
「うん、美味しいね」
「よかったぁ〜」
にっこりと微笑んでこちらを見詰めている。
「……」
ルフィアもじっとこっちを見ているが、食べたいのだろうか。人形なので、消化器官はないはず。
「うう、早く人間になりたい」
「ごちそうさま、美味しかったよ」
油で揚げたものも、衣はサクサク、中はジューシーで新鮮さが際立っていた。じっとプレッシャーを掛けてくるルフィアに負けずに完食。さすがに腹がかなり膨れた。
「いやぁ、いい食いっぷりで作りでがあったさ〜」
「この恨み、はらさでおくべきか」
ボソボソと物騒な声が聞こえる。早く呪いを解かないと、本当に呪いの人形になりそうだ。
「そうだ、ご飯のお礼にこれあげるよ」
「ほぇ?」
俺はリュックに座らせていたぬいぐるみを取り出した。
「ウサギさんさ〜、ええだか?」
「ああ、姫は気に入らなかったみたいだし」
「べ、別にウサギが嫌だったわけじゃないのじゃ。一緒に陳列されておるのが嫌だっただけじゃ!」
「じゃあ、こっちはルフィアの従者って事でいいよ」
俺は端切れを取り出して、名前を縫いとり、ウサギへと取り付けた。
「ほれ、満足か?」
手渡されたルフィアは、しげしげと名前を見ている。
「そ、そなた、器用じゃな」
少し感心した声を聞けて満足した。
「あ、あの〜、あたしも縫ってもらってええだか?」
控えめに少女が聞いてきた。
「ああ、全然いいよ。そういえぱ名前は?」
「シナリと言うっさ」
「シナリちゃんね……俺はアトリーでこっちはルフィア」
「姫を付けい、姫を」
シナリの名前もウサギに縫い付けて、渡し直す。
そうするうちに、少し外が騒がしくなってきた。ガラガラと車輪を転がす音と、馬の鳴き声が聞こえる。
「おっとうが帰ってきたさ」
「かえったぞ〜って、兄ちゃん、来てくれてたか」
「お邪魔してます」
「シナリ、この人は俺の恩人だで、ちゃんともてなしてるか?」
「ええ、新鮮な魚料理をいただきましたよ」
「そーか、そーか、取れたては美味かろ?」
「はい、食べすぎて苦しいくらいです」
「ドーソン、帰ったか?」
どやどやと村人が何人かやってきていた。
「おう、売上は上場じゃ、少しまっとれ」
ドーソンさんは、そう言って財布を取り出し、村人達に金を支払っている。
「おっとうは、村の魚を集めて、マルセンで売ってくる係なんさ」
「なるほど」
馬車を持ってるから、そういう運搬業務を引き受けているのだろう。
「いやぁ、アンタが助けてくれんと、今日の上がりはなくなるところだったんだ」
ドーソンが代金を支払いながら言ってきた。
「それは良かったです」
「何じゃと、ドーソン」
やや身なりの良いオヤジが、声を上げていた。
「マルセンへの街道で轍がはまってな、そこに野盗が襲って来たんだよ。そこをこのお方が助けてくれたんだ」
「まさか野盗を倒しちまったんか?」
「一人は逃しましたが……」
「なんてことしてくれるんじゃ!」
その男は憤りをあらわにした。
そのおっさん曰く、近くに住み着いた野盗は、戦場からの脱走兵でそこいらの野盗とは装備が違う。また訓練も受けていたので戦闘力も高いのだという。
俺が倒した奴らも個々は大したことなくても、連携はとれていた。
今まで上納金を納める事で穏便に済ませてきたのに、倒してしまっては禍根が残るという。
「このままでは、この村は襲撃されてしまうぞ」
「しかし村長。アンタの穏便策も限界じゃないか。上納金は上がっていくし、女は連れて行かれる。この上、荷物まで奪われちまったら干上がるだけだ」
「そ、それはそうだが……しかし、今まで人死はだしとらん!」
「一人も死んでないが、このままでは全滅だっちゅうとるんじゃ」
周りの村民にも頷く者がいる。
「そ、そうじゃ、お前のせいで揉めることになっとるんじゃ。お前が何とかするのが筋だろうが!」
いきなり村長の矛先が俺に向けられた。
「何を言っとる。彼は偶々(たまたま)襲われている俺を助けてくれた恩人だ。村の事情に巻き込むんじゃねぇ」
ドーソンさんが割って入ってくれる。
「ドーソン、わかってるのか。奴らに面が割れてるのはお前だぞ。このままじゃあ、シナリだってどうなるか」
「そうなったら、徹底的に抗戦するまでだ」
「じゃから、そんなことしたら村の他のモンまで皆殺しにされてしまう!」
どんどんと話が大きくなっている。周りにいた村民達も、やいのやいのと口々に文句をいい始めた。どうやって収拾をつけるんだ。
村長はドーソンと角突き合わせて今にも殴りかからんばかり。
それを見ているシナリは不安そうな顔で困っている。
ズガン!
そんな村人の中で、火の玉が弾けた。突然の魔法に周囲が一気に静まった。幸い、引火はしてないようだ。
「ここにおるのを誰じゃと心得る。呪い人形とは仮の姿」
自分で呪い人形って言っちゃってるよ。
「わらわこそ、魔法大国バルトニア第3王女、ルフィアなるぞ!」
「な、なんじゃ」
「どこから声が……」
村民はキョロキョロするが、姿は見えない。まあ、足元でぴょんぴょんする人形なんて見えないわな。
「ほれ、わらわを抱えんか」
仕方なく俺へと助けを求めてきた。
俺がルフィアを抱えて肩に乗せると、さすがに村人たちも気付いたようで、視線が集まってくる。
「そこな村長よ。そちは村を束ねる者でありながら、無法者を看過するのかえ?」
「ワシだって、マルセンの役人に掛け合って助けてくれるよう頼んどる。まだ、調査中ってだけで……」
「そう言ってもう3ヶ月たっとる」
ドーソンさんが付け加える。
「役人が動かぬなら、自前で雇えばよかろう」
「元々漁村の蓄えなど微々たるもの。上納金で締め上げられて、どうしようもないんじゃ」
「ならば自ら立ち上がらんか。そなた等の銛や網は野盗どもにも通用するのじゃ」
「そ、そうはいってもワシらは素人じゃし……」
「わらわが指導してやる。村で自警団を作れば、海で鍛えられた男達。並の兵士より頼りになるぞよ」
どんと胸を張る。
「今回の件は、こやつに責任を取らせて、次からは自らを守れるように備えよ!」
「へ?」
そこは丸投げなんすか?
村人の視線が俺に集まる。村長はともかく、ドーソンさんやシナリが困ってるのを見過ごす気はないけど、相手は逃亡兵か。
「数とかは分かってますか?」
腹をくくるしか無さそうだ。
文章修正
一緒に陳列されてるのが嫌なわけではない!→知っ書に陳列されておるのが嫌だっただけじゃ!(20161229)




